シロクロ仲直り合宿計画

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#3 シロクロ仲直り合宿計画

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 この修了検定に合格した暁にはクロノに告白する。
 恋う気持ちも過去の罪も、全部ひっくるめて海という舞台で清算する。これはもう決定済みのこと。クロノの仲直り計画も、シローの告白計画も、始動してしまえば後に引けない。
 引き返せないのは、なにもその二つに限ったことではない。この世は取り返しのつかないもので溢れている。僕の罪がまさにそうで……でも、人生ってそんなもの。
 あの時、もう少し気持ちを抑えられていたら……。そんな風に嘆いたって今さらどうしようもない。過去は事実として未来永劫残り続け、風化することはあれど、変わることも、変えることも許されないのだ。
 けれども、固結した過去に対してなにもできないというわけでもないのが、また逆に残酷と言えば残酷で(神さまに自主性を試され、手のひらの上で弄ばれているような気がして)。でも同時にそんなところがあるから、人生っていくらでも自分の望む方向に変えていけるんだと、僕は思えるようになってきた。
 今からだってできることがたくさんあると僕は知っている。過去の形は変えられないけれど、捉え方や、未来に向けた軌道の修正ならいくらだってできる。
 過去は出発点にすぎない。星の数ほどある過去にどう向き合って、何を学びとし、どう行動を起こすか、すべては僕次第。踏み台にして未来に活かすも殺すも自分だ。いわば究極の自己責任。残酷で、とってもおもしろい。
 目下、僕たちは軌道修正の最中。だから、身に沁みてよくわかる。
 前を向くしかない。今やれることをやるしかない。そうすれば、検定合格も、その後に待ち受ける合宿最難関の目標だって、きっと乗り越えられる。
 クロスケと正しく向き合えなかったのなら、これから死ぬまでずっと真正面から向き合うのみ!
 これこそ僕が“自分で”考えた、僕なりの贖罪のやり方!
「準備できました。シートベルト、着用お願いします!」
 心なしか、ハンドルを握る力が強まる。

 もう悪い夢にはさせない!



「次、南信号を右折」
「はい! 南を右折」
 間違ってはならないと、指示をおうむ返しで頭に浸透させる。意外にも道間違いは減点の対象にはならないらしいけれど、それが原因で焦ってしまってはいけない。
 右足をそっとブレーキペダルに置き換え、優しく力を加えていく。交差点はまだ先だ。時速20キロだった教習車は、やがて10キロにまで速度が落ちる。
『ゆっくりでいいからね。教習所内ではみんな初心者。お互い様だから、後ろが詰まっちゃっても気にしなくて大丈夫。ちょっとばかし図々しく、ね』
 そのとおりだ。安全に勝るものはないとの教官の言葉を思い出す。
 ルームミラー、ドアミラー、そして目視。右後方の安全確認を済ましてから、瞬時に右ウインカーを出し、ハンドルを少しだけ右に切る。これらを停止線の30メートル手前までに行う。手順が多いけれど、ここも焦らず優しく。自分にもね。初日にクロノからもらったアドバイスは運転のいたるところで活きていて敵なしだ。
 センターラインを超えないようサイドミラーで確認し、車を右側に寄せる。
 今やっているように、右折時はあらかじめ車を中央線に寄せておかなければならない。学科で習い、つい昨日注意されたことを、今、修了検定の場面で的確に実践できている。
 冷静沈着にやればなんてことはない。
 信号は青。しかし対向車あり。交差点内で直進車が過ぎるのを待ち、アクセルペダルに右足を置き換える。癖で少しだけ急発進になってしまったけど、南右折クリア!
「次、北交差点も右折で行ってみようか。そのまま外周を一周しよう」
 北交差点で待ち構える罠、一時停止も無事にやり過ごす。速度も乗り、所内の景色も早くに過ぎ去っていくと、合格はすぐそこまできている気がした。
「雪村くん、上達したね」
 本来なら検定中に言うべきではないけどと、若い虎獣人の教官は優しく微笑む。その一言でなんだかもう一段階肩の力が抜けた。僕は短く礼を述べた。
「よし。この先のストレートで40キロまでいけるかな? 一瞬だけでいいから」
 これも試験項目。怖いけれど、踏むしかない。検定合格と、この後に待ち望む海のために……!
「踏みます」
 カーブを曲がったところで宣言し、右足に体重をかける。
 キックダウンと言って、AT車はアクセルペダルを大きく踏むと、低速ギアに切り替わってエンジン回転数が一気に上がる。ブオオオン! 車は唸り声を上げて急加速する。
 音も相まって恐怖心を煽る。速いのはやっぱり怖い。でも大丈夫。規定の速度に達したらすぐにブレーキを踏めばいい。
 スピードメーターが40を示したので、急いでブレーキペダルに右足を移動させる。ここで注意すべきなのは急ブレーキにならないこと。速度を落とすことが安全だからと言って、急に踏めばそれこそ事故の元だ。乗員にも衝撃が加わって危険を伴う。その点今の僕の足捌きは完璧で、ほら? 車も体もカックンとならずに速度を緩めはじめ――ない!? なんでっ!?
「え!? ブレーキ……あれ……えぇ!?」
 ブレーキペダルを目一杯床まで踏みつけているのに、速度が全く落ちない……!
 こんな時にまさかまさかの故障!?
「先生ぇえええっ! ブレーキ! ブレーキ踏んでブレーキっ!!」
 迫るカーブを目前に、僕はパニックのあまり敬語を忘れて叫んでいた。教官側にもついているブレーキを咄嗟に思い出したからだ。
 しかし、スピードは一向に落ちない。
 それもそのはず、左側に虎教官の姿はなかったからだ。
(なんで、なんで……。ウソでしょ……)
 頭の中が絶望の白一色に染まる。
 やばいこれ、死んだかも。やたら冷房の効いている中、体は大量の冷や汗を吹き出す。
 それでも僕はまだ運命を受け入れなかった。ハンドルはまだ動く……! 歯を食いしばって強烈な横Gに耐え、なんとかカーブをやり過ごす。
 いざ死の淵に立たされてみると、存外にも頭はフル回転するのか、サイドブレーキを引いたり、ローギアに落としてみたり、蛇行運転をしたりと必死に抗い続けた。しかし、そのどれもが徒労に終わった。
 サイドブレーキとギアボックスのレバーはボキっと折れ、ハンドルはロックされ操作を受け付けなくなってしまった。速度は落ちるどころか、上昇を続けている。
 教官の失踪といい、物理法則の無視……一体どうなっているんだ!? 不幸が次の不幸を呼び寄せ、まるでひどい病気にうなされている時に見る悪夢の再現が行われている。
 猪突猛進。制御不能になった鉄の猪は、合宿生の宿舎目掛けて猛スピードで突っ込んでいく。
 これ以上他に手の施しようのない……僕は覚悟を決めた。そして目を瞑り、願った。どうか無事に済んでください、と。
 頭を両腕でくるみ、来たる衝撃に備える。おそらくあと三秒もしたら、壁にぶつかるだろう。
 二……一……来る――!
 そうして次の瞬間、言葉では言い表せない、けたたましいにも程がある音が全身を貫いて震わせるが、しかし衝撃は伴わなかった。ふしぎなことにもどこも痛まない。「即死」が頭をよぎったけど、それはちゃんと生きてることの証だ。どうやら……無事らしい。
(え……?)
 おもむろに目を開けた僕は違和感に気づく。身体だけではない。車も……見たところ無傷……? 窓ガラスにひび一つすらないなんて、本当に何がどうなってるの……?
「シローか!?」
 突如、聞きなじみのある声で呼ばれる。砂煙で周囲はよく見えないが、崩壊したであろう宿の方から確かにクロノの声がする。
「ごめんな、待たせたな」
 声が近い。車のすぐそばにいるようだ! でも「待たせた」って何が? ってか、クロノ無事なの!?
「おーい! クロノ大丈夫!? 怪我ないか!?」
 何が何だかわからないまま、僕は幼なじみを呼んでから、なんとか外に這い出る。瓦礫を押し退け、目にした光景にぎょっとした。目に飛び込むのは、見慣れてきた宿舎ではなく、教習所のロビーでもない。想像を越えた、いや、想像などできるわけもない、“何もない”場所だった。
 そこは六面を真っ白な壁に囲まれた、現実ではまず見ることのない異常な空間。たとえるなら、アクションゲームかなんかで武器の試し撃ち、あるいは模擬バトルをするような、そんな空間に僕はいた。
 ただ、その真ん中、とあるものが一際異彩を放っている。まるで訳がわからないけれど、僕は〝それ〟がそこにある意味がなんとなくわかった気がした。
 ぽつんとあったのは――トイレ。見紛うはずもない。洋式の、見慣れた、あの、トイレ。
 なんの脈絡もなく、ただそこに佇んでいるそれが見えた瞬間、すべてのことがどうでも良くなった。車の暴走、虎教官の失踪、宿舎の崩壊。すべて後回しでいいや。
 本当に迂闊だった。僕はどうしてこんなにも大切なことを忘れていたんだろう。
 思い出すととたんに腰がガクガクする。足腰から骨が全部無くなり、軟体動物にみたいになって腰が抜けかけるのはきっと極度の安堵感からだ。
「俺が使ってたばっかりにごめんな。さ、シロー、思いっきりしてこい! 我慢することなんてねーんだ」
 そうか、僕ずっとおしっこがしたかったんだあ……。
 恥も外聞もかなぐり捨てて、この場で短パンも下着も脱いで便器に急ぎ、ほっと一息。
 ようやく体外に出せる。我慢もぜんぶここで終わり!
 なんて、ありがたい。なんて、あったかい気持ちなんだろう!
「はぁあ~極上の幸せ~……」
 温かさが、心から下りていくように下半身にまで染み渡っていく……。



 ピピピピ、ピピピピ
 朝七時を告げる音がすると、薄手の掛け布団がもぞもぞと動き出す。
 規則的な電子音が一日の始まりを告げるようになって六日目。聞こえると自然に覚醒できる身体になってきた。
 ところが今日は別で、あともう少しだけ惰眠を貪っていたい気分だ。昨夜は今日の学科試験に備えて夜更かししたためか、瞼も重く、一向に開こうとしない。
 それに、今日はいつもみたいに早起きをしなければならないというわけでもない。まじめな僕はまどろみの中、本日のスケジュールをぼんやり頭に浮かべる。
 朝食は九時で予約を取ってあって、学科試験は十時から。技能の修了検定は午後から二時間程度。それ以外はフリータイムだから、もっと寝てていいはず……なんだけど、やるべきことはある。
「ん……ぅあぁ~、洗濯……もう起きなきゃなあー……」
 合宿生たる僕たちは、当然身の回りのこともこなさなければならない。朝食と夕食が提供される以外はすべて自分たちで管理する。寝ぼけ声のクロノが言った洗濯がまさにそう。溜まってきた衣服を時間のとれる朝にまとめてやらなければ、いい加減汗で腐っちゃう。
 早く行かなければ数少ない洗濯機を他の合宿生たちに占領されてしまって、もっとメンドウなことになる。
 朝が洗濯時だということくらい寝ぼけ頭でも理解してはいるんだけど、身体は全く動かない。
「お~いシロぉー……アラーム止めてくれぇ……」
 昨日付き合ってくれたクロノも相当に眠いのだろう。いつもはすぐに止めるアラームを止めようとすらしない。
「もう起きるよ……」
「ああ起きよう……」
 起きるつもりは毛頭もないけれど、口先だけの生返事をする。横にいるクロノも同じだろうな。そのくせに「シロぉ~……がんばろーぜ……」と、掛け布団(共通)にもぐり込んだ僕を咎めてくる。
「寝んなぁ……起きろよぉ」
 答えないけど、無視をしているわけじゃない。睡魔にのまれて応答するパワーがないだけだ……。
「おぉい、きーてんのカぁ……? 洗濯やって、そんでメシ食って、……おれ……うー……◎△#$♪×¥●&■? zzz……」 起床拒否と同義の行為を働いた僕をしつこく追求していたクロノは、イミフメイなことを言ったきり夢沼の底へお帰りになったらしい。
 こうして僕たちは重症化していき、いよいよ洗濯物が終わった幻想なんてものを見始めたかと思えば、明晰夢だと気づいて絶望し、また洗濯を一からやり直す夢を見……。
 だって、しょうがないじゃないか。
 睡眠と覚醒の境界線を漂うのは実に気持ちがいいんだもん。特に睡眠環境が整っているとなおさらそう感じられる。
 ダブルベッドはホテルのもの以上にふかふかで、体を預けているはずなのに浮かんでいるような感覚を与えてくれる。環境や電気代のことなど一切考慮しないエアコンかけっぱの部屋は過剰なまでに涼しく、手触りの良い布団に挟まれて迎える朝は最高でしかない。顔付近は冷気を浴びてひんやり、布団の中もひんやり……んんっ、ひんやり……?
「あ…………れ……」
 そんなばかな。信じてたまるものか。……や、でもこの感触は……。
 背筋に冷たいものが走る。考えただけでぞっとする。赤色のリトマス紙を強アルカリ性の液体に浸した時のように、青色をした不安が一気に広がっていく。
 あろうことか、パンツが、下半身がびしゃびしゃに濡れているのだ。
 目が覚めて股間がぐっしょり冷んやりしているなんて、おねしょか夢精以外考えられない。
 ……認めるしかない。僕の愚息は夜中、尿あるいは精液のどちらかを排出してしまった……。
 十中八九前者だろうけれど、どうか頼む! 後者であってくれっ!
 恐る恐る、股ぐらに手を伸ばす……。
 分かってたけど酸性ぇえええええっ! ……マジで最悪だ。
「クロノ。ごめんちょっと緊急事態。急いで起きて。すぐに僕から離れた方がいい」
 ピピピピ、ピピピピ、ピー……
 これは悪い夢ではない。
 鳴り続けるアラームが、僕のことを嘲笑している……。


「お漏らシローは寝る前にちゃんとおしっこシロー……なんつってな! うわーっはっはっは! 傑作だ!」
 浴室の中へ黒柴の笑い声が入り込んでくる。
 あんのバカわんこめ……! 被害を受けなかったからって好き放題言いやがって……! 大体真っ黒バカが夢であんなこと言わなければ……って、人のせいにするのはよしておこう。バカは僕の方だ。自己管理がまるでなっていなかっただけ。この歳でトイレの夢を見ておねしょだなんて、親が聞いたらショックのあまり卒倒して寿命を縮めてしまうに違いない。
「ちゃんとションベン洗い流しとけよ? まっ黄っ黄でシッコくせぇのはもう懲り懲りだからな」
 無遠慮にそう言って、クロノは宿舎外のランドリーに出かけて行った。
 やや納得がいかないものの、あいつにはむしろ詫びて感謝しなければならない。洗濯の手間を増やすわ、巻き添えにしかけるわで、そう思うと本当に面目ない。
「はぁーもう! くそくそっ!」
 やるせない気持ちをぶつけるように、ゴシゴシと乱暴にボディソープを泡立て、汚れた股間周りを入念に洗っていく。
 自慢といえば自慢の、白くてふわふわの毛は黄色の体液をものの見事に吸収してくれた。おかげでシーツの方は被害が最小限で済んだのだけど、こっちはレモン味のわたあめだ。
「白い方だったらよかったのに……ねぇ?」
 にゅるんと皮をめくって露わにしたピンク色のソコへ、僕は溜息と一緒に愚痴をこぼす。そう、夢精していたっておかしくはなかった。だってもう、こっちにきてからご無沙汰なんだもん……。
 あれは二日前になるかな。あいつと近場の温泉に行った時のこと。
 精力があり余った僕の息子さんは終始勃ちっぱなしで、鎮めて隠し通すのに苦労した。しかも、ついこないだ勝手に覗き見てきたくせに、まだ気になるのか視線をチラチラと遣ってきて……。
 そんなこともあり、抜いてしまおうと画策したけれど、時間も隙もなかったから断念した。そして今日に至る。不本意な形での過去最高記録だ。
「まぁでも」洗う手を止めて考える。「あいつも同じはずなんだよな……」
(……平気な顔してるけど、僕に隠れてしてんのかな)
 禁欲生活が長引いているのもあって、油断するとみだりがましい妄想がすぐに脳内を駆け巡ってしまう。最近の悩みといえば悩み。
(クロノのちんちん、随分大きくなってたなぁ……。デカく硬くなったあれを扱くのか……)
 トクン、トクン。湯煙の記憶が胸を疼かせる。
 嫌でも克明に覚えている。引き締まった男らしい体躯の真ん中に堂々と鎮座する、たいへん憎たらしい僕の永遠のライバルを。忘れられるわけもない。フランクフルトみたいに太くて半分まで剥けていた、立派と評して差し支えないヤツを……。
 隠す素振りすら見せず、かといって鼻にかける様子もない。そんなふうに衆目にさらせる器の大きさに僕は複雑に絡まった感情を抱いている。大体は羨望とか劣等感とか、あとちょっとした劣情やエロチシズムの類いをね……。
 こればっかりはしょうがない。人の性ってやつ。人は自分にないものに強く惹かれるようにできているんだから。
 皮が戻らないように根本を押さえつつ、揉むように洗っていると、案の定ムクムクっと勃ちあがる。完全に勃起するのに、ほんの十秒も要さなかった。
「あいつのまでとは言わないからさ……もうちょっと頑張れないかなぁ?」元気だけが取り柄な、サイズを伴わない我が息子へ話しかけたり、幼なじみの臨戦形態を勝手に思い描いて、自己のそれと重ね合わせたりもする。
(両手使ったり……? それぐらい大きいと気持ちよかったり、いっぱい出たりするのかな)
 妄想沼に落ちた僕はやらしいことを無限に連想し続けてしまい、ちんちんが根元で取れそうなほどギンギンに勃起させてしまう。ちょっと、痛いかも……。
 白い泡に包まれて真っピンクに怒張した亀頭は絶妙にコントラストが効いて生々しい。ちんちん全体に蔦のように絡みついた血管もありありと浮き出ていて……。普段からすっぽりと包皮に覆われた姿しか見ていないのもあって、自分のじゃないみたいに思えてくるのが滑稽だ。それに、泡がサイズを盛って見せてくれてちょっと興奮。
 今か今かと吐精を待ち望んで膨れ上がった肉棒を見下ろし……、
(い、一発だけ……)
 右手でそっと握ってみる。ヌメヌメですごく熱い。手の中で絶えずビクンと動き、滾った血液が竿に集っているのが視覚的にも、触覚的にも伝わりくる。
(す、すご……!)
 握力を強め、少し根元の方に擦るだけでものすごい快感。静液をしばらく溜め込んでいるとこうまで感度が上がるものか舌を巻きつつ、自慰のことをどうして「抜く」と表現するかがわかった気がした。そう言えばタマもいつもより弛緩していて重量感がある……。左手で睾丸を揉みながら、右手で敏感なカリ首あたりをにぎにぎ……。
「っ……、んくっ!」
 普段はせいぜい皮を全部剥いてひたすら竿を扱くスタンダードなやり方なんだけど、今日は握る手が止まらない……!
 ヌメッ……くちゅり……ヤラシイ音が性欲を掻き立てる。獣欲のままにペニスをギュッと握りながら小刻みに扱くと、かつてないほどに亀頭が腫れて膨れる。ぶっくら膨らむと快感が増幅して、またさらなる快感を求めだす。
(やっぱり、大きいと、キモチイイ……! クロノ……っ)
 右の手で大きめの輪っかをつくって亀頭の先端に当てがい……ずりゅっ。
「ふあっ……!」
 左手も同じようにして根元まで一気に擦り下ろす。手と泡で作る貫通型のオナホは、ちんちんに全方位から強烈な刺激を与え、快楽で脳髄を痺れさせる。
 腰全体が「もうやめて」と逃げたそうにへっぴり腰をつくるが、手はお構いなしにペニスを擦り続ける。
 ずりゅっ、クチュっ……ずりゅん!
「んわっ、んっ、んあぁぁ……! あふぅん……!」
 思わず気色悪いと感じる甲高い声まで漏れたので、咄嗟に腕で口を覆った。
(だ、だめぇこれ……)
 快感は脳みそのキャパを超えているようで頭がショートしてしまいそうだった。
「はあ……はぁ……はぁっ……」
 腕の内で息を吐いているうちに、僕は正気を取り戻した。
「俺が洗濯行ってる間に風呂でシコシコとはなあ? 舐められたモンだぜ、まったくよぅ?」
 ふと、クロノの顰めた顔が浮かんだのだ。表情と言いそうなことまで仔細に想像がつくと、怒張できるとこまでいってバクハツ寸前だった棒は手の中でしおしおと萎えていく。
 そう、だよな……。こんなの、ダメだ……。
 おしっこにまみれたブツを持って出かけた苦労人を差し置いて、ナンテコトしているんだろう。
 欲望のままに扱きたてたいところだったけど、理性は悶々とした気持ちをいともたやすく制圧した。
 これ以上やると収拾がつかなくなるからもうおしまい! やむなく皮を被せて、さっさとシャワーを済ますことにした。

 体を乾かし終え、服を着ようとしていたらもう一度青ざめる羽目になった。と言うのも、
「あれ……ああっ!? ない……!」
 パンツを使い切ってしまったことに気づいたから……。夜まで穿き続ける予定だったラストのパンツが今朝の事故で駄目になって、僕は洗濯を先延ばしにしたことを後悔した。今日の洗濯で三枚返ってくる計算だったのに、まさかこんなことになるなんて誰が想定し得たただろう。
「シローどうした?」とりあえずノーパンのまま、クロノに電話して助けを求める。
「帰りお使い頼めない?」
「は? お使い?」
「ぱ、パンツ一枚……売店にあった気がするんだよね。おねがい」
「おおそっか! オネショで今日の分使い切っ――」
「コラーっ!!」
 なんてデリカシーに欠けるやつ! 周りに誰かいて聞かれたらどうするの……。すかさず抗議する。
「わ、わあったよ。すぐ戻るから待ってろ」
 スースーする慣れない感覚を我慢して、パンツ……とクロノの帰りを待つ。
 すると、今度はメッセージでの連絡があった。ロック画面にはこう表示されていた。
「トランクスとブリーフどっちがいい?」
 トランクスで、と返信しようとアプリを開くと、クロノのアイコンが変わっていたことに気がつく。
「これ、昨日の夜に撮ったやつか……」
 さっき電話をかけた時は焦ってて見落としていたけれど、クロノは僕とのツーショット自撮り写真を新たなアイコンに設定していた。アイコンに設定するようなものでもない、いわば特別感に欠ける、昨夜の勉強会での一枚だった。その写真はあまりに日常的すぎる。それゆえと言うべきか、幸せの日々を切り取った一枚に思えてくる。見続けていると、なぜだか落ち着かなくなって、心臓の深いところから生成された得もいわれぬエネルギーが体内に放たれていくような感覚に包まれた。
 僕と過ごす日々の中からキラキラした一瞬を見出しては記録する。そしてその瞬間を心底気に入っていると宣言してくれる。
 僕には一生かかってもできそうにないことを、どうしてこんなにさらっとやってのけるのだろう。本当にずるい。憎くて、愛しくて、感情の処理方法を見失いそうだった。
「バカ」と、つぶやくのが精一杯な僕はもう一度アイコンを見た。
 カメラ目線のあいつは無垢に笑っている。あの頃よりだいぶと大人びているのに、くしゃっと笑うと一気に幼さが滲み出る。一方の僕は、笑ってはいるのだけど、照れたような、少しだけ作ったような顔。クロノは違う。僕と完全に仲直りできたと信じていると、そう思わせる、すっきりとした笑みを湛えている。
 きっと三年半もの間、この笑顔を奪ってしまっていた違いない。
 僕が真実を告げた後も、変わらない笑顔を向けてくれるだろうか。
 あいつの顔を見ていると、さまざまな思考が頭を交叉していき、不覚にも涙ぐみそうにもなるのだった。
 呆けていたところ、スマホが音と振動を発して僕を現実に引き戻す。して、メッセージの内容は……、
「サイズ教えて」
 ああそうか、僕はパンツの使いをさせていたんだったな。カッコわる……。情けなさのあまり、目の奥の涙が乾いてく……。
「XXLだよーある?」
「でか笑」
 ムカっ。「笑」じゃないんだよ、人のサイズを笑うな! 本当はXLだけど毛量があるから余裕を持たせてひとまわり大きいサイズに――ピロン。「てかXXLなんてないわ~ブリーフのXLで我慢しろ」
 ……ないなら仕方がない。
「じゃあそれで」と、僕のメッセージに、「小さいトランクスだとビリッちまうな!」やたらイラっとくる犬の絵文字(舌を出して目の中で笑っている)を3つも付けて返信をよこしてきた。……さっきからひとこと多いんだよバカ!
「そうだねビリビリ」
「色は白!おまえ色な」
 がああああああっ! 自慢の純白な毛並みをあんっなダサい白パンツなんかと一緒にすんなぁあああああっ!(昔お世話になってたけど……!)


 悪夢は吉兆、とはよく言うけれど、僕は肯定説と否定説の境界線にいる。
 結果から言えば、仮免検定試験は合格していた。教習車が故障することも、教官がいなくなることも当たり前のようになかった。もちろん学科も合格していた。クロノについては言うに及ばずだ。
 これをあの最悪な夢が運んだ幸運だとは信じたくない。僕はあんな悪夢……と汚点をしっかり踏み台にして、自力で合格したんだ。……そう思いたいのはやまやまだけど、検定中止の一歩手前までいってしまったのは否めない……。
 何があったのかと言うと、バックで方向転換の検定中、あわや脱輪するところだった。なんとか気づいてやり直したものの、後ほど教官から「あと2センチ行ってたらアウトだったね……」と、検定結果とともにフィードバックをもらったときはさすがに背筋が凍ったものだ。
「運が良かったです」僕は悪夢の代償だと思いながら、虎の教官に言った。これに対して教官は「運じゃないよ」と、にこやかな顔で応じた。そして続けざまにこう言った。
「危なかったのは確かだけど、雪村くんなら止まってやり直せるとも思ってたんだよ」

「どう思う? 運も実力のうちってこと?」
「いや、ちょっと違うだろうな」
「う~ん……どういう意味だったんだろ」
 すらっと背が高くて、肩幅も広く体躯が逞しい。目は吊り気味で聡明さが窺えつつも、柔和な顔つきに常に優しさを漂わせており、ティーチングそのものも紳士的。僕が思いを懸ける相手にちょびっとだけ相通ずる雰囲気をまとった若虎を頭に描きながら、果てのない国道を幼なじみと並走する。
 カントリーロード――教官は詩的な表現をしていたけれど、実際はそうでもない。左右を田畑に挟まれた片側一車線の道は、時々地元民の車が猛スピードで走り抜けていくだけで、他に言及すべきものはない。ただ暑くて坂が多い。あと陽炎……と、水たまりみたいなものが遠くの地面に揺らいで見える。どういう原理か考える余裕もないけど、あれって蜃気楼の仲間なんだっけ? まぁ……僕にはわかるまい。
 熱に当てられて思考力を奪われる炎天下の田舎道。レンタルの重たい自転車を漕ぎ続けてそろそろ半時間になるだろうか。
(それにしても雲のやつ……)
 ペースダウン気味の僕は入道雲を恨みかけていた。お城みたいに分厚いくせに何ひとつ役割を果たそうとしない、その怠惰具合に腹が立ってくる。
 雲の役割? とにかく太陽光を遮ること! おかげで汗びっしょり。新調したパンツもすでにびちょびちょ。時折涼しい風が毛並みの深くまで入っていくのが気持ちいいけど、猛暑の下では無力に等しい。
 錆だらけの自転車を漕ぎ続け、蝉の鳴く道をひたすらつっきって行く。楽しくて、ドキドキの、僕の命運がかかった海を目指して。
 クロノはただの観光だと思い込んでいるんだろうなぁ……。後ろから見たら白が目立つ、スカンクみたいな尻尾をクルンと巻いたりしちゃってさ。それともさすがに勘づいているか……?
 一方の僕は計算高いクロノの狙ったとおり心の準備がついた。それもだいぶに早い段階でね。
 この一週間、僕たちはこれまでの分を埋め合わせる勢いで、たくさんのことを語らって笑い合った。なのに初日以来、一切詮索されなかった。僕がいつ打ち明けるか、どんな過去を隠しているか、さほど重要なことではないかのように振る舞ってくれた。それはきっと信じてくれているからだ。とても嬉しくてありがたい配慮だったと、今振り返って痛感する。
 でも約束は約束だ。
 仲直りを超えた仲直り――今日という日を境に、僕たちは変わらなければならない。
 信頼に応えて僕はすべてを語る。クロノは僕が何を言っても見限らない。恋が成就すればそれに越したことはないが、もしフラれたとしても僕たちは一緒だ。っていうか、嫌と言われようが、つきまとってやるくらいの勢いでいる。
「あの先生は意味深なこと言うよね。含みがあるっていうかさ」
 だから今でもこうして心穏やかに、とりとめのない話ができていたりする。
「そうか? そもそも言うとおり運なんかじゃねーんだって」
「ん、ん~?」
 ついに暑さで脳がやられたのかもしれない。理解できそうでできない。
「運任せの運転なんてこえーしな。俺はそんなやつの車には乗りたくないぞ」汗こそかいていれど、黒犬はまだまだ元気が有り余っているのか口達者だ。
「要するによ、シローは運に救われたんじゃなくて、自力で気づいて止まれたってわけだ。そんでしっかりやり直せたんだから立派な実力だろ?」
『運じゃない』――教官の言わんとする意味がわかってきた。
「実力……。でもいいのかな? ほぼアウトのとこまで行ったんだし」
「失敗ぐらい誰でもするって! 俺らまだ七日のペーペーだろ?」
「そうだけどさ」と頷きかけた僕に、
「実は俺もなー、同じようなことやらかしてんだ」
 前をゆくクロノは時折首を巡らせながら、S字クランクで落ちかけたことを笑って話してくれた。もっとも、検定中のことではないみたいだけど。
 それを聞いていささか安心した。なんでも卒なくこなす幼なじみでも人並みには失敗をするのだと思って。
「でも落ちなかったぞ。なんでかわかるか?」
「急になぞなぞ?」
「じゃねえっ!」
「なんでだろ。暑くてわかんない」
「シローちゃんなぁ……」
 顰めた顔を戻したクロノは短く「リカバーってやつだ」と言った。「さっきやったろ? ヤバくなる前にリカバーして軌道修正」
 最後のワードに、耳がピクリと反射的に立ち上がった。
「お前もちゃーんと出来てんだ。な? 自信持て」
 なるほど、やっとわかった。なーんだ、僕はしっかり実践できていたんだ。過去の失敗を踏み台に、軌道修正することを!
 検定開始直前、わかったつもりになっていたことをすっかり見落としていた。きっと後ろを振り向きすぎて、遥か前を見すぎていて……。
 失敗したと思ったらやりなおす。重要なのは、過ちに気づき、修正しようとすること。それは僕がやってきたこと、そしてまさに今行っていることに他ならない。
 ヒントはあらゆるところに落ちている。
「なんか自信湧いてきた」
「その意気だ」
「ふふん」
 上り坂だからよせばいいのに、ここぞとばかりに立ち漕ぎでクロノに追いつく。無性に今の心境を伝えたくなって、僕は横を向いて言った。
「海、楽しみだね!」
 出た声は変声期前のように澄んで、幼く弾んでいてすこし小っ恥ずかしくなった。
「子どもか」
「子どもで、……ふぅ、ありたいっ、ね!」
 下り坂はすぐそこだ。
 夏の盛り、うだる炎暑の中、突如復活した子どもの僕はハンドルとペダルを僕から奪い去り、意気揚々と坂を登りきった。
「行くぞ! 海!」
 気持ちのよい夏風を全身たっぷりに受けてクロノを追い越した。



 海に着いた。
 白く美しい浜へ打ち寄せる波の音に、潮の香り。霞む水平線の手前、ラジコンボートみたいに航行する船とそのもっと手前、海の家がある光景を高台から望む。
 何年と来てないし、場所も全然違うのに、着いた瞬間、煌めく碧い海は子どもの頃の記憶を一気に、そして高い解像度で呼び覚ましてくれる。
 僕と僕の家族と、あいつとあいつの家族。小学校三年生の夏休みの宿題で出された絵日記は、確か雪村家と柴野家で行った海を取り上げたっけな。
 スイカボールを使ったビーチバレーに、壮大な砂のお城建築プロジェクト、そして僕が沖に流され溺れかけたこと。奥深いところにしまいすぎていただけで、決して喪くしちゃいなかった。ぜんぶ覚えている。
「行こうぜ」
 自転車を停め、石の階段を降りる。柔らかい砂浜に足を一歩踏み入れれば、準備を後回しにして一刻も早く海に向かって走り出したい衝動に駆られた。またこうして一緒に遊びに来られたことが何より嬉しいんだろうな。
 昂ぶる気持ちを抑えきれず、渚までダッシュしてみる。
 クロノは僕の後に続きながら「尻尾」と、一言投げかけてくる。そして笑い混じりに言った。「ぶんぶんだな」
「いいの!」
 海水はアクアマリンが融解したみたいにきれいで、太陽に勝るとも劣らない光彩を放って僕たちを誘う。波打ち際で聞く清涼感に富んだ波音も相まって、僕の心を小学生時代のそれに返す。
「水冷たいよ!」
 三十分の昼寝から目を覚ましたみたいに、小学校三年生の僕は簡単によみがえった。
 靴に海水が染まないように気をつけて、幼い子どもが“はないちもんめ”をするように、引いていく波を追いかけて、今度は迫り来る波から逃げる。完全に童心が取り憑き、体が覚えていた遊びに一人興じる僕のことを、クロノがやれやれと微笑んで眺めている。
 波との追いかけっこは一見簡単なようで難しい。当たり前だけど、波は常に一定ではないし、砂に足を取られてしまうからだ。ギリギリを攻めようと思うと、次の波を予測した上で引き際を考慮しなければならない。
 そう、確かこの遊びの名前は……、
「波に当たったらアウトゲーム。覚えてる?」
「懐かしいなぁおい!」
 かつてのクロノ少年が命名した名前を口にすると、それがトリガーとなって追憶を手伝ったというふうに、クロノ青年は尻尾をピコっと立てて食いつきの良い反応を示す。尻尾ぴんぴんだねって言おうとしたけど、やめておいた。
「どーれ、俺も久しぶりにやってみるかな」
 横に並んでくるや否や躊躇いなく肩に手を回してくる。
「肩組んだよな?」
 ドキッと胸が弾んだ。あまりに突然のスキンシップに遅れて顔が火照って赤くなるのを感じつつ、「組んでたかも?」なんて、声が上ずらないように言っておどけてみせる。
「うん。やったね、肩組み」そして今思い出したかのように幼なじみの肩に手を回す。本当は覚えていたけれど、自分から肩を組めなかったのは実に僕らしい。
「へへっ! 十歳若返ったみてーだ!」
 屈託のない笑顔に指で鼻を擦る仕草を加えて天真爛漫に言うクロノ。そこに、十年前のいたいけな少年の顔を今でも重ねることができる。きっと僕もクロノから見ればそうなのだろう。
 本当に、何も、何ひとつ変わっちゃいない。そう感じるのは、幼なじみに対する僕の強い希望ゆえなのかもしれない。
「いっせーのーで、で行くぞ! 相棒!」
「うん!」
 一生かかっても敵わない。敵わなくていいとも思った。
 僕を惚れさせた、正真正銘の真っ直ぐさと、ずっと変わらないピュアホワイトな心。きっとその二つに、僕の心は何年も前から奪われたままだ。
 クロノに引っ張ってもらったり、時には振り回されるのを、僕は心の底から好いているみたいだ。
 十年ぶり。高鳴りを止めない胸をそのままに、僕は相棒と共に戦いへ挑む。

「シロー足合わせろよぉっ」
「合わせてるよお! ってかクロノビビりすぎ! 下がるタイミング早いって!」
「うおおおぉっとっとぉ!? やべっ、足沈むぞこれ!? 足取られて転けちまう!」
「さっきからそう言ってるよっ」
 慣れてくると、二人三脚みたいに足を縛ってもできるようになる。十年前の僕たちは息ぴったしで母さんたちを驚かせたりもした。「シロクロの最強コンビ」だった……はずなんだけどなぁ……。
 ま、まったく息が合わない……。今じゃすっかり身長が逆転してるから仕方ないのかもしれないけど、少しショック。
「歩幅は気持ち小さめに!」
「こ、こうか?」
「そ。でもっと早足っ! 足は沈ませない!」
 歩調を揃えることに奮闘していると、「次、大きいのくるよっ!」前方で大きな波が生成されているのが見えた。
「突っ込むぞ!」
 ビビリだと言われたのが悔しかったのか、大波の前には隙が生まれることを掴んだのか、クロノは退こうとせず際を攻める気満々だ。こうなりゃ声を出すしかない。
「いっちにっ、いっちにっ」
「イッチニ、イッチニ」
 クロノは僕の掛け声に足を、声を合わせてくれる。
 二つで一つ。肩を繋いだ僕たちは――オーバーな表現かもしれないけれど――一蓮托生の関係になった。進む時も下がる時も一緒の状態下で最も大切なことは意思疎通。とにかく声を出すこと。
「全速力で下がれ! 岩んところまでだ!」
「ん、いくよ!」
 そうだ、この感覚……! 取り戻してきた。自然と息が合わさって、心も繋がってくる。
 掛け声をテンポアップさせながらも、次の波に気を配る。
「次は小さいの! 逃げ切るよっ」
「オウ!」
 こうして順調に大波をやりすごした僕は、しかし見誤っていたことに気がつく。
「嘘! もういっこある!」
 波は一つではなかった。連続攻撃だった。後ろに小波が連なっていて連続で来る! やられた。フェイントだ……!
「うおぉ!?」
 咄嗟に後方への緊急回避行動を取る……が、これが災いした。より重量のある僕が急に後ろへ飛ぶものだから、瞬く間にバランスが崩れて……、
「「あ」」
 危ない転ける……と思った時には遅かった。
 どしんと、砂浜へ仲良く尻もちをついて仰向けに倒れる。
 僕たちの負け。
 波が「勝ったぞ」と勝利を誇示するかの如く、靴を濡らしてくる。
 お尻が痛くて、波に飲まれた足が気持ち悪いのに、
「ふっ……! あはっ、あっはははは!! やられたー!」
「いっでぇー! ケツいてぇのに、だははは! なんだこれ、すんげーおもしれぇ! 笑えてくるぜ!」
 揃ってヒイヒイ言いながら、浜に寝転がって空を見上げ続けた。


「言われてみれば本当だ。全然ヘーキ」
 海の家で借りたイルカ型浮き輪に跨がっていた僕は、指摘を受けて今さらながらに疑問を抱く。
 なぜ海を怖がらないのだろう? 正確に言えば、なんでトラウマを植え付けられていないのか。死にかけるレベルで溺れたのに。
「あんだけ溺れたらもう近づかないぜ? 俺なら」
 犬かきの上手いクロノは水面より顔を出しながら言った。
 僕だってそう思う。普通はトラウマとなって海を避けるようになるものだって。でも怖くないものは怖くない。
「僕の分まで泣いてくれたからじゃない?」
 あまり深く考えずに言ってみただけなのに、なんでだろ? 間違っている気がしない。
 きっと僕の恐怖心を涙でどこかへ流し去ってくれたんだ。ちょっとロマンチックすぎるけど、そう考えると妙に納得できてしまった。
 黒柴少年は強かった。背は低かったけれど、強靭な心身の持ち主で、ちょっとやそっとのことでは涙を流さないやつだった。泣いた数なんて、記憶の限りだと片手で足りてしまう。
 その人差し指目が、絵日記に書いた海でのことだ。
 僕の観測史上初めて幼なじみが泣いた日。
 意識を失っていた僕は、大人たちに囲まれながらレジャーシートの上で目を覚ました。身内だけでなく、騒ぎを聞きつけた他の人たちにも心配をかけたとは父の言葉。僕は「なんでみんな集まってるの?」と言いたげな顔で、けろっと起きたらしい。
 みんなが息をついていた時に、突然金切り声で泣いて飛びついてきたのがクロノだった。
 後にも先にも、初のことだった。親友を泣かせたのは……。
 いつも泣くのは僕の方だった。それに僕は、涙が出る人と出ない人の二種類がいると信じていた。自分は前者で、クロノと両親は後者だと思い込んでいて。だから僕は驚き混じりに嬉しくなってこう言ったのを覚えている。
『クロノ泣けたんだ』って。
 そしたらクロノはなんて言ったと思う?
 バカヤローバカヤローとわんわん泣きじゃくり、『お前がいつも泣くからおれは泣かないんだ』って僕をポカスカ叩いて、確かそんなこと……。僕が死んじゃったみたいに大泣きする姿がもうとにかく新鮮で、心に憑こうとしていた海の呪いが霧散していったみたいだった。
 その後も何か言われた気がするけど、そっちはあまり覚えていない。なぜか謝られたのと、ゆびきりげんまんを交わしたのは覚えてるけど、内容は褪せてしまった。
 けれど、僕の心を凪がせたことに間違いはない。
 海のことを怖くならずに済んだのは、そんなことがあったおかげだと思う。
「きっとそうだ。ギャン泣きしてくれたから平気なんだよ」
 うんうんそうだったと記憶を辿り、クロノのおかげだと感慨に浸っていると、
「平気ならよぉ……」犬歯をむいて悪魔的な笑みを浮かべ始めるクロノ。
 あややっ? 誤解されてる……?
「サモエドの塩漬けになってみるかぁ!?」
 ……やっぱそうなの!?
 身震いするようなワードを鋭く言ったクロノは、
「ちがっ、待って馬鹿にしたんじゃないから!」僕の言葉を無視して勢いよく潜水した。
 なになになになにっ!? 何されるの僕!?
「もう……!」
 僅か数秒後……、
「わ、危なぁあああああっ!」
 体をこわばらせる隙もなく、イルカが腹に突きを受けてぐわんぐわんと大きく揺れる。それはもう、安全装置のついていないロデオマシンみたいに。
「ほおぉー耐えたな」
 持ちこたえた僕は、顔を出してニシシと笑うクロノに向かって叫ぶ。
「は・な・し、聞けー!」
「わぁってるわぁってる。俺と遊びたくなったんだろ?」
 何言ってんのこのじゃれ犬!? まぁ……間違ってはいないんだけど、あえて僕は言う。「違うわ!」と。「あとイルカくんに罪はないだろ!」
「逆だ逆」
「何が」
「重てぇの乗っけてるイルカさんが可哀想だから……降ろしてやるッ」
「はぁ~?」
 感情移入するところがおかしい。そんな気持ちが凝縮されて間延びした声は、すでに潜ったあいつに届かない。
 僕は振り落とされるものかと意固地になってきた。……だってあいつ、さらっと僕のことデブって……!
 とか言ってる間にも黒い影が水面下で蠢く。サメにでも襲われている気分で、影を目で追う。
(どこからくる……?)
 犬型追従式魚雷の次なる狙いは……後ろ? なら前荷重だ! 前傾姿勢なら尻尾にしがみ付かれようが、もし前に回られて鼻をアッパーされても平気。
 浮上の隙を狙い、鼻先に軽いゲンコツでも落としてやろうかと、視線を海面に落として巡らせると、
 いたいた。左舷後方、魚雷一基検知。
 ふっふっふ、浮かぶ浮かぶ! あいつの泡を食ったようなマヌケっ面が! マズルをさすって「いでぇ!」とか言っちゃってさ! 早とちりするならこうな――「わぎゃあぁあぁああああっ!」
 ……あれ、なんで?


 心は若くても体までそうだとは限らない。高校も卒業すれば、一日中バカやって遊んでいられるほど体力は持続しない。って、こういうこと言うと大人たちの顰蹙を買うんだけど。
 そういうわけで、ひとしきりじゃれに付き合ってあげた後からはもっぱらお城造りに励んでいる。
 目の前にあるのは、六割ほど出来上がった西洋風のお城。円形の城壁に囲まれ、城門からのびる階段は五角形の広間を経てメインとなる二基の塔(施工中)に続く。螺旋状の階段に、窓、城壁のタイル模様など――現段階では一部分にとどまるけれど――細部にまで意匠を凝らしている。そのクオリティの高さったら、二人で、かつ短時間で作り上げたものとは信じられない域にある。
 今日を通して言えることだけど、僕たちには大学生感がまるでない。でも、そこがなんだか「いいな」って、設計に精を出す幼なじみを見て僕は思うのだった。
 小学生時代の遊びに夢中になれる間柄の友達って、そうそういないんじゃないかっていう特別感。と、いつにも増して縮まった距離感。エンリョもガマンも知らなかった、不要だったとさえ言える、仔犬時代のピュアな関係に戻れた気がして表情が緩みそうになるのを感じた。クロノにとっての合宿目標である、仲直り――あの頃の再現も120%達成されたのではと、思いを馳せたりもする。
 昔に戻れたらって、あんなに切望していたのに、今は“今”がすごく楽しい。最高に充実している。
 しかし、僕たちの今の関係は今日限り。お城の完成、そしてカミングアウトと同時に終わりを迎えることも忘れてはならない。立場が逆だとしたらわかりやすい。幼なじみから告げられる恋慕の情を認識した上で、今までの距離を保てますかって話。
 相当な覚悟が必要だろう。それくらいの想像はつく。っていうか、そんなのとっくの昔に分かってたはず。
 でも僕、我儘を言ってやるつもり。告白がダメでも、「変わらずに接して」って。今度こそごねてやる。本当の気持ちから目を背けても、結局こうして清算しなければならないんだから。
 あの頃とは違ったシローを見せてやる。そんな気概を胸に秘めつつ、城壁にタイル模様を施していく。
「いい城造れるって顔か?」
「ふふん。そんなとこ」
「よっしゃ! ここいらの伝説になるようなドデカいの、作ってやろーぜ!」
 弾んだ声のクロノはすっかり無邪気な子どもだ。さんざん僕のことを歳の離れた弟を見るような目で見ていたくせにね。
 だから僕は兄っぽくこう言ってやった。
「張り切り過ぎてお城にダイブしないように」
 
 他愛もない会話をはさみながら、砂の城プロジェクトは着々と進んでいく。
 そしていよいよ完成一歩手前の仕上げ作業まできた。
 僕の担当は、牛乳キャップほどの貝がらを使って全体をなめらかに塗っていくという、割と途方もない作業。これを怠ると、クオリティに著しい差がでるのは見てのとおりなんだけど、しかし地道な作業すぎる。
「お腹減ったなぁ……」
 こぼれた独り言は集中力が切れた証でもある。
「なんか言ったか?」
「なんでも~……」
「さては腹減ってんだな」
「よくわかるね」
「六時半だぜ六時半。腹減ってピーピー言い出す頃だと思ったんだよ」
 自分だって昨日も一昨日もハラヘッタ犬になってたくせになにを……と言おうとしたけど、そうか、もうそんな時間だったんだ。
 意識を城以外のものに向けてみると、確かに時間の経過を感じられた。
 海辺にありながらも乾いた夕風は全身を撫でてくれる。暑さも和らいできたなぁと、視線を海の方へ移した。
 陽は見ない間に傾度を一段と強めて、すっかり夕陽へと姿を変えていた。昼間は青く透明がかっていた海も藍色に変わっていた。入っている人はもう誰もいない。潮も引いてきたのか、波が遠くなり、海岸が広まって見える。そんな夕暮れの海は「きれい」よりも「寂しい」を湧かせて僕の目に映ったのだった。
 こうして見入っている間にも刻一刻と、微細ながらも姿を変えている。そう……気づきにくいだけで。
 変化の過程を捉えるのは難しいものだと僕は考え込む。意識を向けた時にはまったく別のものになっていることも少なくない。それがなんだか惜しく、儚く、「寂しい」に至って、つい見とれてしまうのかも。
 そんなうちに……、
(ちょっと似ているかも)
 なんて、陽によって徐々に色を染められていく海に自分を重ねたり。
(僕もこの一週間で変わったかもな。いや、一週間どころか……)
 ここに来る決断をした時。それ以前にクロノからの電話に出た時から、僕は自分でも把握しきれないほど大胆に変わりつつある。海を見ている今、それがなんとなしにわかると嬉しくなって、またこの先どんどん進化していくのだと思うと背筋がしゃんとするのだった。
(きっとクロノも……)
「休憩するか?」
 器用な手先で塔のやぐらを整えていたクロノは、上の空となっていた僕を案じてくれた。
「え? あ、うん。ちょっと疲れたかも」
「俺も……うおー首と腰、いっでぇ~……」
 制作が佳境を迎えて久しくなってきたところで一時中断。
 お城に倒れ込まないように、慎重に腰を上げる。一歩引いて見るお城は、もっと壮大に見えた。
「努力の賜物って感じがする。これはスゲーぞ」
「だね。昔の僕たちに見せたらどんな反応するかな」
「そりゃもう目ぇキラッキラにさせてよ、ここに住む! もう帰らない! とか言うぜ」
「それ僕の真似?」
「俺も言ってそう。こんだけ立派ならな~」
 クロノは体をほぐしながら、腰ほどの高さにまでなった砂の城を誇らしい顔で見つめて言う。
「十年前の百倍はスゲーよ。……ってことはよ、一年で何倍ずつスゴくなっちまったんだ俺たち」
「さーあ? 二倍とかなんじゃないの?」
「だはは! シローばかお前そりゃ1024倍だって!」
「じゃあもう1024倍すごいでいいよ」
「不貞腐れんなよっ!」
 二人していつもと変わらないやりとりをする。笑い方も同じはず。なのにどうして心臓はさっきから脈動を速く刻むのだろう。
 クロノの顔に視線をやると理由は簡単に見つかった。言葉を探すまでもなかった。かっこいいからだ。
 泥だらけで汗だくでも、夕陽に照らされ朱に染まってしまえば不潔感はなく、陰影の濃くなった顔がやたら男らしく映ると、今度は胸がドキッとわかりやすい音を立てた。
「ジュース買ってくる。なんか飲みたいのある?」
「お、サンキュ。じゃあラムネ! ビー玉のやつな」
「いいね。僕もそれにしよーっと」
 かっこ悪い逃げ方だ。思わぬところで心臓がうるさくなりすぎて、ついその場を離れる選択をしてしまった。
 僕はクロノみたいになんかなれない。一生かかっても届かない。だからこそ惚れたのだと思う。弱い僕は、強くてかっこいいあいつと一緒になりたがる。きっとそうだ。好きの理由を掘り進めていけば本能的な部分に辿り着く。
(本能的……)
 それってなんだか寂しい。歩きながらそう思った。
 だから、やっぱり理由はなんだっていい。たとえなくても、べつにそれでいい。いちおう探してみたけれど、理屈っぽくなるのはもういいや。
 クロスケのことが好きだ。大好きだ。


「お待たせ」
 冷え冷えのラムネをあてがい、隣に腰を下ろして海と向かい合う。海は、また少し表情を変えていた。
 涼しげなビー玉の音を響かせ、ぐびっと一杯あおった黒柴はお決まりの「ぷはー!」をやってみせる。「これだこれこれ! セカイイチのラムネだ」
 僕もそれやりたいんだけど……。喉乾いてるし……。
「シローもやれよ? 脳みそまで、げふうっ!涼しくなるぞ」
「あ、開け方……どうやるんだっけ」
「忘れちまったのか。シローも歳とったなぁ」
「違うし」
「まぁ貸してみな」
 だって瓶ラムネなんて久しく飲んでいないし。言い訳を聞き流し、「ほらよ。このパーツで上からグッと押し込むんだ」と身振りを交えて渡してくれる。
「ありがと」
 ラムネを受け取って、さっきから言おう言おうとしていたことを口にする。
「……ねぇ、クロノ」
「ん?」
 声のトーンで真面目な話だと察したのだろうか、クロノは手を止めて僕に顔を向ける。両耳もピッコリ立てて「お話ちゃんと聞きますモード」に入った黒犬。や、そこまで集中して聞かれる話でもないんだけどさ……。
「こないだまでさ、僕ね」固い雰囲気を壊したくて、もうちょいラフに聞いてくれの意を込めてビー玉を落とすと、なんとびっくり。「わわっ、あわー!?」決して狙ってはいないけど、声のとおりに泡が勢いよく吹きこぼれた。なんでいつもこうなるかなあ。ぶきっちょな自分がつくづく嫌になる……。
「ゴメ、言い忘れてた。それな、ビー玉落とした後もフタ押さえっぱなしにするんだよ。って、今さら知りたくもねぇか、だははは!」
「もーやだ初見殺し……。手、べっとべとだ」
「レモンサイダーじゃなくて不幸中の幸いだったな。お前も俺も……な」
 レモンサイダー? そっちの方が溢れやすいとか? 僕の手を見てそっと笑みを薄めたクロノに訊く。
「『俺も』って、レモンサイダーはそんなに勢い強いの?」
 すると何やら慌てた素振りで、口をモゴニュニョさせて言う。「あー、ほら……半日前の、あったろうよ……」
 半日前にレモンサイダーがどう関係するって言うのだろう。まったく繋がらずに首が傾く僕。
「言ったらお前怒るだろ」
「ホントに何のこと? 怒らないからさ」
「ぜってー怒るやつだそれ」
「怒らない」
 怒んなよ? そう念を押して、「レモンサイダーだったらよ……」続いた言葉は怒るに怒れない内容だった。                
「シッコまみれの手みてーになるだろうなって。はは……」
 くぐもった笑い声で耳をぺったり倒して、なんとも品のないことを言うバカ。
「……ありゃ? マジで怒らねーのな」
「いや、だってさ……くふふふっ! バカだよ。バカすぎ!」こいつに限らず、僕もそうだ。
 盛大にやらかしたくせに、ピンとこなかったのがおかしかった。わざわざ掘り返してくるのも、どっちもバカすぎて僕は笑った。笑うほかなかった。
「ラムネとレモンサイダーで迷ったらラムネ買う」
「いやオネショ克服しろよ先に!? ってか、もう普通に開けられるだろ!? 俺今教えたっての!」
 派手なツッコミを受けた僕はそのとおりでしかないと、しばらく腹を抱えて笑った。
「で、さっき何言いかけてたんだよ?」
「ああ、あれ」
 もしも昔に戻れるとしたら戻るかって話だと説明する。
 照れくさいけど、お城ができてしまう前に聞いて、伝えておきたかった。これは僕自身の気持ちにけじめをつけるためでもある。
 僕はクロノの返事いかんによってはきっと「戻りたい」と答えるだろう。だけど、今は、今だけは、お城ができるまでは……違う。絶対に戻りたくない。こんなにも愛おしい気持ちになれることを知らない昔にはもう戻れない。
 確かに抱いた、この感情をなんとかして自分の中にとどめておきたい。異なる時空の僕では邂逅しえない、ちょうどいい心のあたたかさを忘れないために。
 そんなことも含めて僕は海に向かって吐露する。「こっからは独り言だと思って聞いてほしいんだけど」って、卑怯な前置きで照れくささを殺しつつ。
「夏が来る前まではね、ずっと戻りたいって思ってた。クロスケとの付き合い方を正しに行くぞって、無理に正解を探しに行ってた……気がする」
 思い描いていた正解とは、我慢を貫き通す道だった。幼なじみに恋をしてしまったという真実から必死に目を背けて、今まで通りに接する。それしかないと、仲直り合宿が決定する前まで信じてやまなかったルートは、しかし不可避の落とし穴付き。
 そんなことにすら気づけなかったのがほんのひと月前まで。本当は正解なんてものは最初から設定されてなくて、肯定して認めてあげることでしか正解になり得ないのに。
 今の僕は少しだけ肯定することを覚えた。この夏は、この気持ちは、この発見は、全てあの事件がなかったら出会うことのなかったものだから。
「でも、正解は僕だけじゃ絶対見つけられない」
 僕がボソリと言うと、
「なんでそう断言できるんだよ?」
 と、クロノは眉を寄せて理由を尋ねてくる。
 問いにはすぐに答えられない。なんて説明すれば、心のうちでこんがらがった紐をきれいにほどくことができるんだろう。
 波音が寸秒の沈黙を埋める。詰まった思考に酸素を奪われて、まるで息継ぎをするようにラムネを飲む。僕に釣られて瓶を傾けるちょっとカワイイ幼なじみを横目に、ごちゃついた頭の中を整理していく。
「いつになるかわからないけど、きっとね、どの分岐路通ったっていずれ今みたいに元通りになれる世界には収束するんだ。だけど、僕だけじゃたどり着けないってこと。僕一人だと見えるものも見えないし、もし見つけたとしても正解だって判定できる自信がないというか」
「それ言っちゃ俺一人だけで合宿なんて来ねえぞ?」
 あ、それは確かに……。
「変わらないさ。お前も俺も一人じゃからっきしダメなんだって。俺たち同じ方向向いてたからだろうな、ここに来たのは。って、そう思うぜ、俺は」
「そっか。そうだよね」
「戻らないって選択、俺もするしな。もったいねえし、お前といられて楽しいし」
 幼なじみは鼻を擦ったあと耳を掻いて素直に照れてくれる。
 僕もそうだと、伝わるわけでもないけど尻尾で返事をすると、口はまた止まらなくなってしまう。
「あのさ、僕、合宿来てよかったって、最近ずっと思ってる。昨日より今日が一番!って、それが毎日更新されてく感じしてさ、やっぱり楽しいよ、こうして二人でわちゃわちゃバカするの。心と体が求めてたって感じするもん」
 よくもまあこんな照れ臭いことを喋ってしまえるものだ。告白の予行練習は大方成功と言っていいんじゃないか。
「だからね、今の世界線であってるんだよ。昔に戻る必要なんてないし、足掻いても見つからない……ん? ちょっと違うな。今の時空が正解になったっていうか、正解にしてくれたっていうか。そうだ、肯定だ。僕自身が認められるようになった、だ!」
「しゃべんの下手かよ?」
「言うな。まぁでもわかるでしょ」
「なんとなくな。今が一番ってのはよぉくわかるぜ。お前と一緒んなってから一日一日が濃くてな、寝る時ちびっと切なくなるのに明日がもっと楽しみだからへっちゃら。へへっ、あってるか?」
「……うん。75点」
「なんだよそれー!」
 伝えたいことを言葉に置き換える過程でどうしても濾されてしまってもどかしいけど、言わんとするところはこうだ。
 何もかも変わらないまま変えてくれて感謝してる。
 僕の底に眠っていたものを呼び覚ましてくれて……。あの頃に負けない幸せをくれて……。そんなこと、もうこれ以上口にはできないけれど。
「ま、そんなわけで、僕これでもクロノにはたくさん感謝……っぽいものしてるつもりだから」
「素直じゃねーやつだなぁシローは」
 いかにもと、尻尾がふわりと力なく跳ねる。でも、そんな僕も今日で一旦おしまいだから、
「……お城できあがったらちょっといい? 話したいこと、ある」
 逃げ道を塞いだ。
「オウオウ! 聞いてやるからたーんと話せ話せ!」
 ニカっと歯を見せて笑うクロノはきっと察したんだろう。仲直り合宿はクライマックスを迎え、二度と後戻りできない領域に足を踏み入れるかもしれないということを。
 僕がこの世界で一番詳しい幼なじみは「まだ何かあんのかよ?」とは言わなかったから。それに僕の目は逃さなかった。一瞬だけ、ほんの一瞬、頬が強ばったのが分かったから。
 鈍感で隠し下手なくせに、うまく隠そうとして生意気だ。だけど、そういうところは嫌いじゃない。
「さー続きだラストスパートだ完成だ。まだ明るいうちにやろーぜ!」
 そう言って勢いよく立ち上がり、見せた背中も違って見えた。それは宵が迫ったからではない。
 尻尾の巻き方がさっきと全然違うし、歩く速度も遅い。なんてわかりやすいヤツ! 僕のために緊張してくれちゃって!
(よし! やるか!)
 あまり見せない姿から勝手に勇気をもらう僕って、やっぱりヤなヤツなのかも?


「完成でいいんだよな!? いいんだな!?」
「どっからどー見ても完成!」
 そしてその時はやってくる。
 七時を過ぎ、日の入りを迎えるとほぼ同時期にとうとう砂の城が完成してしまった。
「してしまった」なーんて表現使っているいるあたりまだまだな僕だけど、手を抜いて完成を遅らせようとは考えなかった。そこだけはちょびっと成長だ。
 制作時間が四時間弱にもわたる力作は、夕闇のビーチにありながらもただならぬ存在感を放って輝いている。込み上がってくる感慨がブーストをもたらしているのだろうけど、それを抜きにしても惚れ惚れする出来だ。
「どうにかして持って帰れないかな」
「そんな魔法の道具あったらいいけどな。てか、持って帰っちまったら伝説になんねーや」
「伝説伝説って、そんなに有名になりたいの?」
「家帰った頃にSNSとかでさ、俺たちの城の写真が回ってきたら面白いだろ?」
「ふふ、エゴサってやつだね。ネットでもこいつとまた会えるならそれも悪くないな」
 わかりやすいようにサモエドと黒柴の絵でも描こうかと、クロノは笑う。
 そんなふうに、好き好きに感想を述べ合い、構図を変えて写真に収める時間は、やがて沈黙の時となる。
「…………」
 お城の門前。陽を飲み込んだ海に向かって体育座りをしている僕たちを、波音だけの静かな時間が包む……。
 タイミングが、きた。きっとクロノもわかっている。
 なのに僕ときたら……、
「雨とか……降らないといいね」
「だな」
 気まずいわけじゃないけど、沈黙を埋めようとしたのか、名残惜しさを吐き出していた。
「……」
 そして再び無言……。
 あ~もう! 僕って色々とヘタクソ! 辛気臭くなってちゃ話すに話せなくなるっての! せっかく言い出すのを待ってくれているのに……!
 でもこういう時ってなんて切り出したらいいの!?
 さっきまでの勇気はどこへ姿をくらませたのだろう。心に吹かせていた涼しい風が止み切ってしどろもどろになっている僕に、
「シロー?」
 幼なじみは気を遣ってくれて、
「ん、あ、あぁと……えっと――」
 僕はまたドギマギ。
「……話してくれる気になったんだな?」
 ……また助け船を出してもらった僕は小さく頷いた。
「んと、あのさ……中学の頃の話なんだけど……」
 切り出すと途端に力がこもっていく肩と、大きく鳴りだす心臓。息も乱れるのがわかった。過去をなぞることへの抵抗は少しくらい薄らいだと思っていたけれど、体は正直でしっかりと嫌がった。どうにもできないまま、辿々しくなりながらも言葉を繋いでいく。
「……えっと、僕ね……。あんまり驚かないでほしいんだけど」
「おう」
「謝らないといけないこと、いっぱいあるんだ」
「そうか、そりゃこえーなぁ」
「その前に、先に言っておきたいこと、あって……」
「おうおう」
 僕はクロノに好きな人がいるかを訊くこともなく、気持ちをぶつけようとしている。
 ライバルの存在。こんな時になるまで考えすらしなかったことが、今さらになって胸を突きだす。
 あの頃と同じように、もうクロスケの特別になることは叶わないのかもしれない。答えを知らされた時には、クロスケへの気持ちが膨らみすぎて、暴走する自分を遠ざけてしまうかもしれない。
 それでもしっかり伝えなければならない。七月の僕は決めたはずだ。玉砕覚悟でも気持ちを伝えて、たくさん謝って、そしてこれからをやり直していく、って。
 一度大きく間違ってそこから軌道修正した僕は、昔と比べものにならないほど強い。僕たちを確かにつなぎ止めてくれている糸も、再会を通じて相当に太くなったはず。
 だから、僕は少しだけ勇気と自信を持つことにして――
「クロノ」
 思う存分、ぶつけてみようと思う。
「僕、好きだった。クロスケのこと、大好きだった」
 否定して歪めてしまっても。一部が黒く禍々しく形を変えてしまっても。奥底に伏せて殺しても、長い間腐らずにずっとずっと僕の中を循環していたピュアな気持ちは、この時を待ち焦がれていたのに、初めて体外に流し出してしまえば「ついに言っちゃった」程度で、急に心が軽くなることはなかった。けれども、一度口にしてしまうとたとえ僕が死んでも無限に湧いてきそうなほど生命力に富んでいた。
 続けて勢いのまま「今も好き」って言えた時には、顔が赤色を通り越して真っ黒に焦げてしまいそうだった。
 嫌悪感を持ってはいないだろうか……?
 クロノに限ってそんなことはないだろうけど、ただ、今はそれが気がかりでちらっと顔を窺った。
 幼なじみは何も言わなかった。その代わりに「マジか」と声を荒げそうな勢いで、耳を立たせていた。表情も凍りついてしまったように変化が乏しいけど、無理につくった冷静さで困惑を上塗りしていることはすぐにわかった。
 決して狼狽を見せようとしないのは僕を慮ってのことだろうか。敢えて何も言わないのもきっとそうかもしれない。僕をちゃんと待ってくれているんだ。
 顔を伏せたい気持ちを押し込めて、見える限り遠くの海を見た……。
 むごい仕打ちもした。嘘もついて逃げた。そんな自分を未だ許せていない。
 だけれども、僕は自分なりに償って、向き合っていくことを決めた。わがままを重々承知した上で、受け入れて欲しいって、図々しくも本気で願っている。
 永い歳月が隔てていても、クロスケのことを諦められないくらいには恋焦がれている。
「……ごめん。まさか惚れるなんて、何かの間違いって、最初思ったけど……ほ、本当で……」
 渾然とした感情が一斉に心臓を叩き鳴らして息が苦しい。
 それももう少しの辛抱だ……。
 この時のこと、後で振り返ったときに、一番頑張れたって胸を張って肯定できるように頑張ろう。
 僕の中にあるもの、ぜんぶぜんぶ、空っぽになるまで吐き出して楽になろう。
「それで……意地悪、した……。クロノが付き合ってたあの子にひどいこと……」

 こうして僕は事の顛末と、負い目を感じてクロノから距離を取った旨を告げた。
 言葉にしてもう一度過去に目を向けてみると、雪村士狼という人物がいかに醜くて真っ黒に汚れているかを再認識することになった。
「勝手に惚れた挙句、妬んでさ……自分で応援しといた二人をめちゃくちゃにするなんて、ホントどうかしてる……」
 耐えられなくなって、とうとう顔を伏せた。
「ごめん。……ごめんよぉ……!」
 顔を見られない今なら。こんなに喋ったのだから少し……と、気を抜くと、堪えていた涙はたやすく引っ張られてくる。
 ちっぽけな謝罪と涙だった。この程度のものでは罪悪感を流し切ることはできない。
 流れる価値のない涙だと思うとなおさら泣きたくなって、またさらに涙がこぼれだす。ひどい悪循環に陥った。
 何秒開いたかわからない。ごめんと言った数秒後だったかもしれないし、一分は開いていたかもしれない。
「でっけえバクダン温めてたな」
 やっと口を開いたクロノの第一声は、嫌悪や拒否の類いを全く感じさせないものだった。一方の表情はわからない。けれども、一声聞いて確証を得ることができた。僕たちは今後も親友としてやっていけると。
 安堵しきった僕は、しかし掠れた声で「うん」と絞りだすのがやっとだった。
「でもありがとな。言いにくいこと、よく話してくれた」
 そう言ってクロノは立ち上がった。
「まさかお前からコクられるなんてなあ。十九年も生きてりゃこんなこともあるってか……ははっ、こりゃ参ったな」
 上から落ちてくる言葉にほぐされてもなお僕は「ごめん」を連呼しながら泣いていた。
「シローもう謝んな」
「でも……!」
「でもじゃねえの! いいんだって」
「二人のこと応援するって言ったのに?」
「いいんだ。いい」
「それは……時効だから?」
「違う。あのなあシロー、そこまで言うんだったらちょっと立ってみろ」
 立ったら何されるんだろう。裁きの鉄槌でも受けるのかもしれない。顔を両膝の内へうずめたまま「今だめ。顔見せられない」と渋ると、クロノは「いいから」と僕の脇腹に手を入れてきた。
「ひぎゅうっ!?」
「重ったいやつだなっ。早く立たんか! シローの泣き顔なんて見慣れてんだから今さら気にすんな!」
 力技で強制的に立たされ、みっともない泣きっ面を晒した僕のすぐ前には、弱々しい微笑みを湛えたクロノの姿がある。
(え……?)
 何するの? 喉から言葉が出かかった瞬間、
「これで仲直りな」
 クロスケは僕を包み込んだ。飛びかかってくるでもなく、そっと優しい抱擁。
 言葉よりも、他の何よりも説得力のあるそれは、仲直りのハグであるとすぐに理解できた。
 ハグは僕の内側に固くこびり付いていた罪の意識を消却してくれる。真っ黒なそれと入れ替わりに、クロスケの慈しみの情が奔流となって流れ込んでくる。「ごめん」と「いい」の押し問答を繰り返すよりも、はるかに建設的な仲直りの方法……のはずが、クロスケは僕に縋り付くように指の先まで力を込めて、体を震わせはじめた。
「ずるいんだよ。シローばっかり謝りやがってよぉ……。俺だって、俺だってな、謝んなきゃなんねーこと、あるのによ?」
 耳元で囁かれた涙ぐんだ声にはクロスケの想いが溶けだしていた。
 決してシローを赦すためだけの一方通行な仲直りなんかじゃない。言外にはそう含まれているように感じて僕は思い出した。
 そうか。そうだった。結局、同じなんだって……。
 クロスケも僕と同じように悔やみ、涙を流している。クロスケが言った「仲直り」の意味が時間差で胸に染み込むと、体の奥底から愛おしさが湧き立つ。心臓はギュウッと一気に縮み、鼓動は勢いを増していく。
「つらい思いさせて悪かった。お前のこと、なんっにも気づいてやれなくてっ、ごめんなぁ……!」
 僕の中で嗚咽を漏らすクロスケが憎くて愛おしくてしょうがない。本当にずるいのはどっちだろうか。
「クロスケ……っ、クロスケぇ……!!」
 僕たちは離れていた。なのにどこかでずっと繋がっていた。どれだけ心の中にわだかまりを抱えあっていようとも、物理的な距離を取ろうとも、繋がりは切れなかった。
 親友だから? 十数年来の幼なじみだから? いいや、違う。そんなふうな枠にはめられないのが僕たちの関係だ。そこには「赦す」なんて行為は必要なくて、ただこうしてお互いの胸をひっつけるだけで完了してしまう。
 抱きしめられるその強さに応えるように、クロスケを力いっぱい、これでもかというほどに抱きしめてやった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

虎丸
2021.07.10 虎丸

シチュエーションがめちゃくちゃ自分の好みで、この作品に出会えてとても嬉しいです。
作者様のペースで構いませんので、続きいつでも楽しみに待っております。

2021.07.11 めるポックル

虎丸さん
とても励みになる感想をありがとうございます…!
そうおっしゃってもらって本当に嬉しい限りです!
クライマックスの三話で、より良い物語にできるように執筆する次第ですので気長にお待ちいただけると幸いです。
重ね重ねにはなりますが、素敵な感想をありがとうございます!

解除

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