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にーちゃんシェパードの飴と鞭
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疲れたー……。
今日の部活は朝いっぱいまでだったけど、その分練習内容は濃くてハードな半日になった。激しいドリブルの音が、今でも聞こえてくるような気がする。
春の割に一段と冷え込んでいるはずなのに、体温は下がらず、ぼくは一人歩きながら汗をかいていた。お腹の音がグルグルと鳴り始めたので、歩いている人たちに聞かれないように足音を大きくして家まで帰った。
「ただいまー」
……。
返事が返ってこない……ということは、お母さんは仕事に行ったのかな。春休みを満喫中のにーちゃんは二階にいるんだろうけど、ぼくの挨拶には返事をしてくれないからなあ。
居間のドアを開けると、テーブルの上にお昼ごはんの用意が見えた。唐揚げと昨日の残りのポテトサラダに、白ごはんだ。ぼくのと、にーちゃんのとで、それぞれ二セット。でもにーちゃんの分はやっぱりもう空っぽで、お皿だけが寂しく置かれていた。
レンジで温めなおして食べ終えた頃には、また体温が上がっていた。体操服のジャージを脱いでしまって、バスケのユニフォーム――タンクトップ姿でぼーっとテレビを見ることにした。
お昼から何しようかな。ゲームもいいけど、お風呂入ってから自転車を漕ぐのもいいなぁ。なんて、ソファーの上で寝転んで考えていたら、階段の方から大きな足音が聞こえてきた。
にーちゃんはぼくに気づいても何もいわず、冷蔵庫と戸棚を開けてつまんなさそうな声を出した。
「何もないじゃんか。ったく、食糧危機だぜ」
さっきお昼ごはん食べたんじゃないの、とは口にせず、興味のない番組に見いるふりを続けた。余計なことをいうと、なにかと噛みついてくるから。
にーちゃんは「アキ」という名前で、ぼくと犬種が違ってシェパードだ。お父さんが純血のシェパードで、お母さんが秋田犬だから、厳密には違うんだけど……。
ぼくはお母さん似で、ふっくらした毛並みと、丸っこくも骨太の体型をそのまま受け継いだ。にーちゃんはシェパードのイメージそのものって感じで、背はすらっと高いし、ぼくと違って無駄なお肉がついていない。
「腹減ったな」
大学受験に合格してからはやたらと食欲旺盛で、自堕落気味な生活を送っている。もちろんそんなことは本人にはいえない。
仲が悪いとか、喧嘩中とか、そんなんじゃない。頭もよくて、容姿も整ってるアキにーちゃんのことは尊敬しているし、にーちゃんだって、機嫌のいいときは優しくしてくれる。中学に上がってから、時々当たりがキツかったりするだけだ。どこの兄弟もそんなもんじゃないかなあと思う。
「カイー、おまえさ、お菓子持ってないか? 飴以外な」
ソファーの方に近づいてきたにーちゃんは、上からぼくを見下ろした。
「んー……ない」
テキトウにあしらったわけじゃなくて、昨日食べちゃったから本当にない。にーちゃんは「そうかよ」と、すんなり諦めるかと思いきや、しかめた顔で、すんすんと鼻を何度も鳴らし始めた。
「む、何だこのヘンな……汗クサっ! おまえか?」
にーちゃんの鼻は鋭い。きっとぼくだ。ぼくしかいないし……。たくさん汗をかいたまま、靴下も脱がずにいたからかな。
「すぐシャワー入る」
出た声はすこし小さかった。
くさいといわれたのが恥ずかしくて、汗のにおいを嗅がれるのも嫌だったので、さっさとシャワーを浴びようと体を起こした。
それでも、にーちゃんはしきりに鼻を鳴らすのをやめなかった。そして脱衣所に向かうぼくを呼び止めた。
「ちょうどいいや。おまえ、外出て天日干ししてこい」
「てんびぼし?」
よくわからなくて聞きなおした。
「クサいから外出てお日さん浴びてこいってこと。そのついでにだな――」
コンビニでおやつ買ってきてくれ、お釣りはあげると、妙案を思いついたという顔で、一人勝手に「それがいい、そうしよう」と頷きだした。
ついでって……。それ逆じゃないの?
おつかいの口実のためにくさいといわれた気がして、
「えー」
不満のこもった声が出るのを抑えられなかった。
「いいじゃん。どうせヒマしてて、外暖かいし散歩しようとか思ってんだろ。顔に書いてんだよ」
一度こうだと決めたらにーちゃんは止まらない。しかもけっこうドンピシャで当ててくる。昔からそんな性格だから、いつも押し切られてしまう。
「千円やるから、カイの分も一つ買ってきていいよ」
「それならいいけど……。にーちゃん太るよ?」
仕方なく承諾しつつ、一言いい返してやりたい気持ちでつい口走ってしまった。
「オレはいいの。太らない体質だし、食った分はサークルで消化する予定だから」
大変な受験が終わった後のご褒美だと、自分にはやたらと甘いにーちゃん。
体質うんぬんは本当だとしても、前に比べると顔とかお腹が丸々としてきているし、そんな生活が続けば簡単に太るだろうと予想できる。にーちゃんだって、同じ秋田犬の血が入っているんだ。
もっとも、太ってるぼくがそんな忠告したって、聞いてくれないだろうなぁ。
「カイこそ、もっと運動しないとデブになって、またクサくなるぞ」
にーちゃんは千円札をぼくに押しつけて、「さあ行った行った」と、偉そうに手を叩いた。
「わかったよ。行ってくる」
部活のユニフォームで外に出るわけにもいかないので、ぼくは簡単に着替えてから、自転車で近くのコンビニまで走った。
にーちゃんの好きそうなスナック菓子数個と、バニラアイス、あと自分のチョコを買った。結局お釣りは五十円くらいで、お駄賃というには安い額になってしまった。
「買ってきたよ。こんなのでよかった?」
にーちゃんはホットカーペットの上で漫画を読んでいた。ご機嫌なのか、珍しく「おかえり」といってくれた。ちょっとだけ褒めてもらいたい気持ちで、買ってきたおやつを広げて見せた。
「サンキューサンキュー。ほー、なかなかいいチョイスじゃん」
黒混じりの焦茶色尻尾がハタハタ揺れる。ぼくのくるんと巻いた尻尾も次いで連動した。にーちゃん以上に激しく振れているとこを見られたくなくて、すこし離れてしまった。
「うん、うめーな。カイ、ありがとよ」
にーちゃんが素直に喜んでくれる――たったそれだけのことで、理不尽なこともすべて許せてしまう。にーちゃんの側でチョコレートを食べながら、しばらく幸せな気持ちに浸っていた。
「じゃあぼくシャワー行ってくる」
食べ終わり、今度こそ汗を洗い流してこようと立ちあがる。そこへ、またにーちゃんが呼び止めてきた。
「おーいカイ、ちょっと待てー。においとれたか確かめてやる」
突然話が元に戻って、ぼくは咄嗟に片腕を上げて自分で嗅いでみた……けど、自分じゃイマイチよくわからなかった。
「普通だと思うけど……」
「どれ、頭出せ」
「わっ! なっなにすんの!」
にーちゃんはぼくの頭に鼻を埋めて、フゴフゴとにおいを嗅いできた!
「酸っぱぁ! 頭ちゃんと洗ってるのか?」
「洗ってるよぉ」
「ウソつけ」
春になってから毛並みが脂っこくなってきてるから、毎日念入りにシャンプーをしている。見てもないのにウソ呼ばわりしてきて、ぼくはむっとした。
「部活から帰って、おつかいも行ってきたらこんなもんじゃないの。家でじっとしてるアキにーちゃんと違って汗もかくよ」
にーちゃんは納得いかないのか、念入りに頭を嗅いでくる。こそばゆくてたまらない。
「耳の付け根やべー! さすがにクサいな……。腐ったソーセージみたいなにおいするぞ? ホントに毎日洗ってんのか?」
「洗ってるってば!」
「じゃあなんでそんなにクサい?」
「知らないよ」
自分では気づけなかっただけに、何度も指摘されるとショックが大きい。もし友だちにも同じことを思われてたら、それこそ最悪だ。
……傷つく前にいってくれるだけ、にーちゃんなりの優しさなのかな?
「あのなあ……おまえ、今から風呂入れ。オレとだ。オレが徹底的に洗ってやる」
「にーちゃんと? やだよ、恥ずかしい」
ぼくが小学生の頃はよく一緒に入ってた。だけど、高学年になってからは別々に入るようになった。それは裸を見られることに対する羞恥心が芽生えたというより(もちろんそれも大いにあるけど!)、二人一緒に入るにはお風呂が狭すぎるからだ。お風呂は縮まないので、ぼくたちが大きくなった、という方がいいのかもしれないけど。
「今からちゃんときれいにしてくるから」
「いや、ダメだ。信用ならん」
「体洗うぐらい一人でできるって!」
「できてねーじゃんか。今のすべては過去のすべてなんだよ」
う……それはそうかもしれないけど……!
「とにかく、オレが責任持ってきれいにしてやるから」
にーちゃんはすっくと立ち上がり、お風呂を沸かしに行ってしまった。
嫌だっていってるのに……。
せっかちで強引なにーちゃんを止めるのは、もはや不可能だった。
結局のところ、反対意見は聞き入れてもらえず、ぼくは数年ぶりに、にーちゃんとお風呂に入ることになった。
ピロロリロリン――
お湯が溜まったことを知らせるメロディがリビングに響く。
「おい、早く風呂行くぞ」
「わかってるよ」
にーちゃんはぼくの背中を押して、脱衣所に向かって突き進んでいく。押すというより、押し込められているみたいだった。
「それにしても、カイと風呂なんて懐かしいな」
するすると服を脱ぎながら、にーちゃんは昔を懐かしむように笑う。一方のぼくは恥ずかしくてそれどころじゃなかった。何もいわないで固まったままのぼくに、にーちゃんは顔を顰める。
「なにぼーっとしてんだ? 早く服脱げよ」
にーちゃんはもうすっぽんぽんだった。そんなつもりはなかったのに、目線が自然と下の方にいってしまう……。
「ははーん? さてはおまえ、ちんこ見られるのが恥ずかしーんだな? まだまだかわいいとこあるじゃん」
「ちがう!」
口をついて出たのは、図星を突かれたときのお決まりの言葉だった。
こうなるのが目に見えてたから嫌だったんだ……。
「豆チンのままでも笑ったりしねーって。さすがにちっとは成長したか?」
ぼくの悪い癖はお見通しで、にーちゃんはニヨニヨ笑って全身を舐め回すように見てくる。
反射的にいったことがウソじゃないことを証明するために、上の服とズボンを脱いだ。
「おーおー、まだそんなダサいブリーフ穿いてんのか! しかも伸び伸びじゃん」
いちいちうるさいなあ……。
「ん。まだ穿けるから、これでいい」
あんまり生意気になりすぎない程度にあしらってると、
「まあいいや。冷えるから先入るけど、逃げんなよ」
にーちゃんは身体をぶるっと振るわせて浴室の中に消えていった。
「はあ、もう……。なんでこんなことに……」
だらんと尻尾が垂れる……。
元はといえば、日頃ちゃんと体を洗えてなかったことが原因なのはわかりきってるけどさ……。すべて自分が悪いとわかっていても、ため息をつかずにはいられなかった。
やだなあ。どうしよう……。
「カーイ! 早くしろおっ!!」
浴室から一層大きな声が飛んでくる。
まったくもう、アキは本当にせっかちだ。
パンツ一丁で今さらボヤいたとてどうにもならない……。
最初からにーちゃんに洗われる運命だったんだ。
諦め半分。腹を括ってパンツを脱ぎ、
(揶揄われませんように!)
祈る気持ちを胸に、風呂場のドアを開けた。
「遅かったな。……って、なに隠してんだよ? 男らしくねーなァ」
さっそく湯船に浸かってるにーちゃんはおもしろくなさそうにいって、鋭く噛みついてくる。
にーちゃんのことだから、隠すと余計に興味を持ってくるだろうと予測できてたのに……隠さずにはいられなかった。
だって恥ずかしいんだもん……。
「手どけろ。どかさなかったら、わかるな?」
にーちゃんは興味津々に目をギラつかせて、容赦ないことをいう。
自分で見せるか、無理矢理ひっぺがされるか――その二択しかなかった。
ぼくはもう、どうにでもなれ!の心境で、そこをオープンにした。
「は?」
…………。
にーちゃんは一瞬、ギョッとして、
「おまっ……え? でっか……!」
信じられないものを見たように目を丸くして、ぐんと身を乗り出した。
一気に顔へ血がのぼって、かあっと熱くなる。とうとう耐えられず、また手で覆い隠してしまった……。
「カイ……おまえ、まじか」
「見ないで……」
ああ……やっぱり、引かれちゃった……。
ここ一年ほどで、ぼくのチンチンは急激に大きく成長した。身体の一部分だけ大きくなる病気なのかもと思い悩んだこともあったけど、結局誰にも相談できるわけもなく……。
ネットでこっそり調べると、匿名掲示板で同じ悩みを抱えてる人がいたりして、みんなことごとく「羨ましい」「気にするな」で終わらされていた。ぼくみたいに太ってるけどチンチンは大きいって人はほぼいなかった。だから気にせず構えるなんてことはできるはずがなかった。
中には20センチ超えだとか、さすがに冗談だとわかる投稿もあった。本当にその大きさになって、困ってしまえばいいのに。できるなら、ぼくのも半分持ってってよと、そんなふうに怒りが湧いたこともあった。
わざわざ定規を当ててサイズを測ったりもした。いろいろ調べているうちに、どうやら病気ではないことがわかってホッとしたのを覚えている……。桁外れ……ってほどでもないけれど、やっぱり同年代の子たちに比べると、だいぶに大きい方らしく、いつかみんなにバレたらどうしようと、怯えるばっかりだった。
チンチンなんかが大きくても、いいことなんて何ひとつない……。膨らみを隠すのは大変だし、おしっこするときだって気をつかう。プールやお風呂屋さんにも行けない……。
大きくて悩んでることは当然、にーちゃんにもいえてない。いえるわけ……なかった。だからにーちゃんの中では、ぼくのチンチンは小さいときのままで止まっているんだ。そりゃあ、その差に驚くのも無理もない……。
「ちょっ、もう一回見せろ」
にーちゃんはざばっと浴槽の中で立ち上がって、乱雑に腕を掴んできた。
「あっ」
もうバレてしまったからと、観念していたのもあったと思う。ガードは簡単に緩んで、再び曝け出してしまった!
咄嗟にしゃがむことも頭をよぎったけど、抵抗したって追求が激しくなるだけだ……。ぼくはもう、大人しく見せることに決めた。ただただ「気持ち悪い」って思われないことだけを願って……。
「やっぱクソでけえ!! すげーな、カイ! オレのちんこよりずっとでかいぞ! おまえいつの間に……えええええ!」
にーちゃんは自分のチンチンと、ぼくのを見比べては大きな声で「すげー」と連呼する。珍しく目を子供みたいに輝かせてて……。
あ、あれ……? 気持ち悪がられては……いない?
大きいのは“すごい”ことなのかな……?
「おまえがこんなにデカチンだったの知らなかったからさ……ああっ、やべーよ! オレ超興奮してきた!」
にーちゃんはじっとり濡れた尻尾を勢いよく振って水を飛ばしてくる。股間ではムクムクと、チンチンが角度をつけて大きくなっていく。
「に、にーちゃんのもすごい……。皮がめくれて……」
――生き物みたい。まるでそこだけ、身体から独立して生きてるよう……。
膨れていくにつれ、皮が自然に剥けていって、赤く変形したチンチンを見て素直にそう思った。そしてどういうわけか、鼓動が勝手に激しくなっていく。
(おっきくなると形が変わるなんて、カッコいい……)
自分とは違う大人なチンチンは、刺激が強すぎるほどに、あやしい魅力を放っていた……。
「勃起すりゃ皮ぐらい剥けるだろ? おまえのはちっとも剥けないのか?」
ふふんと息を荒くして、にーちゃんは自慢そうにピクピクさせてみせた。皮も剥けてて、浮き出た太い血管が絡みついているアキにーちゃんの方がずっと大人のチンチンだった。
「手で剥いたことあるけど、ちょっと痛かった……」
「ふうん。そこはまだお子さまなんだな」
にーちゃんはニヤリと笑った。
「どぉれ、触らせてみろ」
「うわあっ!!?」
有無をいわせず、突然ぎゅむむっと握ってくる!
焦らしなどせずにいきなり触れてくるあたり、アキのせっかちさが現れている……!
「ガチでぶっといなぁ! カイと同じモン食ってんのになんでだ? なんでこんなにでかくなる? オナニーは? 週何回ヌいてる?」
「し……知らない、よ……!」
本当に興奮しているんだろう、にぎにぎしながら、質問をまくし立ててくる。
「ちゃんと答えろ」
「んっ……ほんとに……知らない……」
オナニー……先輩がそんなこといってた気がする。
言葉としては聞いたことがあるだけでやったことはない。やり方だって知らない。
「したことないよ」
「……イジらない方が巨根になったりすんのかな」
独り言を呟いたあと、
「ほおおっ? だんだん硬く……へへ! 勃ってきたか!」
最初はマッサージをするみたいに揉んでたのが、硬くなるにつれて前後方向にシコシコと動かしてくる……。
「カイ、気持ちいいか?」
ぼくは小さく頷くことしかできなかった。
正直、とても気持ちいい……。人に触れるのも初めてで緊張しまくってたのに、にーちゃんの手つきがあんまりにもやらしいから……。チンチンの中がヌルヌルになっていくのがわかった。
「風呂ん中入ってこいよ。寒いだろ?」
優しい声で、にーちゃんはお尻のあたりにポンと触れてくる。
寒いのはへっちゃらだ。でも、せっかく湯が張っているのに、湯船の外に突っ立っているのも変なので、気遣いのとおり湯に浸かった。
二人一緒に入るといくらなんでも狭い。足をMの字に曲げているにーちゃんと向かい合わせで、三角座りをして身体を縮こませる。
にーちゃんの股間では、ピンク色に剥けたチンチンがまだ元気にそそり立っていた。
……ぼくはにーちゃんと目を合わせられなかった。
どこを見ればいいかわからないぼくに、にーちゃんは「エロいことすんのは初めてだな?」と確認してくる。
「ん……」
声にならない声で肯定してすぐ、湯に口を沈めてブクブクブク、と意味のないことやってしまった。きっと、気まずくて恥ずかしくて、気を紛らわせたかったんだと思う……。
「なあ、カイ。ちんこでかいの恥ずかしいか?」
さっきよりは落ち着いたのか、ゆっくり一つずつ聞いてくる。
「うん……」
「カイの年頃だとみんなまだ小せえもんなぁ」
「気持ち悪いって馬鹿にされそうで……。嫌だよ、こんなの」
一度自分の気持ちを正直に認めたら、ぼくもいくらか落ち着いてきた気がする。
病気かもって悩んだこと。それを誰にも相談できなかったこと。いつかバレて揶揄われるんじゃないかという不安感。ぼくはずっと一人で戦っていた。でも、もう隠す必要もなくなったので、コンプレックスも悩みも、洗いざらい、全部打ち明けた。
言葉に詰まりながら話してる最中、にーちゃんは決して笑ったりしなかった。ただ、静かに頷いて「そっか」と聞いてくれた。ぼくはもう、一人じゃなくなった。
アキがぼくのお兄ちゃんでよかったと、心から安心して、涙がこぼれそうにもなっていた。
「だいじょぶだって、自信持てよ。今は恥ずかしいかもしんねーけど、そのうちわかるよ。でかいことはカッコいいことなんだぜ?」
にーちゃんはぼくの目を見すえて微笑んだ。その強くも優しい目は「オレがいったことは本当だ」と語ってるみたいで、気持ちが爽やかに、そして和らいでいった。
「バカにするやつがいたらいってやれ。『チビちんこのくせに生意気だ!』ってな」
「そ、そんなの……!」
「まあカイは言わねーだろうけどよ、大きい方が羨ましがられるのはマジだからな。でかくしようたって、努力でどうにかできるもんじゃないからさ、才能みたいなモンだよ」
「才能?」
「そ。神さまがくれたものだと思ってりゃいい」
「神さま……」
ぼくはお湯の中で揺れている自分のものを見てみた。
何度見ても不釣り合いな大きさだ。不恰好でみっともない……。小さくできる方法があるんだったら、迷いなくその道を選びたい。
褒めてもらった今でも、そんな考えは抜けなかった。
(神さまは欲しい人にあげればいいのに……)
そう思う一方で、努力でどうにかできるもんじゃない、というにーちゃんの言葉にはなかなか説得力を感じた。身長とか体格、頭の良さだって、生まれ持ったものが大きく影響するって、友だちもいうし……。
そうだ。くよくよ悩んだって、縮んでくれるわけでもないんだ。
だったらいっそのこと――。
「オレはカイのことが羨ましい」
にーちゃんは耳を寝かせてそういった。
「でけえの、いいな……」
……久々に直接聞いた気がする、にーちゃんの本音。
(本音?)
そう、今のは慰めの建前じゃなくて、間違いなく本音中の本音だった。
にーちゃんは自分を飾らずに本音で生きてるところがあるけど、プライドが高いんで、“そういうこと”を自らこぼすのは珍しい。ぼくだって、ながいことアキの弟やってるんだもん。それぐらいのことはわかる。
にーちゃんは天井を見上げて「弟にちんこのでかさで負ける兄の気持ちがわかるかよ?」と、乾いた笑い声で付け加えた。
「わからない」
ぼくもつられて笑っていた。
「まーそゆこと。でかいのはイイコトなんだよ。オーケー?」
「うん」
半分いわされたみたいなものだけど、ぼくはとりあえず「まあいいかな」と思えていることに気づいた。そうじゃないと咄嗟に「うん」とはいえないはず。
自分を受け入れること。それはぼくの中で大きな第一歩だと直感した。
「だからって鼻にかけるのは嫌われるからな?」
「わざと見せたり、自慢したりなんてしないよ」
「ああ、それでいい」
……一段楽したところで、ぼくはふと思った。ぼくら兄弟も、こんなふうに踏み込んだ話ができる年頃になったんだなって。
きっかけは何であれ、腹を割って話す機会があると、兄弟間の距離がぐっと縮まる。そしてそれは今のぼくらに必要なことだ。そんな気がしてならない。だから、今日の事件(事件というほどでもないけど)は起こってよかったんだ。
しみじみそう思っていた矢先、
「けどなァ、いくらなんでも無知すぎるぜ、おまえ」
にーちゃんはまた話を元に戻して、ぼくの鼻を指でつついてきた。
「皮も剥けないしよ、オナニーもしたことないなんて、ちょっと心配だぞ」
「んー……勉強、します……」
にーちゃんは「いや、いい機会だから身体洗う以外にも色々と教えてやらんとな!」と、また積極的にこうしよう、あれしようと勝手に決めていった。
結局、そうなるんだ……?
「ちんこシコられて気持ちよかったろ? また続きやってあげるよ。ほら、こっち背預けな」
股を広げた間に、ぼくは無理やりお尻を押し込める格好にさせられた。お、お尻になんかむにゅっと当たってるんだけど……!?
「なっ、なにするの……?」
「気持ちいいこと」
「ひゃ!?」
耳元で呟いて、にーちゃんはぼくのお腹をムニっと揉む。
「ってか、おまえ、また体大きくなったよな。成長が早いのはいいけど、しかしなんだこの贅肉は……太りすぎだって」
揉むだけじゃなく、指をめり込ませたり、タプタプ揺らしたり……。
ぼくの体、遊ばれてる……?
「このだらしない体でホントにバスケできんのかよ? 相撲部に転部するかぁ?」
「痩せる、痩せるからぁ!」
「おっぱいもでけえな。すんげー柔けー。オレよりってか、これ……女よりでかいんじゃ?」
「っ……! お、女の人のっ、触ったこと、ないくせに……!」
「なんだカイ、口ごたえすると、こうだぞ?」
「ひぎいっ!?」
胸を揉みしだいていたにーちゃんは突然、乳首をキュッと潰すように摘んだ! ピリッと刺激が走って、ぼくはたまらず大きい声をあげてしまった……。
「いい反応だ。ちんこもいくぞ。腰浮かせるな?」
にーちゃんにされるがまま、今度はさっきと同じようにチンチンを握られる。
ぼくの肩でフウフウ息を吐いて、根本から先端まで指を絡ませていく。どうやらにーちゃんはまだサイズを測ってるみたいだった。
「こんなでっけぇのに包茎ってのも、なかなか……そそるかも!」
「んんっ、こそばゆい……!」
「ひひひ! エロくなったなぁ、弟よ」
ムニムニムニ、にぎにぎ……。
一心不乱にいじってくるので、あっという間に勃ってきてしまった。
「おーフル勃ちか! すげーや、ガッシリ握れる。亀頭指回んねっ……!」
にーちゃんはすっかり自分の世界に入り込んで、触りたい放題してくる。一度スイッチが入ったら、ぼくがいくら嫌がったって、何をいったって聞かなくなるのがアキにーちゃんだ。
男同士で、しかも兄弟同士でこんなこと、よくない気がする……。ダメな気がする……。だけどそんなこといえなかった。いや、あえていわなかったのかもしれなかった。
「そろそろ皮剥くぞ。じっとしてな」
「だっダメだよ、まだ痛いから!」
「ゆっくり慣らしながらやるからヘーキだよ。風呂でいくらかふやけてるよ」
ぼくのお尻にチンチンをこすりつけながら、にーちゃんはぼくのそれをガッシリ掴む。触れられているだけでおかしくなりそうなのに、
「んやあああぁ!? ひっ、先っちょ、へんっ、にっ、触ん、ないでぇ……!」
にーちゃんは爪で、余ってる皮の先をこちょこちょしてきた……!
「へっへ……ガマン汁なんか溢して、気持ちいいんだな?」
「んんんうううぅ……!」
「ちょうどいい。天然ローション使いながらムイてくぞ?」
手の力がすこし緩まり、案外優しい手付きで皮をずらされてく……。
「きついけどなんとかなりそうだ。痛くないだろ」
「うん……今のとこ、だいじょうぶ……」
すぼんだ先っぽはやがてめくれて、中身が窮屈そうに顔を出し始める。
(前に挑戦したときより剥けてる……)
ぼくはただ痛まないように祈りながら、痛々しく腫れたチンチンを見つめるしかできなかった。
「シンセイちんこはやばいからな。本当は亀頭が成長する前にムキムキしとくんだ。オレがやらなかったらおまえ、一生剥けないままだからさ、気づけてよかったよ」
にーちゃんは左手で頭を撫でてくれた。
「さあ、あと半分だ。頑張れよー」
そういってまた皮を剥いたその時、
「いたっ! 痛い、痛いっ!!」
半分ほど露出したところで引っかかってしまい、裂けそうな激痛が走った。見ると、皮のきつい締め付けで、まるでゴム風船が破裂しそうな歪な形になっていた。
「あ……ごめっ!」
にーちゃんは急いで皮を戻して、労わるようにチンチンをさすった。
「ちょっと痛かったな……わるい」
申し訳なさそうに、もう一度優しく頭に触れてきたけれど、ぼくは一気に怖くなってしまい、そのことを素直に伝えた。
するとにーちゃんは「わかった。いったんやめにしよう」と、意外にも聞く耳を持ってくれた。
「……よーく考えりゃ、わざわざ勃起してる時に剥かなくたっていいしな……。ん? そっか、そうだよ!」
最後の大きい声で、不覚にも背中が寒くなるのを感じた。アキはまだ諦めてなんかいない、というのが後ろからひたひたと伝わってきて……。
「こーいうときに抜くんだよ」
「ぬ、抜くって、何を……?」
「出たらわかる」
「ふあっ、ちょっ……! 待っ……てぇ!」
「待たなーい」
にーちゃんは「大人になるときがきた」と、再び躍起になってチンチンを激しくゴシゴシする。
「んぎ、ああぁぁぁぁぁぁ!?」
擦られるたびに脳で快感が増していって、股間の方へなだれ込んでいくようなふしぎな感覚に、自然と高い声が漏れる……。
「へっへへ……! おまえ、反応よすぎ。溜めすぎ、なんだよぉ!」
暴れ回ったり抵抗しないでいるのをいいことに、にーちゃんはエスカレートしていく。お尻に硬いチンチンをぐりぐり押し付けたりして、にーちゃんも気持ちよくなろうとしているのかな……。
「はあっ、ふうっ、! ガッシリ握って、思いっきりシコんの、気持ちよさそーだなあっ? おい?」
にーちゃんの手つきはだんだんと攻撃的になってく……。だけど、その激しさが心地よくて更なる快感を生む。嫌なはずなのに、ぼくの体はもっともっと、激しさを求めている。そんな気がする……!
「はッ……ん、んんあ……っ!」
気持ち悪い声まで出して、変態になっちゃったみたいだ……。
「どおだっ? 性感帯でけえとやっぱ気持ちいいかっ? いいんだなあッ?」
「きもちいっ、けどおっ……ヘン、な、んんんっ! あっ!」
(やばい!)
な、何かくる……!
何かが、お腹の下のあたりからぐつぐつと煮えるように沸き上がって――!
か、体が震えて、あたま……おかしくなりそう……!
「か、カイ! もぉイきそうかっ? 我慢せずにイって、いいぞぉ……!」
「ぁ……にーちゃ、んっ、も……だめ、だっ、おしっこ、しちゃううううう!!」
…………。
うわあ、やってしまった……。
我慢の限界を超えて、にーちゃんの見てる前で盛大にお漏らししてしまった……。
(最悪だ……)
出し切ったら意識が白んで、ぼーっとする……。
にーちゃんのせいだ。にーちゃんがメチャクチャするから……。お風呂とはいえ、汚いよ……こんなの……。
でも、なんでかな。あり得ないくらい気持ちよかった。盛大……という割には出方が断続的だったけど……。
「おめでとう」
漏らしてしまったぼくになぜそんなことをいうか、わからなかった。だからぼくはまだ目を瞑ったまま、返事ができなかった。
頭がフワフワする中、しかしぼくはちょっと変だなと、異変を感じ取っていた。おっきくなってる状態でおしっこしたら、あんなふうにチンチンがビクビクッと痙攣しながら出るのかもしれないけど……。
とにかく異常なおしっこだったと、ようやく目を開けてはじめて、
「え、何……これ……」
ぼくはその有り様を知ることになった。
湯船に浮かんでいる、たくさんの白いモロモロ。手に取ってみるとヌルヌルでベトベトしていた。こんなのがおしっこなわけがなかった。それだけはハッキリとわかった。
「にーちゃん……ぼく……え?」
次いで、それが自分のチンチンから出たものだと理解するに、どれくらいかかったのかな……?
「ったく、呆れるぜホントによ……。中一で習うだろ? 保体の授業なんも聞いてねーのな」
こ、こんなこと、学校で教えてもらうの……?
「精子だよ。おまえの」
「???」
それでも、ぼくの頭はなに一つと理解が追いついていない。
少なくとも、その正体が「せいし」だと教えてもらっても、すとんと腹落ちするものは一つとなかった。
「……カイおまえなァ、デカちんこ持ってる資格ねえよ。オレにくれよ、ガチで」
にーちゃんは大きくため息を吐いて、
「んやっ!?」
いつの間にか、だら~んと力が抜けているチンチンにまた触れてきた。今度はキンタマも揉まれて……。
「思春期になるとな、ここで精子作られるようになるんだよ。んで、セックスして、女の人の卵子とガッチャンコすれば赤ちゃん産まれんの。つまりおまえはもう生物的にはオトナってこと。オーケー?」
突然生々しい話をされて、のぼせてしまいそうだった……。
エッチな話って、難しい……。まだまだ縁の遠い話だ……そう決めつけて、遠ざけながらも、ぼくは「うん」というしかなかった。
「あ、今やったのがオナニーな。これからはオナニーぐらい、一人でやっとけ。ちんこムラついてどうしようもない時は今みたいにシコって精子出しときゃおさまるよ」
「うん……」
「ホントにわかってんのかよ?」
「たぶん??」
「まあ、テキトーに頑張れ」
また乱雑に頭を撫でてきて、「あー、やっと一つ終わったぜ……」と疲れた様子を隠さなかった。
ふと、そんなところにもアキの性格があらわれているなあ、と思った。
(にーちゃんがやりたくてやったくせに……)
そのように内心ブー垂れてしまう一方で、徐々に回復してきたからなのか、頼もしさを感じつつあった。
やりたい放題いじめられたといえばそうなんだけど、きついとは思わなかった。恥ずかしくて、消えちゃいたかったはずなのに。感情ってのは難しい仕組みだ……。
「まだあとチン皮剥きの特訓と、丸洗いがあんのかー。しゃーねえ。よっしゃ、一気にやってくぞ!」
「わかった。にーちゃんお願いします」
どうしてかな。自分でも驚くほど、素直で聞き分けのいい返事だった。
アキにーちゃんのいいところ、面倒見がいいところ。
なんだかんだで、ぼくのことを注意深く見てくれる。二年生になりたてのこの頃、そんなふうに感じることが多くなった。
アキが大人になって家を出るまで、ぼくはまだまだ聞き分けのいい弟でいてもいい。時々気持ちが抑えられずに反抗しては怒らせるけど、でもそんなの一過性。だから互いに気にしない。
あれからぼくたちの関係はほんの少しだけ変わった。それはもちろん、いい方向に、だ。
具体的にいうと、ぼくから話しかけることが多くなった。
わからないことがあると、とりあえずにーちゃんに聞きにいく。それは勉強のことでも、日常の疑問のことでも、なんでも、とにかく。
ご飯の最中とか、ゲームに集中してるときに、とりとめのないことを聞くと、にーちゃんは「自分で調べな」とメンドくさそうな顔をしながらも、ちゃんと考えて答えてくれる。にーちゃんから話を広げてくれることもあった。以前よりも、そういったことが増えた。
教えてもらったオナニーは自分一人でもちゃんとできた。でも、あんまりやりすぎるとヘンな罪悪感が沸くからほどほどにしようって、毎回思う……。
皮も一応剥けるようになった。手で引っ張れば、勃ってるときでも中身を全部出せるようになった。触るとまだ少し痛むけど……。
……なんでも、にーちゃんが夜な夜ないたずらでチンチンを触ってきて、その時に剥き慣らしたから……らしい。恥ずかしくて堪らないけど、不潔で痛いのから卒業できないよりかはずっといい。
それが原因で夜中に起きて、触り合いっこすることもあった。
そんなことを、頭がいっぱいいっぱいになるくらい、思い出していた……。
(にーちゃん……っ)
チンチンをゴシゴシするとき、お風呂に入れられた日のことを思い出してすると、あっという間にビュッと精液が飛び出てくる。
もう慣れたもので、あらかじめティッシュを用意しとくと汚さずに済むってこともわかった。
「ふう~……」
精液は水分が多めで、しゃばしゃばのおかゆみたいだ。にーちゃんのはもっと粘度があって、指でも摘めたし、被毛にねっとり絡みついていたのを思い出した。
やっぱり、にーちゃんはすごいや。
(ぼくもいつか……)
……あ、まだいいけど……ちょっと憧れちゃう。
はあ~……なんか、眠くなってきちゃった。ちょっと汗かいちゃったし、寝る前の軽い運動みたい。オナニーで痩せればいいのになあ。
…………。
仰向けにぐったりしてると、すらっと背の高いシェパードが頭の中にもくもくと現れてこういう。
「おまえ、エロくなったなぁ」
……って。
うーん……そう、なのかな……?
にーちゃんがそういうのなら、あながち間違っていないのかも?
その夜、ぼくはぐっすりに眠って、にーちゃんの夢を見た。
今日の部活は朝いっぱいまでだったけど、その分練習内容は濃くてハードな半日になった。激しいドリブルの音が、今でも聞こえてくるような気がする。
春の割に一段と冷え込んでいるはずなのに、体温は下がらず、ぼくは一人歩きながら汗をかいていた。お腹の音がグルグルと鳴り始めたので、歩いている人たちに聞かれないように足音を大きくして家まで帰った。
「ただいまー」
……。
返事が返ってこない……ということは、お母さんは仕事に行ったのかな。春休みを満喫中のにーちゃんは二階にいるんだろうけど、ぼくの挨拶には返事をしてくれないからなあ。
居間のドアを開けると、テーブルの上にお昼ごはんの用意が見えた。唐揚げと昨日の残りのポテトサラダに、白ごはんだ。ぼくのと、にーちゃんのとで、それぞれ二セット。でもにーちゃんの分はやっぱりもう空っぽで、お皿だけが寂しく置かれていた。
レンジで温めなおして食べ終えた頃には、また体温が上がっていた。体操服のジャージを脱いでしまって、バスケのユニフォーム――タンクトップ姿でぼーっとテレビを見ることにした。
お昼から何しようかな。ゲームもいいけど、お風呂入ってから自転車を漕ぐのもいいなぁ。なんて、ソファーの上で寝転んで考えていたら、階段の方から大きな足音が聞こえてきた。
にーちゃんはぼくに気づいても何もいわず、冷蔵庫と戸棚を開けてつまんなさそうな声を出した。
「何もないじゃんか。ったく、食糧危機だぜ」
さっきお昼ごはん食べたんじゃないの、とは口にせず、興味のない番組に見いるふりを続けた。余計なことをいうと、なにかと噛みついてくるから。
にーちゃんは「アキ」という名前で、ぼくと犬種が違ってシェパードだ。お父さんが純血のシェパードで、お母さんが秋田犬だから、厳密には違うんだけど……。
ぼくはお母さん似で、ふっくらした毛並みと、丸っこくも骨太の体型をそのまま受け継いだ。にーちゃんはシェパードのイメージそのものって感じで、背はすらっと高いし、ぼくと違って無駄なお肉がついていない。
「腹減ったな」
大学受験に合格してからはやたらと食欲旺盛で、自堕落気味な生活を送っている。もちろんそんなことは本人にはいえない。
仲が悪いとか、喧嘩中とか、そんなんじゃない。頭もよくて、容姿も整ってるアキにーちゃんのことは尊敬しているし、にーちゃんだって、機嫌のいいときは優しくしてくれる。中学に上がってから、時々当たりがキツかったりするだけだ。どこの兄弟もそんなもんじゃないかなあと思う。
「カイー、おまえさ、お菓子持ってないか? 飴以外な」
ソファーの方に近づいてきたにーちゃんは、上からぼくを見下ろした。
「んー……ない」
テキトウにあしらったわけじゃなくて、昨日食べちゃったから本当にない。にーちゃんは「そうかよ」と、すんなり諦めるかと思いきや、しかめた顔で、すんすんと鼻を何度も鳴らし始めた。
「む、何だこのヘンな……汗クサっ! おまえか?」
にーちゃんの鼻は鋭い。きっとぼくだ。ぼくしかいないし……。たくさん汗をかいたまま、靴下も脱がずにいたからかな。
「すぐシャワー入る」
出た声はすこし小さかった。
くさいといわれたのが恥ずかしくて、汗のにおいを嗅がれるのも嫌だったので、さっさとシャワーを浴びようと体を起こした。
それでも、にーちゃんはしきりに鼻を鳴らすのをやめなかった。そして脱衣所に向かうぼくを呼び止めた。
「ちょうどいいや。おまえ、外出て天日干ししてこい」
「てんびぼし?」
よくわからなくて聞きなおした。
「クサいから外出てお日さん浴びてこいってこと。そのついでにだな――」
コンビニでおやつ買ってきてくれ、お釣りはあげると、妙案を思いついたという顔で、一人勝手に「それがいい、そうしよう」と頷きだした。
ついでって……。それ逆じゃないの?
おつかいの口実のためにくさいといわれた気がして、
「えー」
不満のこもった声が出るのを抑えられなかった。
「いいじゃん。どうせヒマしてて、外暖かいし散歩しようとか思ってんだろ。顔に書いてんだよ」
一度こうだと決めたらにーちゃんは止まらない。しかもけっこうドンピシャで当ててくる。昔からそんな性格だから、いつも押し切られてしまう。
「千円やるから、カイの分も一つ買ってきていいよ」
「それならいいけど……。にーちゃん太るよ?」
仕方なく承諾しつつ、一言いい返してやりたい気持ちでつい口走ってしまった。
「オレはいいの。太らない体質だし、食った分はサークルで消化する予定だから」
大変な受験が終わった後のご褒美だと、自分にはやたらと甘いにーちゃん。
体質うんぬんは本当だとしても、前に比べると顔とかお腹が丸々としてきているし、そんな生活が続けば簡単に太るだろうと予想できる。にーちゃんだって、同じ秋田犬の血が入っているんだ。
もっとも、太ってるぼくがそんな忠告したって、聞いてくれないだろうなぁ。
「カイこそ、もっと運動しないとデブになって、またクサくなるぞ」
にーちゃんは千円札をぼくに押しつけて、「さあ行った行った」と、偉そうに手を叩いた。
「わかったよ。行ってくる」
部活のユニフォームで外に出るわけにもいかないので、ぼくは簡単に着替えてから、自転車で近くのコンビニまで走った。
にーちゃんの好きそうなスナック菓子数個と、バニラアイス、あと自分のチョコを買った。結局お釣りは五十円くらいで、お駄賃というには安い額になってしまった。
「買ってきたよ。こんなのでよかった?」
にーちゃんはホットカーペットの上で漫画を読んでいた。ご機嫌なのか、珍しく「おかえり」といってくれた。ちょっとだけ褒めてもらいたい気持ちで、買ってきたおやつを広げて見せた。
「サンキューサンキュー。ほー、なかなかいいチョイスじゃん」
黒混じりの焦茶色尻尾がハタハタ揺れる。ぼくのくるんと巻いた尻尾も次いで連動した。にーちゃん以上に激しく振れているとこを見られたくなくて、すこし離れてしまった。
「うん、うめーな。カイ、ありがとよ」
にーちゃんが素直に喜んでくれる――たったそれだけのことで、理不尽なこともすべて許せてしまう。にーちゃんの側でチョコレートを食べながら、しばらく幸せな気持ちに浸っていた。
「じゃあぼくシャワー行ってくる」
食べ終わり、今度こそ汗を洗い流してこようと立ちあがる。そこへ、またにーちゃんが呼び止めてきた。
「おーいカイ、ちょっと待てー。においとれたか確かめてやる」
突然話が元に戻って、ぼくは咄嗟に片腕を上げて自分で嗅いでみた……けど、自分じゃイマイチよくわからなかった。
「普通だと思うけど……」
「どれ、頭出せ」
「わっ! なっなにすんの!」
にーちゃんはぼくの頭に鼻を埋めて、フゴフゴとにおいを嗅いできた!
「酸っぱぁ! 頭ちゃんと洗ってるのか?」
「洗ってるよぉ」
「ウソつけ」
春になってから毛並みが脂っこくなってきてるから、毎日念入りにシャンプーをしている。見てもないのにウソ呼ばわりしてきて、ぼくはむっとした。
「部活から帰って、おつかいも行ってきたらこんなもんじゃないの。家でじっとしてるアキにーちゃんと違って汗もかくよ」
にーちゃんは納得いかないのか、念入りに頭を嗅いでくる。こそばゆくてたまらない。
「耳の付け根やべー! さすがにクサいな……。腐ったソーセージみたいなにおいするぞ? ホントに毎日洗ってんのか?」
「洗ってるってば!」
「じゃあなんでそんなにクサい?」
「知らないよ」
自分では気づけなかっただけに、何度も指摘されるとショックが大きい。もし友だちにも同じことを思われてたら、それこそ最悪だ。
……傷つく前にいってくれるだけ、にーちゃんなりの優しさなのかな?
「あのなあ……おまえ、今から風呂入れ。オレとだ。オレが徹底的に洗ってやる」
「にーちゃんと? やだよ、恥ずかしい」
ぼくが小学生の頃はよく一緒に入ってた。だけど、高学年になってからは別々に入るようになった。それは裸を見られることに対する羞恥心が芽生えたというより(もちろんそれも大いにあるけど!)、二人一緒に入るにはお風呂が狭すぎるからだ。お風呂は縮まないので、ぼくたちが大きくなった、という方がいいのかもしれないけど。
「今からちゃんときれいにしてくるから」
「いや、ダメだ。信用ならん」
「体洗うぐらい一人でできるって!」
「できてねーじゃんか。今のすべては過去のすべてなんだよ」
う……それはそうかもしれないけど……!
「とにかく、オレが責任持ってきれいにしてやるから」
にーちゃんはすっくと立ち上がり、お風呂を沸かしに行ってしまった。
嫌だっていってるのに……。
せっかちで強引なにーちゃんを止めるのは、もはや不可能だった。
結局のところ、反対意見は聞き入れてもらえず、ぼくは数年ぶりに、にーちゃんとお風呂に入ることになった。
ピロロリロリン――
お湯が溜まったことを知らせるメロディがリビングに響く。
「おい、早く風呂行くぞ」
「わかってるよ」
にーちゃんはぼくの背中を押して、脱衣所に向かって突き進んでいく。押すというより、押し込められているみたいだった。
「それにしても、カイと風呂なんて懐かしいな」
するすると服を脱ぎながら、にーちゃんは昔を懐かしむように笑う。一方のぼくは恥ずかしくてそれどころじゃなかった。何もいわないで固まったままのぼくに、にーちゃんは顔を顰める。
「なにぼーっとしてんだ? 早く服脱げよ」
にーちゃんはもうすっぽんぽんだった。そんなつもりはなかったのに、目線が自然と下の方にいってしまう……。
「ははーん? さてはおまえ、ちんこ見られるのが恥ずかしーんだな? まだまだかわいいとこあるじゃん」
「ちがう!」
口をついて出たのは、図星を突かれたときのお決まりの言葉だった。
こうなるのが目に見えてたから嫌だったんだ……。
「豆チンのままでも笑ったりしねーって。さすがにちっとは成長したか?」
ぼくの悪い癖はお見通しで、にーちゃんはニヨニヨ笑って全身を舐め回すように見てくる。
反射的にいったことがウソじゃないことを証明するために、上の服とズボンを脱いだ。
「おーおー、まだそんなダサいブリーフ穿いてんのか! しかも伸び伸びじゃん」
いちいちうるさいなあ……。
「ん。まだ穿けるから、これでいい」
あんまり生意気になりすぎない程度にあしらってると、
「まあいいや。冷えるから先入るけど、逃げんなよ」
にーちゃんは身体をぶるっと振るわせて浴室の中に消えていった。
「はあ、もう……。なんでこんなことに……」
だらんと尻尾が垂れる……。
元はといえば、日頃ちゃんと体を洗えてなかったことが原因なのはわかりきってるけどさ……。すべて自分が悪いとわかっていても、ため息をつかずにはいられなかった。
やだなあ。どうしよう……。
「カーイ! 早くしろおっ!!」
浴室から一層大きな声が飛んでくる。
まったくもう、アキは本当にせっかちだ。
パンツ一丁で今さらボヤいたとてどうにもならない……。
最初からにーちゃんに洗われる運命だったんだ。
諦め半分。腹を括ってパンツを脱ぎ、
(揶揄われませんように!)
祈る気持ちを胸に、風呂場のドアを開けた。
「遅かったな。……って、なに隠してんだよ? 男らしくねーなァ」
さっそく湯船に浸かってるにーちゃんはおもしろくなさそうにいって、鋭く噛みついてくる。
にーちゃんのことだから、隠すと余計に興味を持ってくるだろうと予測できてたのに……隠さずにはいられなかった。
だって恥ずかしいんだもん……。
「手どけろ。どかさなかったら、わかるな?」
にーちゃんは興味津々に目をギラつかせて、容赦ないことをいう。
自分で見せるか、無理矢理ひっぺがされるか――その二択しかなかった。
ぼくはもう、どうにでもなれ!の心境で、そこをオープンにした。
「は?」
…………。
にーちゃんは一瞬、ギョッとして、
「おまっ……え? でっか……!」
信じられないものを見たように目を丸くして、ぐんと身を乗り出した。
一気に顔へ血がのぼって、かあっと熱くなる。とうとう耐えられず、また手で覆い隠してしまった……。
「カイ……おまえ、まじか」
「見ないで……」
ああ……やっぱり、引かれちゃった……。
ここ一年ほどで、ぼくのチンチンは急激に大きく成長した。身体の一部分だけ大きくなる病気なのかもと思い悩んだこともあったけど、結局誰にも相談できるわけもなく……。
ネットでこっそり調べると、匿名掲示板で同じ悩みを抱えてる人がいたりして、みんなことごとく「羨ましい」「気にするな」で終わらされていた。ぼくみたいに太ってるけどチンチンは大きいって人はほぼいなかった。だから気にせず構えるなんてことはできるはずがなかった。
中には20センチ超えだとか、さすがに冗談だとわかる投稿もあった。本当にその大きさになって、困ってしまえばいいのに。できるなら、ぼくのも半分持ってってよと、そんなふうに怒りが湧いたこともあった。
わざわざ定規を当ててサイズを測ったりもした。いろいろ調べているうちに、どうやら病気ではないことがわかってホッとしたのを覚えている……。桁外れ……ってほどでもないけれど、やっぱり同年代の子たちに比べると、だいぶに大きい方らしく、いつかみんなにバレたらどうしようと、怯えるばっかりだった。
チンチンなんかが大きくても、いいことなんて何ひとつない……。膨らみを隠すのは大変だし、おしっこするときだって気をつかう。プールやお風呂屋さんにも行けない……。
大きくて悩んでることは当然、にーちゃんにもいえてない。いえるわけ……なかった。だからにーちゃんの中では、ぼくのチンチンは小さいときのままで止まっているんだ。そりゃあ、その差に驚くのも無理もない……。
「ちょっ、もう一回見せろ」
にーちゃんはざばっと浴槽の中で立ち上がって、乱雑に腕を掴んできた。
「あっ」
もうバレてしまったからと、観念していたのもあったと思う。ガードは簡単に緩んで、再び曝け出してしまった!
咄嗟にしゃがむことも頭をよぎったけど、抵抗したって追求が激しくなるだけだ……。ぼくはもう、大人しく見せることに決めた。ただただ「気持ち悪い」って思われないことだけを願って……。
「やっぱクソでけえ!! すげーな、カイ! オレのちんこよりずっとでかいぞ! おまえいつの間に……えええええ!」
にーちゃんは自分のチンチンと、ぼくのを見比べては大きな声で「すげー」と連呼する。珍しく目を子供みたいに輝かせてて……。
あ、あれ……? 気持ち悪がられては……いない?
大きいのは“すごい”ことなのかな……?
「おまえがこんなにデカチンだったの知らなかったからさ……ああっ、やべーよ! オレ超興奮してきた!」
にーちゃんはじっとり濡れた尻尾を勢いよく振って水を飛ばしてくる。股間ではムクムクと、チンチンが角度をつけて大きくなっていく。
「に、にーちゃんのもすごい……。皮がめくれて……」
――生き物みたい。まるでそこだけ、身体から独立して生きてるよう……。
膨れていくにつれ、皮が自然に剥けていって、赤く変形したチンチンを見て素直にそう思った。そしてどういうわけか、鼓動が勝手に激しくなっていく。
(おっきくなると形が変わるなんて、カッコいい……)
自分とは違う大人なチンチンは、刺激が強すぎるほどに、あやしい魅力を放っていた……。
「勃起すりゃ皮ぐらい剥けるだろ? おまえのはちっとも剥けないのか?」
ふふんと息を荒くして、にーちゃんは自慢そうにピクピクさせてみせた。皮も剥けてて、浮き出た太い血管が絡みついているアキにーちゃんの方がずっと大人のチンチンだった。
「手で剥いたことあるけど、ちょっと痛かった……」
「ふうん。そこはまだお子さまなんだな」
にーちゃんはニヤリと笑った。
「どぉれ、触らせてみろ」
「うわあっ!!?」
有無をいわせず、突然ぎゅむむっと握ってくる!
焦らしなどせずにいきなり触れてくるあたり、アキのせっかちさが現れている……!
「ガチでぶっといなぁ! カイと同じモン食ってんのになんでだ? なんでこんなにでかくなる? オナニーは? 週何回ヌいてる?」
「し……知らない、よ……!」
本当に興奮しているんだろう、にぎにぎしながら、質問をまくし立ててくる。
「ちゃんと答えろ」
「んっ……ほんとに……知らない……」
オナニー……先輩がそんなこといってた気がする。
言葉としては聞いたことがあるだけでやったことはない。やり方だって知らない。
「したことないよ」
「……イジらない方が巨根になったりすんのかな」
独り言を呟いたあと、
「ほおおっ? だんだん硬く……へへ! 勃ってきたか!」
最初はマッサージをするみたいに揉んでたのが、硬くなるにつれて前後方向にシコシコと動かしてくる……。
「カイ、気持ちいいか?」
ぼくは小さく頷くことしかできなかった。
正直、とても気持ちいい……。人に触れるのも初めてで緊張しまくってたのに、にーちゃんの手つきがあんまりにもやらしいから……。チンチンの中がヌルヌルになっていくのがわかった。
「風呂ん中入ってこいよ。寒いだろ?」
優しい声で、にーちゃんはお尻のあたりにポンと触れてくる。
寒いのはへっちゃらだ。でも、せっかく湯が張っているのに、湯船の外に突っ立っているのも変なので、気遣いのとおり湯に浸かった。
二人一緒に入るといくらなんでも狭い。足をMの字に曲げているにーちゃんと向かい合わせで、三角座りをして身体を縮こませる。
にーちゃんの股間では、ピンク色に剥けたチンチンがまだ元気にそそり立っていた。
……ぼくはにーちゃんと目を合わせられなかった。
どこを見ればいいかわからないぼくに、にーちゃんは「エロいことすんのは初めてだな?」と確認してくる。
「ん……」
声にならない声で肯定してすぐ、湯に口を沈めてブクブクブク、と意味のないことやってしまった。きっと、気まずくて恥ずかしくて、気を紛らわせたかったんだと思う……。
「なあ、カイ。ちんこでかいの恥ずかしいか?」
さっきよりは落ち着いたのか、ゆっくり一つずつ聞いてくる。
「うん……」
「カイの年頃だとみんなまだ小せえもんなぁ」
「気持ち悪いって馬鹿にされそうで……。嫌だよ、こんなの」
一度自分の気持ちを正直に認めたら、ぼくもいくらか落ち着いてきた気がする。
病気かもって悩んだこと。それを誰にも相談できなかったこと。いつかバレて揶揄われるんじゃないかという不安感。ぼくはずっと一人で戦っていた。でも、もう隠す必要もなくなったので、コンプレックスも悩みも、洗いざらい、全部打ち明けた。
言葉に詰まりながら話してる最中、にーちゃんは決して笑ったりしなかった。ただ、静かに頷いて「そっか」と聞いてくれた。ぼくはもう、一人じゃなくなった。
アキがぼくのお兄ちゃんでよかったと、心から安心して、涙がこぼれそうにもなっていた。
「だいじょぶだって、自信持てよ。今は恥ずかしいかもしんねーけど、そのうちわかるよ。でかいことはカッコいいことなんだぜ?」
にーちゃんはぼくの目を見すえて微笑んだ。その強くも優しい目は「オレがいったことは本当だ」と語ってるみたいで、気持ちが爽やかに、そして和らいでいった。
「バカにするやつがいたらいってやれ。『チビちんこのくせに生意気だ!』ってな」
「そ、そんなの……!」
「まあカイは言わねーだろうけどよ、大きい方が羨ましがられるのはマジだからな。でかくしようたって、努力でどうにかできるもんじゃないからさ、才能みたいなモンだよ」
「才能?」
「そ。神さまがくれたものだと思ってりゃいい」
「神さま……」
ぼくはお湯の中で揺れている自分のものを見てみた。
何度見ても不釣り合いな大きさだ。不恰好でみっともない……。小さくできる方法があるんだったら、迷いなくその道を選びたい。
褒めてもらった今でも、そんな考えは抜けなかった。
(神さまは欲しい人にあげればいいのに……)
そう思う一方で、努力でどうにかできるもんじゃない、というにーちゃんの言葉にはなかなか説得力を感じた。身長とか体格、頭の良さだって、生まれ持ったものが大きく影響するって、友だちもいうし……。
そうだ。くよくよ悩んだって、縮んでくれるわけでもないんだ。
だったらいっそのこと――。
「オレはカイのことが羨ましい」
にーちゃんは耳を寝かせてそういった。
「でけえの、いいな……」
……久々に直接聞いた気がする、にーちゃんの本音。
(本音?)
そう、今のは慰めの建前じゃなくて、間違いなく本音中の本音だった。
にーちゃんは自分を飾らずに本音で生きてるところがあるけど、プライドが高いんで、“そういうこと”を自らこぼすのは珍しい。ぼくだって、ながいことアキの弟やってるんだもん。それぐらいのことはわかる。
にーちゃんは天井を見上げて「弟にちんこのでかさで負ける兄の気持ちがわかるかよ?」と、乾いた笑い声で付け加えた。
「わからない」
ぼくもつられて笑っていた。
「まーそゆこと。でかいのはイイコトなんだよ。オーケー?」
「うん」
半分いわされたみたいなものだけど、ぼくはとりあえず「まあいいかな」と思えていることに気づいた。そうじゃないと咄嗟に「うん」とはいえないはず。
自分を受け入れること。それはぼくの中で大きな第一歩だと直感した。
「だからって鼻にかけるのは嫌われるからな?」
「わざと見せたり、自慢したりなんてしないよ」
「ああ、それでいい」
……一段楽したところで、ぼくはふと思った。ぼくら兄弟も、こんなふうに踏み込んだ話ができる年頃になったんだなって。
きっかけは何であれ、腹を割って話す機会があると、兄弟間の距離がぐっと縮まる。そしてそれは今のぼくらに必要なことだ。そんな気がしてならない。だから、今日の事件(事件というほどでもないけど)は起こってよかったんだ。
しみじみそう思っていた矢先、
「けどなァ、いくらなんでも無知すぎるぜ、おまえ」
にーちゃんはまた話を元に戻して、ぼくの鼻を指でつついてきた。
「皮も剥けないしよ、オナニーもしたことないなんて、ちょっと心配だぞ」
「んー……勉強、します……」
にーちゃんは「いや、いい機会だから身体洗う以外にも色々と教えてやらんとな!」と、また積極的にこうしよう、あれしようと勝手に決めていった。
結局、そうなるんだ……?
「ちんこシコられて気持ちよかったろ? また続きやってあげるよ。ほら、こっち背預けな」
股を広げた間に、ぼくは無理やりお尻を押し込める格好にさせられた。お、お尻になんかむにゅっと当たってるんだけど……!?
「なっ、なにするの……?」
「気持ちいいこと」
「ひゃ!?」
耳元で呟いて、にーちゃんはぼくのお腹をムニっと揉む。
「ってか、おまえ、また体大きくなったよな。成長が早いのはいいけど、しかしなんだこの贅肉は……太りすぎだって」
揉むだけじゃなく、指をめり込ませたり、タプタプ揺らしたり……。
ぼくの体、遊ばれてる……?
「このだらしない体でホントにバスケできんのかよ? 相撲部に転部するかぁ?」
「痩せる、痩せるからぁ!」
「おっぱいもでけえな。すんげー柔けー。オレよりってか、これ……女よりでかいんじゃ?」
「っ……! お、女の人のっ、触ったこと、ないくせに……!」
「なんだカイ、口ごたえすると、こうだぞ?」
「ひぎいっ!?」
胸を揉みしだいていたにーちゃんは突然、乳首をキュッと潰すように摘んだ! ピリッと刺激が走って、ぼくはたまらず大きい声をあげてしまった……。
「いい反応だ。ちんこもいくぞ。腰浮かせるな?」
にーちゃんにされるがまま、今度はさっきと同じようにチンチンを握られる。
ぼくの肩でフウフウ息を吐いて、根本から先端まで指を絡ませていく。どうやらにーちゃんはまだサイズを測ってるみたいだった。
「こんなでっけぇのに包茎ってのも、なかなか……そそるかも!」
「んんっ、こそばゆい……!」
「ひひひ! エロくなったなぁ、弟よ」
ムニムニムニ、にぎにぎ……。
一心不乱にいじってくるので、あっという間に勃ってきてしまった。
「おーフル勃ちか! すげーや、ガッシリ握れる。亀頭指回んねっ……!」
にーちゃんはすっかり自分の世界に入り込んで、触りたい放題してくる。一度スイッチが入ったら、ぼくがいくら嫌がったって、何をいったって聞かなくなるのがアキにーちゃんだ。
男同士で、しかも兄弟同士でこんなこと、よくない気がする……。ダメな気がする……。だけどそんなこといえなかった。いや、あえていわなかったのかもしれなかった。
「そろそろ皮剥くぞ。じっとしてな」
「だっダメだよ、まだ痛いから!」
「ゆっくり慣らしながらやるからヘーキだよ。風呂でいくらかふやけてるよ」
ぼくのお尻にチンチンをこすりつけながら、にーちゃんはぼくのそれをガッシリ掴む。触れられているだけでおかしくなりそうなのに、
「んやあああぁ!? ひっ、先っちょ、へんっ、にっ、触ん、ないでぇ……!」
にーちゃんは爪で、余ってる皮の先をこちょこちょしてきた……!
「へっへ……ガマン汁なんか溢して、気持ちいいんだな?」
「んんんうううぅ……!」
「ちょうどいい。天然ローション使いながらムイてくぞ?」
手の力がすこし緩まり、案外優しい手付きで皮をずらされてく……。
「きついけどなんとかなりそうだ。痛くないだろ」
「うん……今のとこ、だいじょうぶ……」
すぼんだ先っぽはやがてめくれて、中身が窮屈そうに顔を出し始める。
(前に挑戦したときより剥けてる……)
ぼくはただ痛まないように祈りながら、痛々しく腫れたチンチンを見つめるしかできなかった。
「シンセイちんこはやばいからな。本当は亀頭が成長する前にムキムキしとくんだ。オレがやらなかったらおまえ、一生剥けないままだからさ、気づけてよかったよ」
にーちゃんは左手で頭を撫でてくれた。
「さあ、あと半分だ。頑張れよー」
そういってまた皮を剥いたその時、
「いたっ! 痛い、痛いっ!!」
半分ほど露出したところで引っかかってしまい、裂けそうな激痛が走った。見ると、皮のきつい締め付けで、まるでゴム風船が破裂しそうな歪な形になっていた。
「あ……ごめっ!」
にーちゃんは急いで皮を戻して、労わるようにチンチンをさすった。
「ちょっと痛かったな……わるい」
申し訳なさそうに、もう一度優しく頭に触れてきたけれど、ぼくは一気に怖くなってしまい、そのことを素直に伝えた。
するとにーちゃんは「わかった。いったんやめにしよう」と、意外にも聞く耳を持ってくれた。
「……よーく考えりゃ、わざわざ勃起してる時に剥かなくたっていいしな……。ん? そっか、そうだよ!」
最後の大きい声で、不覚にも背中が寒くなるのを感じた。アキはまだ諦めてなんかいない、というのが後ろからひたひたと伝わってきて……。
「こーいうときに抜くんだよ」
「ぬ、抜くって、何を……?」
「出たらわかる」
「ふあっ、ちょっ……! 待っ……てぇ!」
「待たなーい」
にーちゃんは「大人になるときがきた」と、再び躍起になってチンチンを激しくゴシゴシする。
「んぎ、ああぁぁぁぁぁぁ!?」
擦られるたびに脳で快感が増していって、股間の方へなだれ込んでいくようなふしぎな感覚に、自然と高い声が漏れる……。
「へっへへ……! おまえ、反応よすぎ。溜めすぎ、なんだよぉ!」
暴れ回ったり抵抗しないでいるのをいいことに、にーちゃんはエスカレートしていく。お尻に硬いチンチンをぐりぐり押し付けたりして、にーちゃんも気持ちよくなろうとしているのかな……。
「はあっ、ふうっ、! ガッシリ握って、思いっきりシコんの、気持ちよさそーだなあっ? おい?」
にーちゃんの手つきはだんだんと攻撃的になってく……。だけど、その激しさが心地よくて更なる快感を生む。嫌なはずなのに、ぼくの体はもっともっと、激しさを求めている。そんな気がする……!
「はッ……ん、んんあ……っ!」
気持ち悪い声まで出して、変態になっちゃったみたいだ……。
「どおだっ? 性感帯でけえとやっぱ気持ちいいかっ? いいんだなあッ?」
「きもちいっ、けどおっ……ヘン、な、んんんっ! あっ!」
(やばい!)
な、何かくる……!
何かが、お腹の下のあたりからぐつぐつと煮えるように沸き上がって――!
か、体が震えて、あたま……おかしくなりそう……!
「か、カイ! もぉイきそうかっ? 我慢せずにイって、いいぞぉ……!」
「ぁ……にーちゃ、んっ、も……だめ、だっ、おしっこ、しちゃううううう!!」
…………。
うわあ、やってしまった……。
我慢の限界を超えて、にーちゃんの見てる前で盛大にお漏らししてしまった……。
(最悪だ……)
出し切ったら意識が白んで、ぼーっとする……。
にーちゃんのせいだ。にーちゃんがメチャクチャするから……。お風呂とはいえ、汚いよ……こんなの……。
でも、なんでかな。あり得ないくらい気持ちよかった。盛大……という割には出方が断続的だったけど……。
「おめでとう」
漏らしてしまったぼくになぜそんなことをいうか、わからなかった。だからぼくはまだ目を瞑ったまま、返事ができなかった。
頭がフワフワする中、しかしぼくはちょっと変だなと、異変を感じ取っていた。おっきくなってる状態でおしっこしたら、あんなふうにチンチンがビクビクッと痙攣しながら出るのかもしれないけど……。
とにかく異常なおしっこだったと、ようやく目を開けてはじめて、
「え、何……これ……」
ぼくはその有り様を知ることになった。
湯船に浮かんでいる、たくさんの白いモロモロ。手に取ってみるとヌルヌルでベトベトしていた。こんなのがおしっこなわけがなかった。それだけはハッキリとわかった。
「にーちゃん……ぼく……え?」
次いで、それが自分のチンチンから出たものだと理解するに、どれくらいかかったのかな……?
「ったく、呆れるぜホントによ……。中一で習うだろ? 保体の授業なんも聞いてねーのな」
こ、こんなこと、学校で教えてもらうの……?
「精子だよ。おまえの」
「???」
それでも、ぼくの頭はなに一つと理解が追いついていない。
少なくとも、その正体が「せいし」だと教えてもらっても、すとんと腹落ちするものは一つとなかった。
「……カイおまえなァ、デカちんこ持ってる資格ねえよ。オレにくれよ、ガチで」
にーちゃんは大きくため息を吐いて、
「んやっ!?」
いつの間にか、だら~んと力が抜けているチンチンにまた触れてきた。今度はキンタマも揉まれて……。
「思春期になるとな、ここで精子作られるようになるんだよ。んで、セックスして、女の人の卵子とガッチャンコすれば赤ちゃん産まれんの。つまりおまえはもう生物的にはオトナってこと。オーケー?」
突然生々しい話をされて、のぼせてしまいそうだった……。
エッチな話って、難しい……。まだまだ縁の遠い話だ……そう決めつけて、遠ざけながらも、ぼくは「うん」というしかなかった。
「あ、今やったのがオナニーな。これからはオナニーぐらい、一人でやっとけ。ちんこムラついてどうしようもない時は今みたいにシコって精子出しときゃおさまるよ」
「うん……」
「ホントにわかってんのかよ?」
「たぶん??」
「まあ、テキトーに頑張れ」
また乱雑に頭を撫でてきて、「あー、やっと一つ終わったぜ……」と疲れた様子を隠さなかった。
ふと、そんなところにもアキの性格があらわれているなあ、と思った。
(にーちゃんがやりたくてやったくせに……)
そのように内心ブー垂れてしまう一方で、徐々に回復してきたからなのか、頼もしさを感じつつあった。
やりたい放題いじめられたといえばそうなんだけど、きついとは思わなかった。恥ずかしくて、消えちゃいたかったはずなのに。感情ってのは難しい仕組みだ……。
「まだあとチン皮剥きの特訓と、丸洗いがあんのかー。しゃーねえ。よっしゃ、一気にやってくぞ!」
「わかった。にーちゃんお願いします」
どうしてかな。自分でも驚くほど、素直で聞き分けのいい返事だった。
アキにーちゃんのいいところ、面倒見がいいところ。
なんだかんだで、ぼくのことを注意深く見てくれる。二年生になりたてのこの頃、そんなふうに感じることが多くなった。
アキが大人になって家を出るまで、ぼくはまだまだ聞き分けのいい弟でいてもいい。時々気持ちが抑えられずに反抗しては怒らせるけど、でもそんなの一過性。だから互いに気にしない。
あれからぼくたちの関係はほんの少しだけ変わった。それはもちろん、いい方向に、だ。
具体的にいうと、ぼくから話しかけることが多くなった。
わからないことがあると、とりあえずにーちゃんに聞きにいく。それは勉強のことでも、日常の疑問のことでも、なんでも、とにかく。
ご飯の最中とか、ゲームに集中してるときに、とりとめのないことを聞くと、にーちゃんは「自分で調べな」とメンドくさそうな顔をしながらも、ちゃんと考えて答えてくれる。にーちゃんから話を広げてくれることもあった。以前よりも、そういったことが増えた。
教えてもらったオナニーは自分一人でもちゃんとできた。でも、あんまりやりすぎるとヘンな罪悪感が沸くからほどほどにしようって、毎回思う……。
皮も一応剥けるようになった。手で引っ張れば、勃ってるときでも中身を全部出せるようになった。触るとまだ少し痛むけど……。
……なんでも、にーちゃんが夜な夜ないたずらでチンチンを触ってきて、その時に剥き慣らしたから……らしい。恥ずかしくて堪らないけど、不潔で痛いのから卒業できないよりかはずっといい。
それが原因で夜中に起きて、触り合いっこすることもあった。
そんなことを、頭がいっぱいいっぱいになるくらい、思い出していた……。
(にーちゃん……っ)
チンチンをゴシゴシするとき、お風呂に入れられた日のことを思い出してすると、あっという間にビュッと精液が飛び出てくる。
もう慣れたもので、あらかじめティッシュを用意しとくと汚さずに済むってこともわかった。
「ふう~……」
精液は水分が多めで、しゃばしゃばのおかゆみたいだ。にーちゃんのはもっと粘度があって、指でも摘めたし、被毛にねっとり絡みついていたのを思い出した。
やっぱり、にーちゃんはすごいや。
(ぼくもいつか……)
……あ、まだいいけど……ちょっと憧れちゃう。
はあ~……なんか、眠くなってきちゃった。ちょっと汗かいちゃったし、寝る前の軽い運動みたい。オナニーで痩せればいいのになあ。
…………。
仰向けにぐったりしてると、すらっと背の高いシェパードが頭の中にもくもくと現れてこういう。
「おまえ、エロくなったなぁ」
……って。
うーん……そう、なのかな……?
にーちゃんがそういうのなら、あながち間違っていないのかも?
その夜、ぼくはぐっすりに眠って、にーちゃんの夢を見た。
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