転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。【完結】

古芭白あきら

文字の大きさ
41 / 64
番外編①『赤き魔女のフレチェリカ』

1. 赤き魔女

しおりを挟む
 兵達の怒声、剣と牙が交わる音、『魔獣』の咆哮……

 もはや日常いつもの一部になったけれど、やっぱり『人』対『魔』の異様な戦場には異質な音が響き渡るものなのね。


 作戦の為に私は戦場からわずか後方の位置で時機を待ってるのだけど……


 人が剣を振るって『魔獣』を斬り、
 『魔獣』が爪を振るって人を裂き、
 『魔獣』が喰い付き牙が肉をえぐり、
 人が槍を突き立て『魔獣』を穿うがつ。


 各所で夥しい血が噴き出し、斬り裂かれ引き裂かれ原型を止めない肉が飛び散る。
 人の絶叫と『魔獣』の断末魔による最悪の不協和音がこの凄惨な戦いの讃美歌みたい。


 戦いの場から離れていても汗血肉片と『魔』から霧散する異臭が私の鼻腔びこうを刺激して、この1年で慣れたとは言っても顔をしかめてしまうのはやはり致し方ないと思うの。


「もうそろそろ戦況が動くな」


 隣に立つ青髪の厳つい剣士ゴーガンが私に示唆しさする様に呟いたので、私は黙って頷いた。

 彼の戦いの趨勢を見極める眼は確かだと1年近くも相棒をやっている私は信じている。

 果たして人類側の陣営が割れて、中央を雪崩の如く数多あまたの『魔獣』達が轟音と砂塵を撒き散らし、此方こちらへ迫って来るのは怖いくらいに圧巻ね。

 まあ、作戦通りなんだけど。


 使い慣れた魔杖ワンドを掲げて――

「北よりの使者ボレアスよ、極寒の冷気と北の大地を切り裂く激しき風よ、汝に乞い願わくは我が敵を討ち滅ぼさんが為に走れ走れく走れ!」

 ――けたたましい戦場に私の呪を唱える声が朗々と響き渡る。


 途端に戦場中央を苛烈な勢いで肉迫していた『魔獣』に暴風が迎え撃ち、群勢の勢いが削がれていく。

 けれど、猛る『魔』の狂走を完全には止められていないみたい。


「フレチェリカ、もちっと強くできるか?」

 簡単に言ってくれるわね。


 先の『魔獣』達の勢いを抑えた大風の魔法はかなりの大魔法よ。このゴードンの要求は通常の魔術師になら無茶難題。

 まあ、私は普通の魔術師じゃない。齢17にして『赤き魔女』の2つ名を持つ大魔法使いなのよ。


く、く、く……」


 魔力を更に籠めて魔法の加増を施行すれば、風の勢いが増していく。

 そして遂に『魔獣』はその足を止めた。

 その群れはちょうど戦場の中央で黒い球の様に固まって留まり、人間側の陣営はそれを布で包み込むが如く包囲した。


「決着だな」


 ゴーガンの言葉に頷いて、私は再び魔杖ワンドを掲げて先程とは違う呪を口にする。


「原初の火をてプロメウス、小さき灯火を焚き起こし、我が敵をそのにえとなせ、盛れ盛れ燃え盛れ、汝の猛きほむらよ燃え盛れ!」


 人の軍隊に囲まれて右往左往していた『魔獣』の塊の中心で炎が立ち昇った。


「おいおい、まだ大魔法を使うのかよ」


 呆れを含んだ声が隣から聞こえたけれど、私は無視して魔法の炎で『魔獣』共を焼き払うことに集中した。


炎焔えんえんなれ、炎焔えんえんなれ……」


 私が魔力を叩き込む様に注げば、炎の勢いが激しくなっていく。


 まだよ……
 この忌々しい黒い奴らを炎で真っ赤に染めて!


 轟々と燃え盛る大火に焼かれ、『黒』が次々と火塵かじんと化す。


 もっともっと……
 この私の憎悪ごと漆黒を焼き尽くして!


 私の憎しみを焚き木にして、炎は私の激情を示すように燃え上がる。

 そして、大きく舞い上がる炎により生み出された強い風が、私の真っ赤な髪をなぶる。


 この胸に渦巻く憎しみが私の意志。
 この強く激しい炎こそが私の象徴。

 憎悪と焔が私の髪を妖しくらい真っ赤に染める。


 これが私……
 スターデンメイアの大魔法師、『赤き魔女』のフレチェリカ……
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...