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社会人──認識の整合性
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※ ※ ※ ※ ※
様々な要因からの疲れた気持ちのまま、いりやは本日の業務を終えた。
結局、入力作業は全てを終えられなかったのである。その達成出来なかった残念感もあり、余計に気持ちが落ち込んでいた。
自宅としている賃貸アパートに向かう足は非常に重く、内心のボルテージが全く上がらない。しかも、アパートに帰るには繁華街を通らなくてはならなかった。
人気の少ない場所は同時に危険も伴う為、仕方なく選んだ住居区である。多少の煩さを我慢する替わりに、安全を買ったつもりだった。
だが、それは必ずしも正解ではなかったようである。
(あの背中は……)
いりやセンサーがピピッと反応した。
距離があり、顔まではっきりと見える訳ではない。けれどもいりやが六年以上見つめ続けた一輝の背中が、一軒の飲食店に吸い込まれていった。──女性を伴って。
ふわふわの明るい茶髪の女性だった。
いりやが得ている情報では、現在の一輝彼女は黒髪ストレートの清楚系お嬢様の筈である。
真逆の容姿であったのは確実で、いりやの中では新キャラ登場だ。
(さすがに、私が店内に入ったら気付かれるよね……)
以前の見つめる一択であった学生時代とは違い、現在は完全な同期入社の同僚である。
いくら周囲からの視線に疎くとも、社外で同僚から視線を受ければ無関心でいられないかもしれない。
それに根本的な二人の関係性から、一輝の交友関係に口を出せる筈はないのだ。
逆もしかりだが、あくまでただの同僚である。
つまりは現在の一輝の連れ合いが、交際中の彼女であろうがそうでなかろうがいりやに関係はない。
(だ、だめだぁ。ここにいたら私、お店に突撃しそうだもん。それは絶対にダメ。一輝さんを見つめていたい私はただのモブだから、一輝さんの人生の内側には入れない……よね)
これまで何度か、いりやの思考に過った事のある可能性。
それは一輝の傍に立てるか否か。しかしながらいりやは自他共に認めるコミュ障であり、一対一での対話はかなりの緊張に苛まれる。
一輝の声は聞きたいが、自分がそれに応対する勇気も語彙力もないのだ。
幾度も研修中に同じ時間を過ごしてきたが、二人きりになれば一気に三歳児並みの対話しか出来なくなる。──残念ながら、これは事実だ。
せっかく同僚になったのだからと、いりやは一輝と直接的な会話を試みた事がある。
だがいざ彼の視線が自分を捉えると、途端に口ごもってしまうのだ。
それは他の人への応対よりも顕著で、言ってしまえば『いりやが一輝を苦手としている』と認識されてしまう可能性がある。
これらの事実により、いりやは自身の一輝に対する感情を測りかねてしまっていた。
自分は一輝の事を『好き』ではなく、『憧れ』ているだけなのではないか──と。
様々な要因からの疲れた気持ちのまま、いりやは本日の業務を終えた。
結局、入力作業は全てを終えられなかったのである。その達成出来なかった残念感もあり、余計に気持ちが落ち込んでいた。
自宅としている賃貸アパートに向かう足は非常に重く、内心のボルテージが全く上がらない。しかも、アパートに帰るには繁華街を通らなくてはならなかった。
人気の少ない場所は同時に危険も伴う為、仕方なく選んだ住居区である。多少の煩さを我慢する替わりに、安全を買ったつもりだった。
だが、それは必ずしも正解ではなかったようである。
(あの背中は……)
いりやセンサーがピピッと反応した。
距離があり、顔まではっきりと見える訳ではない。けれどもいりやが六年以上見つめ続けた一輝の背中が、一軒の飲食店に吸い込まれていった。──女性を伴って。
ふわふわの明るい茶髪の女性だった。
いりやが得ている情報では、現在の一輝彼女は黒髪ストレートの清楚系お嬢様の筈である。
真逆の容姿であったのは確実で、いりやの中では新キャラ登場だ。
(さすがに、私が店内に入ったら気付かれるよね……)
以前の見つめる一択であった学生時代とは違い、現在は完全な同期入社の同僚である。
いくら周囲からの視線に疎くとも、社外で同僚から視線を受ければ無関心でいられないかもしれない。
それに根本的な二人の関係性から、一輝の交友関係に口を出せる筈はないのだ。
逆もしかりだが、あくまでただの同僚である。
つまりは現在の一輝の連れ合いが、交際中の彼女であろうがそうでなかろうがいりやに関係はない。
(だ、だめだぁ。ここにいたら私、お店に突撃しそうだもん。それは絶対にダメ。一輝さんを見つめていたい私はただのモブだから、一輝さんの人生の内側には入れない……よね)
これまで何度か、いりやの思考に過った事のある可能性。
それは一輝の傍に立てるか否か。しかしながらいりやは自他共に認めるコミュ障であり、一対一での対話はかなりの緊張に苛まれる。
一輝の声は聞きたいが、自分がそれに応対する勇気も語彙力もないのだ。
幾度も研修中に同じ時間を過ごしてきたが、二人きりになれば一気に三歳児並みの対話しか出来なくなる。──残念ながら、これは事実だ。
せっかく同僚になったのだからと、いりやは一輝と直接的な会話を試みた事がある。
だがいざ彼の視線が自分を捉えると、途端に口ごもってしまうのだ。
それは他の人への応対よりも顕著で、言ってしまえば『いりやが一輝を苦手としている』と認識されてしまう可能性がある。
これらの事実により、いりやは自身の一輝に対する感情を測りかねてしまっていた。
自分は一輝の事を『好き』ではなく、『憧れ』ているだけなのではないか──と。
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