こころの中の貴方

まひる

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社会人──心の疲労

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「は……はあっ?」
「はい、そこまで」
「っ?!」

 いりやのストレートな反論に、一瞬呆けた後ですぐに牙をむく白砂しらさご。だが、そこへ冷静な声が差し込まれた。
 息を呑んだのは白砂で、発言の人物が視線を向けずに想像出来たようだ。

「久保、係長……」
「ずっと聞いていたけど、白砂さん。ハラスメント案件で、イエローカードです」
「そ、そんなっ……。私は」
「ストップ。この場での言い訳は不要です。監査委員会の呼び出しに応じて、そこでお願いします」
「っ……はい、分かりました」
樫山かしやまさん、少し良いかしら」
「はい、何でしょうか」

 トボトボと自席へ戻っていく白砂の背中を見送りながらも、いりやは久保と会議室へ移動する。
 そこには既に呼ばれていたような五月さつきと、三人での簡単な面談となった。当然内容は本日の業務内容で、教育係からの指示や応対についてである。
 いりやからの聞き取り内容は、その都度五月が手元のパッドに入力していた。

「お疲れ様でした、樫山さん。これで嫌にならずに、明日も会社に来てね」
「あ、はい……」

 少しだけ困ったような表情の久保に見送られるように、いりやは会議室を退室する。
 五月は終始記録係に従事していたが、退室間際のいりやに笑みを浮かべながら小さく手を振っていた。それにはさすがに手を振り返す訳にもいかず、いりやはペコリと会釈に留める。

 会議室を出て、ホッと一呼吸ついた。そしていりやが時計を確認すると、既に午後の休憩時間である。
 残りの入力業務をする前に気持ちを切り替えようと、いりやは休憩室に足を向けた。

(疲れたなぁ……。メインは気持ちが、だけど)

 内心のモヤッと感は、とりあえず久保に話した事でわずかながら落ち着いている。
 けれども社会人として、あの幼稚な対応に今後も付き合わされるのかと思うと辟易してしまう。

 学生時代にも、そういった自分の優位性を誇示したい者は少なからずいた。
 社会にでても変わらない。いりやが何をしようと、気に入らないと思う者はいなくなりはしないのだろう。

 しかしながら、会社を辞めれば収入源がなくなるのだ。
 そうすれば自分のしろを維持出来なくなる。帰る場所などないいりやは、気持ちを圧し殺してでも社会の歯車を演じなくてはならないのだ。

(はぁ……。今日は一度も一輝さんを見れてないんだよねぇ)

 朝から白砂からの理不尽な要求に抑圧され、午前中を無意味に過ごしたのである。
 五月からの援助で午後は何とか復活したように思っていたが、先程の白砂襲撃に午前中の鬱々した気持ちも舞い戻ってしまった。
 
 人と関わる事で、様々な感情の機微がうまれる。
 コミュ障気味であるいりやは、自身の心がそういった渦中に巻き込まれる事に大きな疲労を感じるのだった。
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