こころの中の貴方

まひる

文字の大きさ
10 / 12

社会人──八つ当たり

しおりを挟む
  ※  ※  ※  ※  ※

 先輩社員の五月からサポートされ、ようやくいりやは業務を開始した。
 だがさすがに半日の猶予では、五冊ものファイル全てを処理する事は出来なかった。
 そもそも入力アプリケーションの指示からして間違っていた訳で、いりやに正しく業務を遂行させる気はなかったのではないかと推測される。

「何やっているの?まだ終わってないの?せっかく任せたのに。今日中って言ったよね?何しに会社に来ているのかな。いつまでも学生気分では困るんだよね」

 部屋に戻ってきた白砂は、グチグチと延々にも思えるような言葉を吐き掛ける。しかも勝ち誇った表情で、である。
 いりやが反論しないのを良い事に、上から高圧的な物言いだ。パワハラとか──昨今さっこんは色々と世間の評価が厳しいと思われるが、彼女は気にならないらしい。

 そしていりやの業務内容は、教育係を受け持っている白砂の評価にも関係する。
 当然ながら、指示一つにしても新入社員へ分かるように伝えなくてはならないのだ。仕事なのだから、無駄に遊ばせておく等は論外である。
 それを故意に効率的ではない、他者から明らかな業務妨害と判断されてしまう今回の事実。

(さすがにあの量、一日で終わらないと思って渡して来てるでしょ。一生懸命やってるのに、何だか馬鹿らしくなっちゃう。はあ……この人、うるさいから早く愚痴言うの終わらないかな?)

 先輩社員からの一方的なパワハラ攻撃に、本来ならば畏縮してしまうところだろう。しかしながらいりやは、一度振り切れたら周囲が気にならなくなるタイプだった。
 そこは自分の殻に閉じ籠る性質ゆえかもしれないが、無表情標準装備なので何を考えているか伝わりにくい。なので、いりやの内心は『バレなければ問題ない』である。

「ちょっと、聞いてるの?」
「……聞いています」

 全く反応を返さないいりやに対し、とうとう白砂が声を荒らげた。けれども音声認識はしているので、返答を求められていると察したいりやはポツリと答える。
 言われた内容はほとんど頭に入っていないが、要約すると理不尽な八つ当たりだ。

 そもそも、白砂が何をもっていりやを嫌うのか不明なのである。
 直接的な接触は今回の教育係になった事が初であり、それ以外に原因となるものが思い当たらなかった。
 初日からこのような仕打ちをされるのであれば、当然この人物を上役に立てるのは悪手である。信頼を得る気持ちも湧いてこないし、尊敬など到底出来なかった。

「聞いているなら、他に反応するでしょ?」
「……どう反応してほしいのですか。それよりお話が終わりでしたら、時間の無駄なので業務を続けたいのですが」

 一人で白熱してくる白砂の問いに、時計が気になっていたいりやがはっきりと口にする。
 定時まであと残り一時間程の勤務時間である為、残りの入力業務をおこないたいいりやだ。もしかしたら全てを終わらせられるかもしれないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

確かに愛はあったはずなのに

篠月珪霞
恋愛
確かに愛はあったはずなのに。 それが本当にあったのかすら、もう思い出せない──。

処理中です...