こころの中の貴方

まひる

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社員人──助け

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 そうしていりやは何も出来ないまま、昼休みになってしまった。
 ポツンと座ったままで、何も出来ていないファイルを開いている。

「あら、どうしたの?……樫山さん?」
「あ……えと……」
「お昼だよ?」
「は、はい……」

 通りすがりに声を掛けてくれた先輩社員に促され、いりやは渋々ながら食堂へ向かう。
 だがいりやはずっと、何も仕事をしていないのに昼休みをとって良いものだろうかと不安感にさいなまれていた。
 しかも今日中と言われた入力作業も、何一つ進んでいないのに。

「どうしたの?何か考え事?」
「あ……えと……その……」
「うん?大丈夫だよ、ゆっくりで。雅美から……あぁ、久保係長から聞いているからね。私は五月さつきらんよ。改めて宜しくね、樫山さん」
「あ、えと。宜しくお願いします、五月さん」
「ふふふ」

 柔らかな笑みを浮かべる五月は、聞けば久保と友人関係のようだ。
 共に昼食を取りながら、ポツリポツリと話すいりやとの会話にも苛立ちが見えない。終始対応が優しかった。

 いりやはコミュ障ゆえ、会話が得意ではない。会話はコミュニケーションなので、他者と言葉を交わす事に不安以外ないのだ。
 それでも、いりやに向き合ってくれる相手ならば。緊張感は抜けないままではあるが、それなりに会話が可能となる。ようは、面倒臭い人種である。

「へぇ、これを……ねぇ?」
「は、はい……」

 昼休みを少し早めに切り上げ、いりやは五月と事務所に戻ってきた。
 昼食の間に本日中の業務内容を口にした所、五月が詳しく知りたいといりやに詰めよって来たのである。
 その勢いに思わず逃げの姿勢になったいりやだったが、何かしらのアドバイスをもらえるならば助かると判断したのだ。

「ふぅ………。よし、サクッと解決しよう。樫山さん、これは入力アプリケーションが違うの」
「え……あ……やっぱり……?」
「そうね。見て違いが判断出来たのなら、次は聞く事。でもそれも私に相談出来たのだから、もう次は簡単ね。ほら、こっちのアプリケーションを立ち上げてもらって良い?」
「あ……は、はい……。あ、これ……」
「そうね、正解。形式が同じでしょ?まぁ、初めからあれこれと触るのは怖いものね。それも正解。触ってはいけないアプリケーションもあるからね~」
「え、あ……ありがとう、ございます……」
「大丈夫だよ、樫山さん。ほら、これなら入力する項目が分かるかな?」
「あ、はい……。えと……、これはここですか?」
「そうよ、凄いわね。この書面は、ここだけが入力アプリケーションと違うのよ。あとは項目通りだからね」
「あ、ありがとうございます、五月さん」
「他にも疑問に思った事が出てきたら、私に聞いてもらって良いねからね」
「はい、ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくね、樫山さん」

 五月から正しい指示を受け、これでようやくいりやは業務を開始出来そうである。
 もちろん五冊ものファイルの書面を入力し終わるかは不明だが、いりやはスタート地点に立てた事が嬉しかった。
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