9 / 12
社員人──助け
しおりを挟む
※ ※ ※ ※ ※
そうしていりやは何も出来ないまま、昼休みになってしまった。
ポツンと座ったままで、何も出来ていないファイルを開いている。
「あら、どうしたの?……樫山さん?」
「あ……えと……」
「お昼だよ?」
「は、はい……」
通りすがりに声を掛けてくれた先輩社員に促され、いりやは渋々ながら食堂へ向かう。
だがいりやはずっと、何も仕事をしていないのに昼休みをとって良いものだろうかと不安感に苛まれていた。
しかも今日中と言われた入力作業も、何一つ進んでいないのに。
「どうしたの?何か考え事?」
「あ……えと……その……」
「うん?大丈夫だよ、ゆっくりで。雅美から……あぁ、久保係長から聞いているからね。私は五月藍よ。改めて宜しくね、樫山さん」
「あ、えと。宜しくお願いします、五月さん」
「ふふふ」
柔らかな笑みを浮かべる五月は、聞けば久保と友人関係のようだ。
共に昼食を取りながら、ポツリポツリと話すいりやとの会話にも苛立ちが見えない。終始対応が優しかった。
いりやはコミュ障故、会話が得意ではない。会話はコミュニケーションなので、他者と言葉を交わす事に不安以外ないのだ。
それでも、いりやに向き合ってくれる相手ならば。緊張感は抜けないままではあるが、それなりに会話が可能となる。ようは、面倒臭い人種である。
「へぇ、これを……ねぇ?」
「は、はい……」
昼休みを少し早めに切り上げ、いりやは五月と事務所に戻ってきた。
昼食の間に本日中の業務内容を口にした所、五月が詳しく知りたいといりやに詰めよって来たのである。
その勢いに思わず逃げの姿勢になったいりやだったが、何かしらのアドバイスをもらえるならば助かると判断したのだ。
「ふぅ………。よし、サクッと解決しよう。樫山さん、これは入力アプリケーションが違うの」
「え……あ……やっぱり……?」
「そうね。見て違いが判断出来たのなら、次は聞く事。でもそれも私に相談出来たのだから、もう次は簡単ね。ほら、こっちのアプリケーションを立ち上げてもらって良い?」
「あ……は、はい……。あ、これ……」
「そうね、正解。形式が同じでしょ?まぁ、初めからあれこれと触るのは怖いものね。それも正解。触ってはいけないアプリケーションもあるからね~」
「え、あ……ありがとう、ございます……」
「大丈夫だよ、樫山さん。ほら、これなら入力する項目が分かるかな?」
「あ、はい……。えと……、これはここですか?」
「そうよ、凄いわね。この書面は、ここだけが入力アプリケーションと違うのよ。あとは項目通りだからね」
「あ、ありがとうございます、五月さん」
「他にも疑問に思った事が出てきたら、私に聞いてもらって良いねからね」
「はい、ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくね、樫山さん」
五月から正しい指示を受け、これで漸くいりやは業務を開始出来そうである。
もちろん五冊ものファイルの書面を入力し終わるかは不明だが、いりやはスタート地点に立てた事が嬉しかった。
そうしていりやは何も出来ないまま、昼休みになってしまった。
ポツンと座ったままで、何も出来ていないファイルを開いている。
「あら、どうしたの?……樫山さん?」
「あ……えと……」
「お昼だよ?」
「は、はい……」
通りすがりに声を掛けてくれた先輩社員に促され、いりやは渋々ながら食堂へ向かう。
だがいりやはずっと、何も仕事をしていないのに昼休みをとって良いものだろうかと不安感に苛まれていた。
しかも今日中と言われた入力作業も、何一つ進んでいないのに。
「どうしたの?何か考え事?」
「あ……えと……その……」
「うん?大丈夫だよ、ゆっくりで。雅美から……あぁ、久保係長から聞いているからね。私は五月藍よ。改めて宜しくね、樫山さん」
「あ、えと。宜しくお願いします、五月さん」
「ふふふ」
柔らかな笑みを浮かべる五月は、聞けば久保と友人関係のようだ。
共に昼食を取りながら、ポツリポツリと話すいりやとの会話にも苛立ちが見えない。終始対応が優しかった。
いりやはコミュ障故、会話が得意ではない。会話はコミュニケーションなので、他者と言葉を交わす事に不安以外ないのだ。
それでも、いりやに向き合ってくれる相手ならば。緊張感は抜けないままではあるが、それなりに会話が可能となる。ようは、面倒臭い人種である。
「へぇ、これを……ねぇ?」
「は、はい……」
昼休みを少し早めに切り上げ、いりやは五月と事務所に戻ってきた。
昼食の間に本日中の業務内容を口にした所、五月が詳しく知りたいといりやに詰めよって来たのである。
その勢いに思わず逃げの姿勢になったいりやだったが、何かしらのアドバイスをもらえるならば助かると判断したのだ。
「ふぅ………。よし、サクッと解決しよう。樫山さん、これは入力アプリケーションが違うの」
「え……あ……やっぱり……?」
「そうね。見て違いが判断出来たのなら、次は聞く事。でもそれも私に相談出来たのだから、もう次は簡単ね。ほら、こっちのアプリケーションを立ち上げてもらって良い?」
「あ……は、はい……。あ、これ……」
「そうね、正解。形式が同じでしょ?まぁ、初めからあれこれと触るのは怖いものね。それも正解。触ってはいけないアプリケーションもあるからね~」
「え、あ……ありがとう、ございます……」
「大丈夫だよ、樫山さん。ほら、これなら入力する項目が分かるかな?」
「あ、はい……。えと……、これはここですか?」
「そうよ、凄いわね。この書面は、ここだけが入力アプリケーションと違うのよ。あとは項目通りだからね」
「あ、ありがとうございます、五月さん」
「他にも疑問に思った事が出てきたら、私に聞いてもらって良いねからね」
「はい、ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくね、樫山さん」
五月から正しい指示を受け、これで漸くいりやは業務を開始出来そうである。
もちろん五冊ものファイルの書面を入力し終わるかは不明だが、いりやはスタート地点に立てた事が嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話
のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。
お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる