こころの中の貴方

まひる

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社会人──馴染めない

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  ※  ※  ※  ※  ※

 新入生歓迎会という名前の飲み会の後から、本格的に一輝といりやの業務補佐が始まった。
 まだ外線電話に出たり来客の対応をする事はないが、教育係となった社員と共に様々な実務にあたる。

 今日の一輝は、男性社員と二人で資料室で作業らしい。だが──対するいりやは、事務所の端で放置プレイである。
 いりやの教育係になったのは、白砂しらさご美津子みつこ。あの飲み会の、一輝に過剰なスキンシップをする先輩社員だ。

 いまだ本格的な業務にたずさわれないいりやは、指示された事しか出来ない。
 それなのに、白砂はいりやの目の前に分厚いファイルを五冊積み上げた。一冊が拳程のある厚みがあるのに、である。

「これからこの内容をデータ入力しておいてね。今日中だから」
「え……何処に、ですか?」
「だから、ここ。私、今日は係長と会議室に缶詰めだから。あと宜しく~」
「え、あ……」

 机上のデスクトップ画面を指差し、データフォルダを指示しただけの白砂だ。アプリケーションを立ち上げてもいなければ、どれをどのようにといった詳しい説明は皆無である。
 そのままいりやの問い掛けにすらまともに対応もせず、ヒラヒラと片手を振って立ち去ってしまった。

 ポツンと放置され、いりやはしばらく硬直する。だが、勤務時間をずっと呆けているわけにもいかないのは確かだ。
 いりやはアプリケーションを立ち上げ、目の前のファイルを一冊広げた。

(……う~ん、分からない)

 何かしらの情報を記入した紙が、これらのファイルに閉じられている事は見て取れた。
 だがアプリケーションは紙と書式が異なり、入力する場所と記入してある場所が全く違うのである。

(氏名、住所は分かるけど。これ、ここ?っていうか、内容が違うくない?)

 言うなれば、入力するアプリケーションと記入してある紙が違う。
 まだ業務内容が把握出来ていないので断言は出来ないが、あまりにも違いすぎて指示を受けた仕事が理解不可能だった。
 しかしながら、問い掛ける相手がいない。

 フロア内には他にも社員がいるが、それぞれ異なる業務をしている為に質問しにくい。
 新社会人のいりやに任せるような業務なのだから、難しい事はないのだろう。何なら皆が出来ておかしくはない、と思う。──思うが、それは勝手ないりやの推測だ。

(うぅ……、詰んだ)

 画面とファイルを見比べながら、いりやは再び固まった。
 質問すべき教育係は不在。そして何より──一番いりやが会話しやすい社員である久保は、部署の係長である。つまりは、現在進行形で白砂と共に不在なのだった。
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