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第七章
≪Ⅲ≫異質な気配を纏う男がいた【1】
しおりを挟むそうした話が一段落ついたところで、そのまま横になってしまったヴォルです。
そりゃあ、ベッドはありますけどもね。ここ、外ですよ?
「あ、あの……ヴォル?」
「何だ、メル」
瞳を閉じてはいるものの、眠ってはいないようでした。声を掛ければ、すぐさま返答が返ってきます。私はベッドに腰掛けたまま、ヴォルの顔を暫く見ていました。
周囲からは丸見えですが、だからこそ今のところ誰かが近付いてくる様子もないと分かります。
「動かないのですか?」
「あぁ」
「……ずっとですか?」
「今はまだ、な」
「……そうですか」
何もする事がないので、私はヴォルに問い掛けてみました。
けれども返ってきた答えは予想通りというか、静かなものです。実際には魔力を回復する為に休んでいるのかもしれませんが。
彼の判断では、今は動く時ではないという事でした。しかしながらベンダーツさん、大丈夫でしょうか。──なんて……ボンヤリ考えていた私ですが、いつでも寝られる特性を持っている事を忘れていました。
「メル」
「はい……?」
静かな呼び声に目を開けます。ヴォルから呼ばれて気付いた時には、何故か空が赤く色付いていました。
──嫌~、思い切り寝てしまっていたではないですかっ。
私は慌てて身体を起こします。──ところで私、ベッドに横になってましたっけ?
「す、すみません!眠ってしまいましたっ」
「問題ない。むしろ身体を休められて良かった。漸く時が満ちたぞ」
「え……?」
ヴォルの視線を追うと、その先にベンダーツさんがいました。
いつのまに戻ってきたのでしょうか。既に結界内のもう一つのベッドでくつろいでいます。彼の装いを確認したところ、怪我などはしていないようでした。
でも出掛けに身に付けた物が外されているので、戻ってきてから随分時間が経過しているようです。
──起こしてくださいよぉ。
「良く寝ていたねぇ、メル。俺が一人で一生懸命に情報収集している間、二人して『何を』していたのかなぁ?」
ニヤニヤとした笑みを向けられ、私は一人でワタワタと慌ててしまいました。
その言葉に一気に顔に熱が集まります。反応してはダメなのでしょうけど、それが出来ないのが私でした。
「マーク、メルをからかうのはよせ。それよりもどうだったのだ」
ヴォルはベンダーツさんを注意します。そして戻ってすぐには報告がされていなかったようで、改めて情報提供を求めました。
私はヴォルに頭を撫でられながら、熱くなった頬を両手で覆い隠します。
「あぁ、いたよ。思いもよらない人物がさ」
勿体振りながらベンダーツさんが口を開きました。
思いもよらない、とは誰の事でしょうか。
「ゼブル卿か」
「何、知ってたのっ?」
事も無げに答えたヴォルに、ベンダーツさんが大袈裟に驚きます。
もしかしなくても、ベンダーツさんが捜していた人物はそのゼブルさんとやらだったのでしょう。確かヴォルとの話では、黒幕がいるという事でした。
「知っていた訳ではない。幾度目かの集団の中で一人、異質な気配を纏う男がいたのだ」
「何だよ、姿を現すなら早くしろっての。俺、結構ビビりながら人捜ししてきたのにぃ」
力が抜けたように床にしゃがみこむベンダーツさんです。
ベンダーツさんが恐怖する人とは、どのような方なのか気になりました。
「お、お疲れ様でした。……ところで、そのゼブルさんってどういう方ですか?」
私はベンダーツさんの勇気に敬意を払いつつ、名指しされいる人物を問い掛けます。
卿と呼ばれるという事で、爵位を持っている貴族なのだと推測出来ました。でも私の知っている知識ではそれだけだったのです。
「セグレスト・ゼブル伯爵さ」
スッと立ち上がったベンダーツさんは、先程の落ち込みからもう回復していました。
お相手は伯爵様ですか。
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