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第八章
1.異変が起きている【6】
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「どうしたのですか、ヴォル」
「……問題ない」
やっぱりヴォルの様子がおかしいです。
何処か苦しそうな感じを受けたので、心配になって顔を覗き込もうとしました。ですが彼の方が当たり前に動きが俊敏なので、理由は不明ですが顔を逸らされてしまいます。
えぇっ──もしかして、何か怒っています?!
一人でアタフタしていると、何故だか私の後ろでクスクスとベンダーツさんが笑っていました。
何なのですか、いったい──。
私は不満を乗せた顔で振り返ります。ヴォルは視線を合わせてくれないし、ベンダーツさんは笑っているだけなのですから面白くありませんでした。
「あぁ、ゴメンゴメン。あまりにも二人の掛け合いが面白くて」
そう言いながらもまだ笑っているベンダーツさんです。
ちょっとムッとしてしまう私は悪くないと、自分を慰めました。
「ヴォル、素直に言いなよ。そのままじゃ逆にメルを不安にさせてるって」
いつの間にか視線を下げていた私ですが、ベンダーツさんの柔らかな声が掛けられます。
笑う事を少しだけ控えてのベンダーツさんの言葉に、ヴォルが渋々口を開きました。
「……苦手……なんだ。……マトトが……食べられない」
珍しくはっきりとしない、消え入りそうな声音のヴォルです。
それでもその言葉を聞き、私は思わず瞬きをしました。食べられない──と何度も頭の中で繰り返して、漸く意味を理解します。
「あ、すみませんっ。嫌いなら……その、仕方ないですよねっ」
誰しも苦手な食べ物くらいあってもおかしくないのですからと、ヴォルの落ち込んでいるような様子に慌てて取り繕いました。それでもベンダーツさんは横でクスクス笑っています。
もしかしなくても、わざとヴォルにマトトを買いに行かせたようでした。
「あ、気付いた?メルも少しは勘が鋭くなったねぇ」
私のジトッとした視線に気付いたのか、余計に笑みを深めるベンダーツさんです。
もぅ、意地悪なんですから──でも、これでヴォルの嫌いな物を一つ知る事が出来ました。
「……美味しいのに」
それでもこの甘さは珍しくて、食べられないヴォルを少し残念に思いながらもう一口かじります。──と思ったら、突然私のマトトを持った手首を掴まれました。
そしてそのままそれがヴォルの口に運ばれます。何がという問いは必要ありませんよね、勿論私の口にしたマトトでした。
──ええっ?!
信じがたい光景に思わず目で追ってしまいましたが、ヴォルがそれを口にしたのです。
彼の口の中で咀嚼し、嚥下されたマトト。最終的に半分程手元に残ったそれを見て、私の顔は有り得ないほど熱くなりました。
何故かその行為は口付けよりも卑猥に感じられたのです。
「うわ!食べたよ、マトト。凄いな、メルの力は。俺がどれだけ言っても口にしなかったのに。異変は起こるものだねぇ?」
一人で騒いでいるベンダーツさんは、同じ物を口にした行為よりも食べた事実に焦点を当てていました。
ベンダーツさんの驚くところはそこですか。──って、異変?最近聞いた様な……。
「メルが美味いと言ったからな。……確かに甘かった。そう言えばマーク、世界に異変が起きてるらしいぞ」
口の端を親指で拭ったヴォルには、先程の辛そうな苦しそうな雰囲気は微塵も残っていませんでした。
しかもさらりと感想を口にするヴォルは、本当にマトトが食べられなかったのか疑わしくも思えてきます。
──と言うか、ついでのように世界的異変を言われました。そちらの方が重要度が高くないですか?
「……問題ない」
やっぱりヴォルの様子がおかしいです。
何処か苦しそうな感じを受けたので、心配になって顔を覗き込もうとしました。ですが彼の方が当たり前に動きが俊敏なので、理由は不明ですが顔を逸らされてしまいます。
えぇっ──もしかして、何か怒っています?!
一人でアタフタしていると、何故だか私の後ろでクスクスとベンダーツさんが笑っていました。
何なのですか、いったい──。
私は不満を乗せた顔で振り返ります。ヴォルは視線を合わせてくれないし、ベンダーツさんは笑っているだけなのですから面白くありませんでした。
「あぁ、ゴメンゴメン。あまりにも二人の掛け合いが面白くて」
そう言いながらもまだ笑っているベンダーツさんです。
ちょっとムッとしてしまう私は悪くないと、自分を慰めました。
「ヴォル、素直に言いなよ。そのままじゃ逆にメルを不安にさせてるって」
いつの間にか視線を下げていた私ですが、ベンダーツさんの柔らかな声が掛けられます。
笑う事を少しだけ控えてのベンダーツさんの言葉に、ヴォルが渋々口を開きました。
「……苦手……なんだ。……マトトが……食べられない」
珍しくはっきりとしない、消え入りそうな声音のヴォルです。
それでもその言葉を聞き、私は思わず瞬きをしました。食べられない──と何度も頭の中で繰り返して、漸く意味を理解します。
「あ、すみませんっ。嫌いなら……その、仕方ないですよねっ」
誰しも苦手な食べ物くらいあってもおかしくないのですからと、ヴォルの落ち込んでいるような様子に慌てて取り繕いました。それでもベンダーツさんは横でクスクス笑っています。
もしかしなくても、わざとヴォルにマトトを買いに行かせたようでした。
「あ、気付いた?メルも少しは勘が鋭くなったねぇ」
私のジトッとした視線に気付いたのか、余計に笑みを深めるベンダーツさんです。
もぅ、意地悪なんですから──でも、これでヴォルの嫌いな物を一つ知る事が出来ました。
「……美味しいのに」
それでもこの甘さは珍しくて、食べられないヴォルを少し残念に思いながらもう一口かじります。──と思ったら、突然私のマトトを持った手首を掴まれました。
そしてそのままそれがヴォルの口に運ばれます。何がという問いは必要ありませんよね、勿論私の口にしたマトトでした。
──ええっ?!
信じがたい光景に思わず目で追ってしまいましたが、ヴォルがそれを口にしたのです。
彼の口の中で咀嚼し、嚥下されたマトト。最終的に半分程手元に残ったそれを見て、私の顔は有り得ないほど熱くなりました。
何故かその行為は口付けよりも卑猥に感じられたのです。
「うわ!食べたよ、マトト。凄いな、メルの力は。俺がどれだけ言っても口にしなかったのに。異変は起こるものだねぇ?」
一人で騒いでいるベンダーツさんは、同じ物を口にした行為よりも食べた事実に焦点を当てていました。
ベンダーツさんの驚くところはそこですか。──って、異変?最近聞いた様な……。
「メルが美味いと言ったからな。……確かに甘かった。そう言えばマーク、世界に異変が起きてるらしいぞ」
口の端を親指で拭ったヴォルには、先程の辛そうな苦しそうな雰囲気は微塵も残っていませんでした。
しかもさらりと感想を口にするヴォルは、本当にマトトが食べられなかったのか疑わしくも思えてきます。
──と言うか、ついでのように世界的異変を言われました。そちらの方が重要度が高くないですか?
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