430 / 515
第九章
5.不安なら【5】
しおりを挟む
「こ、こんな事って……」
「どうするよ、兄貴。……俺達で歯向かえる相手か?」
「くそっ、逃げるぞっ。覚えてやがれっ!」
ヴォルの魔法で吹き飛ばされた人を助け起こしつつ、口々に弱気な討論が交わされていました。
そしてこちらを振り返ったかと思うと、再び定番の悪役っぽい捨て台詞を残して賊さん達が逃亡します。
「誰が覚えておくか。Kaze no ami.」
でもヴォルはそれを逃しませんでした。
そもそも一番離れている私にも聞こえる相談内容でしたから、撤退する事はヴォルにも当たり前に届いています。更には町の出入口にいた私達ですから、賊さん達の逃亡方向は予想通り町の外へ向けてでした。
ヴォルは走り去る彼等の背に向け、静かに風の魔法を放ちます。
「ぅわっ!?」
それはもう一網打尽でした。
風の魔力で作られた網は、まるで大漁のお魚の如く賊さん達を捕らえます。
十人程の男の人達は絡まるように一纏めにされ、互いの怒号に包まれて何を言っているのかも分からない状態になっていました。
「お疲れさまです、ヴォルティ様」
突然のベンダーツさん登場に、私はビクッと肩を跳ねさせて驚きます。
接近に気付いていたらしきヴォルは全く普通に振り返りました。
「遅かったな」
「えぇ、申し訳ございません。なかなか話を信じてくれないものですから、思ったより手間取ってしまいました」
ヴォルの問い掛けに、少しだけ申し訳なさそうにベンダーツさんが頭を下げます。
相変わらずこれだけで二人の会話は成り立っていました。もしかしなくても、この事態を分かっていたという事でしょうか。
小首を傾げた私の視界に、ベンダーツさんの後ろ──町側からぞろぞろ現れる騎士の方々が入りました。
「メルシャ様にお怪我は……ございませんよね、はい。……ヴォルティ様、そんなに睨まないでください。貴方様がお傍にいらして、何かある筈もない事は分かっております。念の為にお伺いしただけではありませんか」
私に声を掛けてくれたのですが、ヴォルが間に立ち塞がってしまいます。前方をヴォルの背中が覆い、焦ったような呆れたようなベンダーツさんの声しか聞こえませんでした。
それよりも賊さん達を捕らえに来たらしい騎士団の方達は、魔法で捕らえられた彼等を見て同情的な視線を向けています。
私も驚きましたが、なかなか人がこのような状態になるところは目にしないと確信出来ました。
「相手が悪かったのですよ、貴方達は。もう少し相手を見て選びなさい。騎士団の方々、後は宜しくお願いします」
ベンダーツさんは冷たく彼等に告げます。
そしてヴォルの魔法から解放された賊さん達は、大人しく騎士団の方に縄で縛られていました。
しかしながら今彼等がこの場で再度暴れたところで、同じ結果しか想像出来ません。
「あの……、ヴォルとベンダーツさんは知っていたのですか?」
今更ですが、私は二人に問い掛けました。
いつからなのかも私は全く気付かず、ただ大口を開けて船を見上げていたのです。ヴォルから急に『散歩に』と言われたので、思えばあの時かもしれないと想像するくらいでした。
「悪意を感じた」
「私は計略の臭いを感じましたね」
事も無げに答えるヴォルとベンダーツさんです。
聞くところによるとどうやら散歩発言以前のようで、この町に来た頃からだったようでした。──何だか二人共、感覚が鋭すぎます。
でもそれを悟る事が可能になるだけ、今まで彼等の生きてきた道が険しかったのかもしれませんでした。
「あぁ言うのは久し振りでした。妙に懐かしく思えましたよ。ただ拙いですね。我々を貶めるならもう少し根性を入れて、罠を張るなり強力な魔法を用意するなりしないといけません」
ベンダーツさんはかなり黒い事を話しています。
でも罠や強力な魔法を用意出来ていたら、既にただの盗賊ではないような気もしました。
「どうするよ、兄貴。……俺達で歯向かえる相手か?」
「くそっ、逃げるぞっ。覚えてやがれっ!」
ヴォルの魔法で吹き飛ばされた人を助け起こしつつ、口々に弱気な討論が交わされていました。
そしてこちらを振り返ったかと思うと、再び定番の悪役っぽい捨て台詞を残して賊さん達が逃亡します。
「誰が覚えておくか。Kaze no ami.」
でもヴォルはそれを逃しませんでした。
そもそも一番離れている私にも聞こえる相談内容でしたから、撤退する事はヴォルにも当たり前に届いています。更には町の出入口にいた私達ですから、賊さん達の逃亡方向は予想通り町の外へ向けてでした。
ヴォルは走り去る彼等の背に向け、静かに風の魔法を放ちます。
「ぅわっ!?」
それはもう一網打尽でした。
風の魔力で作られた網は、まるで大漁のお魚の如く賊さん達を捕らえます。
十人程の男の人達は絡まるように一纏めにされ、互いの怒号に包まれて何を言っているのかも分からない状態になっていました。
「お疲れさまです、ヴォルティ様」
突然のベンダーツさん登場に、私はビクッと肩を跳ねさせて驚きます。
接近に気付いていたらしきヴォルは全く普通に振り返りました。
「遅かったな」
「えぇ、申し訳ございません。なかなか話を信じてくれないものですから、思ったより手間取ってしまいました」
ヴォルの問い掛けに、少しだけ申し訳なさそうにベンダーツさんが頭を下げます。
相変わらずこれだけで二人の会話は成り立っていました。もしかしなくても、この事態を分かっていたという事でしょうか。
小首を傾げた私の視界に、ベンダーツさんの後ろ──町側からぞろぞろ現れる騎士の方々が入りました。
「メルシャ様にお怪我は……ございませんよね、はい。……ヴォルティ様、そんなに睨まないでください。貴方様がお傍にいらして、何かある筈もない事は分かっております。念の為にお伺いしただけではありませんか」
私に声を掛けてくれたのですが、ヴォルが間に立ち塞がってしまいます。前方をヴォルの背中が覆い、焦ったような呆れたようなベンダーツさんの声しか聞こえませんでした。
それよりも賊さん達を捕らえに来たらしい騎士団の方達は、魔法で捕らえられた彼等を見て同情的な視線を向けています。
私も驚きましたが、なかなか人がこのような状態になるところは目にしないと確信出来ました。
「相手が悪かったのですよ、貴方達は。もう少し相手を見て選びなさい。騎士団の方々、後は宜しくお願いします」
ベンダーツさんは冷たく彼等に告げます。
そしてヴォルの魔法から解放された賊さん達は、大人しく騎士団の方に縄で縛られていました。
しかしながら今彼等がこの場で再度暴れたところで、同じ結果しか想像出来ません。
「あの……、ヴォルとベンダーツさんは知っていたのですか?」
今更ですが、私は二人に問い掛けました。
いつからなのかも私は全く気付かず、ただ大口を開けて船を見上げていたのです。ヴォルから急に『散歩に』と言われたので、思えばあの時かもしれないと想像するくらいでした。
「悪意を感じた」
「私は計略の臭いを感じましたね」
事も無げに答えるヴォルとベンダーツさんです。
聞くところによるとどうやら散歩発言以前のようで、この町に来た頃からだったようでした。──何だか二人共、感覚が鋭すぎます。
でもそれを悟る事が可能になるだけ、今まで彼等の生きてきた道が険しかったのかもしれませんでした。
「あぁ言うのは久し振りでした。妙に懐かしく思えましたよ。ただ拙いですね。我々を貶めるならもう少し根性を入れて、罠を張るなり強力な魔法を用意するなりしないといけません」
ベンダーツさんはかなり黒い事を話しています。
でも罠や強力な魔法を用意出来ていたら、既にただの盗賊ではないような気もしました。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる