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第十章
≪Ⅱ≫アイツが良いのか【1】
しおりを挟む五日程の航海を経て、漸くお昼御飯後にスワケット港へ到着しました。
ここは前回見た時とあまり変わりません。港町だけあって活気があり、人々が多く行き交っています。
魔法石化現象の事など、誰も知らないように見えました。
「マヌサワの話は伝わってないのですかね?」
「どうかなぁ。後で聞いてみるけど……メルの方は身体の調子、大丈夫かい?」
私は思わず内心をポツリと呟きます。
あまりにも町の様子が変わりなく、私は情報規制の可能性も考えました。
独り言のような問いに答えてくれたベンダーツさんが、逆に私の具合を心配してくれます。
でも私の船酔いですが、実は今回の旅では初めの頃だけだったのでした。つまりはベンダーツさん特製の薬草粥を食べてからは、全く元気に過ごせたのです。
ちなみにヴォルも薬草粥を食べてからは、魔法は使えない以外の肉体的動作に支障はないように見えました。
「はい、大丈夫です。マークさんが美味しい食事を作ってくれていましたから」
私はベンダーツさんにニッコリと微笑んでみます。
薬草粥は初めの頃に食べていただけでした。その後は酔い止めの薬草などを使って、分からないように調理をしてくれていたようです。
何故知っているのか──それは、チラリと調理中の様子を見てしまったからでした。私はお城でベンダーツさんから薬草の知識を教えてもらっていたので見ただけで分かったのです。
「そ。俺の料理は最高って話だね?」
「はい、そうですね」
笑みを浮かべたベンダーツさんでした。
ヴォルも魔力の消耗が落ち着いてからは体調も良さそうで、きっとそれもベンダーツさんが調理に工夫をされていたのだと思います。
しかしながら何気にこの時、ヴォルの視線を感じました。でも二人きりで話していた訳ではなく、隣にヴォルも一緒だったので問題はない筈です。
「今日はここで休むか」
「そうだなぁ。今から町の外に出たんじゃウクレサの森の中で野宿になるから、明日の朝早くに出た方が無難か……。よし、俺が宿を取ってくるから。ヴォルとメルは買い物でもしておいてくれる?」
「あぁ」
「いってらっしゃいです、マークさん」
手を振りながら駆けていくベンダーツさんの背中を見送り、私達は商店の方へ足を向けました。
ですが買い物と言っても、普段はベンダーツさんの役回りが多いのです。それなのではっきり言って、足りないものや必要なものが分かりませんでした。
「何を買いましょうか」
「メルの欲しいものを買えば良い。過不足は後でアイツが考える」
ヴォルは全く気にしていないようで、装飾品や服屋などを覗いては私に合わせてきます。
可愛いのですが、──しかしながらそのようなものは旅に必要ないと庶民思考の私は判断しました。それに旅の荷物を無作為に増やすのは得策とは思えませんから、今ここで買ってもらう訳にはいきません。
私は都度『いらないです』『必要ないです』と首を横に振るのですが、ヴォルは自分で気に入ったものを次々と購入していきました。
「あの、ヴォル?本当に旅で必要な物を買わないと、お金がなくなってしまいますよ?」
「問題ない。アイツが持っている。俺がメルに買うのは気に入らないのか?料理……アイツが良いのか?」
手荷物でヴォルの片腕が山盛りになってしまった頃、私はストップの意味を込めて彼に問い掛けます。反対側は私と手を繋いでいました。
でも何故か突然、真剣な表情で問い掛けてくるヴォルでした。
──えっと、どうしたのです?
どうしてここで比較対象がベンダーツさんの料理なのでしょうか。
「いえ、あの……気に入らないとかではなくてですね?」
私はヴォルと彼の持つ荷物の山で視線を行き来させました。
『買うのが気に入らない』とか言われていましたが、ヴォルの買ってくれた品はどれも素敵です。それこそ、私が何ヵ月も働いて手に入るかどうかの高級品も多くありました。
それでもこのような旅先で、贅を尽くしている場合ではないと思うのです。──というかいったいどうしたというのでしょうか、ヴォルの様子がおかしいです。
しかしながらこんな往来で立ち止まる私達は、明らかに人目を引いているのだと気付きました。
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