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1.異世界転生なんて本当にあるんだ
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「はぁあ~。今日の部活は一段とキツかったぁ。先輩ってば、試合に負けたのは応援が足りないからだって。普通にレギュラー陣の力不足だろ、っての」
オレはクタクタの足を惰性で動かしながら、最寄りのバス停に向かっていた。
今は部活帰りの日暮れ時で、既に空は藍色になってきている。
「如月刀利っ」
「っ、はい!」
そんな、身も心も黄昏るオレの背後へ。大声でオレの名を呼ぶ、図太い声が突き付けられた。
先程までの部活で。その声を嫌と言う程に聞かされたオレとしては、どうしても反射的に体育会系のノリで返答を返してしまう。──まぁどんな返答でも、あの先輩には関係ないのだろうが。
「返事が小さいっ。バス停前の信号まで、ダッシュ!」
「っ、分かりました!」
「ゴー!」
「はいっ!」
そして理不尽にも、オレは疲れた身体へ鞭打つように更なる走りを求められた。
ちなみに先程校門を出たばかりの高校から、目的のバス停までは徒歩で二十分掛かる。それを──今まで部活動の中でグラウンドを何十周走ったか分からないオレに対し、何て不当にまみれた仕打ちだ。
「おいっ。もっと早く走れんのか!」
「は、はい!」
先輩は自転車。
オレはダッシュ。
こういうのは、可愛い女の子マネージャーとかにされてファイトが出るってものだと思う。百歩譲っても、可愛い系の男子だ。
だがオレは、ゴツイ男代表と言わんばかりの先輩に走らされている。
不当に。
理不尽に。
何かもう、泣きそう。──いや違う。そんなにオレ、繊細じゃなかった。
※ ※ ※ ※ ※
そうして走る事、十数分。漸くゴールとなる信号までやって来た。
「よし、今日はここまでっ。じゃあまた明日な!」
「お疲れ、様、でしたっ」
停まる事なく自転車で走り去っていく先輩の背中に、息も絶え絶えなオレ。それでも健気に、御別れの挨拶を告げる。
信号はちょうどというべきか赤で、オレはそのまま崩れ落ちるように座り込んだ。
もう本当に勘弁して欲しいと、内心で先輩に対して非難轟々のオレ。さすがに自転車に煽られてのダッシュは肉体的に限界で、呼吸すら通常のスムーズな状態に戻せない。
そんな中、不意に周囲の声が耳に入ってきた。
「危ないんじゃない?」
「あれ、轢かれちゃうよ」
何が?と思いながら視線をあげ、オレは目を見開く。
そこには、アスファルト上の白い物体。
オレの通う高校は町立で、つまりは田舎の公立高校だ。そして更に山奥にある村民であるオレ──は、さておき。一応道路はアスファルトで覆われているが、周囲は山と木と土と岩が殆どである。
当然のように町内には信号なんて数える程しかなく、野生動物の方が下手したら人間より生息していると思われるド田舎なここだ。
猪や鹿、熊やイタチにフクロウなんて見た事ない──なんて言う人間はいないんじゃないかってくらい、大自然に溢れてる。
だから目の前の道路にイタチがいてもおかしくはないのだけど、その向こうに見える大型車が問題だった。
この町を走る大通りなだけあって、大型トラックが走っていてもむしろ当然の事。よく道路上に野生動物の轢死体があっても、田舎あるあるなんだとは思う。
でもダメなんだ。
オレ、フェレット飼っててさ。イタチって、もはやフェレットじゃん?
「危ないっ!」
「キャーッ」
キキキーッ!
飛び交う怒声、悲鳴、ブレーキ音。そして、宙を舞う鞄。
オレ、飛び出しちゃった。──むしろ自然の流れってやつかな。
頭の中で、オレのキーとラギーの二匹が跳び跳ねてた。──ネーミングセンスについては、聞く耳持たないから。
※ ※ ※ ※ ※
「おい、またかよ。ってか、今度は如月か」
「刀利、お前も不運だよなぁ」
「そうそう。あの先輩に目を付けられたら、俺なら裸足で逃げ出す」
クラスメイト達に野次られながら、オレは苦笑いで溜め息を圧し殺す。
サッカー部の先輩である坂崎に、事あるごとに呼び出されるようになって早一月。初めは何の因果かと思っていたが、少し前に隣クラスの女子達が話しているのを偶然耳にして真相を知った。
「マオったら、坂崎先輩と別れる理由に、如月君が好きになったからって言ったそうよ?」
「あぁ~。だから坂崎先輩、最近如月君に辛く当たってるのかぁ」
「そうなのよぉ。でも、今付き合ってるのって、新見君じゃん?」
「だよねぇ。如月君、可哀想~」
本当だよ。だいたい、マオって誰よ。八つ当たりですらねぇよ。
坂崎の追跡を交わしてトイレに立て込もっていたオレは、中庭の大声でやり取りされる噂話を聞いてしまう。
そもそもが小さな高校なのだ。クラスは学年に三クラスないし、二クラス。付き合っただの別れただの、この年代には当たり前のように日々の一コマの筈である。
それが、坂崎には理解出来ないようだ。──いや、オレにも理解出来ない。何故別れたい相手をオレにふる。
付き合ったのだから、別れる事にも自ら責任を取って欲しいのだ。見ず知らずのオレに擦り付けるのではなく、である。
オレはクタクタの足を惰性で動かしながら、最寄りのバス停に向かっていた。
今は部活帰りの日暮れ時で、既に空は藍色になってきている。
「如月刀利っ」
「っ、はい!」
そんな、身も心も黄昏るオレの背後へ。大声でオレの名を呼ぶ、図太い声が突き付けられた。
先程までの部活で。その声を嫌と言う程に聞かされたオレとしては、どうしても反射的に体育会系のノリで返答を返してしまう。──まぁどんな返答でも、あの先輩には関係ないのだろうが。
「返事が小さいっ。バス停前の信号まで、ダッシュ!」
「っ、分かりました!」
「ゴー!」
「はいっ!」
そして理不尽にも、オレは疲れた身体へ鞭打つように更なる走りを求められた。
ちなみに先程校門を出たばかりの高校から、目的のバス停までは徒歩で二十分掛かる。それを──今まで部活動の中でグラウンドを何十周走ったか分からないオレに対し、何て不当にまみれた仕打ちだ。
「おいっ。もっと早く走れんのか!」
「は、はい!」
先輩は自転車。
オレはダッシュ。
こういうのは、可愛い女の子マネージャーとかにされてファイトが出るってものだと思う。百歩譲っても、可愛い系の男子だ。
だがオレは、ゴツイ男代表と言わんばかりの先輩に走らされている。
不当に。
理不尽に。
何かもう、泣きそう。──いや違う。そんなにオレ、繊細じゃなかった。
※ ※ ※ ※ ※
そうして走る事、十数分。漸くゴールとなる信号までやって来た。
「よし、今日はここまでっ。じゃあまた明日な!」
「お疲れ、様、でしたっ」
停まる事なく自転車で走り去っていく先輩の背中に、息も絶え絶えなオレ。それでも健気に、御別れの挨拶を告げる。
信号はちょうどというべきか赤で、オレはそのまま崩れ落ちるように座り込んだ。
もう本当に勘弁して欲しいと、内心で先輩に対して非難轟々のオレ。さすがに自転車に煽られてのダッシュは肉体的に限界で、呼吸すら通常のスムーズな状態に戻せない。
そんな中、不意に周囲の声が耳に入ってきた。
「危ないんじゃない?」
「あれ、轢かれちゃうよ」
何が?と思いながら視線をあげ、オレは目を見開く。
そこには、アスファルト上の白い物体。
オレの通う高校は町立で、つまりは田舎の公立高校だ。そして更に山奥にある村民であるオレ──は、さておき。一応道路はアスファルトで覆われているが、周囲は山と木と土と岩が殆どである。
当然のように町内には信号なんて数える程しかなく、野生動物の方が下手したら人間より生息していると思われるド田舎なここだ。
猪や鹿、熊やイタチにフクロウなんて見た事ない──なんて言う人間はいないんじゃないかってくらい、大自然に溢れてる。
だから目の前の道路にイタチがいてもおかしくはないのだけど、その向こうに見える大型車が問題だった。
この町を走る大通りなだけあって、大型トラックが走っていてもむしろ当然の事。よく道路上に野生動物の轢死体があっても、田舎あるあるなんだとは思う。
でもダメなんだ。
オレ、フェレット飼っててさ。イタチって、もはやフェレットじゃん?
「危ないっ!」
「キャーッ」
キキキーッ!
飛び交う怒声、悲鳴、ブレーキ音。そして、宙を舞う鞄。
オレ、飛び出しちゃった。──むしろ自然の流れってやつかな。
頭の中で、オレのキーとラギーの二匹が跳び跳ねてた。──ネーミングセンスについては、聞く耳持たないから。
※ ※ ※ ※ ※
「おい、またかよ。ってか、今度は如月か」
「刀利、お前も不運だよなぁ」
「そうそう。あの先輩に目を付けられたら、俺なら裸足で逃げ出す」
クラスメイト達に野次られながら、オレは苦笑いで溜め息を圧し殺す。
サッカー部の先輩である坂崎に、事あるごとに呼び出されるようになって早一月。初めは何の因果かと思っていたが、少し前に隣クラスの女子達が話しているのを偶然耳にして真相を知った。
「マオったら、坂崎先輩と別れる理由に、如月君が好きになったからって言ったそうよ?」
「あぁ~。だから坂崎先輩、最近如月君に辛く当たってるのかぁ」
「そうなのよぉ。でも、今付き合ってるのって、新見君じゃん?」
「だよねぇ。如月君、可哀想~」
本当だよ。だいたい、マオって誰よ。八つ当たりですらねぇよ。
坂崎の追跡を交わしてトイレに立て込もっていたオレは、中庭の大声でやり取りされる噂話を聞いてしまう。
そもそもが小さな高校なのだ。クラスは学年に三クラスないし、二クラス。付き合っただの別れただの、この年代には当たり前のように日々の一コマの筈である。
それが、坂崎には理解出来ないようだ。──いや、オレにも理解出来ない。何故別れたい相手をオレにふる。
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