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1.異世界転生なんて本当にあるんだ
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※ ※ ※ ※ ※
「あ、起きた」
そんな軽い調子の声が聞こえる。
オレは重たい目蓋を、眉間にシワ寄せながら開く。が──何処よ、ここ。
目を開けている筈なのだが、何も見えない。──いや、違う。見る物がないのだ。
真っ白な空間といって良いのだろうここは、明らかに病院とは違う。
あの特有の薬臭さもなく──そもそも天井やライト、壁も扉も存在していないのだ。
「ぅおっ!?」
「あ~、思ったより元気そうだな」
「っ!」
自分の現状を理解したと同時に、何故かオレは浮いている事に気付く。
もう──良く見る、マジックの宙に浮かせました状態だ。焦らない方がおかしい。
オレがワタワタと不格好に手足をバタつかせていると、また先程の軽い感じのコメントが投げ掛けられた。──いや、誰よ。
オレは何とか体勢を整え、足を下──ちなみに地面すらない──に降ろして直立の姿勢だけとる。
けれども改めて見回しても、何もない。本当に真っ白、ただそれだけ。
「何処だ、ここ」
「ふぅん。案外冷静になるの早いね」
呟いたオレの言葉へ返すでもなく、相変わらず軽いコメントが何処からか聞こえる。
これ、おかしい。
オレから表情がスンと抜け落ちた。
考えろ、オレ。今は感情とかどうでも良い。
真っ白な何もない空間で、聞こえる声は何処からでもない。相手の姿すら見えず、でもはっきりと聞こえるのだから、むしろ脳内に直接──な訳ないか。
「おぉ、優秀。キミ、なかなか見所があるね」
上から目線の声に、少しだけカチンと来た。
でも多分、本当に上位の存在なのだろう。
オレが話さずとも、この相手はオレの思考を読み取っているようだ。──まぁ、良い気はしないが。
「あぁ、不快にさせたのか。難しいな」
「……オレがここにいる理由は何ですか」
僅かに困惑を浮かべた声に対し、オレは敬語で問い掛ける。
本能的に、逆らって得をしない相手であると分かってしまったからだ。
「キミがここにいる理由は、キミが察している通りだよ」
「………………死んだのですね」
「そうとも言う」
「っ」
ドクンとかズキンとか、そういった感覚が全身を襲う。
現状では心臓なんてあるのか分からないけれど、オレの記憶している肉体の反応なのだろうそれ。苦しくて息が出来ない。でも、実際に息をしていないオレ。
「あぁ、主様。恩人様を虐めないで下さい」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ。わたしは事実のみを話して聞かせているだけではないか」
「その言い方ですよ。スパンと本当の事を言うだけでは、相手に理解してもらえないんですって」
「手間の掛かる事だね。もう、お前が説明しなよ」
「え、良いんですか?ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして……あ、恩人様に姿を御見せする事が出来ますよう、少し御力を御貸しください」
「全く、お前も手間の掛かる事だ」
「はい、申し訳ないです」
そんなやり取りの後──オレの視界に映る真っ白な空間に、違う白色が現れた。
混乱しているオレでも、理解出来るその姿。記憶の中で、色褪せたアスファルトの上を歩いていた白いイタチである。
「あ……、イタチ」
「どうも、その節は大変御世話になりました。お蔭様でこうして五体満足、戻ってくる事が出来ました。大変感謝しております」
「……どうも」
まるでサラリーマンの社交辞令的な、何だかおかしな──いや。そも、イタチって話さないよね。
少し堅苦しいイタチとのやり取りに、いつの間にか普段のオレが戻ってきている。
「こうして手前が無傷でいられたのも、恩人様のお蔭様でございます。つきましては、何卒御礼をさせて頂きたく存じます。どうか御希望などを御聞かせ下さいませんか?」
「オレを生き返らす……ってのは」
「無理だな」
「大変心苦しいのですが、恩人様の御身体は既に荼毘に付されております」
「キミが起きる迄に、向こう時間で一月掛かったのだ」
完全に死んでいた。
声とイタチが交互に突き付けてくる現実。一ヶ月も前に、オレという存在が消えている。
「ちなみにキミ、上半身は綺麗なものだったよ。覚えてるかな。これ……あ、キミの分かりやすい単語で言うなら、わたしの使い魔ね。で、救う為に大型車両の前に飛び出して。もう一度跳躍出来れば助かったのにね」
あぁ、覚えている。──というか、思い出した。野生動物を救いたくて道路に飛び出したんだ。それでトラックが到達する前に、胸に抱いたイタチと共にもう一度大地を踏み込んだんだけど。
ふくらはぎ辺りに鋭い痛みが走って、カクッて力が抜けた。結果的に身体を伸ばしただけに終わって。──腹の辺りに熱が広がったんだ。
道路に倒れたオレの腕から、イタチがビクビクしながら出てきたっけ。その目が合って、あぁフェレットにやっぱり似てるなって思ったんだ。
そうか。白い生き物は神の使いとか聞いた事あるけど、本当にそうだったんだな。
「あ、起きた」
そんな軽い調子の声が聞こえる。
オレは重たい目蓋を、眉間にシワ寄せながら開く。が──何処よ、ここ。
目を開けている筈なのだが、何も見えない。──いや、違う。見る物がないのだ。
真っ白な空間といって良いのだろうここは、明らかに病院とは違う。
あの特有の薬臭さもなく──そもそも天井やライト、壁も扉も存在していないのだ。
「ぅおっ!?」
「あ~、思ったより元気そうだな」
「っ!」
自分の現状を理解したと同時に、何故かオレは浮いている事に気付く。
もう──良く見る、マジックの宙に浮かせました状態だ。焦らない方がおかしい。
オレがワタワタと不格好に手足をバタつかせていると、また先程の軽い感じのコメントが投げ掛けられた。──いや、誰よ。
オレは何とか体勢を整え、足を下──ちなみに地面すらない──に降ろして直立の姿勢だけとる。
けれども改めて見回しても、何もない。本当に真っ白、ただそれだけ。
「何処だ、ここ」
「ふぅん。案外冷静になるの早いね」
呟いたオレの言葉へ返すでもなく、相変わらず軽いコメントが何処からか聞こえる。
これ、おかしい。
オレから表情がスンと抜け落ちた。
考えろ、オレ。今は感情とかどうでも良い。
真っ白な何もない空間で、聞こえる声は何処からでもない。相手の姿すら見えず、でもはっきりと聞こえるのだから、むしろ脳内に直接──な訳ないか。
「おぉ、優秀。キミ、なかなか見所があるね」
上から目線の声に、少しだけカチンと来た。
でも多分、本当に上位の存在なのだろう。
オレが話さずとも、この相手はオレの思考を読み取っているようだ。──まぁ、良い気はしないが。
「あぁ、不快にさせたのか。難しいな」
「……オレがここにいる理由は何ですか」
僅かに困惑を浮かべた声に対し、オレは敬語で問い掛ける。
本能的に、逆らって得をしない相手であると分かってしまったからだ。
「キミがここにいる理由は、キミが察している通りだよ」
「………………死んだのですね」
「そうとも言う」
「っ」
ドクンとかズキンとか、そういった感覚が全身を襲う。
現状では心臓なんてあるのか分からないけれど、オレの記憶している肉体の反応なのだろうそれ。苦しくて息が出来ない。でも、実際に息をしていないオレ。
「あぁ、主様。恩人様を虐めないで下さい」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ。わたしは事実のみを話して聞かせているだけではないか」
「その言い方ですよ。スパンと本当の事を言うだけでは、相手に理解してもらえないんですって」
「手間の掛かる事だね。もう、お前が説明しなよ」
「え、良いんですか?ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして……あ、恩人様に姿を御見せする事が出来ますよう、少し御力を御貸しください」
「全く、お前も手間の掛かる事だ」
「はい、申し訳ないです」
そんなやり取りの後──オレの視界に映る真っ白な空間に、違う白色が現れた。
混乱しているオレでも、理解出来るその姿。記憶の中で、色褪せたアスファルトの上を歩いていた白いイタチである。
「あ……、イタチ」
「どうも、その節は大変御世話になりました。お蔭様でこうして五体満足、戻ってくる事が出来ました。大変感謝しております」
「……どうも」
まるでサラリーマンの社交辞令的な、何だかおかしな──いや。そも、イタチって話さないよね。
少し堅苦しいイタチとのやり取りに、いつの間にか普段のオレが戻ってきている。
「こうして手前が無傷でいられたのも、恩人様のお蔭様でございます。つきましては、何卒御礼をさせて頂きたく存じます。どうか御希望などを御聞かせ下さいませんか?」
「オレを生き返らす……ってのは」
「無理だな」
「大変心苦しいのですが、恩人様の御身体は既に荼毘に付されております」
「キミが起きる迄に、向こう時間で一月掛かったのだ」
完全に死んでいた。
声とイタチが交互に突き付けてくる現実。一ヶ月も前に、オレという存在が消えている。
「ちなみにキミ、上半身は綺麗なものだったよ。覚えてるかな。これ……あ、キミの分かりやすい単語で言うなら、わたしの使い魔ね。で、救う為に大型車両の前に飛び出して。もう一度跳躍出来れば助かったのにね」
あぁ、覚えている。──というか、思い出した。野生動物を救いたくて道路に飛び出したんだ。それでトラックが到達する前に、胸に抱いたイタチと共にもう一度大地を踏み込んだんだけど。
ふくらはぎ辺りに鋭い痛みが走って、カクッて力が抜けた。結果的に身体を伸ばしただけに終わって。──腹の辺りに熱が広がったんだ。
道路に倒れたオレの腕から、イタチがビクビクしながら出てきたっけ。その目が合って、あぁフェレットにやっぱり似てるなって思ったんだ。
そうか。白い生き物は神の使いとか聞いた事あるけど、本当にそうだったんだな。
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