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1.異世界転生なんて本当にあるんだ
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「じゃあ次、ね。大丈夫?」
「……っ、はい。御手間を取らせてしまって、申し訳ないです」
「良いんですよ、恩人様。主様にはもう少し手伝ってもらいましょうよ」
「お前、だんだんわたしの扱いが雑になってきてないかい?」
「気のせいですよ、主様。嫌だなぁ、被害妄想だなんて」
何もない真っ白な空間にも少し慣れてきていて。宙に浮いた状態のオレと白いイタチしか見えるものはないけれども、声とイタチのやり取りが心を和ませる。
さすがに両親に別れを告げた事で、オレの中の郷愁がだいぶ薄れた。心残り──だったんだよな、さすがに。高二で死去とか、普通に両親に悪いと思う。
そして──
「あ……、如月刀利……」
目の前に、あの先輩──いや、もう違うか。坂崎はオレを前にして、物凄く目を見開いていた。
何だか少し痩せて──窶れて?見える気もする。
「……俺に恨みでも言いに来たか」
坂崎の夢の中だからか、周囲に見える景色は学校だった。
しかも坂崎はあの日の格好で、あの時間に見た空の色。──嫌がらせか?とも思ったけど、どうやら少し違うみたいで。
「申し訳ない事をしたっ」
「っ」
突然その場に土下座されて、さすがにオレも焦る。
何を言おうかとか考えていたけど──坂崎は涙を流していたんだ。
「如月刀利が事故死したと、翌日の朝礼で聞いた。職員室に乗り込んで状況を詳しく聞いて……、俺のせいかと思った。俺があの時あれ程走らせたから……如月刀利は車を避けきれなかったんじゃないかと……思ったんだ」
土下座姿勢のまま、坂崎は語る。──まぁ、概ね間違ってはいない。
理不尽な仕打ちに怒りを覚えていたし、そもそもオレは無関係だった。単純にパワハラだったから、不当な処遇に物申しても非はない筈である。
けれども、坂崎の夢に入る前に声が言っていた。
坂崎はオレの死因に──直接ではないにしろ、関与していたと周囲に訴えたらしい。警察にもそう申告しに行ったそうだ。
でも当然ながらトラックの運転手が現行犯逮捕されていて、坂崎に罪を償う場を誰も設けてはくれなかった。
オレの両親も、教員も──学校の他の生徒だって、坂崎に何も言わない。それが坂崎には堪えたのか、彼は学生生活残り半年を前にして、自主退学をしたようだ。
そして仏門の世界に入り、今は僧侶になる為に修行しているらしい。
「本当に済まなかった。如月刀利……俺を許せとは、口が裂けても言えない。恨んでくれて良い。けれどマオは……」
地面に額を擦り付けるように、坂崎は続けた。──ってか、いい加減、毎度フルネームで呼ぶのウザい。
そう、そう。それも聞いたな。オレの見ず知らずの相手、マオなる人物。
その女生徒も、今回のオレの事故死に思うところがあったらしい。何でもその後、心を病んで引きこもりになったとか。
自傷を繰り返していて、今では精神科に入院しているらしい。
「何度も言いましたけど。オレ、その子知らないんで」
「っ……如月刀利、そんな」
「だから、フルネーム呼びウザいですって。それに、そのマオ?さんはオレが呪ってるとか祟ってるとかじゃないんで、オレに許しを懇願されても困ります。坂崎、先輩の事は……少し怒りを覚えていましたけど、正直もうどうでも良いです」
「如月刀利っ」
「……どうでも良いんで、オレの責任にしないで下さい」
「如月と……」
「んじゃ、本当にさよならです」
「きさら……」
プツリとテレビを消すかのように、坂崎が消えた。──最後までオレをフルネーム呼びしようとするものだから、被せ気味に別れの言葉で終わらせた感がある。
でも、何だかもう良い。恨み辛みも言いたかった筈なのに、坂崎が坊さんの修行しているとか聞いて──あの泣く姿を見て、そんな気が失せた。
囚われていたのは坂崎の方で、オレじゃない。あの景色がそれを実感させてくれた。
「もう良いのか?存外淡白だな」
「もう終わった事をグダグダと続けても仕方ないんで」
「さすがです、恩人様。手前、これからは恩人様に尽くす所存でございます」
「あ~……、そう言うのも良いんで。………………でもオレと来てくれるのは、本当に嬉しい。ありがとう、イタチ」
「うは~っ、聞きました?!こういうのをツンデレとか言うのでしょうかっ。主様、恩人様のこのお心遣い、とても素晴らしいですっ!」
「あぁ、分かったからそう興奮するな。では、もう良いのだな?」
「はい。色々と配慮して下さり、ありがとうございました」
「ふむ……、良いさ。永く在ると、こういった事にも出会うのだろう。まぁわたしもそれなりに楽しめたから、キミには追加で贈り物をやろう。それでは、な」
「ありがとうございました」
「主様、ありがとうございますっ」
贈り物?と小首を傾げそうになったが、何やら身体が透けて来ていたので再度感謝の言葉を告げる。
隣で同じ様に白いイタチも小さな頭部を下げていて、何だかとても可愛く思った。──それがここでの、オレの最後の記憶。
「……っ、はい。御手間を取らせてしまって、申し訳ないです」
「良いんですよ、恩人様。主様にはもう少し手伝ってもらいましょうよ」
「お前、だんだんわたしの扱いが雑になってきてないかい?」
「気のせいですよ、主様。嫌だなぁ、被害妄想だなんて」
何もない真っ白な空間にも少し慣れてきていて。宙に浮いた状態のオレと白いイタチしか見えるものはないけれども、声とイタチのやり取りが心を和ませる。
さすがに両親に別れを告げた事で、オレの中の郷愁がだいぶ薄れた。心残り──だったんだよな、さすがに。高二で死去とか、普通に両親に悪いと思う。
そして──
「あ……、如月刀利……」
目の前に、あの先輩──いや、もう違うか。坂崎はオレを前にして、物凄く目を見開いていた。
何だか少し痩せて──窶れて?見える気もする。
「……俺に恨みでも言いに来たか」
坂崎の夢の中だからか、周囲に見える景色は学校だった。
しかも坂崎はあの日の格好で、あの時間に見た空の色。──嫌がらせか?とも思ったけど、どうやら少し違うみたいで。
「申し訳ない事をしたっ」
「っ」
突然その場に土下座されて、さすがにオレも焦る。
何を言おうかとか考えていたけど──坂崎は涙を流していたんだ。
「如月刀利が事故死したと、翌日の朝礼で聞いた。職員室に乗り込んで状況を詳しく聞いて……、俺のせいかと思った。俺があの時あれ程走らせたから……如月刀利は車を避けきれなかったんじゃないかと……思ったんだ」
土下座姿勢のまま、坂崎は語る。──まぁ、概ね間違ってはいない。
理不尽な仕打ちに怒りを覚えていたし、そもそもオレは無関係だった。単純にパワハラだったから、不当な処遇に物申しても非はない筈である。
けれども、坂崎の夢に入る前に声が言っていた。
坂崎はオレの死因に──直接ではないにしろ、関与していたと周囲に訴えたらしい。警察にもそう申告しに行ったそうだ。
でも当然ながらトラックの運転手が現行犯逮捕されていて、坂崎に罪を償う場を誰も設けてはくれなかった。
オレの両親も、教員も──学校の他の生徒だって、坂崎に何も言わない。それが坂崎には堪えたのか、彼は学生生活残り半年を前にして、自主退学をしたようだ。
そして仏門の世界に入り、今は僧侶になる為に修行しているらしい。
「本当に済まなかった。如月刀利……俺を許せとは、口が裂けても言えない。恨んでくれて良い。けれどマオは……」
地面に額を擦り付けるように、坂崎は続けた。──ってか、いい加減、毎度フルネームで呼ぶのウザい。
そう、そう。それも聞いたな。オレの見ず知らずの相手、マオなる人物。
その女生徒も、今回のオレの事故死に思うところがあったらしい。何でもその後、心を病んで引きこもりになったとか。
自傷を繰り返していて、今では精神科に入院しているらしい。
「何度も言いましたけど。オレ、その子知らないんで」
「っ……如月刀利、そんな」
「だから、フルネーム呼びウザいですって。それに、そのマオ?さんはオレが呪ってるとか祟ってるとかじゃないんで、オレに許しを懇願されても困ります。坂崎、先輩の事は……少し怒りを覚えていましたけど、正直もうどうでも良いです」
「如月刀利っ」
「……どうでも良いんで、オレの責任にしないで下さい」
「如月と……」
「んじゃ、本当にさよならです」
「きさら……」
プツリとテレビを消すかのように、坂崎が消えた。──最後までオレをフルネーム呼びしようとするものだから、被せ気味に別れの言葉で終わらせた感がある。
でも、何だかもう良い。恨み辛みも言いたかった筈なのに、坂崎が坊さんの修行しているとか聞いて──あの泣く姿を見て、そんな気が失せた。
囚われていたのは坂崎の方で、オレじゃない。あの景色がそれを実感させてくれた。
「もう良いのか?存外淡白だな」
「もう終わった事をグダグダと続けても仕方ないんで」
「さすがです、恩人様。手前、これからは恩人様に尽くす所存でございます」
「あ~……、そう言うのも良いんで。………………でもオレと来てくれるのは、本当に嬉しい。ありがとう、イタチ」
「うは~っ、聞きました?!こういうのをツンデレとか言うのでしょうかっ。主様、恩人様のこのお心遣い、とても素晴らしいですっ!」
「あぁ、分かったからそう興奮するな。では、もう良いのだな?」
「はい。色々と配慮して下さり、ありがとうございました」
「ふむ……、良いさ。永く在ると、こういった事にも出会うのだろう。まぁわたしもそれなりに楽しめたから、キミには追加で贈り物をやろう。それでは、な」
「ありがとうございました」
「主様、ありがとうございますっ」
贈り物?と小首を傾げそうになったが、何やら身体が透けて来ていたので再度感謝の言葉を告げる。
隣で同じ様に白いイタチも小さな頭部を下げていて、何だかとても可愛く思った。──それがここでの、オレの最後の記憶。
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