SEIREI ── せい れい ── 自然に好かれるオレはハッピーライフをおくる

まひる

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2.異世界人の習性を実際に見てみた

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「ツェシェルア騎士団長様。お探しの書物は、こちらで宜しいでしょうか」
「あぁ、ご苦労様」

 先程団長さんに本探しを依頼された所員さんらしき人が、わざわざオレたちが座っている場所まで蔵書を運んできてくれる。
 団長さんは笑みを浮かべてそれを受け取ると、すぐさまオレに差し出して来た。

「はい、トーリ」
「ありがとう」

 オレも所員さんと団長さんに視線を半々で向けながら一言謝辞を返す。
 こんな時、コミュ障ではない人達はどの様に対処するものなのだ。オレは『店員さん、構わないでっ』という種族なので、どう振る舞って良いのかも分からない。

 とりあえず受け取った本へ視線を落とした。──うん、やはり問題なく文字は読めるな。
 初めに上にあった建国史を、パラパラとページをめくりながら読み進める。
 どうやらここは王様が取りまとめる王国のようで、フォタロという大陸の四分の一程のサイズがあるようだ。
 他に大国バスード、このペゼトゥートと同等程度の規模のタマミラ。極小国ケシルという四ヶ国からなっているらしい。実際には国と呼べる規模ではない集落もあるようだが、この建国史にはその程度の記述しかされていなかった。

 四ヶ国は一応の平和条約がなされていて、この百年程、小競り合いは別として大きな戦争は起きていない。
 それぞれの国家間で特産物などの輸出入をおこなっているのだというから、オレ的前世の地球と変わらないようだ。

「ん?団長さん、どうしたんだ」
「……いや。本当に読めているんだな、と」

 建国史を読み終わったところで、不意に隣からの視線に気付く。
 どうやらずっとオレを見ていたようで、団長さんの手元にある本はほとんどページが進んでいなかった。──というか、『本当に読めている』?
 つまりはオレが、形だけの読書をするつもりだったと思っていたようである。

「ダメなのか」
「あ、悪い。ただ……他国の出身なのに、この国の書物が読めるのだなと驚いたんだ」
「はぁ。やはりオレに何か嫌疑が掛かっているのか?」
「いや、違う。本当に俺の個人的な興味さ」
「興味?」
「だってこんなに幼い……悪い、そういう意味じゃなく。十代の少年が国を渡って来て、一人で他国の大きな図書館で本を読んでいるんだ。不思議に思うだろ?」

 オレの剣呑な視線に気付いたのか──若干しどろもどろではあるが、団長さんはそう言い訳を続けた。
 確かにそこまで聞くと、オレに違和感を感じてもおかしくはない。立場が逆なら、オレだってそう思うだろう。

「はぁ。邪魔はしないでくれ」
「あ、あぁ……」

 再度溜め息で返し、オレはそれ以上の追求を拒絶した。──大体、オレだって好きでこの国に来た訳ではない。
 そう言いたい気持ちもあるが、言ったところで何が変わるという達観した感情が先にたった。

 それからオレは、それ以降も向けられる団長さんからの視線を無視し続け、マナーの本も読破する。
 このマナー本には日時における常識も書いてあった。
 それによると、全てが『七』という精霊種類に換算されている。年月しかり、日時しかり。けれども完全に均等割りが出来ないらしく、それぞれの間隔には大きくて倍程の違いがあった。

 それでも精霊石のような魔道具がある為、カレンダーや時計の代用品がしっかり存在する。
 ちなみに今は風の月ペーロス水の日ユテケル火の時リジヤだ。日本に置き換えると四月五月くらいのルトで、一週間デイアでいうと第四のヒテ──六勤一休が主流との事。時間ティシル火の時リジヤという、そろそろ日暮れ時だろう頃合いだった。

「トーリ?あ、悪い。もう陽が沈む頃だ。今日の宿は取ってあるのか?」
「………………まだだ」

 団長さんに問われて思い出したが、そんな事はすっかり忘れていた。
 大体これまでは森の中で過ごしていた為、セスの亜空間から家を取り出していたのである。そもそも寝泊まりする場所を探すなんて事、この世界に来てからしてないのだ。──そもそもそんなお金もない。

「決まっていないなら、俺の家に来ないか?あ、無理にとは言わない。あくまで、俺の善意。他意はないから」
「………………はぁ。何故そんなにオレに構う」

 オレが困るのは町の中でだけだ。ここを出ればセスに家を出してもらえるし、食べ物だって同じである。
 何かの思惑がありそうな団長さんに、これ以上恩を受ける事は出来るならば避けたかった。

「いや、何故って……」
「団長~、こんなところにいたんっすか?」

 あたふたする団長さんと、関わりを拒絶したい態度が丸分かりの、視線をらしたままのオレ。そんな微妙な空気感をものともせず、至極軽い口調で間に誰かが入ってくる。
 チラリと視線を向ければ、茶髪のスラリとした二十代くらいの男がいた。

「ニット……、何の用だ」
「嫌だなぁ、団長。午後から急に早退したかと思ったら、こんなに可愛い子とデートだなんて~」

 渋い顔を返す団長さんだったが、ニットと呼ばれた彼は我関せずでオレの顔を覗き込んで来る。──っていうか、また可愛いとか言われなかったか? 
 しかも団長さん──仕事を急に午後休とか、ダメだろ普通に。

「ち、違うぞトーリ。俺は……というか、余計な事を言うなニット」
「大丈夫っすよ~、団長。俺、警邏けいら中だから団長見付けただけっすぅ。他の奴等には言わないんで、楽しんで下さいね~」

 慌てる団長さんの話へ耳を傾ける事なく、へらへら締まりなく笑うニットは後ろポケットに手を入れ、足音軽く跳ねるように去って行った。──だが残されたこの空気、どうしてくれる。
 静まり返った図書館内の為、今のやりとりは完全に周囲へ筒抜けだった。
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