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2.異世界人の習性を実際に見てみた
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それにしても、図書館は思った以上に大きかった。
二階までの吹き抜けタイプではあるが、それぞれの階には天井までぎっしりと蔵書が並べられている。更に一階の本棚は二階半ばまであり、各棚が三角形の辺を作るように幾つも並んでいるのだ。
どうやって取るのだろうと思って見ていると、何人かの人が宙に浮いて書物を抜き取っていた。──さすがは異世界だ。
「リドツォルの図書館は、ペゼトゥートでも珍しい本があるんだ。あ、この町がリドツォル。この国がペゼトゥートね」
歩きながら、団長さんは基礎的な事を教えてくれる。
オレが異国から来たと思ってくれているだけあって、普通なら誰も聞かないような事だろう知識だった。というか──今気付いたが、何故か言葉遣いが初めよりだいぶ砕けてないか?
そう感じて改めて団長さんを見れば、あの時入り口詰め所的な場所で着ていた鎧を身に付けていない。つまりは現在は勤務中ではなく、プライベートなのだという意味だろうか。
それでも白い柔らかそうなシャツの襟はピシッとしていて、細かな刺繍まで入っている。明らかに金持ちというか、権力を持った人物である事が一目で分かる装いだ。
「で、農業主体ではあるんだけどね。ん?どうかした?」
「……いや」
「それで……あ、小麦が主要作物なんだ。ここの町はパンが美味しいよ」
今更『馴れ馴れしくないか』と告げるのも何だし、教えてくれる知識はありがたい。
セスが言っていた小麦名産ってのも、確かに町へ入る前には麦畑が拡がっているのを見ているから、その団長さんの言葉にも素直に頷けた。──パンが旨いのか。パスタは粉が違うけど、うどんとかあったら嬉しいな。
「それで、どんな本を探しているんだい?」
改めて問われ、不意に心配になった。──これは新手の情報収集なのではないか。
オレの目的を探って、何かやらかさないか見張られてるのではと不審に思ってしまう。
「あぁ、キミを疑っている訳ではないから。先程精霊様に嫌われてしまいそうだったから、キミを助ける事で俺を好きになってもらおうと思ってね」
オレの視線から警戒されている事に気付いたのか、団長さんは眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべた。
なるほど。そう言われてみれば、ここの国では精霊に嫌われる事を恐れるのだった。──というか、セスは精霊というカテゴリーからは外れていると思うが。
「分かった」
「ありがとう。で、キミ……」
「トーリ」
「え?」
「キミじゃない。トーリだ」
「名前を呼ぶ事を許してくれるのかい?ありがとう、俺はヴォスト」
「ボ……、ボ……団長さんで良いか?」
団長さんの手伝いを渋々ではあるが了承したら、オレを呼ぶ単語が気になってしまったのである。
事情聴取の時に書類へ記入する為に名前を聞かれているのだから、知らない筈がないのだ。──もしかしてセスに問い掛けていたのと同じで、許可を得ないと名前を呼ぶ事が出来ないのか?
そう思い至って名前を改めて告げれば、爽やかな笑顔で団長さんも名乗ってきた。
けれども──生粋の日本人かつ英語の成績がいまいちなオレには、ボ?の発音が上手く出来ない。情けないが、『団長さん』と呼ぶ事を許してもらおう。
「あ……あぁ、発音が難しいのか。良いよトーリ、それでも」
「助かる」
「くくくっ。そういうところ、可愛いよな」
圧し殺したように笑われたが、それ以上に気になる単語があった。──オレ、今『可愛い』とか言われなかったか?
日本人は海外の人からしたら幼く見えると聞いた事はあるが、それは可愛いとか子供っぽいとかいう意味なのだろうか。
「オレ、十六だぞ」
「えっ……あ、ごめんね。気を悪くしたかな」
「いや、子供じゃないと言いたかっただけだ」
「うん………………そっかぁ。子供じゃない、ね」
団長さんに年齢を告げれば、酷く驚いた顔をされた。やはりかなり年下に思われていたようである。
だが、その後の何だか含んだような言葉も気になった。──何だよ、十六に見えないって言いたいのか?
確かに、団長さんよりかなり背が低いとは思う。
これでもクラスの平均身長はあったが、それでも百七十に届かないのだ。記憶ではその程度だとアメリカでは十四歳くらいの平均身長に値する為、日本人が若く見えるという感覚になるのだろう。
「あ、話が逸れたな。どんな内容の本を探してるんだっけ?」
「……とりあえずこの国の歴史と、マナーの本」
「なるほど。少し待ってな」
年齢を告げたからか、先程よりも一段と口調が砕けた気がするのは気のせいだろうか。──いや、雑になったのか?
それでもオレの本探しの手伝いはしてくれるようで、近くの人に話し掛けている。その人はここの所員さんなのか、団長さんの言葉を受けてにこやかに首肯すると、ふわりと浮いて何処かへ飛び去った。──本当に凄いな、異世界。
「探してきてもらうから、少し待っててなトーリ」
「分かった」
戻ってきた団長さんは、そう言いながら近くの読書スペースにオレを誘導してくれてる。
けれどもオレはセス以外に改めて名を呼ばれ、何故だか少しだけくすぐったい気持ちだ。
そんな変な感覚になり、ふとそれまで一言も話していないセスに気付く。だが肩へ視線を移せば当たり前のようにそこにいてくれて、大きな安心感に包まれたのだった。
二階までの吹き抜けタイプではあるが、それぞれの階には天井までぎっしりと蔵書が並べられている。更に一階の本棚は二階半ばまであり、各棚が三角形の辺を作るように幾つも並んでいるのだ。
どうやって取るのだろうと思って見ていると、何人かの人が宙に浮いて書物を抜き取っていた。──さすがは異世界だ。
「リドツォルの図書館は、ペゼトゥートでも珍しい本があるんだ。あ、この町がリドツォル。この国がペゼトゥートね」
歩きながら、団長さんは基礎的な事を教えてくれる。
オレが異国から来たと思ってくれているだけあって、普通なら誰も聞かないような事だろう知識だった。というか──今気付いたが、何故か言葉遣いが初めよりだいぶ砕けてないか?
そう感じて改めて団長さんを見れば、あの時入り口詰め所的な場所で着ていた鎧を身に付けていない。つまりは現在は勤務中ではなく、プライベートなのだという意味だろうか。
それでも白い柔らかそうなシャツの襟はピシッとしていて、細かな刺繍まで入っている。明らかに金持ちというか、権力を持った人物である事が一目で分かる装いだ。
「で、農業主体ではあるんだけどね。ん?どうかした?」
「……いや」
「それで……あ、小麦が主要作物なんだ。ここの町はパンが美味しいよ」
今更『馴れ馴れしくないか』と告げるのも何だし、教えてくれる知識はありがたい。
セスが言っていた小麦名産ってのも、確かに町へ入る前には麦畑が拡がっているのを見ているから、その団長さんの言葉にも素直に頷けた。──パンが旨いのか。パスタは粉が違うけど、うどんとかあったら嬉しいな。
「それで、どんな本を探しているんだい?」
改めて問われ、不意に心配になった。──これは新手の情報収集なのではないか。
オレの目的を探って、何かやらかさないか見張られてるのではと不審に思ってしまう。
「あぁ、キミを疑っている訳ではないから。先程精霊様に嫌われてしまいそうだったから、キミを助ける事で俺を好きになってもらおうと思ってね」
オレの視線から警戒されている事に気付いたのか、団長さんは眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべた。
なるほど。そう言われてみれば、ここの国では精霊に嫌われる事を恐れるのだった。──というか、セスは精霊というカテゴリーからは外れていると思うが。
「分かった」
「ありがとう。で、キミ……」
「トーリ」
「え?」
「キミじゃない。トーリだ」
「名前を呼ぶ事を許してくれるのかい?ありがとう、俺はヴォスト」
「ボ……、ボ……団長さんで良いか?」
団長さんの手伝いを渋々ではあるが了承したら、オレを呼ぶ単語が気になってしまったのである。
事情聴取の時に書類へ記入する為に名前を聞かれているのだから、知らない筈がないのだ。──もしかしてセスに問い掛けていたのと同じで、許可を得ないと名前を呼ぶ事が出来ないのか?
そう思い至って名前を改めて告げれば、爽やかな笑顔で団長さんも名乗ってきた。
けれども──生粋の日本人かつ英語の成績がいまいちなオレには、ボ?の発音が上手く出来ない。情けないが、『団長さん』と呼ぶ事を許してもらおう。
「あ……あぁ、発音が難しいのか。良いよトーリ、それでも」
「助かる」
「くくくっ。そういうところ、可愛いよな」
圧し殺したように笑われたが、それ以上に気になる単語があった。──オレ、今『可愛い』とか言われなかったか?
日本人は海外の人からしたら幼く見えると聞いた事はあるが、それは可愛いとか子供っぽいとかいう意味なのだろうか。
「オレ、十六だぞ」
「えっ……あ、ごめんね。気を悪くしたかな」
「いや、子供じゃないと言いたかっただけだ」
「うん………………そっかぁ。子供じゃない、ね」
団長さんに年齢を告げれば、酷く驚いた顔をされた。やはりかなり年下に思われていたようである。
だが、その後の何だか含んだような言葉も気になった。──何だよ、十六に見えないって言いたいのか?
確かに、団長さんよりかなり背が低いとは思う。
これでもクラスの平均身長はあったが、それでも百七十に届かないのだ。記憶ではその程度だとアメリカでは十四歳くらいの平均身長に値する為、日本人が若く見えるという感覚になるのだろう。
「あ、話が逸れたな。どんな内容の本を探してるんだっけ?」
「……とりあえずこの国の歴史と、マナーの本」
「なるほど。少し待ってな」
年齢を告げたからか、先程よりも一段と口調が砕けた気がするのは気のせいだろうか。──いや、雑になったのか?
それでもオレの本探しの手伝いはしてくれるようで、近くの人に話し掛けている。その人はここの所員さんなのか、団長さんの言葉を受けてにこやかに首肯すると、ふわりと浮いて何処かへ飛び去った。──本当に凄いな、異世界。
「探してきてもらうから、少し待っててなトーリ」
「分かった」
戻ってきた団長さんは、そう言いながら近くの読書スペースにオレを誘導してくれてる。
けれどもオレはセス以外に改めて名を呼ばれ、何故だか少しだけくすぐったい気持ちだ。
そんな変な感覚になり、ふとそれまで一言も話していないセスに気付く。だが肩へ視線を移せば当たり前のようにそこにいてくれて、大きな安心感に包まれたのだった。
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