13 / 53
2.異世界人の習性を実際に見てみた
2-6
しおりを挟む
何故この様なところへ迷い込んだのか。
思えばオレは、前世でもこういった事が頻発していた。
言われた場所に辿り着けない、なんてざらで。──何故だ。
「おい。お綺麗な坊やが、こんなところに何の用だ?」
立ち止まって思考していたオレは、後ろから投げ掛けられたダメ声に意識を引き戻される。──がらがらの聞き取り難い声だった。
振り返ってみれば、そこには三人の体格の良い男達。だが服装は皆かなりのボロで、前世の浮浪者でももう少しマシな格好をしていると思った。
「……用はない」
「何だとぉ!」
問われたので、『ここに用はない』と答えただけである。しかしながら、何故か男は逆上して大声を張り上げた。
だが何故こうも、体格の良い人間ばかりなのか不思議である。オレは海外に行った事がないから知らないが、アメリカに行ったとしてもこんな感じなのだろうか。──決してオレが極端に小さい訳ではないと思う。
「おいこらっ。無視するなんて、随分余裕だなぁ!」
「トーリ様」
「ぐわあっ!」
内心で溜め息を吐いていると、男の一人がオレに向かって拳を振り上げてきたようだ。オレが気付いた時には、既にセスの防御機能によって吹き飛ばされていたが。
後方へ数メートル吹き飛んで地面に倒れた男を見て、他の二人の男達が顔を合わせて互いに頷く。そして手に丸太や板切れを握り締め、共に飛び掛かってきた。
「煩いですね、コバエどもは」
オレの襟巻き状態になっている可愛いセスは、見た目に反して辛辣な言葉をのたまう。
対する相手二人は既に持っていた筈の得物を風の魔法で粉砕され、愕然とした様子でセスを見ていた。──イタチが会話した事に驚いているのかもしれないが。
「もう少し世界へ役に立つ生き方をしなさい」
ツンと鼻先を上げたかと思ったら、次の瞬間には悲鳴のような声を残してオレの視界から消えていた。──凄いな、セス。
上空へキラリと飛んでいったような気もするが、あれらは確かにいない方が他の人の為だろう。それに結果的にオレは何も出来なかった訳で、全てセスが処理してくれたのである。
「本当にありがとう、セス。オレは全然役に立たないな」
「いいえ、トーリ様。セスはトーリ様から御許し頂けたからこそ、こうしてお傍で御仕え出来るのです。そのセスがトーリ様を御守りする事はもはや摂理でございます。御不快かもしれませんが、どうかこのままセスが侍る事を御許し下さいませ」
肩に乗ったままではあるが、セスが小さな頭を下げてきた。──可愛い。
いや、そうではなく。
許すも許さないもなく、オレはセスがいないと非常に困るのだ。生きていける確率が大幅に下がる。精神的な支えでもある為、逆にオレの方が見捨てないでくれと頼みたい程だ。
「オレの方こそセスが必要だ。こちらからお願いしたい」
「ありがとうございます、トーリ様。セスは一生懸命お仕え致します」
「ありがとう、セス」
そうしてほんわかと和む。
だが、根本的問題は全く解決していなかった。
改めてオレは周囲を見渡し、現状を把握する事に努める。──だが勿論、現在地が何処で出口が何処だか分からない訳で。
「この際ですから、この辺りを一掃してから家を建てましょうか?」
オレが悩んでいる事に気付いたのか、セスが少し論点の離れた問い掛けをしてきた。
その言葉の内容を頭の中で噛み砕き、首を傾げる。──『一掃』って?
「セス?」
「申し訳ございません、トーリ様。……またコバエが寄って来たようです」
単語を聞き間違えたのかと確認の為に名を呼んだのだが、セスはツイッとオレの背後へ頭部を向ける。
同時にバタバタと荒立たしい足音を立て、また体格の良い男達が現れた。先程の者との関連性は不明だが、今度は五人。気付けば反対側の路地からも三人である。
完全に前後を挟まれた形になったオレとセスだ。しかも総勢八人で、さすがに数が多すぎる。
「お前か?俺様の部下を吹き飛ばしてくれた野郎は」
その中で一番筋骨隆々な大きな男が、肩に担いだ巨大な金槌状の武器を、オレに突き付ける様に持ち上げながら言葉を放った。
『部下』という事は、先程の男と仲間なのは確かである。そうかといって、オレとしても素直にやられてやる筋合いはない。
「だから何だ」
「ふん、威勢だけは良いなチビ助。少しは魔法を使えるようだが、その程度じゃあ俺様には勝てねぇぜ?ガキだといっても容赦はしねぇ。謝って有り金全部置いていけば、許してやらなくもねぇんだがな?」
物凄く在り来たりな悪役的セリフを口にする男と、周囲を囲む下卑た笑みを浮かべたその他大勢だ。
先程セスとほんわかした気分も掻き消える。
「はぁ。オレって、絡まれやすいのか」
溜め息と共に、ポツリと愚痴が溢れた。
団長さんもこの男達も、良し悪しを別として何故オレに構うのか分からない。──あれか、国外の人間だからか。
国民ならば少なからず周囲との繋がりがあるから、相手を選ばなくては後で大変な事になるかもだ。──どうであれ、オレは遠慮したいが。
思えばオレは、前世でもこういった事が頻発していた。
言われた場所に辿り着けない、なんてざらで。──何故だ。
「おい。お綺麗な坊やが、こんなところに何の用だ?」
立ち止まって思考していたオレは、後ろから投げ掛けられたダメ声に意識を引き戻される。──がらがらの聞き取り難い声だった。
振り返ってみれば、そこには三人の体格の良い男達。だが服装は皆かなりのボロで、前世の浮浪者でももう少しマシな格好をしていると思った。
「……用はない」
「何だとぉ!」
問われたので、『ここに用はない』と答えただけである。しかしながら、何故か男は逆上して大声を張り上げた。
だが何故こうも、体格の良い人間ばかりなのか不思議である。オレは海外に行った事がないから知らないが、アメリカに行ったとしてもこんな感じなのだろうか。──決してオレが極端に小さい訳ではないと思う。
「おいこらっ。無視するなんて、随分余裕だなぁ!」
「トーリ様」
「ぐわあっ!」
内心で溜め息を吐いていると、男の一人がオレに向かって拳を振り上げてきたようだ。オレが気付いた時には、既にセスの防御機能によって吹き飛ばされていたが。
後方へ数メートル吹き飛んで地面に倒れた男を見て、他の二人の男達が顔を合わせて互いに頷く。そして手に丸太や板切れを握り締め、共に飛び掛かってきた。
「煩いですね、コバエどもは」
オレの襟巻き状態になっている可愛いセスは、見た目に反して辛辣な言葉をのたまう。
対する相手二人は既に持っていた筈の得物を風の魔法で粉砕され、愕然とした様子でセスを見ていた。──イタチが会話した事に驚いているのかもしれないが。
「もう少し世界へ役に立つ生き方をしなさい」
ツンと鼻先を上げたかと思ったら、次の瞬間には悲鳴のような声を残してオレの視界から消えていた。──凄いな、セス。
上空へキラリと飛んでいったような気もするが、あれらは確かにいない方が他の人の為だろう。それに結果的にオレは何も出来なかった訳で、全てセスが処理してくれたのである。
「本当にありがとう、セス。オレは全然役に立たないな」
「いいえ、トーリ様。セスはトーリ様から御許し頂けたからこそ、こうしてお傍で御仕え出来るのです。そのセスがトーリ様を御守りする事はもはや摂理でございます。御不快かもしれませんが、どうかこのままセスが侍る事を御許し下さいませ」
肩に乗ったままではあるが、セスが小さな頭を下げてきた。──可愛い。
いや、そうではなく。
許すも許さないもなく、オレはセスがいないと非常に困るのだ。生きていける確率が大幅に下がる。精神的な支えでもある為、逆にオレの方が見捨てないでくれと頼みたい程だ。
「オレの方こそセスが必要だ。こちらからお願いしたい」
「ありがとうございます、トーリ様。セスは一生懸命お仕え致します」
「ありがとう、セス」
そうしてほんわかと和む。
だが、根本的問題は全く解決していなかった。
改めてオレは周囲を見渡し、現状を把握する事に努める。──だが勿論、現在地が何処で出口が何処だか分からない訳で。
「この際ですから、この辺りを一掃してから家を建てましょうか?」
オレが悩んでいる事に気付いたのか、セスが少し論点の離れた問い掛けをしてきた。
その言葉の内容を頭の中で噛み砕き、首を傾げる。──『一掃』って?
「セス?」
「申し訳ございません、トーリ様。……またコバエが寄って来たようです」
単語を聞き間違えたのかと確認の為に名を呼んだのだが、セスはツイッとオレの背後へ頭部を向ける。
同時にバタバタと荒立たしい足音を立て、また体格の良い男達が現れた。先程の者との関連性は不明だが、今度は五人。気付けば反対側の路地からも三人である。
完全に前後を挟まれた形になったオレとセスだ。しかも総勢八人で、さすがに数が多すぎる。
「お前か?俺様の部下を吹き飛ばしてくれた野郎は」
その中で一番筋骨隆々な大きな男が、肩に担いだ巨大な金槌状の武器を、オレに突き付ける様に持ち上げながら言葉を放った。
『部下』という事は、先程の男と仲間なのは確かである。そうかといって、オレとしても素直にやられてやる筋合いはない。
「だから何だ」
「ふん、威勢だけは良いなチビ助。少しは魔法を使えるようだが、その程度じゃあ俺様には勝てねぇぜ?ガキだといっても容赦はしねぇ。謝って有り金全部置いていけば、許してやらなくもねぇんだがな?」
物凄く在り来たりな悪役的セリフを口にする男と、周囲を囲む下卑た笑みを浮かべたその他大勢だ。
先程セスとほんわかした気分も掻き消える。
「はぁ。オレって、絡まれやすいのか」
溜め息と共に、ポツリと愚痴が溢れた。
団長さんもこの男達も、良し悪しを別として何故オレに構うのか分からない。──あれか、国外の人間だからか。
国民ならば少なからず周囲との繋がりがあるから、相手を選ばなくては後で大変な事になるかもだ。──どうであれ、オレは遠慮したいが。
0
あなたにおすすめの小説
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる