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5.自然と仲良し過ぎて一つの村みたいになってた
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※ ※ ※ ※ ※
そんな日々を重ね、土の月──雪解けの季節になっていた。
この森にも雪は積もったが、数センチ程度。集落を覆う結界によって酷い被害を受けていない。それもこれも、全てセスのおかげだ。──ちなみに結界の外を見に行った時は、腰の辺りまで積もっていたぞ。雪の壁の圧が凄かった。
そんな冬の最中でも、オレは屋内鍛練場で精霊との魔法練習に励み、今ではそれなりの成果を出していた。──とはいっても冒険者的に言い表すなら、やっと見習いから抜けて一人前になった程度。
更にやはりというか、オレ単体で魔法が使えない。いや、厳密に言うならばオレの魔力を使っている訳だから少し違うか。周囲に常に精霊がいるオレにとって、魔法をつかう為に必要なのはオレの音声──と、自覚がないものの内側に秘めたる魔力。そして精霊は、俺専用移動式出力装置といったところだ。
「水。槍。貫け」
発声したオレの言葉に合わせ、藍色の光が集まって目の前に水の槍が形成され、前方の岩を打ち砕く。
「土。球状。落ちろ」
次に橙色の光が集まり岩の塊を作ると、ドスンと地響きと共に三メートル程の上空から落ちてきた。状況的に、水の槍で岩を砕く前に元通りである。
ふっ、と息を吐く。
「さすがです、トーリ様。魔力操作もお見事です」
「ありがとう、セス。だが、まだまだだな」
セスはいつもオレを無条件に褒めてくれる。でもオレの心境的には、『思ってたのと違う』だ。
セスが魔法を使う時、オレのように発声したりしない。イタチだからとか属性が一種類だからとか、そんな感じではないのだ。無詠唱、である。──その方が断然カッコいい。
しかしながら、何事にも例外はあるのだ。オレであるならば、攻撃魔法を繰り出そうとしない場合──つまりは生活魔法と呼ばれる事柄を行う時、何となくで思い浮かんだ事を何となくで実行出来てしまう。
その辺り、周囲の精霊達がオレの思いを叶えてくれると言い表した方が良いかもしれないな。
そも、音声認識ありきの魔法使いってどうなんだ。いやいや、待て待て。それどころか、根本的に『普通定義』はどうなんだろうか。
オレは前方の岩に視線を向けたまま、顎に手を当てて考える。基本常識的に一色の精霊契約の世界で、オレのようにわざわざ属性を指定する事はないのだ。──まず初めから、オレは『違う』という事実。
基本的にその他大勢の一人でいたかったオレだから、平穏無事な人生のレールからは大幅に逸れてしまっている事を再確認させられる。──気付かされるのは、今回が初めてじゃないがな。
「トーリ様~」
そんな根本的な事にショックを受けていると、屋内鍛練場の入り口からオレを呼ぶ声。視線を向ければ、思った通りティユだ。そしてその可愛い手に下げられた焦げ茶色の毛の塊。
いやまぁ、そこまでは良いとする。けれども毛の塊はぬいぐるみなんて可愛いものではなく、実際には今さっきまでそこらを跳び跳ねていた筈の野うさぎで。更に追加事項として、ティユの口元が血だらけなのはどうだろうか。
「ティユ、もう少し上品に出来ないのですか。血みどろの状態でトーリ様の前へ姿を晒さないようにと、何度も言っているでしょう。それに、獲物はきちんと手早く血抜きをしなくてはなりません。味が落ちると、これも何度も言っているでしょう。粗末なものをトーリ様に御出しするつもりですか」
「あぅ~、そうだったぁ。ごめんなさぁい、トーリ様」
「……早く洗い流してくると良い」
「分かりました~」
和やかムードで会話をこなしたが、内心はバクバクとおかしな速度で心臓が暴れていた。
ティユは猫獣人だからか、動く小動物を狩るのが得意である。しかも、何の迷いもなく口でガブリと対象の息の根を止めるのだ。──ヒトとしての外見故、オレの思う非常識。
初めてそれを目にした時には、オレは思い切り叫んださ。そして駆け寄ってその口元をオレの服の裾で拭いて、怪我とかしてないか『あ~ん』させて口内を確認したのだ。
当然のように傷なんてなくて、何なら普段見ない長い犬歯があった。ギョッとして見ている間にすぐにいつものサイズに戻ったので、長さを自由に変えられるとこれも初めて知ったのだが。
いままで肉を何処で手に入れているのかと思っていたが、まさか森から現地調達しているとはな。しかも自力で。
幼い見た目から勝手に何も出来ないと思っていたが、思えばティユは傷だらけになりながらも、敵対者から逃げてこられる俊敏さを持っていたのだった。
武器を持たない素早いだけの肉を狩るなど、容易なのだろう。せめて武器を使って──いや、それも衝撃的な映像だからやめておこう。
この世界に来てから結構経つが、オレは未だに野性的生活をした事がない。前世は当然だが、今生でもセスがいてくれる限りない予定だ。──本当に恵まれた転生である。
この際、自分一人では何も出来ないとか、拗ねるのはやめよう。恵まれている、幸せだオレは。
そんな日々を重ね、土の月──雪解けの季節になっていた。
この森にも雪は積もったが、数センチ程度。集落を覆う結界によって酷い被害を受けていない。それもこれも、全てセスのおかげだ。──ちなみに結界の外を見に行った時は、腰の辺りまで積もっていたぞ。雪の壁の圧が凄かった。
そんな冬の最中でも、オレは屋内鍛練場で精霊との魔法練習に励み、今ではそれなりの成果を出していた。──とはいっても冒険者的に言い表すなら、やっと見習いから抜けて一人前になった程度。
更にやはりというか、オレ単体で魔法が使えない。いや、厳密に言うならばオレの魔力を使っている訳だから少し違うか。周囲に常に精霊がいるオレにとって、魔法をつかう為に必要なのはオレの音声──と、自覚がないものの内側に秘めたる魔力。そして精霊は、俺専用移動式出力装置といったところだ。
「水。槍。貫け」
発声したオレの言葉に合わせ、藍色の光が集まって目の前に水の槍が形成され、前方の岩を打ち砕く。
「土。球状。落ちろ」
次に橙色の光が集まり岩の塊を作ると、ドスンと地響きと共に三メートル程の上空から落ちてきた。状況的に、水の槍で岩を砕く前に元通りである。
ふっ、と息を吐く。
「さすがです、トーリ様。魔力操作もお見事です」
「ありがとう、セス。だが、まだまだだな」
セスはいつもオレを無条件に褒めてくれる。でもオレの心境的には、『思ってたのと違う』だ。
セスが魔法を使う時、オレのように発声したりしない。イタチだからとか属性が一種類だからとか、そんな感じではないのだ。無詠唱、である。──その方が断然カッコいい。
しかしながら、何事にも例外はあるのだ。オレであるならば、攻撃魔法を繰り出そうとしない場合──つまりは生活魔法と呼ばれる事柄を行う時、何となくで思い浮かんだ事を何となくで実行出来てしまう。
その辺り、周囲の精霊達がオレの思いを叶えてくれると言い表した方が良いかもしれないな。
そも、音声認識ありきの魔法使いってどうなんだ。いやいや、待て待て。それどころか、根本的に『普通定義』はどうなんだろうか。
オレは前方の岩に視線を向けたまま、顎に手を当てて考える。基本常識的に一色の精霊契約の世界で、オレのようにわざわざ属性を指定する事はないのだ。──まず初めから、オレは『違う』という事実。
基本的にその他大勢の一人でいたかったオレだから、平穏無事な人生のレールからは大幅に逸れてしまっている事を再確認させられる。──気付かされるのは、今回が初めてじゃないがな。
「トーリ様~」
そんな根本的な事にショックを受けていると、屋内鍛練場の入り口からオレを呼ぶ声。視線を向ければ、思った通りティユだ。そしてその可愛い手に下げられた焦げ茶色の毛の塊。
いやまぁ、そこまでは良いとする。けれども毛の塊はぬいぐるみなんて可愛いものではなく、実際には今さっきまでそこらを跳び跳ねていた筈の野うさぎで。更に追加事項として、ティユの口元が血だらけなのはどうだろうか。
「ティユ、もう少し上品に出来ないのですか。血みどろの状態でトーリ様の前へ姿を晒さないようにと、何度も言っているでしょう。それに、獲物はきちんと手早く血抜きをしなくてはなりません。味が落ちると、これも何度も言っているでしょう。粗末なものをトーリ様に御出しするつもりですか」
「あぅ~、そうだったぁ。ごめんなさぁい、トーリ様」
「……早く洗い流してくると良い」
「分かりました~」
和やかムードで会話をこなしたが、内心はバクバクとおかしな速度で心臓が暴れていた。
ティユは猫獣人だからか、動く小動物を狩るのが得意である。しかも、何の迷いもなく口でガブリと対象の息の根を止めるのだ。──ヒトとしての外見故、オレの思う非常識。
初めてそれを目にした時には、オレは思い切り叫んださ。そして駆け寄ってその口元をオレの服の裾で拭いて、怪我とかしてないか『あ~ん』させて口内を確認したのだ。
当然のように傷なんてなくて、何なら普段見ない長い犬歯があった。ギョッとして見ている間にすぐにいつものサイズに戻ったので、長さを自由に変えられるとこれも初めて知ったのだが。
いままで肉を何処で手に入れているのかと思っていたが、まさか森から現地調達しているとはな。しかも自力で。
幼い見た目から勝手に何も出来ないと思っていたが、思えばティユは傷だらけになりながらも、敵対者から逃げてこられる俊敏さを持っていたのだった。
武器を持たない素早いだけの肉を狩るなど、容易なのだろう。せめて武器を使って──いや、それも衝撃的な映像だからやめておこう。
この世界に来てから結構経つが、オレは未だに野性的生活をした事がない。前世は当然だが、今生でもセスがいてくれる限りない予定だ。──本当に恵まれた転生である。
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