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1539 煙
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俺の役目は第一師団長レイ・ランデルの監視だった。
この男には、かつて滅ぼしたカエストゥス国の血が流れている。戦争は200年も昔の事であり、レイ・ランデルはすでに三代に渡って帝国にいるのだ。それゆえ前皇帝は特段の警戒はしていなかったが、現皇帝に代替わりをしてから一変した。
レイ・ランデル・・・・・
皇帝はお前がかつての歴史を知っているのか知らないのか、確信までは持てないでいたが、お前は知っていたんだな。自分に流れる血がどこから来たのか。
カエストゥスの滅亡の歴史、それを知っていたのなら、お前が帝国に反旗を翻すのではないか?
そう警戒した皇帝は、俺にお前の監視を命じた。レイ・ランデルが変わらず帝国に忠誠を誓うのならば共に戦い、そうでないのならば始末しろ。
判断は俺に任された。
だからお前に加勢する事もできたが・・・・・
「・・・・思いの他、義理堅い男だったな」
レイ・ランデル、お前があれほど真剣に戦っている姿は初めて見た。
そしてお前が一族と帝国に対して、あれほど強い気持ちを持っているとは思わなかったぞ。
この赤毛の女とは、一対一で決着をつけたかったんだろ?
お前の帝国への忠誠心に敬意を払い、望み通り俺は手を出さなかった。だがお前は敗れた。
ならばここからは俺の番だ。
この赤毛の女は危険だ。ここで仕留めておかねば、帝国は壊滅的なダメージを受けかねない。
今ここで俺が息の根を止める!
「クインズベリーの戦士よ、死んでもらうぞ」
皇帝の腹心ジャック・フレイジャーが纏う深紅の鎧が、その気迫に呼応するように炎を噴き出した。
「っ!これは!?」
こいつ、このプレッシャーは・・・・・!
ジャック・フレイジャーの放つ赤々と燃え上がる炎、その強烈な熱波がレイチェルを襲った。
レイチェルは瞬時に闘気を発して身を護った。そうしなければ、瞬く間に体を焼かれていただろう。
燃え上がる深紅の鎧は、それほどの熱量を放出していたのだ。
「ほぅ、それがレイ・ランデルを圧倒した力か。間近で見るとなるほど、本当に凄まじい力だ。深紅の鎧の熱波に耐えるのか。大抵はこれで殺せるんだがな。お前は俺と戦う資格があるようだ」
僅かに眉を上げると、ジャック・フレイジャーは腰に差していた二刀のナイフを取り出すと、両手に持ち構えた。
刀身は四十センチ、重量感を感じさせる厚さ、そしてそれは深紅の鎧と同じく、燃え滾る炎のように赤いナイフだった。
「ジャック・フレイジャーだ。クインズベリーの戦士よ、名を聞いておこうか?」
交差する視線。
赤毛の女戦士は拳を上げて構えた。
「レイチェル・エリオットだ。相手になろう」
首都への入口である鉄の門の前に立つ、深紅の鎧を纏った男はただならぬ強さを秘めている。
レイチェルは本能的に相手の戦力を感じ取っていた。
・・・なんだこれは?この男からは妙な気配を感じる。
体力型としての身体能力の高さは一目で分かる。そこに深紅の鎧の力も加わるのだから、それだけでも驚異的な戦闘力になる。
だが違う、それだけではない。
この男は自分自身の力を確立させる、もっと別の何かを持っている。
レイチェルは短期決戦を望んでいる。
だが対峙する男の得体の知れない力が分かるからこそ、じりじりと距離を詰めつつも、レイチェルは攻める事ができずにいた。
「・・・炎が怖くて来れないか?ならば俺から行こう」
待ちの構えだったジャック・フレイジャーだったが、レイチェルの慎重な姿勢を見て、自らが前に出た。
そしてその一歩はレイチェルを困惑させた。
「っ!?」
猫背のような前傾姿勢、上半身は右に左にゆらゆらと揺れ動き、ザックザックとベタ足で砂を踏みながら向かって来る。
戦闘において、こんな不可解な動きをレイチェルは見た事がなかった。
なんだこの足運びは?重心もなにもない。こんな足の動きでは、一瞬の爆発力は生み出せない。
上体の不可解な揺れはまるで酔っ払いだ。下半身との連動もとれていない、あれでは体のバランスを崩すだけで、戦闘において優位に生かせる戦い方だとは思えない。
いや、惑わされるな!
相手の力が分からないなんて当たり前のことだ。この目で見たままを対処するんだ。
この男が向かって来るのなら、私は受けて立つだけだ。
相手が何をしかけてこようと、その全てを受けきり一撃を食らわせてやる!
レイチェル・エリオットの強さの要はスピードと思われているが、真に強さの根底を支えているものは、そのずば抜けた動体視力である。
トップスピードを維持したままの超高速の連撃、限舞闘争を実現させているのも、超高速の世界をその目で追って、空間を把握できているからである。
だからジャック・フレイジャーがどんな攻撃を仕掛けてきても、捌き切れる自信があった。
眼前に迫るジャック・フレイジャー。
両手にはナイフを持ち構えている。右か?左か?それとも蹴りか?飛びかかってくるのか?
しかし互いの距離が手を伸ばせば届く距離まで近づいても、ジャック・フレイジャーには攻撃の気配が感じられなかった。
なんだコイツ?なぜだ?なぜ仕掛けてこない?
レイチェルにはジャック・フレイジャーの考えも行動も理解できなかった。
だが理解できなくとも、レイチェルもこのまま突っ立っているわけにはいかない。
手を伸ばせば届く。敵が何もしてこないのならば、こっちがやるだけだ!
「ハッ!」
レイチェルは右の拳を、ジャック・フレイジャーの顔面目掛けて振りぬいた!
その拳はジャック・フレイジャーの顔面を貫いた。そう、殴り飛ばしたのではなく、拳が顔面を貫いたのだ。さすがに想像さえできなかったものを目にして、レイチェルは目を見開いた。だがそれと同時に、レイチェルは拳に伝わってくるはずの手応えが、何もない事にも気が付いた。
・・・なに?これは・・・・・
「誰もが追い詰められれば手を出してきた、そしてそれが貴様の限界だ」
一瞬の後、レイチェルの目の前から、まるで煙のようにジャック・フレイジャーの姿が掻き消えた。
そして背後からかけられた低い声に、レイチェルの背筋にゾクリとするものが走った。
「死ね」
研ぎ澄まされた殺意を込めて、ジャック・フレイジャーは二刀の深紅のナイフを、レイチェルの首を左右から切り飛ばすように交差させて振り抜いた!
スモーキン・ジャック。
煙のように実体を掴めず、煙のように姿を消す事から付けられた、ジャック・フレイジャーの二つ名である。
この男には、かつて滅ぼしたカエストゥス国の血が流れている。戦争は200年も昔の事であり、レイ・ランデルはすでに三代に渡って帝国にいるのだ。それゆえ前皇帝は特段の警戒はしていなかったが、現皇帝に代替わりをしてから一変した。
レイ・ランデル・・・・・
皇帝はお前がかつての歴史を知っているのか知らないのか、確信までは持てないでいたが、お前は知っていたんだな。自分に流れる血がどこから来たのか。
カエストゥスの滅亡の歴史、それを知っていたのなら、お前が帝国に反旗を翻すのではないか?
そう警戒した皇帝は、俺にお前の監視を命じた。レイ・ランデルが変わらず帝国に忠誠を誓うのならば共に戦い、そうでないのならば始末しろ。
判断は俺に任された。
だからお前に加勢する事もできたが・・・・・
「・・・・思いの他、義理堅い男だったな」
レイ・ランデル、お前があれほど真剣に戦っている姿は初めて見た。
そしてお前が一族と帝国に対して、あれほど強い気持ちを持っているとは思わなかったぞ。
この赤毛の女とは、一対一で決着をつけたかったんだろ?
お前の帝国への忠誠心に敬意を払い、望み通り俺は手を出さなかった。だがお前は敗れた。
ならばここからは俺の番だ。
この赤毛の女は危険だ。ここで仕留めておかねば、帝国は壊滅的なダメージを受けかねない。
今ここで俺が息の根を止める!
「クインズベリーの戦士よ、死んでもらうぞ」
皇帝の腹心ジャック・フレイジャーが纏う深紅の鎧が、その気迫に呼応するように炎を噴き出した。
「っ!これは!?」
こいつ、このプレッシャーは・・・・・!
ジャック・フレイジャーの放つ赤々と燃え上がる炎、その強烈な熱波がレイチェルを襲った。
レイチェルは瞬時に闘気を発して身を護った。そうしなければ、瞬く間に体を焼かれていただろう。
燃え上がる深紅の鎧は、それほどの熱量を放出していたのだ。
「ほぅ、それがレイ・ランデルを圧倒した力か。間近で見るとなるほど、本当に凄まじい力だ。深紅の鎧の熱波に耐えるのか。大抵はこれで殺せるんだがな。お前は俺と戦う資格があるようだ」
僅かに眉を上げると、ジャック・フレイジャーは腰に差していた二刀のナイフを取り出すと、両手に持ち構えた。
刀身は四十センチ、重量感を感じさせる厚さ、そしてそれは深紅の鎧と同じく、燃え滾る炎のように赤いナイフだった。
「ジャック・フレイジャーだ。クインズベリーの戦士よ、名を聞いておこうか?」
交差する視線。
赤毛の女戦士は拳を上げて構えた。
「レイチェル・エリオットだ。相手になろう」
首都への入口である鉄の門の前に立つ、深紅の鎧を纏った男はただならぬ強さを秘めている。
レイチェルは本能的に相手の戦力を感じ取っていた。
・・・なんだこれは?この男からは妙な気配を感じる。
体力型としての身体能力の高さは一目で分かる。そこに深紅の鎧の力も加わるのだから、それだけでも驚異的な戦闘力になる。
だが違う、それだけではない。
この男は自分自身の力を確立させる、もっと別の何かを持っている。
レイチェルは短期決戦を望んでいる。
だが対峙する男の得体の知れない力が分かるからこそ、じりじりと距離を詰めつつも、レイチェルは攻める事ができずにいた。
「・・・炎が怖くて来れないか?ならば俺から行こう」
待ちの構えだったジャック・フレイジャーだったが、レイチェルの慎重な姿勢を見て、自らが前に出た。
そしてその一歩はレイチェルを困惑させた。
「っ!?」
猫背のような前傾姿勢、上半身は右に左にゆらゆらと揺れ動き、ザックザックとベタ足で砂を踏みながら向かって来る。
戦闘において、こんな不可解な動きをレイチェルは見た事がなかった。
なんだこの足運びは?重心もなにもない。こんな足の動きでは、一瞬の爆発力は生み出せない。
上体の不可解な揺れはまるで酔っ払いだ。下半身との連動もとれていない、あれでは体のバランスを崩すだけで、戦闘において優位に生かせる戦い方だとは思えない。
いや、惑わされるな!
相手の力が分からないなんて当たり前のことだ。この目で見たままを対処するんだ。
この男が向かって来るのなら、私は受けて立つだけだ。
相手が何をしかけてこようと、その全てを受けきり一撃を食らわせてやる!
レイチェル・エリオットの強さの要はスピードと思われているが、真に強さの根底を支えているものは、そのずば抜けた動体視力である。
トップスピードを維持したままの超高速の連撃、限舞闘争を実現させているのも、超高速の世界をその目で追って、空間を把握できているからである。
だからジャック・フレイジャーがどんな攻撃を仕掛けてきても、捌き切れる自信があった。
眼前に迫るジャック・フレイジャー。
両手にはナイフを持ち構えている。右か?左か?それとも蹴りか?飛びかかってくるのか?
しかし互いの距離が手を伸ばせば届く距離まで近づいても、ジャック・フレイジャーには攻撃の気配が感じられなかった。
なんだコイツ?なぜだ?なぜ仕掛けてこない?
レイチェルにはジャック・フレイジャーの考えも行動も理解できなかった。
だが理解できなくとも、レイチェルもこのまま突っ立っているわけにはいかない。
手を伸ばせば届く。敵が何もしてこないのならば、こっちがやるだけだ!
「ハッ!」
レイチェルは右の拳を、ジャック・フレイジャーの顔面目掛けて振りぬいた!
その拳はジャック・フレイジャーの顔面を貫いた。そう、殴り飛ばしたのではなく、拳が顔面を貫いたのだ。さすがに想像さえできなかったものを目にして、レイチェルは目を見開いた。だがそれと同時に、レイチェルは拳に伝わってくるはずの手応えが、何もない事にも気が付いた。
・・・なに?これは・・・・・
「誰もが追い詰められれば手を出してきた、そしてそれが貴様の限界だ」
一瞬の後、レイチェルの目の前から、まるで煙のようにジャック・フレイジャーの姿が掻き消えた。
そして背後からかけられた低い声に、レイチェルの背筋にゾクリとするものが走った。
「死ね」
研ぎ澄まされた殺意を込めて、ジャック・フレイジャーは二刀の深紅のナイフを、レイチェルの首を左右から切り飛ばすように交差させて振り抜いた!
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