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34 約束
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マルゴンの言い分はもっともかもしれない。二ヶ月前に突然現れた素性の分からない者。
そして、そのタイミングで街に襲撃が始まった。関係があると思われてもしかたない。
いっそ、異世界の事も素直に話した方がいいのではないだろうか?
レイチェルに視線を向けると、レイチェルもこちらを見ていて、俺の考えを読み取ったかのように、首を横に振った。
頭が固そうだし、異世界なんてやはり、到底信じてもらえない。
むしろ不穏分子と決定付けられ、より立場が悪くなるという判断だろう。
「おや?それは何の合図ですか?」
レイチェルの首振りに、マルゴンがジロリを目を向けてくる。
「行っては駄目だという意味です。マルコスさん、行ったらアラタを幽閉するでしょう?噂になってますよ。マルコスさんが隊長になってから、国民への締め付けが厳しくなり過ぎてるって。アラタはレイジェスの店員、私達の仲間です。帰ってこれるか分からないのに、行かせる事はできません」
「国民の安心、安全な生活を守るためです。私は国に害をなす者には容赦しません」
「アラタは国に害をなしません。今回の件にも関係ありません」
レイチェルも負けじとマルゴンを睨み返す。一触即発の状態に緊張感が空間を支配する。
「・・・しかたありませんね。フェンテス、やりなさい」
前を向いたままマルゴンが指示を出すと、隣に控えていた少し背の高いひょろりとした隊員が、スッと前に出て、俺に近づいてきた。
両サイドを刈り上げていて、少し頬がこけているが、顔色が悪いというわけではない。無表情で不気味な男だった。
「アラタ!」
レイチェルが俺の名を叫ぶとほぼ同時だった。反応が一瞬でも遅れていれば抑え込まれていただろう。
フェンテスは真っ直ぐに俺に向かってくると、腰からナイフを抜き、そのまま俺の喉元目掛けて切りつけてきた。ボクシングの防御技術、パーリングの要領で、ナイフを持つフェンテスの右手首を左手で掴んだが、逆に俺の右手首を、フェンテスの左手に掴まれてしまい動きが取れなくなってしまった。
感触的に、腕力は俺の方が上だと感じた。
だが、この一瞬の攻防で相手が手練れという事も察する事ができた。
この狭い室内で戦って、勝ったとしても俺も無傷という訳にはいかないだろう。
レイチェルに目をやると、レイチェルは腰に下げているナイフに手をかけてはいるが、それ以上の動きを取れないでいた。
マルゴンは相変わらず座ったまま、テーブルの上で手を組んでいるが、その眼光は鋭くレイチェルを見据え、もしレイチェルが動くことがあれば、自分も動くと警告を発している。
マルゴンはレイチェルの動きを視線だけで封じていた。
レイチェルの頬を一筋の汗が伝う。
「サカキアラタ、彼の名はモルグ・フェンテス。治安部隊で5指に入る実力者です。よくフェンテスのナイフを押さえましたね。大したものですよ。隊員に欲しいくらいです。どうです?一緒に来てくれませんか?幽閉という言葉がでましたが、あくまで問題があると判断された場合です。私が納得できれば、いつでもお帰りいただけます。なに、レイチェル・エリオットの言う通り、あなたが本当に国に害をなさないのならば、すぐにお帰りになれるでしょう」
マルゴンと視線が交差する。このままでは、店にも甚大な被害が出るだろう。俺は覚悟を決めた。
「・・・分かりました。この店には何もしないと約束してくれますか?それなら行きましょう」
俺の返事に、マルゴンは満足そうに深く頷くと、フェンテスに向かい左手を軽く上げた。
それを合図にフェンテスは俺の右手を離したので、俺もフェンテスの右手を離す。
わずかな時間、フェンテスと視線がぶつかり合う。一貫して無表情だが、目は口ほどに物を言うという事だろう。
俺に対する明確な敵意がその目に宿っていた。あっさりと抑え込めると思ったが、予想外の抵抗に合い、自尊心が傷ついたというところだろう。
ナイフを腰に戻すと、フェンテスは無言でマルゴンの隣に戻り、両手を後ろ手に直立で待機した。
よく訓練されている。
「アラタ、駄目だ!キミは協会の恐ろしさを分かっていない。一度投獄されれば、帰ってくる事は不可能だ!死にに行くようなものだぞ!」
レイチェルが俺の両肩を強く掴み、真剣な表情で声を上げた。心から心配してくれているのが、強く伝わってくる。でも、だから行くんだ・・・
「レイチェル・・・ありがとう。でも、俺が行かなきゃ、この店がどうなるか・・・想像つくだろ?レイチェルも、カチュアも、皆同じように連れて行かれたりするんじゃないのか?まだニカ月だけど、俺はこの店が好きだよ。今日、助けたおじいさんに、ありがとうって言われたんだ。嬉しかったよ。やっと、この店の本当の店員になれた気がするんだ・・・俺は皆を守りたい。だから、行かないと・・・」
「アラタ・・・キミは・・・」
俺の決意の固さを感じ取ったのか、レイチェルの肩を掴む力が弱まり、ゆっくりと手が離れていく。
単調なリズムで数回手の平を打ち合わせる音に、顔を向けると、マルゴンが立ち上がり、軽く頷きながら拍手をしていた。
「サカキアラタ、あなたは素晴らしい。実に仲間思いの好青年だ。そうです。あなたが我々の調べに協力さえしてくれれば、争いの種は消えるのです。レイチェル・エリオット、彼の決心を邪魔しないでくださいね?では、もう6時30分です。時間もありませんので、急ぎ行きましょう」
マルゴンが事務所を出ると、それに続き隊員も事務所を出ていく。
フェンテスは俺の隣に来ると、顎で事務所をの出入り口を指した。俺を先に出させ、後ろに着くようだ。逃げないための見張りだろう。
「アラタ!」
背中越しに届く悲しみを含んだレイチェルの声に振りかえる。俺は笑顔を作った。
「心配すんなって!疑い晴らして帰ってくるよ!俺はレイジェスの店員だから!」
事務所を出ると、すぐ目の前にカチュアが立っていた。
俺を見ると、両手を掴み、今まで見た事の無い思い詰めた表情で声を張り上げた。
「アラタ君!行っちゃ駄目だよ!帰ってこれなくなっちゃうよ!約束は?私との約束はどうするの!?行っちゃ駄目だよ!」
「カチュア・・・」
【また、一緒にご飯食べに行こうね】
ほんの1~2時間前に交わした約束、俺はこの約束一つ守れないのか?
「・・・1分だ」
ふいに後ろから声がして振り返ると、フェンテスが少しだけ距離を開けて、俺とカチュアから顔を背けた。
「・・・時間をくれるのか?」
返事は無い。だが、もう18時30分を回っている。協会に着くのはギリギリ7時というところだろう。
今の時期では19時にもなれば真っ暗になる。1分がどれほど貴重な時間か十分過ぎるほど分かる。
俺はカチュアに向き直り、正面からちゃんとカチュアの顔を見た。
唇を震わせ、薄茶色の瞳からは、涙が溢れそうになっている。
「カチュア・・・俺、絶対に帰ってくるよ。帰ってきたら、一緒にご飯食べに行こう」
「・・・本当に、帰ってくるの?」
「もちろん、約束だ」
カチュアは俺の目をじっと見つめた後、首から下げていた、透明感のある石の付いたネックレスを外し、俺の首に手を回してきた。
「これ、私の宝物なの。アラタ君に貸してあげる」
「カチュア、そんな宝物なんて・・・」
「絶対、返してね・・・返しに、来てね・・・」
カチュアの瞳から、大粒の涙がこぼれた・・・・・
・・・思わず、カチュアを抱きしめていた・・・
目元が熱くなるが、俺が泣くわけにはいかないと、ぐっとこらえる。
腕の中にカチュアの温もりを感じる。
カチュアは一瞬驚いたように身をこわばらせたが、すぐに力をぬいて、されるがままに俺の腕の中で身を寄せている。
10秒足らずの時間だったが、自分の気持ちに気づくには十分だった。
俺はカチュアが好きなんだ。
でも、今この場で伝えることはできない。抱きしめる腕の力を緩め、カチュアからそっと離れる。
「・・・アラタ君」
「うん・・・」
「待ってるね」
目元にはまだ涙の跡が残っていたが、カチュアは優しく微笑んでくれた。
守るんだと心に誓う。腕に残る温もりをくれた大切な人を・・・
俺もなんとか笑顔を作る事ができたと思う。
黙って頷き、ゆっくりと背を向けると、フェンテスが自然と後ろに着き、歩調を合わせてきた。
「悪い、長くなったな」
「いや、1分だ。問題ない」
もらった1分を過ぎた事をフェンテスに詫びるが、フェンテスは咎める事はしなかった。
「・・・あんた、意外と良いヤツなんだな」
フェンテスは何も答えなかった。
こんな状況なのに、なぜか少しだけ心が温かくなった。
そして、そのタイミングで街に襲撃が始まった。関係があると思われてもしかたない。
いっそ、異世界の事も素直に話した方がいいのではないだろうか?
レイチェルに視線を向けると、レイチェルもこちらを見ていて、俺の考えを読み取ったかのように、首を横に振った。
頭が固そうだし、異世界なんてやはり、到底信じてもらえない。
むしろ不穏分子と決定付けられ、より立場が悪くなるという判断だろう。
「おや?それは何の合図ですか?」
レイチェルの首振りに、マルゴンがジロリを目を向けてくる。
「行っては駄目だという意味です。マルコスさん、行ったらアラタを幽閉するでしょう?噂になってますよ。マルコスさんが隊長になってから、国民への締め付けが厳しくなり過ぎてるって。アラタはレイジェスの店員、私達の仲間です。帰ってこれるか分からないのに、行かせる事はできません」
「国民の安心、安全な生活を守るためです。私は国に害をなす者には容赦しません」
「アラタは国に害をなしません。今回の件にも関係ありません」
レイチェルも負けじとマルゴンを睨み返す。一触即発の状態に緊張感が空間を支配する。
「・・・しかたありませんね。フェンテス、やりなさい」
前を向いたままマルゴンが指示を出すと、隣に控えていた少し背の高いひょろりとした隊員が、スッと前に出て、俺に近づいてきた。
両サイドを刈り上げていて、少し頬がこけているが、顔色が悪いというわけではない。無表情で不気味な男だった。
「アラタ!」
レイチェルが俺の名を叫ぶとほぼ同時だった。反応が一瞬でも遅れていれば抑え込まれていただろう。
フェンテスは真っ直ぐに俺に向かってくると、腰からナイフを抜き、そのまま俺の喉元目掛けて切りつけてきた。ボクシングの防御技術、パーリングの要領で、ナイフを持つフェンテスの右手首を左手で掴んだが、逆に俺の右手首を、フェンテスの左手に掴まれてしまい動きが取れなくなってしまった。
感触的に、腕力は俺の方が上だと感じた。
だが、この一瞬の攻防で相手が手練れという事も察する事ができた。
この狭い室内で戦って、勝ったとしても俺も無傷という訳にはいかないだろう。
レイチェルに目をやると、レイチェルは腰に下げているナイフに手をかけてはいるが、それ以上の動きを取れないでいた。
マルゴンは相変わらず座ったまま、テーブルの上で手を組んでいるが、その眼光は鋭くレイチェルを見据え、もしレイチェルが動くことがあれば、自分も動くと警告を発している。
マルゴンはレイチェルの動きを視線だけで封じていた。
レイチェルの頬を一筋の汗が伝う。
「サカキアラタ、彼の名はモルグ・フェンテス。治安部隊で5指に入る実力者です。よくフェンテスのナイフを押さえましたね。大したものですよ。隊員に欲しいくらいです。どうです?一緒に来てくれませんか?幽閉という言葉がでましたが、あくまで問題があると判断された場合です。私が納得できれば、いつでもお帰りいただけます。なに、レイチェル・エリオットの言う通り、あなたが本当に国に害をなさないのならば、すぐにお帰りになれるでしょう」
マルゴンと視線が交差する。このままでは、店にも甚大な被害が出るだろう。俺は覚悟を決めた。
「・・・分かりました。この店には何もしないと約束してくれますか?それなら行きましょう」
俺の返事に、マルゴンは満足そうに深く頷くと、フェンテスに向かい左手を軽く上げた。
それを合図にフェンテスは俺の右手を離したので、俺もフェンテスの右手を離す。
わずかな時間、フェンテスと視線がぶつかり合う。一貫して無表情だが、目は口ほどに物を言うという事だろう。
俺に対する明確な敵意がその目に宿っていた。あっさりと抑え込めると思ったが、予想外の抵抗に合い、自尊心が傷ついたというところだろう。
ナイフを腰に戻すと、フェンテスは無言でマルゴンの隣に戻り、両手を後ろ手に直立で待機した。
よく訓練されている。
「アラタ、駄目だ!キミは協会の恐ろしさを分かっていない。一度投獄されれば、帰ってくる事は不可能だ!死にに行くようなものだぞ!」
レイチェルが俺の両肩を強く掴み、真剣な表情で声を上げた。心から心配してくれているのが、強く伝わってくる。でも、だから行くんだ・・・
「レイチェル・・・ありがとう。でも、俺が行かなきゃ、この店がどうなるか・・・想像つくだろ?レイチェルも、カチュアも、皆同じように連れて行かれたりするんじゃないのか?まだニカ月だけど、俺はこの店が好きだよ。今日、助けたおじいさんに、ありがとうって言われたんだ。嬉しかったよ。やっと、この店の本当の店員になれた気がするんだ・・・俺は皆を守りたい。だから、行かないと・・・」
「アラタ・・・キミは・・・」
俺の決意の固さを感じ取ったのか、レイチェルの肩を掴む力が弱まり、ゆっくりと手が離れていく。
単調なリズムで数回手の平を打ち合わせる音に、顔を向けると、マルゴンが立ち上がり、軽く頷きながら拍手をしていた。
「サカキアラタ、あなたは素晴らしい。実に仲間思いの好青年だ。そうです。あなたが我々の調べに協力さえしてくれれば、争いの種は消えるのです。レイチェル・エリオット、彼の決心を邪魔しないでくださいね?では、もう6時30分です。時間もありませんので、急ぎ行きましょう」
マルゴンが事務所を出ると、それに続き隊員も事務所を出ていく。
フェンテスは俺の隣に来ると、顎で事務所をの出入り口を指した。俺を先に出させ、後ろに着くようだ。逃げないための見張りだろう。
「アラタ!」
背中越しに届く悲しみを含んだレイチェルの声に振りかえる。俺は笑顔を作った。
「心配すんなって!疑い晴らして帰ってくるよ!俺はレイジェスの店員だから!」
事務所を出ると、すぐ目の前にカチュアが立っていた。
俺を見ると、両手を掴み、今まで見た事の無い思い詰めた表情で声を張り上げた。
「アラタ君!行っちゃ駄目だよ!帰ってこれなくなっちゃうよ!約束は?私との約束はどうするの!?行っちゃ駄目だよ!」
「カチュア・・・」
【また、一緒にご飯食べに行こうね】
ほんの1~2時間前に交わした約束、俺はこの約束一つ守れないのか?
「・・・1分だ」
ふいに後ろから声がして振り返ると、フェンテスが少しだけ距離を開けて、俺とカチュアから顔を背けた。
「・・・時間をくれるのか?」
返事は無い。だが、もう18時30分を回っている。協会に着くのはギリギリ7時というところだろう。
今の時期では19時にもなれば真っ暗になる。1分がどれほど貴重な時間か十分過ぎるほど分かる。
俺はカチュアに向き直り、正面からちゃんとカチュアの顔を見た。
唇を震わせ、薄茶色の瞳からは、涙が溢れそうになっている。
「カチュア・・・俺、絶対に帰ってくるよ。帰ってきたら、一緒にご飯食べに行こう」
「・・・本当に、帰ってくるの?」
「もちろん、約束だ」
カチュアは俺の目をじっと見つめた後、首から下げていた、透明感のある石の付いたネックレスを外し、俺の首に手を回してきた。
「これ、私の宝物なの。アラタ君に貸してあげる」
「カチュア、そんな宝物なんて・・・」
「絶対、返してね・・・返しに、来てね・・・」
カチュアの瞳から、大粒の涙がこぼれた・・・・・
・・・思わず、カチュアを抱きしめていた・・・
目元が熱くなるが、俺が泣くわけにはいかないと、ぐっとこらえる。
腕の中にカチュアの温もりを感じる。
カチュアは一瞬驚いたように身をこわばらせたが、すぐに力をぬいて、されるがままに俺の腕の中で身を寄せている。
10秒足らずの時間だったが、自分の気持ちに気づくには十分だった。
俺はカチュアが好きなんだ。
でも、今この場で伝えることはできない。抱きしめる腕の力を緩め、カチュアからそっと離れる。
「・・・アラタ君」
「うん・・・」
「待ってるね」
目元にはまだ涙の跡が残っていたが、カチュアは優しく微笑んでくれた。
守るんだと心に誓う。腕に残る温もりをくれた大切な人を・・・
俺もなんとか笑顔を作る事ができたと思う。
黙って頷き、ゆっくりと背を向けると、フェンテスが自然と後ろに着き、歩調を合わせてきた。
「悪い、長くなったな」
「いや、1分だ。問題ない」
もらった1分を過ぎた事をフェンテスに詫びるが、フェンテスは咎める事はしなかった。
「・・・あんた、意外と良いヤツなんだな」
フェンテスは何も答えなかった。
こんな状況なのに、なぜか少しだけ心が温かくなった。
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