異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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111 パスタ屋へ

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レイチェルの貰った報奨金は、500,000イエンだった。
俺の貰った額から比べると、相当少なく思えたが、レイチェルはそれでも多く感じたようだった。

「レイジェスの被害って言っても、アラタが三週間いなかった労働力と、私がマルコスと一戦交えただけだからね。エルウィンを無罪にするために減額されたけど、それでこの額だからね。予想より多いよ。減額されなければ、2,000,000~3,000,000イエンはあったかもね」


そう言って、レイチェルは報奨金を金庫に閉まった。
使い道は、店長が帰ってきた時に相談するようだ。


その日の帰り、閉店作業で戸締りをしているとケイトが声をかけてきた。


「アラタ、明日の約束覚えてる?」

「おう、覚えてるよ。考えてみると俺泊まりは初めてだから、なんかワクワクするな」

「そりゃ良かった。アタシも楽しみだよ。街外れに新しくできた店でさ。アタシも行った事なかったから、興味あるんだよね」

前に、ジーンと約束したのだが、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人でご飯を食べに行こうという話しだ。
行動力のあるケイトは、その話しをしたらすぐに店を決めて、予定を組んでいたのだ。


「でさ、どんな店なの?メインの食べ物とか」

ケイトは帽子の鍔を指ではじき、少し上を向くと、腕を組んで考えるように少しのあいだ口を閉じた。

「ん~、パスタ屋みたいなんだけど、アタシもあんま知らないんだ。お母さんに良い店ないか聞いたら、あの店どう?って言われて、そう言えばいつの間にか、新しくできてたなって思って。それで決めちゃったんだよね」

「へぇ、パスタか。いいんじゃない?予約はできた?」

「あ、それは大丈夫!ちゃんと済ませてあるよ。でもね、なんか淡々とした店員だった。必要な事以外話さない感じ。ちょっとアレだなって思ったけど、まぁ、せっかく店まで行ったんだしって事で、そこに決めといた」

「え?それ大丈夫?店員の感じ悪いと、美味い料理も不味くならない?」

「あはは~・・・まぁまぁ、細かい事を気にすんなって!じゃあ、明日だからね!部屋は二つでいいよね?泊まりの準備だけはしてきなよ」

そう言って、ケイトは手を振って青魔法コーナーに戻って行った。

「まぁ、いっか・・・」

俺はキッチン・モロニーくらいしか知らないので、店を決めるのは全てケイトに任せていた。
ちょっと気になったけど、予約まで任せておいて、くどくど文句を言うのも違うと思うし、淡々とした無口な店員がいるというだけなら、特に気にしないでもいいと思った。


四時半に閉店して、それから夜ご飯を食べに行くと、帰りはどうしても夜になってしまう。
夜はトバリが出て外を歩く事ができないから、飲食店は自然と宿も兼ねる所が多いのだ。


ケイトの決めた店をカチュアに聞いてみたが、カチュアも知らなかったようだ。

「うーん・・・あそこ、ちょっと前まで、美味しいパスタ屋さんだったんだよね。優しそうなおじさんと、おばさんが夫婦でやってたの。でも、アラタ君がここに来る前だから、夏になる前だったかな?急にお店閉めちゃったんだよね。それっきり私も行ってなかったから、新しいお店できたの知らなった」


街外れで、レイジェスからは少し距離があるので、なかなか行けなかったようだが、パスタがとても美味しくて、カチュアは気に入っていたらしい。
閉店した事は残念で、もう一度食べたかったな。と言って眉を下げ残念そうな顔をした。

「そんなに美味しいなら、俺も食べて見たかったな。でも、新しいお店もパスタ屋ってびっくりだよね。美味しいといいな、明日は楽しみにしようよ」

そう言うとカチュアはすぐに笑顔を見せて、うん!と元気な返事をくれた。





翌日、王妃様の使いは来なかった。
仕事はいつも通りで、俺はお客さんに防具の説明をしたり、買い取りではジャレットさんに説明を受けながら、買い取りの補助につき仕事をした。


メインレジに立ち仕事をしていると、お客さんが話しかけてくる事があるので、俺は順番待ちのお客さんがいない時は、できるだけ話に付き合うようにしている。

どうでもいい話をしてくる人は、相槌を打って適当なところで切り上げたりもするが、中には街の周辺で起きた事件や、気を付けた方がいい場所など、注意しておくべき情報をくれる人もいるからだ。


「おう、アラタ君!もうかってっかよ?はっはっは!」

この豪快に笑いながら話しかけてくるお客さんは、常連のバルクさんだ。

横に広い体系で、腹がけっこう出ているのだが、若い時は治安部隊で働いていたそうで、50を過ぎた今でも腕力には自信があるそうだ。実際、力こぶを見せてもらった事があるが、アームレスリングの大会でもあれば、優勝できるんじゃないか?と思うくらい、ぶっとい腕だった。

「あ、バルクさん。こんにちは。最近は武器と防具が良く売れてますよ。やっぱり、あの事件が尾を引いてるんですかね?」

俺が言うあの事件とは、ディーロ兄弟の襲撃と暴徒の事だ。
俺達がディーロ兄弟を退けた後は、一度も暴徒が現れていないが、あれ以来、武器、防具、攻撃系の魔道具の売れ行きが伸びている。
街の人達の自衛意識が高まっているのだろう。
ここ数年、ブロートン帝国との関係も危ぶまれているというので、猶更だ。


「うぅ~む、まぁそうだろうな。ありゃあ、一般人にはショックがでかかったろう。ワシも引退した身だが、黙ってやられるわけにもいかんからな、こうして老体に鞭打って周辺の見回りなんかをやっとるわけよ!はっはっは!」

バルクさんはツルツルの頭をはたき、豪快に笑い声を上げた。
いつ来ても店の人に気さくに話しかけてくれて、バルクさんと話していると、その笑い声で元気をもらえるような気がする。

「バルクさんなら心配ないと思いますけど、世の中何があるかは分かりませんから、気を付けてくださいね。あ、そうだ。バルクさん、街外れにできた新しいパスタ屋って知ってますか?」

「ん?街外れっていうと、パウロさんのパスタ屋があったとこだよな?あぁ、そう言えば、新しいパスタ屋ができてたな。ちょっと噂で聞いただけだが、パウロさんの店をほとんどそのまま使いまわしてるらしいぞ。居抜きってヤツだな。それで、同じパスタ屋になっとるらしい。行くのか?」

鼻の下から口周り全体を覆うように生えているボリュームのある髭をいじりながら、バルクさんは少し興味を持ったように聞いてきた。

「あ、はい。今日、仕事が終わったら行くんです。もし行った事あったなら、感想聞きたかったんです。それにしても、パスタ屋が閉店して、またパスタ屋って珍しいですね」

「そうだな、まぁ全く無いとは言わないが、あんまり聞かないな。あぁ、そうそう、話は変わるが、キミの事、街で最近ちょいちょい聞くようになったぞ。なんせ、マルコスに勝ったんだ。今、街ではちょっとした有名人だ。ここにキミを見に来る人もいるんじゃないか?」

バルクさんはカウンターに肘を付いて、身を乗り出してくる。
口の端を上げて、少し面白がっているようにも見える。


そう、確かに最近お客さんにジロジロ見られたり、俺に名前を確認して来る人もいる。
やはり、あれだけの騒ぎになったのだ。どうしても話は広まってしまうのだろう。

だけど、今のところその程度で済んでいるので、あまり気にしないようにしている。

「いますね~。俺を見て、ほぉ~、って呟いて帰った人もいましたよ。何しにきたんだよ!って思いましたもん。まぁ、なにかされた訳ではないんで、このくらいはしかたないと思って諦めてます」

「はっはっは!そうかそうか!そうなるよな!ま、有名人ならしかたない事だから、割り切るしかないだろうなぁ。おっと、つい話し込んでしまったな。じゃあ、今日はこれをくれ。やはりここの傷薬が一番だ」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、カチュアも喜びます。では、二個で6,000イエンですので、お釣りの4,000イエンです」

バルクさんは、また来る、と言って笑って帰って行った。

パスタ屋が閉店して、新しいパスタ屋か。
まぁ、少ないかもしれないが、前の店の備品などをそのまま使う居抜きなら、そう不自然でもないし、俺はあまり気にしない事にした。




そして四時半になり、店を閉めると、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人は、従業員用の出入口前に集まった。

「時間通りに終われて良かったよ。これなら五時前には着くね」

ケイトが黒の鍔付きキャップの位置を直すように、頭に手を当て動かしている。

「そうだな。あ、バルクさんから聞いたんだけど、今日行く店、前のお店の設備をそのまま使ってるんだって」

俺がバルクさんから聞いた話をすると、みんな少し驚いたようだ。
へぇ、と声をもらしている。


「居抜きかぁ、確かに前はパウロさんて人がパスタ屋を営業してたんだ。その設備をそのまま使うなら、初期費用は抑えられるかな。でも、僕も噂で聞いただけなんだけど、あそこは場所が悪くてさ。街の中心で働いてる人が、お昼休憩で行くには距離があって、ゆっくりできないんだ。だから、美味しいけどお客さんが少なくて、店を閉めたって話しだよ」

そう。この世界では、夜の外食は必然的に泊まりになる。そのため宿泊代もかかるので、独身男性が、泊りがけで居酒屋に行く事は多々あるが、基本的に夜の外食をする人は少ないのだ。

料理屋の稼ぎ時は昼になるが、その昼で稼げない場合、店を閉めざるを得なくなる事はやむを得ない。

ジーンはそんな立地の場所に、初期費用を押さえられたとしても、再び同じパスタ屋ができた事を不思議がっていた。


「ま、行ってみようぜ。俺は場所分からないから、みんな道案内頼むね」

「そだね。そろそろ行こっか。よっぽど自信のあるパスタ屋なんじゃない?どれほどのものかアタシらで評価してやろうじゃん」

「パウロさんのパスタ美味しかったから、同じくらい美味しいパスタだといいな」

「確かにね。僕も食べた事あるけど、あの人のパスタは美味しかったな。なんか僕たち・・・勝手にどんどんハードル上げて話しちゃってるね。実際のパスタが微妙でも、文句言っちゃだめだよ?」


ジーンがみんなの顔を見ながら、口元に一本指を当てた。

そんなジーンを見て、みんな顔を見合わせクスリと笑い声を漏らした。

そりゃそうだ!
文句なんて言わないよ!
確かに勝手にハードル上げてたな!

みんな笑いながら、新しいパスタ屋について話を弾ませ出発した。

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