111 / 1,542
111 パスタ屋へ
しおりを挟む
レイチェルの貰った報奨金は、500,000イエンだった。
俺の貰った額から比べると、相当少なく思えたが、レイチェルはそれでも多く感じたようだった。
「レイジェスの被害って言っても、アラタが三週間いなかった労働力と、私がマルコスと一戦交えただけだからね。エルウィンを無罪にするために減額されたけど、それでこの額だからね。予想より多いよ。減額されなければ、2,000,000~3,000,000イエンはあったかもね」
そう言って、レイチェルは報奨金を金庫に閉まった。
使い道は、店長が帰ってきた時に相談するようだ。
その日の帰り、閉店作業で戸締りをしているとケイトが声をかけてきた。
「アラタ、明日の約束覚えてる?」
「おう、覚えてるよ。考えてみると俺泊まりは初めてだから、なんかワクワクするな」
「そりゃ良かった。アタシも楽しみだよ。街外れに新しくできた店でさ。アタシも行った事なかったから、興味あるんだよね」
前に、ジーンと約束したのだが、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人でご飯を食べに行こうという話しだ。
行動力のあるケイトは、その話しをしたらすぐに店を決めて、予定を組んでいたのだ。
「でさ、どんな店なの?メインの食べ物とか」
ケイトは帽子の鍔を指ではじき、少し上を向くと、腕を組んで考えるように少しのあいだ口を閉じた。
「ん~、パスタ屋みたいなんだけど、アタシもあんま知らないんだ。お母さんに良い店ないか聞いたら、あの店どう?って言われて、そう言えばいつの間にか、新しくできてたなって思って。それで決めちゃったんだよね」
「へぇ、パスタか。いいんじゃない?予約はできた?」
「あ、それは大丈夫!ちゃんと済ませてあるよ。でもね、なんか淡々とした店員だった。必要な事以外話さない感じ。ちょっとアレだなって思ったけど、まぁ、せっかく店まで行ったんだしって事で、そこに決めといた」
「え?それ大丈夫?店員の感じ悪いと、美味い料理も不味くならない?」
「あはは~・・・まぁまぁ、細かい事を気にすんなって!じゃあ、明日だからね!部屋は二つでいいよね?泊まりの準備だけはしてきなよ」
そう言って、ケイトは手を振って青魔法コーナーに戻って行った。
「まぁ、いっか・・・」
俺はキッチン・モロニーくらいしか知らないので、店を決めるのは全てケイトに任せていた。
ちょっと気になったけど、予約まで任せておいて、くどくど文句を言うのも違うと思うし、淡々とした無口な店員がいるというだけなら、特に気にしないでもいいと思った。
四時半に閉店して、それから夜ご飯を食べに行くと、帰りはどうしても夜になってしまう。
夜はトバリが出て外を歩く事ができないから、飲食店は自然と宿も兼ねる所が多いのだ。
ケイトの決めた店をカチュアに聞いてみたが、カチュアも知らなかったようだ。
「うーん・・・あそこ、ちょっと前まで、美味しいパスタ屋さんだったんだよね。優しそうなおじさんと、おばさんが夫婦でやってたの。でも、アラタ君がここに来る前だから、夏になる前だったかな?急にお店閉めちゃったんだよね。それっきり私も行ってなかったから、新しいお店できたの知らなった」
街外れで、レイジェスからは少し距離があるので、なかなか行けなかったようだが、パスタがとても美味しくて、カチュアは気に入っていたらしい。
閉店した事は残念で、もう一度食べたかったな。と言って眉を下げ残念そうな顔をした。
「そんなに美味しいなら、俺も食べて見たかったな。でも、新しいお店もパスタ屋ってびっくりだよね。美味しいといいな、明日は楽しみにしようよ」
そう言うとカチュアはすぐに笑顔を見せて、うん!と元気な返事をくれた。
翌日、王妃様の使いは来なかった。
仕事はいつも通りで、俺はお客さんに防具の説明をしたり、買い取りではジャレットさんに説明を受けながら、買い取りの補助につき仕事をした。
メインレジに立ち仕事をしていると、お客さんが話しかけてくる事があるので、俺は順番待ちのお客さんがいない時は、できるだけ話に付き合うようにしている。
どうでもいい話をしてくる人は、相槌を打って適当なところで切り上げたりもするが、中には街の周辺で起きた事件や、気を付けた方がいい場所など、注意しておくべき情報をくれる人もいるからだ。
「おう、アラタ君!もうかってっかよ?はっはっは!」
この豪快に笑いながら話しかけてくるお客さんは、常連のバルクさんだ。
横に広い体系で、腹がけっこう出ているのだが、若い時は治安部隊で働いていたそうで、50を過ぎた今でも腕力には自信があるそうだ。実際、力こぶを見せてもらった事があるが、アームレスリングの大会でもあれば、優勝できるんじゃないか?と思うくらい、ぶっとい腕だった。
「あ、バルクさん。こんにちは。最近は武器と防具が良く売れてますよ。やっぱり、あの事件が尾を引いてるんですかね?」
俺が言うあの事件とは、ディーロ兄弟の襲撃と暴徒の事だ。
俺達がディーロ兄弟を退けた後は、一度も暴徒が現れていないが、あれ以来、武器、防具、攻撃系の魔道具の売れ行きが伸びている。
街の人達の自衛意識が高まっているのだろう。
ここ数年、ブロートン帝国との関係も危ぶまれているというので、猶更だ。
「うぅ~む、まぁそうだろうな。ありゃあ、一般人にはショックがでかかったろう。ワシも引退した身だが、黙ってやられるわけにもいかんからな、こうして老体に鞭打って周辺の見回りなんかをやっとるわけよ!はっはっは!」
バルクさんはツルツルの頭をはたき、豪快に笑い声を上げた。
いつ来ても店の人に気さくに話しかけてくれて、バルクさんと話していると、その笑い声で元気をもらえるような気がする。
「バルクさんなら心配ないと思いますけど、世の中何があるかは分かりませんから、気を付けてくださいね。あ、そうだ。バルクさん、街外れにできた新しいパスタ屋って知ってますか?」
「ん?街外れっていうと、パウロさんのパスタ屋があったとこだよな?あぁ、そう言えば、新しいパスタ屋ができてたな。ちょっと噂で聞いただけだが、パウロさんの店をほとんどそのまま使いまわしてるらしいぞ。居抜きってヤツだな。それで、同じパスタ屋になっとるらしい。行くのか?」
鼻の下から口周り全体を覆うように生えているボリュームのある髭をいじりながら、バルクさんは少し興味を持ったように聞いてきた。
「あ、はい。今日、仕事が終わったら行くんです。もし行った事あったなら、感想聞きたかったんです。それにしても、パスタ屋が閉店して、またパスタ屋って珍しいですね」
「そうだな、まぁ全く無いとは言わないが、あんまり聞かないな。あぁ、そうそう、話は変わるが、キミの事、街で最近ちょいちょい聞くようになったぞ。なんせ、マルコスに勝ったんだ。今、街ではちょっとした有名人だ。ここにキミを見に来る人もいるんじゃないか?」
バルクさんはカウンターに肘を付いて、身を乗り出してくる。
口の端を上げて、少し面白がっているようにも見える。
そう、確かに最近お客さんにジロジロ見られたり、俺に名前を確認して来る人もいる。
やはり、あれだけの騒ぎになったのだ。どうしても話は広まってしまうのだろう。
だけど、今のところその程度で済んでいるので、あまり気にしないようにしている。
「いますね~。俺を見て、ほぉ~、って呟いて帰った人もいましたよ。何しにきたんだよ!って思いましたもん。まぁ、なにかされた訳ではないんで、このくらいはしかたないと思って諦めてます」
「はっはっは!そうかそうか!そうなるよな!ま、有名人ならしかたない事だから、割り切るしかないだろうなぁ。おっと、つい話し込んでしまったな。じゃあ、今日はこれをくれ。やはりここの傷薬が一番だ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、カチュアも喜びます。では、二個で6,000イエンですので、お釣りの4,000イエンです」
バルクさんは、また来る、と言って笑って帰って行った。
パスタ屋が閉店して、新しいパスタ屋か。
まぁ、少ないかもしれないが、前の店の備品などをそのまま使う居抜きなら、そう不自然でもないし、俺はあまり気にしない事にした。
そして四時半になり、店を閉めると、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人は、従業員用の出入口前に集まった。
「時間通りに終われて良かったよ。これなら五時前には着くね」
ケイトが黒の鍔付きキャップの位置を直すように、頭に手を当て動かしている。
「そうだな。あ、バルクさんから聞いたんだけど、今日行く店、前のお店の設備をそのまま使ってるんだって」
俺がバルクさんから聞いた話をすると、みんな少し驚いたようだ。
へぇ、と声をもらしている。
「居抜きかぁ、確かに前はパウロさんて人がパスタ屋を営業してたんだ。その設備をそのまま使うなら、初期費用は抑えられるかな。でも、僕も噂で聞いただけなんだけど、あそこは場所が悪くてさ。街の中心で働いてる人が、お昼休憩で行くには距離があって、ゆっくりできないんだ。だから、美味しいけどお客さんが少なくて、店を閉めたって話しだよ」
そう。この世界では、夜の外食は必然的に泊まりになる。そのため宿泊代もかかるので、独身男性が、泊りがけで居酒屋に行く事は多々あるが、基本的に夜の外食をする人は少ないのだ。
料理屋の稼ぎ時は昼になるが、その昼で稼げない場合、店を閉めざるを得なくなる事はやむを得ない。
ジーンはそんな立地の場所に、初期費用を押さえられたとしても、再び同じパスタ屋ができた事を不思議がっていた。
「ま、行ってみようぜ。俺は場所分からないから、みんな道案内頼むね」
「そだね。そろそろ行こっか。よっぽど自信のあるパスタ屋なんじゃない?どれほどのものかアタシらで評価してやろうじゃん」
「パウロさんのパスタ美味しかったから、同じくらい美味しいパスタだといいな」
「確かにね。僕も食べた事あるけど、あの人のパスタは美味しかったな。なんか僕たち・・・勝手にどんどんハードル上げて話しちゃってるね。実際のパスタが微妙でも、文句言っちゃだめだよ?」
ジーンがみんなの顔を見ながら、口元に一本指を当てた。
そんなジーンを見て、みんな顔を見合わせクスリと笑い声を漏らした。
そりゃそうだ!
文句なんて言わないよ!
確かに勝手にハードル上げてたな!
みんな笑いながら、新しいパスタ屋について話を弾ませ出発した。
俺の貰った額から比べると、相当少なく思えたが、レイチェルはそれでも多く感じたようだった。
「レイジェスの被害って言っても、アラタが三週間いなかった労働力と、私がマルコスと一戦交えただけだからね。エルウィンを無罪にするために減額されたけど、それでこの額だからね。予想より多いよ。減額されなければ、2,000,000~3,000,000イエンはあったかもね」
そう言って、レイチェルは報奨金を金庫に閉まった。
使い道は、店長が帰ってきた時に相談するようだ。
その日の帰り、閉店作業で戸締りをしているとケイトが声をかけてきた。
「アラタ、明日の約束覚えてる?」
「おう、覚えてるよ。考えてみると俺泊まりは初めてだから、なんかワクワクするな」
「そりゃ良かった。アタシも楽しみだよ。街外れに新しくできた店でさ。アタシも行った事なかったから、興味あるんだよね」
前に、ジーンと約束したのだが、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人でご飯を食べに行こうという話しだ。
行動力のあるケイトは、その話しをしたらすぐに店を決めて、予定を組んでいたのだ。
「でさ、どんな店なの?メインの食べ物とか」
ケイトは帽子の鍔を指ではじき、少し上を向くと、腕を組んで考えるように少しのあいだ口を閉じた。
「ん~、パスタ屋みたいなんだけど、アタシもあんま知らないんだ。お母さんに良い店ないか聞いたら、あの店どう?って言われて、そう言えばいつの間にか、新しくできてたなって思って。それで決めちゃったんだよね」
「へぇ、パスタか。いいんじゃない?予約はできた?」
「あ、それは大丈夫!ちゃんと済ませてあるよ。でもね、なんか淡々とした店員だった。必要な事以外話さない感じ。ちょっとアレだなって思ったけど、まぁ、せっかく店まで行ったんだしって事で、そこに決めといた」
「え?それ大丈夫?店員の感じ悪いと、美味い料理も不味くならない?」
「あはは~・・・まぁまぁ、細かい事を気にすんなって!じゃあ、明日だからね!部屋は二つでいいよね?泊まりの準備だけはしてきなよ」
そう言って、ケイトは手を振って青魔法コーナーに戻って行った。
「まぁ、いっか・・・」
俺はキッチン・モロニーくらいしか知らないので、店を決めるのは全てケイトに任せていた。
ちょっと気になったけど、予約まで任せておいて、くどくど文句を言うのも違うと思うし、淡々とした無口な店員がいるというだけなら、特に気にしないでもいいと思った。
四時半に閉店して、それから夜ご飯を食べに行くと、帰りはどうしても夜になってしまう。
夜はトバリが出て外を歩く事ができないから、飲食店は自然と宿も兼ねる所が多いのだ。
ケイトの決めた店をカチュアに聞いてみたが、カチュアも知らなかったようだ。
「うーん・・・あそこ、ちょっと前まで、美味しいパスタ屋さんだったんだよね。優しそうなおじさんと、おばさんが夫婦でやってたの。でも、アラタ君がここに来る前だから、夏になる前だったかな?急にお店閉めちゃったんだよね。それっきり私も行ってなかったから、新しいお店できたの知らなった」
街外れで、レイジェスからは少し距離があるので、なかなか行けなかったようだが、パスタがとても美味しくて、カチュアは気に入っていたらしい。
閉店した事は残念で、もう一度食べたかったな。と言って眉を下げ残念そうな顔をした。
「そんなに美味しいなら、俺も食べて見たかったな。でも、新しいお店もパスタ屋ってびっくりだよね。美味しいといいな、明日は楽しみにしようよ」
そう言うとカチュアはすぐに笑顔を見せて、うん!と元気な返事をくれた。
翌日、王妃様の使いは来なかった。
仕事はいつも通りで、俺はお客さんに防具の説明をしたり、買い取りではジャレットさんに説明を受けながら、買い取りの補助につき仕事をした。
メインレジに立ち仕事をしていると、お客さんが話しかけてくる事があるので、俺は順番待ちのお客さんがいない時は、できるだけ話に付き合うようにしている。
どうでもいい話をしてくる人は、相槌を打って適当なところで切り上げたりもするが、中には街の周辺で起きた事件や、気を付けた方がいい場所など、注意しておくべき情報をくれる人もいるからだ。
「おう、アラタ君!もうかってっかよ?はっはっは!」
この豪快に笑いながら話しかけてくるお客さんは、常連のバルクさんだ。
横に広い体系で、腹がけっこう出ているのだが、若い時は治安部隊で働いていたそうで、50を過ぎた今でも腕力には自信があるそうだ。実際、力こぶを見せてもらった事があるが、アームレスリングの大会でもあれば、優勝できるんじゃないか?と思うくらい、ぶっとい腕だった。
「あ、バルクさん。こんにちは。最近は武器と防具が良く売れてますよ。やっぱり、あの事件が尾を引いてるんですかね?」
俺が言うあの事件とは、ディーロ兄弟の襲撃と暴徒の事だ。
俺達がディーロ兄弟を退けた後は、一度も暴徒が現れていないが、あれ以来、武器、防具、攻撃系の魔道具の売れ行きが伸びている。
街の人達の自衛意識が高まっているのだろう。
ここ数年、ブロートン帝国との関係も危ぶまれているというので、猶更だ。
「うぅ~む、まぁそうだろうな。ありゃあ、一般人にはショックがでかかったろう。ワシも引退した身だが、黙ってやられるわけにもいかんからな、こうして老体に鞭打って周辺の見回りなんかをやっとるわけよ!はっはっは!」
バルクさんはツルツルの頭をはたき、豪快に笑い声を上げた。
いつ来ても店の人に気さくに話しかけてくれて、バルクさんと話していると、その笑い声で元気をもらえるような気がする。
「バルクさんなら心配ないと思いますけど、世の中何があるかは分かりませんから、気を付けてくださいね。あ、そうだ。バルクさん、街外れにできた新しいパスタ屋って知ってますか?」
「ん?街外れっていうと、パウロさんのパスタ屋があったとこだよな?あぁ、そう言えば、新しいパスタ屋ができてたな。ちょっと噂で聞いただけだが、パウロさんの店をほとんどそのまま使いまわしてるらしいぞ。居抜きってヤツだな。それで、同じパスタ屋になっとるらしい。行くのか?」
鼻の下から口周り全体を覆うように生えているボリュームのある髭をいじりながら、バルクさんは少し興味を持ったように聞いてきた。
「あ、はい。今日、仕事が終わったら行くんです。もし行った事あったなら、感想聞きたかったんです。それにしても、パスタ屋が閉店して、またパスタ屋って珍しいですね」
「そうだな、まぁ全く無いとは言わないが、あんまり聞かないな。あぁ、そうそう、話は変わるが、キミの事、街で最近ちょいちょい聞くようになったぞ。なんせ、マルコスに勝ったんだ。今、街ではちょっとした有名人だ。ここにキミを見に来る人もいるんじゃないか?」
バルクさんはカウンターに肘を付いて、身を乗り出してくる。
口の端を上げて、少し面白がっているようにも見える。
そう、確かに最近お客さんにジロジロ見られたり、俺に名前を確認して来る人もいる。
やはり、あれだけの騒ぎになったのだ。どうしても話は広まってしまうのだろう。
だけど、今のところその程度で済んでいるので、あまり気にしないようにしている。
「いますね~。俺を見て、ほぉ~、って呟いて帰った人もいましたよ。何しにきたんだよ!って思いましたもん。まぁ、なにかされた訳ではないんで、このくらいはしかたないと思って諦めてます」
「はっはっは!そうかそうか!そうなるよな!ま、有名人ならしかたない事だから、割り切るしかないだろうなぁ。おっと、つい話し込んでしまったな。じゃあ、今日はこれをくれ。やはりここの傷薬が一番だ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、カチュアも喜びます。では、二個で6,000イエンですので、お釣りの4,000イエンです」
バルクさんは、また来る、と言って笑って帰って行った。
パスタ屋が閉店して、新しいパスタ屋か。
まぁ、少ないかもしれないが、前の店の備品などをそのまま使う居抜きなら、そう不自然でもないし、俺はあまり気にしない事にした。
そして四時半になり、店を閉めると、俺とカチュア、ジーンとケイトの四人は、従業員用の出入口前に集まった。
「時間通りに終われて良かったよ。これなら五時前には着くね」
ケイトが黒の鍔付きキャップの位置を直すように、頭に手を当て動かしている。
「そうだな。あ、バルクさんから聞いたんだけど、今日行く店、前のお店の設備をそのまま使ってるんだって」
俺がバルクさんから聞いた話をすると、みんな少し驚いたようだ。
へぇ、と声をもらしている。
「居抜きかぁ、確かに前はパウロさんて人がパスタ屋を営業してたんだ。その設備をそのまま使うなら、初期費用は抑えられるかな。でも、僕も噂で聞いただけなんだけど、あそこは場所が悪くてさ。街の中心で働いてる人が、お昼休憩で行くには距離があって、ゆっくりできないんだ。だから、美味しいけどお客さんが少なくて、店を閉めたって話しだよ」
そう。この世界では、夜の外食は必然的に泊まりになる。そのため宿泊代もかかるので、独身男性が、泊りがけで居酒屋に行く事は多々あるが、基本的に夜の外食をする人は少ないのだ。
料理屋の稼ぎ時は昼になるが、その昼で稼げない場合、店を閉めざるを得なくなる事はやむを得ない。
ジーンはそんな立地の場所に、初期費用を押さえられたとしても、再び同じパスタ屋ができた事を不思議がっていた。
「ま、行ってみようぜ。俺は場所分からないから、みんな道案内頼むね」
「そだね。そろそろ行こっか。よっぽど自信のあるパスタ屋なんじゃない?どれほどのものかアタシらで評価してやろうじゃん」
「パウロさんのパスタ美味しかったから、同じくらい美味しいパスタだといいな」
「確かにね。僕も食べた事あるけど、あの人のパスタは美味しかったな。なんか僕たち・・・勝手にどんどんハードル上げて話しちゃってるね。実際のパスタが微妙でも、文句言っちゃだめだよ?」
ジーンがみんなの顔を見ながら、口元に一本指を当てた。
そんなジーンを見て、みんな顔を見合わせクスリと笑い声を漏らした。
そりゃそうだ!
文句なんて言わないよ!
確かに勝手にハードル上げてたな!
みんな笑いながら、新しいパスタ屋について話を弾ませ出発した。
5
あなたにおすすめの小説
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ショボい人生のやり直し?!絶対に消えたくないので真逆の人生でポイント貯める
亀野内アンディ
ファンタジー
「佐藤さんはお亡くなりになりました」
「え?」
佐藤竜、独身リーマン。ビルの倒壊で享年(40)案内役に連れられ天へと向かうが⋯⋯⋯⋯
「佐藤竜はさぁ、色んな世界でも特に人気の高い地球の日本に産まれて一体何を成し遂げたの?」
「え?」
「五体満足な体。戦いの無い安全な環境で育ち、衣食住は常に満たされて、それで何をしたの?」
俺は恵まれた環境であまりにもショボい人生を送っていたらしい。このままでは⋯⋯⋯⋯
「はぁ。どうしようかな。消すかな」
「な、何をですか?!」
「君を」
「怖いです!許して下さい!」
「そう?消えれば無に還れるよ?」
「お、お願いします!無は嫌です!」
「う~ん。じゃあ君は佐藤と真逆の人生を歩ませようかな?そこで人生経験ポイントを佐藤の分まで貯めなよ?佐藤とこれから転生する君の二人分の体験だよ?失敗したら今度こそは無にするからね」
「はい、死ぬ気で頑張ります!!」
ここから真逆の人生で経験ポイント貯める佐藤の戦いが始まる?!
最強超人は異世界にてスマホを使う
萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。
そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた――
「……いや草」
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる