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115 濁った空と歪んだ石畳 ①
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『・・・ここは、どこだ?』
気が付くと、まったくおかしな場所にいた。
そう、おかしな場所としか、表現の仕様が無い。
まず、真っ先に目に入った空は濁っていた。
水に油を垂らした時にできる油膜のような、虹色に見えなくもないが、濁っているような印象なのだ。
空と表現したが、ここが中なのか外なのかも分からない。ただ、上を向き、周りをグルリと見渡す限り、一面そんな景色だった。
次に足元を見て見ると、歪んだ石畳みの地面が、どこまでもどこまでも広がっていた。
四角い石ではなく、どの石もぐにゃりと、コの字や、ヘの字に曲がりながら、敷き詰められているのだ。
状況が全く理解できない。自分の体を見てみると、服装は寝る前と同じ、長袖Tシャツに、デニムパンツだった。
そして、頭が痛いとか、体に異常は感じなかった。
あれほど強かった眠気も、今はまるで8時間ぐっすり寝た後のように、すっきりしている。
『カチュア!・・・みんな、どこだ!?』
辺りを見渡すが、濁った空と、歪んだ石畳以外、何も目に入ってこない。
『俺・・・一人なのか・・・ん?』
よく見ると、数歩先の石畳の中に、ドアノブがある。どこにでもある、よく見る丸くて回すタイプだ。
そこの石だけ、歪んだ石がドアの形になるように、うまく組まされているようにも見える。
『・・・行くしかない・・・か』
ここがどこだか全く分からないが、じっとしていても何も始まらなそうだ。
俺はドアノブの前にしゃがむと、思い切ってノブを回し、ドアを開き上げた。
ドアを開けると、そこにはまた同じ世界が広がっていた。
水に油を垂らした時にできる油膜のような、虹色に濁った空。
そしてぐにゃりと様々な形に曲がった石畳。
それだけだった。
俺は地面から出ていたドアノブを回し引き上げた飛び降りた。
だが不思議な事に、飛び降りた先では、ごく自然に石畳の地面の上に立っており、視線の先も平行に向いていた。
飛び降りたのに、なぜか普通にドアを開けて一歩踏み出したかのように、平行に地面の上に立っているのだ。
しかし、一つ違った事は、俺が出て来たドアは、石畳の中ではなく、ドアだけの独立した存在として、俺の後ろに存在していた。正面から見ると、曲がりくねった石を敷き詰めたドアであり、後ろを見るドアノブが付いていないだけで、正面と同じ石である。
『一体ここはなんだ?』
『ここは、俺の親父の夢の中だ』
突然、男の声が頭の中に響いた。
耳を通してではなく、直接頭の中に言葉が入って来るような感覚である。
振り返ると、そこにはさっきまで俺達に食事を提供していた、パスタ屋の男性店員が立っていた。
『あんた、パスタ屋の店員じゃないか?どういう事だよ?』
『だから、ここは俺の親父の夢の中だ。やってほしい事があって、あんた達をここに招待した』
給仕をしていた時とは打って変わり、横柄な言葉使いと、人を見下したような目が俺にイラ立ちを与えた。こっちの顔がこの男の本性なのだろう。
『いきなり夢の中に招待だと言われても、俺には何の事だかサッパリだよ。料理は美味くて感動したのに、こんな事するヤツだったとはがっかりだ。みんなはどこだ?夢の中なら、さっさと帰してくれ』
すると、男性店員は小馬鹿にしたように鼻で笑い、この世界を見ろとばかりに、手を広げ、少し高い声を出して説明を始めた。
『あんた何言ってんだよ?こんな事するヤツが、はいそうですか、と帰すと思うか!?いいか、ここから出たけりゃ、俺に従ってもらう!この夢の世界の最深部にいる俺の親父を起こすんだ!それが出来ればすぐに帰してやるさ』
見渡す限り、濁った空と歪んだ石畳の地面以外、何も無い世界だった。世界の果てがまるで見えない。
この世界は無限に広がっているのだろうか・・・
『・・・言ってる意味が良く分からないが、なんで俺達なんだ?なんで俺達なら、お前の親父を起こせると思うんだ?』
『あんたがサカキ・アラタだからだ。マルゴンを倒したんだろ?』
男性店員は、射貫くような鋭い眼差しを俺に向けた。
俺を知っているのか?そう聞き返しそうになったが、今日、店に来たバルクさんとの会話を思いだす。
そうだ、俺は自分が思っているよりも有名になっているようだ。
あのマルゴンを倒した男として、店にわざわざ顔を見に来る人もいるし、声をかけられた事だってある。
自分が知らなくても、他人は知っているという事は、もはや当たり前と思った方がいいだろう。
『・・・そうだ。俺がマルゴンを倒した。つまり、お前の親父を起こすには、それなりの戦闘力がいるんだな?』
『へぇ、良かったよ。そのくらいは察する頭があるんだな?その通りだ。俺の親父の精神体はこの夢の世界の最深部だ。だが、そこには二人、俺の親父をこんな夢の中に閉じ込めた二人の精神体がいて、近づく者を攻撃するんだ。悔しいが俺一人では敵わない。ヤツらを倒すために力がいる。だから今日、アンタを見た時は驚いたが、同時に喜んだぜ。あのマルゴンを倒したヤツなら、アイツらにも勝てるってな!これがお前達をここに招待した理由だ。分かったら、黙って力を・・・」
拳が頬を打ちつける、鈍い音が耳に届いた。
俺は男性店員の顔を殴りつけた。
手加減はしたが、全く反応できなかった男性店員は殴られた衝撃で地面に倒れた。
男性店員は顔を上げると、怒りの色を目に宿し俺を睨みつけてきた。
だが、俺の怒りはそれ以上だった。
『お前、ふざけんなよ?もし、カチュアとケイトとジーンに何かあったら、許さねぇからな』
男性店員の目を正面から睨み返す。
俺が一歩距離を詰めると、男性店員も腰を上げ、切れた口から滲む血を白いシャツの袖で拭った。
『・・・ふん、いいだろう。この一発は、お前達をここに呼んだ分として受けよう。だが、俺は親父を起こすまで帰る気は無い。お前達が帰りたければ、親父を起こすしか方法はないぞ?』
『お前、なんでこんなやり方をした?最初からそう言えよ?俺達が店に来た時に、ちゃんと相談しろよ?力を貸してくれって頼めよ?こんな乱暴なやり方で、人の協力が得られると思ってんのか?』
『黙れ!俺の親父は、軍の魔法兵に眠らされたんだ!他人なんか信用できるか!』
眉を吊り上げ、怒りをあらわにした表情で、男性店員は怒鳴り返した。
軍の魔法兵に眠らされたという言葉に、俺も眉を潜め聞き返す。
『どういう事だ?一体、お前達親子になにがあったのか詳しく話せ。でなきゃ、力は貸せない』
男性店員は、気持ちを落ち着けるように目を閉じ、深く息を付くと、茶色の長い前髪をたくし上げ、口を開いた。
『・・・俺は、ガキの頃から親父に料理を仕込まれてな。まぁ、俺しか後継ぎがいねぇんだ、厳しい修行も我慢してやってきたよ。けどな、数年前、ささいな事で喧嘩して、その時溜まってたものが爆発しちまったんだ。散々親父を罵って家を飛び出した。知り合いがロンズデールにいるから、とりあえずソイツを頼って、ロンズデールに行った。
住む所を決め、落ち着いた頃、おふくろ宛てに手紙を出した。やっぱり気になってはいたからな。そこから、おふくろと、手紙で連絡を取るようになった』
俺はなんとなくだが、この男性店員が自分と似た境遇だと思った。
俺は家を飛び出した事はないが、父親との仲はあまり良くなく、いつも母親に心配ばかりかけていたからだ。
『春の終わり頃だ。その日届いた手紙には、親父が体調を悪くして、店を続けられそうにないと書いてあった。俺は悩んだ。ハッキリとは書かれていないが、おふくろが俺に戻ってきて欲しい気持ちは、痛い程伝わったからな。だから俺はこの街に戻ったんだ。親父と会った時、どう話そう。いや、そもそも話ができるだろうか?そんな心配ばかりしながら、家に帰ると、最初に目に入ってきたのは、床に倒れた親父と、泣きながら親父に縋りつくおふくろ、そしてそれを嘲笑するクインズベリー軍の二人の魔法兵だった』
そこまで話すと、男性店員は口をつぐんだ。
唇を噛みしめ、血がにじむ程に拳を強く握り締めている。
そして、怒りを隠す事なく、そのまま俺に言葉をぶつけてきた。
『状況が理解できずに立ち尽くす俺に、ヤツらこう言った、お前が軍に入れば親父を助けてやる、ってな。連中の狙いは俺だ。俺は黒魔法使いだ。ヤツらが帰った後、おふくろに聞いたが、どこかで俺が高い魔力を持っている事を聞き、親父に俺を軍に渡すよう話しに来たらしい。親父は頑として断った。だが、その結果、薬を飲まされずっと眠ったままだ・・・これが理由だ、分かったか!?俺はアイツらを許せねぇ!』
話を聞き、俺はますますこの男が許せなくなった。
胸倉を掴み、思い切り怒鳴りつけた。
『ふざけてんじゃねぇぞ!だったら猶更最初から素直に話して頼めよ!お前がやってる事は、その連中と同じじゃねぇか!お前をかばって倒れた親父さんに、顔向けできんのか!』
『ぐっ・・・うるさい!何と言われようと、俺は親父を助ける!そのためには手段は選ばない!いいか!?お前が俺に何と言おうと、ここから出たければ俺に従うしかないんだ!俺が許せなければ、ここを出た後、治安部隊に突き出すなり、お前自身の手で殺すなり、好きにすればいい!だが、親父を助けるまでは黙って俺に力を貸せ!』
怒気を込めた視線が交差し、しばらく睨み合いが続いた。
『・・・分かった。親父さんを助けるまではお前に力を貸そう。だから答えろ、俺の仲間達はどこだ?』
手を離すと男は少しだけ咳き込み、シャツの襟を正すと、分からない、と答えた。
『なんだと?分からない!?お前、本当にふざけてんじゃねぇぞ!』
俺が声を大にして、再び詰め寄ると、男は手を前に出し、落ち着いた様子で言葉を発した。
『最後まで聞け、お前の仲間は全員この夢の世界に来ている事は間違いない。スタート地点はバラバラだが、この夢の中は迷宮では無い。各部屋にドアが一つだけ存在しているから、そのドアを開けて進んで行けば、いずれ最深部にたどり着く。だから、お前の仲間も立ち止まらずにドアを見つけ進んで行けば、どこかで会えるはずだ』
『・・・この無限に広い世界で、各部屋たった一つのドアを探せってのか!?』
『安心しろ、俺はこれまで一人で何度かこの世界に来ているが、決まって自分が最初に降りた場所から、すぐ近くにある。足元を見ずにウロウロすると、いつまでたっても出られないという訳だ』
頭に直接響く声にも慣れてきた。
耳から聞くより、脳に響く感覚がある。
『そう言えば、俺がこの部屋に来た時も、ドアはすぐ近くにあったな』
『そういう事だ。ほら、次の部屋へのドアも、そこにあるぞ』
そう言って男は俺のすぐ脇を指した。男の指を目で追うと、ほんの数歩先の地面に、最初の部屋と同じく、ドアノブが石畳の地面から生えているかのように出ている。
『・・・なるほど、そうみたいだな』
確かに、最初の部屋でもドアノブがすぐ近くにあり、この部屋も同じように見つかった事を考えると、どの部屋も同じ作りのように思えて来た。
だが、そうなると、カチュア、ケイト、ジーンの三人はどうだろう。
この法則に気付けばいいが、気づけず歩き回れば、ずっとさまよい続ける事になる。
心配が焦燥感として俺の心に表れて来た。
それを感じ取ってか、男が落ち着いた口調で話しかけて来た。
『いいか、全員揃わなくても、俺がある魔道具を使えば全員揃って現実世界に帰る事ができる。だから、この先誰とも合流できず、俺とお前の二人のままだったとしても、勝てばいいんだ。それで帰れる』
『・・・相手は俺達二人だけでも勝てそうなヤツなのか?』
『俺は一対一なら勝てないレベルだとは思わない。そして、お前がマルゴンより強いのなら、軍の魔法兵程度なんて事ないだろう?ちなみに、二人とも黒魔法使いだ』
『・・・そうか。分かった、それなら先を急ごう』
納得しきれなくても、全員揃って帰れる手段があるのならば、今は従うしかない。
俺は自分にそう言い聞かせ、次の部屋に通じるドアノブに手をかけた。
気が付くと、まったくおかしな場所にいた。
そう、おかしな場所としか、表現の仕様が無い。
まず、真っ先に目に入った空は濁っていた。
水に油を垂らした時にできる油膜のような、虹色に見えなくもないが、濁っているような印象なのだ。
空と表現したが、ここが中なのか外なのかも分からない。ただ、上を向き、周りをグルリと見渡す限り、一面そんな景色だった。
次に足元を見て見ると、歪んだ石畳みの地面が、どこまでもどこまでも広がっていた。
四角い石ではなく、どの石もぐにゃりと、コの字や、ヘの字に曲がりながら、敷き詰められているのだ。
状況が全く理解できない。自分の体を見てみると、服装は寝る前と同じ、長袖Tシャツに、デニムパンツだった。
そして、頭が痛いとか、体に異常は感じなかった。
あれほど強かった眠気も、今はまるで8時間ぐっすり寝た後のように、すっきりしている。
『カチュア!・・・みんな、どこだ!?』
辺りを見渡すが、濁った空と、歪んだ石畳以外、何も目に入ってこない。
『俺・・・一人なのか・・・ん?』
よく見ると、数歩先の石畳の中に、ドアノブがある。どこにでもある、よく見る丸くて回すタイプだ。
そこの石だけ、歪んだ石がドアの形になるように、うまく組まされているようにも見える。
『・・・行くしかない・・・か』
ここがどこだか全く分からないが、じっとしていても何も始まらなそうだ。
俺はドアノブの前にしゃがむと、思い切ってノブを回し、ドアを開き上げた。
ドアを開けると、そこにはまた同じ世界が広がっていた。
水に油を垂らした時にできる油膜のような、虹色に濁った空。
そしてぐにゃりと様々な形に曲がった石畳。
それだけだった。
俺は地面から出ていたドアノブを回し引き上げた飛び降りた。
だが不思議な事に、飛び降りた先では、ごく自然に石畳の地面の上に立っており、視線の先も平行に向いていた。
飛び降りたのに、なぜか普通にドアを開けて一歩踏み出したかのように、平行に地面の上に立っているのだ。
しかし、一つ違った事は、俺が出て来たドアは、石畳の中ではなく、ドアだけの独立した存在として、俺の後ろに存在していた。正面から見ると、曲がりくねった石を敷き詰めたドアであり、後ろを見るドアノブが付いていないだけで、正面と同じ石である。
『一体ここはなんだ?』
『ここは、俺の親父の夢の中だ』
突然、男の声が頭の中に響いた。
耳を通してではなく、直接頭の中に言葉が入って来るような感覚である。
振り返ると、そこにはさっきまで俺達に食事を提供していた、パスタ屋の男性店員が立っていた。
『あんた、パスタ屋の店員じゃないか?どういう事だよ?』
『だから、ここは俺の親父の夢の中だ。やってほしい事があって、あんた達をここに招待した』
給仕をしていた時とは打って変わり、横柄な言葉使いと、人を見下したような目が俺にイラ立ちを与えた。こっちの顔がこの男の本性なのだろう。
『いきなり夢の中に招待だと言われても、俺には何の事だかサッパリだよ。料理は美味くて感動したのに、こんな事するヤツだったとはがっかりだ。みんなはどこだ?夢の中なら、さっさと帰してくれ』
すると、男性店員は小馬鹿にしたように鼻で笑い、この世界を見ろとばかりに、手を広げ、少し高い声を出して説明を始めた。
『あんた何言ってんだよ?こんな事するヤツが、はいそうですか、と帰すと思うか!?いいか、ここから出たけりゃ、俺に従ってもらう!この夢の世界の最深部にいる俺の親父を起こすんだ!それが出来ればすぐに帰してやるさ』
見渡す限り、濁った空と歪んだ石畳の地面以外、何も無い世界だった。世界の果てがまるで見えない。
この世界は無限に広がっているのだろうか・・・
『・・・言ってる意味が良く分からないが、なんで俺達なんだ?なんで俺達なら、お前の親父を起こせると思うんだ?』
『あんたがサカキ・アラタだからだ。マルゴンを倒したんだろ?』
男性店員は、射貫くような鋭い眼差しを俺に向けた。
俺を知っているのか?そう聞き返しそうになったが、今日、店に来たバルクさんとの会話を思いだす。
そうだ、俺は自分が思っているよりも有名になっているようだ。
あのマルゴンを倒した男として、店にわざわざ顔を見に来る人もいるし、声をかけられた事だってある。
自分が知らなくても、他人は知っているという事は、もはや当たり前と思った方がいいだろう。
『・・・そうだ。俺がマルゴンを倒した。つまり、お前の親父を起こすには、それなりの戦闘力がいるんだな?』
『へぇ、良かったよ。そのくらいは察する頭があるんだな?その通りだ。俺の親父の精神体はこの夢の世界の最深部だ。だが、そこには二人、俺の親父をこんな夢の中に閉じ込めた二人の精神体がいて、近づく者を攻撃するんだ。悔しいが俺一人では敵わない。ヤツらを倒すために力がいる。だから今日、アンタを見た時は驚いたが、同時に喜んだぜ。あのマルゴンを倒したヤツなら、アイツらにも勝てるってな!これがお前達をここに招待した理由だ。分かったら、黙って力を・・・」
拳が頬を打ちつける、鈍い音が耳に届いた。
俺は男性店員の顔を殴りつけた。
手加減はしたが、全く反応できなかった男性店員は殴られた衝撃で地面に倒れた。
男性店員は顔を上げると、怒りの色を目に宿し俺を睨みつけてきた。
だが、俺の怒りはそれ以上だった。
『お前、ふざけんなよ?もし、カチュアとケイトとジーンに何かあったら、許さねぇからな』
男性店員の目を正面から睨み返す。
俺が一歩距離を詰めると、男性店員も腰を上げ、切れた口から滲む血を白いシャツの袖で拭った。
『・・・ふん、いいだろう。この一発は、お前達をここに呼んだ分として受けよう。だが、俺は親父を起こすまで帰る気は無い。お前達が帰りたければ、親父を起こすしか方法はないぞ?』
『お前、なんでこんなやり方をした?最初からそう言えよ?俺達が店に来た時に、ちゃんと相談しろよ?力を貸してくれって頼めよ?こんな乱暴なやり方で、人の協力が得られると思ってんのか?』
『黙れ!俺の親父は、軍の魔法兵に眠らされたんだ!他人なんか信用できるか!』
眉を吊り上げ、怒りをあらわにした表情で、男性店員は怒鳴り返した。
軍の魔法兵に眠らされたという言葉に、俺も眉を潜め聞き返す。
『どういう事だ?一体、お前達親子になにがあったのか詳しく話せ。でなきゃ、力は貸せない』
男性店員は、気持ちを落ち着けるように目を閉じ、深く息を付くと、茶色の長い前髪をたくし上げ、口を開いた。
『・・・俺は、ガキの頃から親父に料理を仕込まれてな。まぁ、俺しか後継ぎがいねぇんだ、厳しい修行も我慢してやってきたよ。けどな、数年前、ささいな事で喧嘩して、その時溜まってたものが爆発しちまったんだ。散々親父を罵って家を飛び出した。知り合いがロンズデールにいるから、とりあえずソイツを頼って、ロンズデールに行った。
住む所を決め、落ち着いた頃、おふくろ宛てに手紙を出した。やっぱり気になってはいたからな。そこから、おふくろと、手紙で連絡を取るようになった』
俺はなんとなくだが、この男性店員が自分と似た境遇だと思った。
俺は家を飛び出した事はないが、父親との仲はあまり良くなく、いつも母親に心配ばかりかけていたからだ。
『春の終わり頃だ。その日届いた手紙には、親父が体調を悪くして、店を続けられそうにないと書いてあった。俺は悩んだ。ハッキリとは書かれていないが、おふくろが俺に戻ってきて欲しい気持ちは、痛い程伝わったからな。だから俺はこの街に戻ったんだ。親父と会った時、どう話そう。いや、そもそも話ができるだろうか?そんな心配ばかりしながら、家に帰ると、最初に目に入ってきたのは、床に倒れた親父と、泣きながら親父に縋りつくおふくろ、そしてそれを嘲笑するクインズベリー軍の二人の魔法兵だった』
そこまで話すと、男性店員は口をつぐんだ。
唇を噛みしめ、血がにじむ程に拳を強く握り締めている。
そして、怒りを隠す事なく、そのまま俺に言葉をぶつけてきた。
『状況が理解できずに立ち尽くす俺に、ヤツらこう言った、お前が軍に入れば親父を助けてやる、ってな。連中の狙いは俺だ。俺は黒魔法使いだ。ヤツらが帰った後、おふくろに聞いたが、どこかで俺が高い魔力を持っている事を聞き、親父に俺を軍に渡すよう話しに来たらしい。親父は頑として断った。だが、その結果、薬を飲まされずっと眠ったままだ・・・これが理由だ、分かったか!?俺はアイツらを許せねぇ!』
話を聞き、俺はますますこの男が許せなくなった。
胸倉を掴み、思い切り怒鳴りつけた。
『ふざけてんじゃねぇぞ!だったら猶更最初から素直に話して頼めよ!お前がやってる事は、その連中と同じじゃねぇか!お前をかばって倒れた親父さんに、顔向けできんのか!』
『ぐっ・・・うるさい!何と言われようと、俺は親父を助ける!そのためには手段は選ばない!いいか!?お前が俺に何と言おうと、ここから出たければ俺に従うしかないんだ!俺が許せなければ、ここを出た後、治安部隊に突き出すなり、お前自身の手で殺すなり、好きにすればいい!だが、親父を助けるまでは黙って俺に力を貸せ!』
怒気を込めた視線が交差し、しばらく睨み合いが続いた。
『・・・分かった。親父さんを助けるまではお前に力を貸そう。だから答えろ、俺の仲間達はどこだ?』
手を離すと男は少しだけ咳き込み、シャツの襟を正すと、分からない、と答えた。
『なんだと?分からない!?お前、本当にふざけてんじゃねぇぞ!』
俺が声を大にして、再び詰め寄ると、男は手を前に出し、落ち着いた様子で言葉を発した。
『最後まで聞け、お前の仲間は全員この夢の世界に来ている事は間違いない。スタート地点はバラバラだが、この夢の中は迷宮では無い。各部屋にドアが一つだけ存在しているから、そのドアを開けて進んで行けば、いずれ最深部にたどり着く。だから、お前の仲間も立ち止まらずにドアを見つけ進んで行けば、どこかで会えるはずだ』
『・・・この無限に広い世界で、各部屋たった一つのドアを探せってのか!?』
『安心しろ、俺はこれまで一人で何度かこの世界に来ているが、決まって自分が最初に降りた場所から、すぐ近くにある。足元を見ずにウロウロすると、いつまでたっても出られないという訳だ』
頭に直接響く声にも慣れてきた。
耳から聞くより、脳に響く感覚がある。
『そう言えば、俺がこの部屋に来た時も、ドアはすぐ近くにあったな』
『そういう事だ。ほら、次の部屋へのドアも、そこにあるぞ』
そう言って男は俺のすぐ脇を指した。男の指を目で追うと、ほんの数歩先の地面に、最初の部屋と同じく、ドアノブが石畳の地面から生えているかのように出ている。
『・・・なるほど、そうみたいだな』
確かに、最初の部屋でもドアノブがすぐ近くにあり、この部屋も同じように見つかった事を考えると、どの部屋も同じ作りのように思えて来た。
だが、そうなると、カチュア、ケイト、ジーンの三人はどうだろう。
この法則に気付けばいいが、気づけず歩き回れば、ずっとさまよい続ける事になる。
心配が焦燥感として俺の心に表れて来た。
それを感じ取ってか、男が落ち着いた口調で話しかけて来た。
『いいか、全員揃わなくても、俺がある魔道具を使えば全員揃って現実世界に帰る事ができる。だから、この先誰とも合流できず、俺とお前の二人のままだったとしても、勝てばいいんだ。それで帰れる』
『・・・相手は俺達二人だけでも勝てそうなヤツなのか?』
『俺は一対一なら勝てないレベルだとは思わない。そして、お前がマルゴンより強いのなら、軍の魔法兵程度なんて事ないだろう?ちなみに、二人とも黒魔法使いだ』
『・・・そうか。分かった、それなら先を急ごう』
納得しきれなくても、全員揃って帰れる手段があるのならば、今は従うしかない。
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