異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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【191 二人で背負うもの】

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「うぐあぁぁぁッツ!このガキがぁ!ブッ殺してやる!」

転げ回り、上着で叩き、なんとか頭を焼いた火を消すと、ガイエルは怒りに満ちた目をトロワに向ける。

「おっさんさぁ、もう勝負ありだぜ?じっちゃんならそう言うね。俺らも殺しはしたくねぇんだ。大人しく掴まってくれねぇかな?」

トロワは両手の棒を器用に指で回すと、勝敗が決した事を告げるように、右手に持つ赤布の棒の先端を、ガイエルに付き付けた。

トロワから少し離れて後方に立つキャロルは、ガイエルの動きに目を見張らせ、いかなる攻撃が来ようとも、トロワをフォローできるように身構えていた。

「うるせぇぇーッツ!」

ガイエルの体が炎を帯び、炎が竜を形作る。


「おっと!」

だが、ガイエルが灼炎竜を放とうとするより早く、トロワの左手の棒がガイエルの足を薙ぎ払った。
足を払われたガイエルは、受け身すら取れず前のめりに地面に体を落とす。

「このガキィッ・・・な?」

すぐに起き上がろうとするが、ガイエルは自分の足に違和感を感じ顔を向ける。


「な?おっさん、もう勝負ありだって」

「なんだコレはぁぁぁーッ!?」

ガイエルの両足は膝の近くまで厚い氷で固められ、立つ事はおろか、指一本動かす事が敵わない状態だった。


トロワが左手に持つ青布の棒は、一定以上の力で殴った物を氷漬けにする事ができる。
赤布の棒と対を成す魔道具である。


トロワの言う通り、勝負は決している。
だが、ガイエルは子供に負ける事だけは許せなかった。

大人から見下されてきたガイエルは、自分より無力な子供を虐げる事でうっ憤を晴らし、喜びを感じてきた。

その歪んだ心根は、子供は自分より無力でなくてはならない。
いつしか、そうであるべきとまでガイエルの思考を深く捻じ曲げてしまっていた。

そのため、ガイエルが子供を相手に負けを認める事は絶対にありえなかった。

トロワとキャロルに誤算があるとすれば、ガイエルが自分の命と天秤にかけたとしても、子供相手に敗北は認めない。

この、子供に対する異常なまでの自尊心だった。



「こ・・・この、俺が・・・この俺が・・・子供に、子供なんかに・・・・・・」

ガイエルは両手で頭を掻きむしり出し、その口からは低く暗く、まるで呪いのように同じ言葉を繰り返して吐き出していた。

「ト、トロワ・・・どうするの?なんか・・・危なくない?」

少し離れて様子を伺っていたキャロルが、ガイエルの異変に気付き近くまで駆け寄ると、トロワの考えを聞いてくる。

「う、うん・・・なんなんだこのおっさん?変態か?ぶつぶつ言っておっかねぇよ・・・」


トロワとキャロルには覚悟ができていなかった。
感情にまかせて敵を追ってきたが、その敵を殺すというところまでは覚悟ができていなかった。

勝負がつけば、敵を捕獲してブレンダンの前に連れていけばいい。
トロワはそう考えていたが、敵が敗北を認めなかった場合の事までは、考えもしていなかった。

それはキャロルも同じだった。
いつもトロワの行動をフォローしていたキャロルには、トロワと行動する時はフォローに回るという一種の癖ができており、最後はトロワがなんとかしてくれるだろうという、そんな甘えさえあった。


だが、トロワは人を殺した経験は当然無い。

体力型であれ、魔法使いであれ、戦いになれば殺す事は当然あり、それができなければ戦いに出るべきではない。
これは常識であった。

トロワとキャロルが顔を見合わせ、どうすべきか悩んでいる間も、ガイエルの行動はどんどんエスカレートしていき、ついにガイエルは爆発した。


「俺が子供なんかに負けるわけはないんだぁぁぁぁァッツーーー!」

ガイエルの体が炎を帯び、炎が竜を形作っていく。理性が吹き飛ぶ程の怒りにまかせて出した灼炎竜は、これまでのガイエルには捻出できなかった大量の魔力をすくい上げ、その大きさは5メートルに迫ろうとしていた。

足を固める氷はみるみる溶けていき、ガイエルはゆっくりと腰を上げ、立ち上がった。


「で、でけぇ・・・」
「ト・・・トロワ!」

ガイエルの常軌を逸した気迫に、トロワとキャロルは初めて恐怖を感じ気圧された。
後ずさりする二人を見て、ガイエルは嬉しそうに笑い・・・そして、獣のような雄たけびを上げた。

「ガキは黙って死んでろぉぉぉッツーーー!」



5メートルを超す灼炎竜が放たれた。

この時、トロワ達とガイエルとの距離はほんの数メートル程である。
灼炎竜は、トロワとキャロルを飲み込もうと、火の粉を舞い上げ迫る。

キャロルは恐怖にすくみ上り、金縛りにあったように身動きをとれずに震えていた。

それはトロワも同じであった。
初めての命のやりとり、だがトロワは命を奪う覚悟を持たずにその場に立った。
とどめを刺すチャンスを得ながらも、相手に時間を与え、その結果自分とキャロルの命を危機にさらしている。

だが、トロワは諦めない。





立派な男とは・・・・・



トロワは自分を縛る恐怖の呪縛を振りほどくように、声を張り上げた。

キャロルを突き飛ばし、自分はキャロルと反対側へ飛び退いた次の瞬間、ほんの一瞬前まで二人が立っていた場所を、灼炎竜が呑み込んで行った。
竜が通り過ぎたあとは、燃え盛る炎が草木を焼いている。

「キャロルー!お前は逃げろーッ!」

そう叫ぶと同時にトロワはガイエルに向かい走り出した。



立派な男とは・・・・・強く優しく、弱い者を助ける男



追跡する灼炎竜は向きを戻すと、トロワを目掛け背後から凄まじい勢いで向かってくる。

「トロワ!逃げて!竜が追って来る!」

キャロルとトロワ、二人の間を阻むように炎が燃え盛り壁となる。

キャロルは叫んだ。走るトロワと追う灼炎竜。灼炎竜はみるみるトロワに距離を詰めていく。



立派な男とは・・・・・強く優しく、弱い者を助ける男


俺はみんなのリーダーだ!
母ちゃん・・・俺は絶対に負けない!


「ガ、ガキがぁぁぁッツ!」

灼炎竜がトロワの背中を焼く寸前、トロワは飛んだ。
跳躍した分、灼炎竜との間に僅かに空間ができる。

その僅かな空間を埋め、灼炎竜がトロワを飲み込むよりも一瞬早く、トロワの青布の棒がガイエルの顔面を打ち抜いた。







「トロワ!トロワ!」

自分の名前を何度も呼ぶ声に、トロワは少しづつ目を開いた。

涙を浮かべたキャロルの顔が目に映る。


「あ・・・キャロル?俺・・・あ、そうだ!あの変態は!?ッ・・・痛ッ・・・」

体を起こそうとすると頭に強い痛みが走る。
手を当ててみると出血はしていないようだが、腫れており、ズキズキとした痛みに顔をしかめてしまう。


「あの男ならもう大丈夫・・・・・トロワのおかげだよ。まだ、起きないほうがいいよ。寝てて・・・」

そう言ってキャロルは、トロワの後頭部を支えるように手を添えると、ゆっくりと自分の膝にトロワの頭を置いて寝かせた。

「お、おい・・・キャロル、これはなんだ?」

「何って、膝枕だよ。メアリーちゃんがたまにウィッカー兄さんにやってるの見た事あるでしょ?」

トロワが動揺しているのを察すると、キャロルはからかうように笑い、言葉を続ける。

「・・・トロワは、頭をぶつけて気を失ってたんだよ。あの男を青布の棒で殴ったあと、そのまま後ろの木に突っ込んで・・・起きないから心配したよ。でも、息はしてたから、そのままここで寝かせてたの・・・トロワ、ごめんね・・・」

「ん?何でキャロルが謝んだよ?」


「だって、私・・・トロワに甘えてた。二人で戦おうって、トロワをたきつけたのは私なのに、心の中でトロワにまかせればなんとかなるって、そう考えてたの・・・私、ずるいんだ・・・・・ごめんなさい・・・トロワはこんなに頑張って・・・・・う、うぅ・・・ぐすっ・・・」

トロワと話した事で、緊張の糸が切れたのだろう。
キャロルの目から涙が溢れ落ち、トロワの頬を濡らしていく。

「・・・キャロル、お前さ、何言ってんだ?」

トロワは少し眉を寄せ、怪訝な表情でキャロルの顔を見る。

「え?なにって・・・だって、謝らないと・・・」

「俺はみんなのリーダーだぞ?俺にまかせねぇで、誰にまかせんだよ?それと、キャロルは自分が俺をたきつけた、なんて言ってるけど、本当はリーダーの俺が一番に動かなきゃ駄目だったんだ。俺は・・・情けねぇけど、最初・・・ビビってた・・・・・だから、キャロルに助けられたんだよ。だからよ・・・・ありがとな・・・・」


歯を見せて笑うトロワと目が合う。


トロワはキャロルを責める事はしない。責める理由が無い。
むしろ萎縮しそうになった自分を奮い立たせてくれた事に感謝していた。
心から笑ってくれるトロワに、キャロルも笑顔を取り戻した。


「本当に・・・バカなんだから」

「え!?なんで!?」

起き上がろうとするトロワの肩を押さえ、キャロルはトロワをもう一度自分の膝に寝かせる。

「寝てなさいよ・・・」

「お、おう・・・」





トロワ・・・・・

あんた一人には背負わせないからね

私も背負うから


キャロルは少しだけ顔を上げ、トロワが青布の棒でガイエルを殴り倒した場所に目を向ける。



あの時、トロワがガイエルを殴り飛ばすと、一瞬で意識を失ったガイエルはそのまま倒れ、それと同時に灼炎竜も消えた。

止まる事を考えずに、ただガイエルに一撃を食らわす事だけを考えたトロワは、そのまま前方の木に頭を打ち付け意識を失ってしまった。

動けるのは、離れて見ていたキャロルだけだった。

トロワもガイエルも起きて来ない。
灼炎竜も消えてしまった。

状況を理解すると、キャロルは目の前の炎の壁を氷魔法で消し、トロワに駆け寄った。

はでに頭をぶつけたので大きなこぶはできていたが、出血はしておらず呼吸の確認ができると、キャロルは安堵に息をもらした。


そして、そのすぐそばで倒れているもう一人の男、ガイエル。

どうやらトロワの青布の棒は、男の頬か、顎辺りを殴り飛ばしていたようだ。
顔の下半分を氷が覆い始めている。

氷はどんどん広がって行き、口を完全に防ぐと、鼻にも伸びていく。

鼻まで防がれてしまえば、呼吸ができず窒息死するだろう。



どうする・・・・・

キャロルは自分に問いかけた。



氷がガイエルの鼻を防ぐと、ガイエルは苦しさに少しづつ身悶え始めた。



どうする・・・・・

この男はまだ生きている。



苦しさにガイエルが目を覚ます、なぜ呼吸ができないのかパニックになり、必死に自分の顔を掻きむしると、顔の下半分を固める氷に気が付く。

冷静に火魔法を使えば、溶かせたかもしれない。
だが、すでに酸欠状態で、パニックになった頭では、なぜ自分の顔が氷で固められているのか理解できず、ただ力任せに氷をはぎ取ろうとするだけだった。



どうする・・・・・

この男はまだ生きている。

でも、息ができずもうすぐ死んでしまう。

それじゃあ、トロワが殺した事になる・・・・・



ガイエルが力なく膝を付き、白目をむいて前のめりに倒れそうになった時、キャロルは風魔法、ウインドカッターを飛ばし、ガイエルの喉元を切り裂いた。




初めて人を殺した


トロワ・・・・・あんただけに背負わせないからね

これは、私とトロワの戦い

二人で戦って、二人で殺した



動かなくなったガイエルの死体を、キャロルはしばらく見下ろしていた。

その間、キャロルが何を考えていたのか、推し量るすべはない。

やがてキャロルは爆裂弾で、大人一人が埋まりそうな程の穴を地面に空けると、ガイエルの死体をそこに埋めた。





「なぁ、キャロル・・・・・あの変態さ・・・どうなったんだ?俺達が無事って事は・・・・やっぱり、俺のあの一発で死んだのか?俺が・・・殺したのか?」


キャロルの膝に頭を乗せたまま、トロワは気を失う前に、自分がガイエルを殴り飛ばした場所に目を向ける。

ほんの数メートル先、ガイエルの灼炎竜で草木は燃え落ち、荒れた地肌が露出している。

一か所、不自然に土が積もっており、トロワはそれが何を意味するか感じ取った。


無我夢中だったんだろう。
でも、生き残り頭が冷えて来ると、殺人という言葉がトロワの胸に暗くのしかかって来る。


「違うよ・・・・・私達二人で殺したんだよ」


目を伏せるトロワに、キャロルは前を向いたまま答えを返した。

その言葉にトロワは目を開くと、今度こそ起き上がり、キャロルの顔を正面から見た。



「トロワ・・・・・私達二人で殺したの」

「キャロル・・・・・」


それ以上、言葉はいらなかった

優しく微笑むキャロルを見て、トロワはなんとなく・・・だけど確信を持って察する事ができた



きっとキャロルは自分の手を汚したんだ

何をしたのか聞いても話さないだろう

だけど、俺一人に背負わせないために、キャロルは本来背負わなくてもいい何かをしたんだ



「キャロル・・・・・お前、バカだよ・・・・・」

「・・・トロワだって・・・バカじゃん・・・」



笑おうとしたけれどうまく笑えない

涙も溢れ止まらなくなった

だから二人で慰め合った


母ちゃん・・・・・俺、やっぱりまだまだ弱いや
だけど、いつか・・・いつか強くなって、立派な男になるから


その時は・・・会ってくれたら嬉しいよ
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