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【262 ジョルジュの感じた風】
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「二人で直接話したいと言うのは珍しいな。どうしたんだ?」
レイジェスの休みの日に、私はジョルジュさんと喫茶モロニーに来ていた。
ジョルジュさんと会うのは一週間ぶりだった。
なかなか話すきっかけがなかったので、もうストレートに、話しがしたいので会えないか?と、風の精霊さんの力で連絡を取ったのだ。
「うん。あのね、先週孤児院に来てくれたでしょ?その時にジャニスさんから聞いたんだけど・・・なにか嫌な風を感じたの?」
しばらくジョルジュさんは何も答えずに黙っていた。
コーヒーカップを置いた時の、お皿に当たる音がやけに大きく耳に届く。
「・・・あぁ、嫌な風を感じた。最初に感じたのは二週間程前だ。西のブロートン帝国の方から、毎日感じている。今この時もだ。黙っていて悪かったな。場合によっては何事もなくすむかもしれない・・・・・そう思って、話すかどうか、判断に迷っていたんだ」
ジョルジュさんは相当思い悩んだような顔で、ゆっくりと、だけどハッキリした口調で話し出した。
「そう・・・実はね、話を聞いてから、私も風を感じてみたの。確かに西から吹く風はなんだか怖い感じがしたわ。でも、私にはジョルジュさん程の考察する力はないから、ただ嫌な風だなってしか思えなかった。ねぇ・・・なにか起きてるのかしら?」
「・・・嫌な風は治まる事無く流れ続けている。だが、ただ悪意だけを向けられている可能性もある。ブロートンとは良い関係とは言えないからな。だから、あまり不安を煽るような事は言いたくなかった・・・」
私の心の中に引っかかっていた一抹の不安が、大きく広がっていく事を感じた。
ジョルジュさんは、心配をかけないように、不安にさせないように、私が問いかける今日まで黙っていた。
場合によっては何事もなくすむかもしれない。そうも言ったけれど、
それはつまり・・・場合によっては、なんて言葉を使わなければならない程の事が起きる、という事ではないだろうか。
もちろんジョルジュさんの言う通り、何事もなくすむかもしれない。
だけど、ジョルジュさんの言葉の端々から、どうか何も起きないでほしい、という含みが感じられて、事態は相当悪い方向に向かっているように思えた。
「・・・ジョルジュさん、ジョルジュさんが思っている事を、可能性でもいいから全部話してください。取返しのつかない事になる前に」
私は覚悟を込めて、強く言葉を発した。
ジョルジュさんは、またしばらく私の目の見つめたまま口を閉ざしていたけれど、やがて瞼を閉じると、小さく息をついた。
「・・・分かった。ヤヨイの言う通りだ・・・俺は、少し臆病になっていたようだな・・・・・」
ジョルジュさんらしくない、弱気な言葉に、私は小さく首を振って否定した。
「そんな事ないわ。黙っていたのは、ジャニスさんとジョセフ君のためでしょ?大切な人に心配をかけたくない。悪い予感は外れればいい・・・そう思う事は、当たり前よ・・・」
「・・・そうか。ヤヨイは強いな・・・」
ジョルジュさんは、あくまで可能性だが、と前置きして自分の考えを話し始めた。
「ブロートンは五年前のあの話し合い以降も、ずっとカエストゥスに攻め入る機を伺っていた。だが、現国王は塞ぎ込み、ベン・フィングは牢の中だ。そしてロペスが睨みを効かせていたから、以前のように国の中から弱体化させる事ができず、沈黙を続けるしかなかった・・・」
「そうね、五年前の話し合いの後は、一気に入国管理も貿易も検査が厳しくなったから、以前のように身元のハッキリしない他国の人間はまず入国できないわ。貿易も商品の中身をキッチリ調べられるから、おかしな物は国に入れる事はできない。ブロートンとしては、やりようが無くなったと思う」
今までがザル過ぎたのだ。
ベン・フィングはブロートンと繋がっている。
ゆくゆくはこの国を転覆させてブロートンの支配下に置き、自分がカエストゥスの王として、君臨しようとでも思っていたのではないだろうか。
「そこで、今回の王位継承の儀だ。これが問題なんだ。この王位継承の儀には、ロンズデール国王も、クリンズベリーの国王も出席するし、ブロートン帝国 皇帝 ローランド・ライアンも出席する。当然護衛も付くし、兵士も大勢入る」
私はそこで気が付いた。
「そうか・・・・・ブロートンが何かしかけてくるとしたら・・・・・」
「そうだ。堂々と入国できるこの日だろう」
一国の国王が代替わりするのだ。
ブロートン帝国とは、五年前に関係がこじれかけたし、今もベン・フィングの事は、ブロートンと黒い繋がりがあると確信を持って見ている。
だが、それでも貿易は続けているし、表面上は友好関係を続けている。
その友好国の皇帝が、カエストゥスの新国王のお披露目にお祝いに来るというのに、それを拒むという事は、それこそ帝国への侮辱になるだろう。
「・・・王位継承の儀だけは、帝国の人間の入国を拒むわけにはいかない。皇帝はあくまで新国王へのお祝いを名目に来るんだ。どんな理由をつけようと、それを拒めば皇帝への侮辱になり、それはカエストゥスへ攻め入る口実になる・・・」
「そうだ。皇帝への侮辱・・・帝国には十分な口実だ。連中にはどっちでもいいんだ。黙ってカエストゥスに入れるならばそれでよし。拒まれても攻め入る口実にはなる。むしろ拒んで欲しいとさえ思っているのかもしれん・・・俺が感じた風は、支配と暴力・・・とても嫌な風だ。あんな風は感じた事がない・・・それが日に日に強くなっていく・・・ヤヨイ・・・戦争になるかもしれんぞ」
私は暗い気持ちのまま一人、家への帰り道を歩いていた。
ジョルジュさんは、帰ったらジャニスさんにちゃんと話すと言っていた。
私も帰ったらパトリックと話さなければならない。
戦争・・・・・
私が産まれるより、ずっとずっと前だけれど、日本もかつて戦争をして負けた。
私には歴史の授業で習った程度の知識しかないけれど、とても多くの命が奪われて、悲しみしか生まれなかったと思う。
テリー・・・アンナ・・・
大切な二人の子供の顔を思い浮かべる。
パトリック・・・
最愛の夫の顔を思い浮かべる。
護る・・・・・もし戦争になっても、私が絶対に護るそう固く心に誓う
新・・・・・
修一・・・・・
二人とも、今どこでなにしてるのかな
ふいに日本の友達の顔が思い浮かぶ
私、もうこの世界に来て6年だよ
二人もこの世界に来てるのかな?
もし、同じ世界に来てるんなら・・・・・・会いたいな・・・・・
いつか、いつか会えるよね・・・・・
私、また三人で仲良くお話ししたいんだ・・・
目元に浮かんだ涙に気付き、手の甲で拭うけれど、次々に浮かんでくる涙を止められなかった
レイジェスの休みの日に、私はジョルジュさんと喫茶モロニーに来ていた。
ジョルジュさんと会うのは一週間ぶりだった。
なかなか話すきっかけがなかったので、もうストレートに、話しがしたいので会えないか?と、風の精霊さんの力で連絡を取ったのだ。
「うん。あのね、先週孤児院に来てくれたでしょ?その時にジャニスさんから聞いたんだけど・・・なにか嫌な風を感じたの?」
しばらくジョルジュさんは何も答えずに黙っていた。
コーヒーカップを置いた時の、お皿に当たる音がやけに大きく耳に届く。
「・・・あぁ、嫌な風を感じた。最初に感じたのは二週間程前だ。西のブロートン帝国の方から、毎日感じている。今この時もだ。黙っていて悪かったな。場合によっては何事もなくすむかもしれない・・・・・そう思って、話すかどうか、判断に迷っていたんだ」
ジョルジュさんは相当思い悩んだような顔で、ゆっくりと、だけどハッキリした口調で話し出した。
「そう・・・実はね、話を聞いてから、私も風を感じてみたの。確かに西から吹く風はなんだか怖い感じがしたわ。でも、私にはジョルジュさん程の考察する力はないから、ただ嫌な風だなってしか思えなかった。ねぇ・・・なにか起きてるのかしら?」
「・・・嫌な風は治まる事無く流れ続けている。だが、ただ悪意だけを向けられている可能性もある。ブロートンとは良い関係とは言えないからな。だから、あまり不安を煽るような事は言いたくなかった・・・」
私の心の中に引っかかっていた一抹の不安が、大きく広がっていく事を感じた。
ジョルジュさんは、心配をかけないように、不安にさせないように、私が問いかける今日まで黙っていた。
場合によっては何事もなくすむかもしれない。そうも言ったけれど、
それはつまり・・・場合によっては、なんて言葉を使わなければならない程の事が起きる、という事ではないだろうか。
もちろんジョルジュさんの言う通り、何事もなくすむかもしれない。
だけど、ジョルジュさんの言葉の端々から、どうか何も起きないでほしい、という含みが感じられて、事態は相当悪い方向に向かっているように思えた。
「・・・ジョルジュさん、ジョルジュさんが思っている事を、可能性でもいいから全部話してください。取返しのつかない事になる前に」
私は覚悟を込めて、強く言葉を発した。
ジョルジュさんは、またしばらく私の目の見つめたまま口を閉ざしていたけれど、やがて瞼を閉じると、小さく息をついた。
「・・・分かった。ヤヨイの言う通りだ・・・俺は、少し臆病になっていたようだな・・・・・」
ジョルジュさんらしくない、弱気な言葉に、私は小さく首を振って否定した。
「そんな事ないわ。黙っていたのは、ジャニスさんとジョセフ君のためでしょ?大切な人に心配をかけたくない。悪い予感は外れればいい・・・そう思う事は、当たり前よ・・・」
「・・・そうか。ヤヨイは強いな・・・」
ジョルジュさんは、あくまで可能性だが、と前置きして自分の考えを話し始めた。
「ブロートンは五年前のあの話し合い以降も、ずっとカエストゥスに攻め入る機を伺っていた。だが、現国王は塞ぎ込み、ベン・フィングは牢の中だ。そしてロペスが睨みを効かせていたから、以前のように国の中から弱体化させる事ができず、沈黙を続けるしかなかった・・・」
「そうね、五年前の話し合いの後は、一気に入国管理も貿易も検査が厳しくなったから、以前のように身元のハッキリしない他国の人間はまず入国できないわ。貿易も商品の中身をキッチリ調べられるから、おかしな物は国に入れる事はできない。ブロートンとしては、やりようが無くなったと思う」
今までがザル過ぎたのだ。
ベン・フィングはブロートンと繋がっている。
ゆくゆくはこの国を転覆させてブロートンの支配下に置き、自分がカエストゥスの王として、君臨しようとでも思っていたのではないだろうか。
「そこで、今回の王位継承の儀だ。これが問題なんだ。この王位継承の儀には、ロンズデール国王も、クリンズベリーの国王も出席するし、ブロートン帝国 皇帝 ローランド・ライアンも出席する。当然護衛も付くし、兵士も大勢入る」
私はそこで気が付いた。
「そうか・・・・・ブロートンが何かしかけてくるとしたら・・・・・」
「そうだ。堂々と入国できるこの日だろう」
一国の国王が代替わりするのだ。
ブロートン帝国とは、五年前に関係がこじれかけたし、今もベン・フィングの事は、ブロートンと黒い繋がりがあると確信を持って見ている。
だが、それでも貿易は続けているし、表面上は友好関係を続けている。
その友好国の皇帝が、カエストゥスの新国王のお披露目にお祝いに来るというのに、それを拒むという事は、それこそ帝国への侮辱になるだろう。
「・・・王位継承の儀だけは、帝国の人間の入国を拒むわけにはいかない。皇帝はあくまで新国王へのお祝いを名目に来るんだ。どんな理由をつけようと、それを拒めば皇帝への侮辱になり、それはカエストゥスへ攻め入る口実になる・・・」
「そうだ。皇帝への侮辱・・・帝国には十分な口実だ。連中にはどっちでもいいんだ。黙ってカエストゥスに入れるならばそれでよし。拒まれても攻め入る口実にはなる。むしろ拒んで欲しいとさえ思っているのかもしれん・・・俺が感じた風は、支配と暴力・・・とても嫌な風だ。あんな風は感じた事がない・・・それが日に日に強くなっていく・・・ヤヨイ・・・戦争になるかもしれんぞ」
私は暗い気持ちのまま一人、家への帰り道を歩いていた。
ジョルジュさんは、帰ったらジャニスさんにちゃんと話すと言っていた。
私も帰ったらパトリックと話さなければならない。
戦争・・・・・
私が産まれるより、ずっとずっと前だけれど、日本もかつて戦争をして負けた。
私には歴史の授業で習った程度の知識しかないけれど、とても多くの命が奪われて、悲しみしか生まれなかったと思う。
テリー・・・アンナ・・・
大切な二人の子供の顔を思い浮かべる。
パトリック・・・
最愛の夫の顔を思い浮かべる。
護る・・・・・もし戦争になっても、私が絶対に護るそう固く心に誓う
新・・・・・
修一・・・・・
二人とも、今どこでなにしてるのかな
ふいに日本の友達の顔が思い浮かぶ
私、もうこの世界に来て6年だよ
二人もこの世界に来てるのかな?
もし、同じ世界に来てるんなら・・・・・・会いたいな・・・・・
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私、また三人で仲良くお話ししたいんだ・・・
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