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【261 一抹の不安】
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翌日、朝食をすませ後片付けを終えると、トロワ君とジョルジュさんは孤児院の庭で手合わせをした。
五年前から、トロワ君はジョルジュさんに体術を習い、今では王宮仕えも可能な程の腕前になっていた。
ジャニスさんが妊娠二か月目で、家で安静にするようになってからは、ジョルジュさんもあまり街に出て来なくなったので、稽古をつけてもらうのは、実に一年ぶりだった。
そして、この一年、トロワ君は主にリンダさんに鍛えてもらい、たまに剣士隊隊長のドミニクさんが来ると、ドミニクさんにも見てもらっていたので、その実力はぐんと増していた。
「ずいぶん腕を上げたな、トロワ。ただ、もう少し小さくまとめた方がいい。俺に攻撃が当たらなくてイラついたのかもしれないが、実力差のある相手ならなおさら大振りは駄目だ。守りを固めて少ないチャンスを生かすように工夫しろ」
息を切らせて地面に膝をつくトロワ君に、ジョジュさんは涼しい顔で今の手合わせの反省点を告げた。
「史上最強ってのは、伊達じゃねぇな・・・今のトロワなら剣士隊に入っても、五指に入るくらいの実力はあると思うぜ。それを、本職が弓使いのお前が、体術だけでこうも一方的に抑えるなんてな」
手合わせを見ていたウィッカーさんが、ジョルジュさんの隣に立ち、感心したように言葉をかけた。
「まぁ、森に籠っていたが、俺も日々の修練を怠っていたわけではない。それにトロワは、まだまだこれからの男だ。もう数年もすれば、俺も本気でやらざるをえないくらいの力は持っていると思う。トロワ、俺が見ていなかったこの一年は、主にリンダに師事していたと言ったな?
俺には当たらなかったが、それでも左右の棒の扱いはこの一年でずいぶん上達している。そのまま教えてもらえ」
「くっそ~!かすりもしねぇで、上達って言われても分かんねぇよ!」
トロワ君はよほど悔しかったのか、両手に持ったこん棒を地面に叩き付けた。
手合わせなので、愛用の赤布の棒と青布の棒ではなく、普通のこん棒を使ったのだ。
しかし、それでも武器を持ったトロワ君が、素手のジョルジュさんに何もできなかったのだから、悔しさは相当なものだったと思う。
「こら!ばかトロワ!イライラしちゃ駄目でしょ!ジョルジュさんは、あんたのために時間割いて稽古つけてくれてんのよ!」
大声を出して地面を叩いたトロワ君を見て、キャロルちゃんはスタスタと近づくと、トロワ君の頭を思い切り叩いた。
トロワ君が、そんなキャロルちゃんを睨みつけると、キャロルちゃんも負けじと睨み返す。
「なによ!あんたが大声出すから、子供達怯えちゃったじゃない!謝りなさい!」
壁際で手合わせを見ていた小さい子供達が、怖がって私やメアリーちゃんの背中に隠れてしまったのだ。
今いる一番小さい子はまだ2歳、大声に反応して泣き出しそうになっているので、私が抱っこしてあやした。
「あ・・・うん、俺が悪かったよ・・・みんな、ごめん」
さすがに頭が冷えたのか、トロワ君はみんなに謝った。
「全く、ばかトロワなんだから。もう、本当に私がしっかりしないと駄目ね」
「なんだよ、謝ったじゃねぇか・・・あ~あ、なんか嫌な感じ」
そこでまた二人が睨みあうので、ジャニスさんが止めに入った。
「はいはい、もうそのくらいにしなよ。トロワ、私は体力型じゃないから、体術に関しては何も言えないけど、それでもあんたが去年よりずっと強くなったのは分かるよ。ずいぶん頑張ったんだね。
だから、ジョルジュの言うとおり、このままリン姉さんに教えてもらいなよ。ジョルジュも、前ほどは見に来れないと思うけど、また来た時に挑戦して、上達を見てもらえばいいじゃん」
「うん、分かった。ジャニス姉ちゃんがそう言うんならそうする」
「ちょっと!なんでジャニス姉さんの言う事は素直に聞くのよ!」
「だって、ジャニス姉ちゃん言い方優しいし」
「私だって優しいじゃん!」
「どこがだよ!」
二人のやりとりを見て、私はついおかしくなって声を出して笑ってしまった。
すると、つられるようにメアリーちゃんも、ブレンダン様も、ウィッカーさんも、みんな笑うので、トロワ君とキャロルちゃんも恥ずかしくなったのか、口を閉じてしまった。
「おーい!ジャニスー!」
声のする方に顔を向けると、リンダさんとニコラさん、それにアラルコン商会のレオネラちゃんの三人が、手を振って歩いて来る。
昨日、レイジェスでみんなと顔合わせはしたけれど、リンダさんとニコラさんは用事があって、夜は孤児院には来れなかった。
その代わり、今日レオネラちゃんも誘って遊びに来ると言っていたのだ。
「うわ~、ジャニスちゃん!久しぶりだねぇ~!あ、ジョセフ君、なんか顔付きがしっかりしてきたねぇ」
「レオネラさん、その言い方、最初はサルみたいって思ってたでしょ?」
「え!・・・・・思って、ないよぉ~・・・」
レオネラちゃんが分かりやすく口笛を吹くと、ジャニスさんは笑いながらその背中を叩く。
「あっははは!冗談、冗談だよー、みんな最初はシワクチャだからね、でも可愛いんだよ」
ジャニスさんがジョセフ君の頬に、自分の頬をくっつけると、レオネラちゃんに、抱っこしてあげて。と言ってそっと手渡した。
「あはは!可愛いねぇ~、ジョセフ君はお母さん似だね。いやぁ~、こう可愛いとアタシも子供欲しくなっちゃうよぉ」
レオネラちゃんは、ジョセフ君を高い高いして喜ばせると、ジャニスさんに、可愛いねと言葉を添えてジョセフ君を返した。
私と同じ29歳だし、子供好きなら、良い人がいればすぐにでも結婚したいのかなと思った。
「レオネラちゃん、気になる人とかいないの?」
「いやぁ~、さっぱりだね。アタシの場合、アラルコン商会の娘って立場があるから、好きだけじゃ結婚できないんだよね。相手にも相応の家柄とか、商才が求められるから。自由恋愛が羨ましいよ。
親からはさ、30歳までに納得できる相手を紹介できなかったら、お見合いしてもらうって言われてる。来年タイムリミットじゃん?もうねぇ~、ほぼ諦めてるよ」
「それって、好きな人がいるにはいたの?」
ジャニスさんが気になったところを聞くと、レオネラちゃんは首を横に振った。
「全然さっぱり!どうもアタシは気楽に商売してた方が性に合ってるみたい。だから、来年親の決めた相手がよっぽどでなけりゃ、それでいいかなって思ってる。お見合い相手が意外に気の合う相手かもしれないし、前向きに考えようかなって。もしトントン拍子で話しが進んで結婚したら、式には来てくれるかなぁ?」
あっけらかんに笑って話すレオネラちゃんに、私達は口を揃えて、もちろん行くよ!と答えると、レオネラちゃんは本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「嬉しいねぇ~、友達って良いよね。アタシ、みんなと友達に慣れて本当に良かったよぉ」
アラルコン商会のレオネラちゃんは、ロンズデール国から行商でカエストゥスに来ている。
レイジェスの物件探しの時に知り合って、それからもう五年の付き合いだ。
今、レイジェスでもアラルコン商会のお菓子や小物、日用品を仕入れさせてもらっていて、それらはどれも評判が良くて、とてもお世話になっている。
そして、商売抜きでもお友達として、喫茶モロニーにランチに行ったり、毎月恒例のお誕生日会にも参加してもらっていて本当の仲良しなのだ。
それから、私達は孤児院に入ってお茶を飲みながら、話に花を咲かせた。
スージーちゃんとチコリちゃんも入り、圧倒的に女性の人数が多かったので、ブレンダン様とウィッカーさん、ジョルジュさんは、自主的に子供部屋で子供の面倒を見る事にしたようだ。
確かに、女子トークの中に、男三人は入り辛かったと思う。
「王子も元気そうで安心したよ」
子供の事や、恋愛話しをしていると、話しが途切れたところで、ふいにジャニスさんが王子の事を口にした。
タジーム王子は今も変わらず孤児院にいる。
変わらずレイジェスにも来てくれて、表には全く出てこないけれど、裏方として整理や補充を中心に働いてくれているのだ。
最初は、王子様にこんな事させていいのかな?と思う事も多々あったけれど、王子も自分に仕事がある事を、どこか嬉しく思っている様子があり、私は今では遠慮なく王子に仕事をお願いしている。
ジャニスさんは、王子の姉として接していて、昔から王子に遠慮なくズバズバ物を言う怖いもの知らずな性格だった。
「そうね。相変わらずレジや買い取りはやらないけれど、裏方の作業はもうすっかり王子任せみたくなってるの。だって、どこに何があるか、私より詳しいのよ?よく全部把握してるなって驚かされるわ」
最近は、自分で探すより王子に聞けば早い。というのが当たり前になって、みんな探し物がある時は、事務所に入るなり、王子アレどこ?と言うのが定番になっている。
「そっか、王子もしっかり頑張ってるみたいで安心したよ」
ジャニスさんが、ほっと息を付くと、レオネラちゃんが何気ない口調で話した。
「タジーム王子って言えば、あれから一度も城に戻ってないんでしょ?そうすると、今度の王位継承の儀にも、参列しないのかな?」
現国王は、ベン・フィングが幽閉されてからどんどん気力を無くしていき、ここ数年はほとんど表に出て来なくなった。
国の舵取りは、正式に大臣に就任したエマヌエル・ロペスさんが行い、その手腕を発揮しているが、国王陛下が今の状態では、さすがに問題だという事で、タジーム王子の弟で、第二王子のマルコ様が18歳になられた事を機に、来月王位を継承する事になったのだ。
「・・・うん、お城からも、そういったお話しは何も言われないし・・・ロペスさんも、考えてくださってると思うの。多分、ロペスさんが口添えをすれば、参列する事は可能だと思うわ。
でも、多分王子が嫌な思いをすると思うの。だってお城では、悪意のある目をずっと向けられてきたんだもの・・・だから、私は参列しないでいいと思う」
「あ~、そっかぁ・・・なんか嫌な事言ったみたいでごめんね。そうだよね、王子の気持ちを考えれば、そんな周り全部が敵みたいな場所に行けるわけないよねぇ」
レオネラちゃんは、失言したと言うように、少し気まずそうに指先で頬をかいた。
「うぅん、大丈夫よ。王子はそのくらいで気を損ねたりしないわ。でも、そっか・・・もう来月なんだよね。王位がマルコ様に移ったら・・・どうなるんだろ」
「あ・・・ベン・フィングの事ね?」
私の考えている事を察して、ジャニスさんが言葉を挟んできた。
そう、私はまさにそれを考えていた。
「えぇ・・・現国王は、ベン・フィングの処刑を認めなかったから、ずっと幽閉されているわけでしょ?でも、マルコ様に王位が移ったら、どうなるんだろうって・・・」
「ジョルジュは、その話しになるといつもこう言うわ。処刑できるうちに処刑した方がいい、ってね。正直、私もそう思うよ・・・殺し屋を自国内に入れるし、王子にしてきた事を考えれば、許せるわけない。まぁ、マルコ様がどう考えているか次第だけどね」
私がこの世界に来てすぐ位に牢に入れられたわけだから、もう幽閉されて6年近く経つ。
その間、国王がベン・フィングを擁護するため、あまり強い取り調べを行う事ができず、ベン・フィングは牢から出る事はできないでいたが、牢にいるとは思えない特別な待遇で過ごしていた。
「・・・それなんだけどさ、アタシもドミニクからちょっと聞いててね。ベン・フィングはマルコ様が王位を継承次第、処刑になるみたいだよ」
リンダさんが腕を組みながら軽い感じで言葉を出した。
ドミニクと呼び捨てているのは、実はリンダさんもこの五年の間に、ドミニクさんと付き合って結婚したのだ。
子供はいないけれど、夫婦仲良く暮らしている。
「うっそー!リン姉さん、それ本当?」
ニコラさんも知らなかったようで、リンダさんに驚きの目を向ける。
私達も一斉にリンダさんに顔を向けると、リンダさんが経緯を話し始めた。
「マルコ様はさ、ベン・フィングが幽閉されてからの約6年、ロペスさんが教育した事が良かったんだよ。最初の頃は現国王とベン・フィングの影響があって、てこずったみたいだけど、根気強く正しい物の価値観を教え、次期国王としての振る舞いを教えた。側近もロペスさんの信頼している者で固めてるから、今のマルコ様が王位を継承されるなら安心だと思うよ」
「そうなんだ・・・・・ロペスさんって、やっぱりすごいね。あの話し合いの後は、ブロートン帝国からの目立った圧力や侵略行為は無いし、平和だものね」
女子トークのはずが、いつの間にか政治の話しになっていた。
さすがにスージーちゃんとチコリちゃんは話についていけず、退屈そうにしていたので、ちょっと強引にだけど話を戻す。
その後はみんなで楽しくお話しをして、お昼の後にジョルジュさん達は帰って行った。
みんなで楽しくお話をして、楽しい一日を過ごしたけれど、私の頭の中には、昨夜ジャニスさんが話してくれた、嫌な風、という言葉がずっと取れない楔のように残っていた。
五年前から、トロワ君はジョルジュさんに体術を習い、今では王宮仕えも可能な程の腕前になっていた。
ジャニスさんが妊娠二か月目で、家で安静にするようになってからは、ジョルジュさんもあまり街に出て来なくなったので、稽古をつけてもらうのは、実に一年ぶりだった。
そして、この一年、トロワ君は主にリンダさんに鍛えてもらい、たまに剣士隊隊長のドミニクさんが来ると、ドミニクさんにも見てもらっていたので、その実力はぐんと増していた。
「ずいぶん腕を上げたな、トロワ。ただ、もう少し小さくまとめた方がいい。俺に攻撃が当たらなくてイラついたのかもしれないが、実力差のある相手ならなおさら大振りは駄目だ。守りを固めて少ないチャンスを生かすように工夫しろ」
息を切らせて地面に膝をつくトロワ君に、ジョジュさんは涼しい顔で今の手合わせの反省点を告げた。
「史上最強ってのは、伊達じゃねぇな・・・今のトロワなら剣士隊に入っても、五指に入るくらいの実力はあると思うぜ。それを、本職が弓使いのお前が、体術だけでこうも一方的に抑えるなんてな」
手合わせを見ていたウィッカーさんが、ジョルジュさんの隣に立ち、感心したように言葉をかけた。
「まぁ、森に籠っていたが、俺も日々の修練を怠っていたわけではない。それにトロワは、まだまだこれからの男だ。もう数年もすれば、俺も本気でやらざるをえないくらいの力は持っていると思う。トロワ、俺が見ていなかったこの一年は、主にリンダに師事していたと言ったな?
俺には当たらなかったが、それでも左右の棒の扱いはこの一年でずいぶん上達している。そのまま教えてもらえ」
「くっそ~!かすりもしねぇで、上達って言われても分かんねぇよ!」
トロワ君はよほど悔しかったのか、両手に持ったこん棒を地面に叩き付けた。
手合わせなので、愛用の赤布の棒と青布の棒ではなく、普通のこん棒を使ったのだ。
しかし、それでも武器を持ったトロワ君が、素手のジョルジュさんに何もできなかったのだから、悔しさは相当なものだったと思う。
「こら!ばかトロワ!イライラしちゃ駄目でしょ!ジョルジュさんは、あんたのために時間割いて稽古つけてくれてんのよ!」
大声を出して地面を叩いたトロワ君を見て、キャロルちゃんはスタスタと近づくと、トロワ君の頭を思い切り叩いた。
トロワ君が、そんなキャロルちゃんを睨みつけると、キャロルちゃんも負けじと睨み返す。
「なによ!あんたが大声出すから、子供達怯えちゃったじゃない!謝りなさい!」
壁際で手合わせを見ていた小さい子供達が、怖がって私やメアリーちゃんの背中に隠れてしまったのだ。
今いる一番小さい子はまだ2歳、大声に反応して泣き出しそうになっているので、私が抱っこしてあやした。
「あ・・・うん、俺が悪かったよ・・・みんな、ごめん」
さすがに頭が冷えたのか、トロワ君はみんなに謝った。
「全く、ばかトロワなんだから。もう、本当に私がしっかりしないと駄目ね」
「なんだよ、謝ったじゃねぇか・・・あ~あ、なんか嫌な感じ」
そこでまた二人が睨みあうので、ジャニスさんが止めに入った。
「はいはい、もうそのくらいにしなよ。トロワ、私は体力型じゃないから、体術に関しては何も言えないけど、それでもあんたが去年よりずっと強くなったのは分かるよ。ずいぶん頑張ったんだね。
だから、ジョルジュの言うとおり、このままリン姉さんに教えてもらいなよ。ジョルジュも、前ほどは見に来れないと思うけど、また来た時に挑戦して、上達を見てもらえばいいじゃん」
「うん、分かった。ジャニス姉ちゃんがそう言うんならそうする」
「ちょっと!なんでジャニス姉さんの言う事は素直に聞くのよ!」
「だって、ジャニス姉ちゃん言い方優しいし」
「私だって優しいじゃん!」
「どこがだよ!」
二人のやりとりを見て、私はついおかしくなって声を出して笑ってしまった。
すると、つられるようにメアリーちゃんも、ブレンダン様も、ウィッカーさんも、みんな笑うので、トロワ君とキャロルちゃんも恥ずかしくなったのか、口を閉じてしまった。
「おーい!ジャニスー!」
声のする方に顔を向けると、リンダさんとニコラさん、それにアラルコン商会のレオネラちゃんの三人が、手を振って歩いて来る。
昨日、レイジェスでみんなと顔合わせはしたけれど、リンダさんとニコラさんは用事があって、夜は孤児院には来れなかった。
その代わり、今日レオネラちゃんも誘って遊びに来ると言っていたのだ。
「うわ~、ジャニスちゃん!久しぶりだねぇ~!あ、ジョセフ君、なんか顔付きがしっかりしてきたねぇ」
「レオネラさん、その言い方、最初はサルみたいって思ってたでしょ?」
「え!・・・・・思って、ないよぉ~・・・」
レオネラちゃんが分かりやすく口笛を吹くと、ジャニスさんは笑いながらその背中を叩く。
「あっははは!冗談、冗談だよー、みんな最初はシワクチャだからね、でも可愛いんだよ」
ジャニスさんがジョセフ君の頬に、自分の頬をくっつけると、レオネラちゃんに、抱っこしてあげて。と言ってそっと手渡した。
「あはは!可愛いねぇ~、ジョセフ君はお母さん似だね。いやぁ~、こう可愛いとアタシも子供欲しくなっちゃうよぉ」
レオネラちゃんは、ジョセフ君を高い高いして喜ばせると、ジャニスさんに、可愛いねと言葉を添えてジョセフ君を返した。
私と同じ29歳だし、子供好きなら、良い人がいればすぐにでも結婚したいのかなと思った。
「レオネラちゃん、気になる人とかいないの?」
「いやぁ~、さっぱりだね。アタシの場合、アラルコン商会の娘って立場があるから、好きだけじゃ結婚できないんだよね。相手にも相応の家柄とか、商才が求められるから。自由恋愛が羨ましいよ。
親からはさ、30歳までに納得できる相手を紹介できなかったら、お見合いしてもらうって言われてる。来年タイムリミットじゃん?もうねぇ~、ほぼ諦めてるよ」
「それって、好きな人がいるにはいたの?」
ジャニスさんが気になったところを聞くと、レオネラちゃんは首を横に振った。
「全然さっぱり!どうもアタシは気楽に商売してた方が性に合ってるみたい。だから、来年親の決めた相手がよっぽどでなけりゃ、それでいいかなって思ってる。お見合い相手が意外に気の合う相手かもしれないし、前向きに考えようかなって。もしトントン拍子で話しが進んで結婚したら、式には来てくれるかなぁ?」
あっけらかんに笑って話すレオネラちゃんに、私達は口を揃えて、もちろん行くよ!と答えると、レオネラちゃんは本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「嬉しいねぇ~、友達って良いよね。アタシ、みんなと友達に慣れて本当に良かったよぉ」
アラルコン商会のレオネラちゃんは、ロンズデール国から行商でカエストゥスに来ている。
レイジェスの物件探しの時に知り合って、それからもう五年の付き合いだ。
今、レイジェスでもアラルコン商会のお菓子や小物、日用品を仕入れさせてもらっていて、それらはどれも評判が良くて、とてもお世話になっている。
そして、商売抜きでもお友達として、喫茶モロニーにランチに行ったり、毎月恒例のお誕生日会にも参加してもらっていて本当の仲良しなのだ。
それから、私達は孤児院に入ってお茶を飲みながら、話に花を咲かせた。
スージーちゃんとチコリちゃんも入り、圧倒的に女性の人数が多かったので、ブレンダン様とウィッカーさん、ジョルジュさんは、自主的に子供部屋で子供の面倒を見る事にしたようだ。
確かに、女子トークの中に、男三人は入り辛かったと思う。
「王子も元気そうで安心したよ」
子供の事や、恋愛話しをしていると、話しが途切れたところで、ふいにジャニスさんが王子の事を口にした。
タジーム王子は今も変わらず孤児院にいる。
変わらずレイジェスにも来てくれて、表には全く出てこないけれど、裏方として整理や補充を中心に働いてくれているのだ。
最初は、王子様にこんな事させていいのかな?と思う事も多々あったけれど、王子も自分に仕事がある事を、どこか嬉しく思っている様子があり、私は今では遠慮なく王子に仕事をお願いしている。
ジャニスさんは、王子の姉として接していて、昔から王子に遠慮なくズバズバ物を言う怖いもの知らずな性格だった。
「そうね。相変わらずレジや買い取りはやらないけれど、裏方の作業はもうすっかり王子任せみたくなってるの。だって、どこに何があるか、私より詳しいのよ?よく全部把握してるなって驚かされるわ」
最近は、自分で探すより王子に聞けば早い。というのが当たり前になって、みんな探し物がある時は、事務所に入るなり、王子アレどこ?と言うのが定番になっている。
「そっか、王子もしっかり頑張ってるみたいで安心したよ」
ジャニスさんが、ほっと息を付くと、レオネラちゃんが何気ない口調で話した。
「タジーム王子って言えば、あれから一度も城に戻ってないんでしょ?そうすると、今度の王位継承の儀にも、参列しないのかな?」
現国王は、ベン・フィングが幽閉されてからどんどん気力を無くしていき、ここ数年はほとんど表に出て来なくなった。
国の舵取りは、正式に大臣に就任したエマヌエル・ロペスさんが行い、その手腕を発揮しているが、国王陛下が今の状態では、さすがに問題だという事で、タジーム王子の弟で、第二王子のマルコ様が18歳になられた事を機に、来月王位を継承する事になったのだ。
「・・・うん、お城からも、そういったお話しは何も言われないし・・・ロペスさんも、考えてくださってると思うの。多分、ロペスさんが口添えをすれば、参列する事は可能だと思うわ。
でも、多分王子が嫌な思いをすると思うの。だってお城では、悪意のある目をずっと向けられてきたんだもの・・・だから、私は参列しないでいいと思う」
「あ~、そっかぁ・・・なんか嫌な事言ったみたいでごめんね。そうだよね、王子の気持ちを考えれば、そんな周り全部が敵みたいな場所に行けるわけないよねぇ」
レオネラちゃんは、失言したと言うように、少し気まずそうに指先で頬をかいた。
「うぅん、大丈夫よ。王子はそのくらいで気を損ねたりしないわ。でも、そっか・・・もう来月なんだよね。王位がマルコ様に移ったら・・・どうなるんだろ」
「あ・・・ベン・フィングの事ね?」
私の考えている事を察して、ジャニスさんが言葉を挟んできた。
そう、私はまさにそれを考えていた。
「えぇ・・・現国王は、ベン・フィングの処刑を認めなかったから、ずっと幽閉されているわけでしょ?でも、マルコ様に王位が移ったら、どうなるんだろうって・・・」
「ジョルジュは、その話しになるといつもこう言うわ。処刑できるうちに処刑した方がいい、ってね。正直、私もそう思うよ・・・殺し屋を自国内に入れるし、王子にしてきた事を考えれば、許せるわけない。まぁ、マルコ様がどう考えているか次第だけどね」
私がこの世界に来てすぐ位に牢に入れられたわけだから、もう幽閉されて6年近く経つ。
その間、国王がベン・フィングを擁護するため、あまり強い取り調べを行う事ができず、ベン・フィングは牢から出る事はできないでいたが、牢にいるとは思えない特別な待遇で過ごしていた。
「・・・それなんだけどさ、アタシもドミニクからちょっと聞いててね。ベン・フィングはマルコ様が王位を継承次第、処刑になるみたいだよ」
リンダさんが腕を組みながら軽い感じで言葉を出した。
ドミニクと呼び捨てているのは、実はリンダさんもこの五年の間に、ドミニクさんと付き合って結婚したのだ。
子供はいないけれど、夫婦仲良く暮らしている。
「うっそー!リン姉さん、それ本当?」
ニコラさんも知らなかったようで、リンダさんに驚きの目を向ける。
私達も一斉にリンダさんに顔を向けると、リンダさんが経緯を話し始めた。
「マルコ様はさ、ベン・フィングが幽閉されてからの約6年、ロペスさんが教育した事が良かったんだよ。最初の頃は現国王とベン・フィングの影響があって、てこずったみたいだけど、根気強く正しい物の価値観を教え、次期国王としての振る舞いを教えた。側近もロペスさんの信頼している者で固めてるから、今のマルコ様が王位を継承されるなら安心だと思うよ」
「そうなんだ・・・・・ロペスさんって、やっぱりすごいね。あの話し合いの後は、ブロートン帝国からの目立った圧力や侵略行為は無いし、平和だものね」
女子トークのはずが、いつの間にか政治の話しになっていた。
さすがにスージーちゃんとチコリちゃんは話についていけず、退屈そうにしていたので、ちょっと強引にだけど話を戻す。
その後はみんなで楽しくお話しをして、お昼の後にジョルジュさん達は帰って行った。
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この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
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