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【264 対策 ②】
剣士隊の休憩室で、私とペトラとルチルの三人は、楽しくお話をして過ごした。
さすがに剣士隊が使う休憩室という事はあって、ところどころに使い込まれた鉄の剣が立て掛けられている。倉庫も兼ねているような印象だ。
盾や鎧も、部屋の隅に山積みになっていて、とりあえず端に寄せて中心に物を置かなければ整理されているように見える。といった具合だ。
「あはははは!それでね、ルチルったら、サイズ合わないからって自分でリメイクしようとして失敗してさー!」
「ペトラー!その話しはヤヨイさんには内緒って言ったよね!」
「あ~あ、だからヤヨイ姉さんに頼めばいいって言ったのに」
「・・・だって、たまにレイジェスに行くと、いつも忙しそうに走りまわってるんだもん・・・悪いじゃん」
口を尖らせるルチルに、私は優しく声をかけた。
「ルチル・・・気をつかわせちゃったね。確かに私は、いつも走ってるかもしれないけど、せっかくルチルが来てくれたのに、声をかけてもらえないのは寂しいな。だから次は遠慮なく呼び止めてね。その方が嬉しいから」
私が微笑んで見せると、ルチルはまだ少し遠慮がちに、いいの?と言うけれど、私が、もちろん!と言うと、やったー!と声を上げてくれた。
「じゃあ、その失敗したってお洋服、今度持ってきてね?私で仕立て直しできればいいけど」
「ヤヨイさん上手だから、大丈夫だよ。近いうちに持って行くね」
ルチルの笑顔を見ると、心から喜んでくれているようだ。
ジョルジュさんから、戦争になるかもしれない、という話を聞いてから、心に暗い影が落ちていたけれど、ペトラとルチルの明るさに、少し気持ちも晴れた感じがした。
「本当・・・私は幸せ者だなぁ・・・」
「え?ヤヨイ姉さん、どうしたの急に?」
「うん、いきなりどうしたの?」
つい、思った口をついて出た言葉を、二人がきょとんとした顔で聞いてくる。
恥ずかしいけど、ごまかすのも違うかなと思い、私はコーヒーを一口飲んでから、言葉を続けた。
「うん・・・ちょっと、色々考える事があって、少しだけ落ち込んでたの。でも、二人と話してたら、なんだかそんな気持ち吹き飛んじゃった。私は良い友達に恵まれて幸せだなって思ったの。ペトラ。ルチル、これからも仲良くしてね」
「・・・ヤ、ヤヨイ姉さーん!そんなん当たり前じゃん!」
「そうだよー!私達はずっと友達じゃん!」
目元をウルウルさせ、涙声で二人が抱き着いて来た。
イスから転げ落ちそうになったけれど、なんとかバランスを取って二人を抱きとめる。
本当に良い友達が沢山できた。
ペトラとルチルの背中を撫でながら、私の心は温かさで満たされた。
午後になって、やっとロペスさんの時間が空き、私達は二階の少し大きめの部屋に通された。
部屋に入ったメンバーは、私とブレンダン様とウィッカーさんとジョルジュさん。
そして、パトリックと魔法兵団長のロビンさんに、剣士隊隊長のドミニクさんにも来てもらった。ロペスさんを含めて、合計8人だ。
「王宮というのは、どこも煌びやかに見せたがる。たいして使いもしない部屋なのに必要以上に金をかけ、椅子一つにしても金細工が使われる。正直俺は性に合わんが、まぁそこは担当している者のメンツもあるし、そういう物を作って給金を稼いでいる職人もいる。だから、俺の好みだけで変えるわけにもいかん」
ロペスさんが通してくれた部屋は、今ロペスさんが口にした煌びやかさはほとんどなく、質素で落ち着いた作りだった。
10~15人くらいは楽に入れる広さで、絨毯もしかれているし、テーブルも椅子も作りはしっかりとしていて丈夫そうだけど、派手な装飾はされておらず、その物の本来の機能を果たすためだけの物だった。
「この部屋は、元々は新人の侍女が仕事を覚えるための勉強をしたり、休憩をするところだったんだ。それが、部屋替えをして今はほとんど使われなくなったんでな、こういう秘密の話しをする時に、俺が使わせてもらっているんだ」
ロペスさんはテーブルの中央席に腰を下ろすと、私達に手を向けて空いてる席に座るように促した。
全員が椅子に腰を下ろした事を確認すると、ロペスさんは指先で、黒縁メガネの位置を直し、白髪と黒髪が丁度良く混ざり合ったロマンスグレーの髪を撫で、言葉を発した。
「さて、それじゃあ早速だが話をしようか。ロビンとパトリックから少し聞いたが、今度の王位継承の儀で、ブロートンが何か仕掛けてくるんだって?」
私が話そうとすると、ジョルジュさんが私に向けて軽く手を前に出して待ったをかける。
どうやら、自分で説明をしたいようだと察し、私はジョルジュさんに説明を任せた。
ジョルジュさんが西からの不吉な風を感じた事を話し、それに対しての自分の考えを話している間、ロペスさんはずっとジョルジュさんから目をそらさず、黙って最後まで話しを聞いていた。
「・・・なるほど、ジョルジュの風はそこまで感じ取れるのか。さすが風の精霊と心を通わせし者だな。俺は風を感じる事はできんが、可能性として継承の儀になにか起きるかもしれんとは思っていた」
ジョルジュさんの話しを聞き終えたロペスさんは、自分が考えていた可能性と一致した事で、自分の考えにほぼ確信を持ったようだ。
「では、ロペスもジョルジュと同じ考えだと言う事だな?ブロートンは王位継承の儀で、なにかを仕掛けてくると?」
ロビンさんがロペスさんに、強い目を向ける。
ジョルジュさんの意見は、風の精霊の調べが入った上での事なので、説得力は疑いようが無い程にある。
「そうだ。なにか仕掛けてくると考えて備えるべきだな。できれば穏便に抑えたいが、場合によっては大事になるだろう。まず、できるだけ入国人数に制限をかける。こちらは自国だから数の上では利が得られる。ロンズデールとクインズベリーも、わざわざ争いに首をつっこむ事はするまい。兵力はブロートンの警戒に多めに回すとしよう」
「五年前と同じ、師団長クラスの護衛を連れて来ると思うが、ヤツらの対応はどうする?」
ロペスさんは早くも対策を口にする。入国の人数制限は確かに必要だ。
ブロートン以外の二国が、中立であるというならば、警備にさく兵はブロートンに多めに付けた方がいいだろう。
ロビンさんも課題を投げかける。
ブロートン帝国の皇帝の護衛だ。当然前回と同じ、師団長が来る事が考えられる。
「目を離さないようにするしかないだろうな。皇帝の傍から動く様子がなければそれでいい。だが、セシリア・シールズ、あの女の行動は読めん。ヤヨイさん、もう五年経つが、あの女はあなたに非常に興味を持っていた。
次会った時に、また攻撃をしかけられる事も考えられる・・・・・今回、あなたには姿を隠してもらった方がいいと思う。どうかな?」
セシリア・シールズ・・・・・
五年前に一度会ったきりだけど、あの女はの事は私の記憶に深く刻まれた。
あの時、私を見つめた血のように赤い切れ長の瞳は、今もハッキリ覚えている。
「・・・はい、あの日、セシリア・シールズは、私にまた会うと思う・・・そう言っていました。私の中のもう一人の弥生に気付いているふしもありました。あの女は危険です・・・継承の儀で顔を会わせれば、ロペスさんのおっしゃる通り、攻撃を仕掛けてくることは十分ありえます。私は、表にはでない方がいいかもしれません」
「うむ。では、マルコ様の護衛や、ブロートンに付く者などはこれから決めるとして、ヤヨイさんは裏に回ってもらう事にしよう。だが、万一の時にはあなたの戦闘力は必要不可欠だ。だから、裏に回ると言っても、すぐに飛び出せる距離にはいてほしい。そこも話していこう」
私は、はい、と頷いた。
セシリア・シールズに私の存在を悟られず、そしてもしもの時にはすぐに飛び出せる距離での待機。難しいけどやるしかない。
【まかせときなよ】
私の緊張を感じ取ったのか、ふいに一言だけ、弥生の声が聞こえた。
今は自由に弥生との切り替えができると言っても、相変わらず弥生は表に出てこようとはしない。
今日だって、本当は弥生の方が適任だと思って、話し合いの前に弥生に代わってもらおうとしたけれど、結局出て来てくれなかった。
剣士隊で指導に入る時には普通に代わってくれるし、絶対に表に出たくないという訳ではないみたいだけど、指導や戦闘など、弥生でなければならない時以外は出る気が無いようだ。
私の中にいても話しは聞こえているようだからいいんだろうけど・・・・・この6年で分かった事は、弥生はどうやら面倒くさがりっぽい。
話し合いがよっぽどおかしな方向にでも行かなければ、多分出て来る気はないのだろう。
同じ私なのに、こうも違うんだもんな・・・
しかたないな、と私は小さく息を付いた。
でも弥生が、まかせておきな、と言ってくれたおかげで、緊張も解けて楽になった。
ありがとう弥生・・・頼りにしてるね
さすがに剣士隊が使う休憩室という事はあって、ところどころに使い込まれた鉄の剣が立て掛けられている。倉庫も兼ねているような印象だ。
盾や鎧も、部屋の隅に山積みになっていて、とりあえず端に寄せて中心に物を置かなければ整理されているように見える。といった具合だ。
「あはははは!それでね、ルチルったら、サイズ合わないからって自分でリメイクしようとして失敗してさー!」
「ペトラー!その話しはヤヨイさんには内緒って言ったよね!」
「あ~あ、だからヤヨイ姉さんに頼めばいいって言ったのに」
「・・・だって、たまにレイジェスに行くと、いつも忙しそうに走りまわってるんだもん・・・悪いじゃん」
口を尖らせるルチルに、私は優しく声をかけた。
「ルチル・・・気をつかわせちゃったね。確かに私は、いつも走ってるかもしれないけど、せっかくルチルが来てくれたのに、声をかけてもらえないのは寂しいな。だから次は遠慮なく呼び止めてね。その方が嬉しいから」
私が微笑んで見せると、ルチルはまだ少し遠慮がちに、いいの?と言うけれど、私が、もちろん!と言うと、やったー!と声を上げてくれた。
「じゃあ、その失敗したってお洋服、今度持ってきてね?私で仕立て直しできればいいけど」
「ヤヨイさん上手だから、大丈夫だよ。近いうちに持って行くね」
ルチルの笑顔を見ると、心から喜んでくれているようだ。
ジョルジュさんから、戦争になるかもしれない、という話を聞いてから、心に暗い影が落ちていたけれど、ペトラとルチルの明るさに、少し気持ちも晴れた感じがした。
「本当・・・私は幸せ者だなぁ・・・」
「え?ヤヨイ姉さん、どうしたの急に?」
「うん、いきなりどうしたの?」
つい、思った口をついて出た言葉を、二人がきょとんとした顔で聞いてくる。
恥ずかしいけど、ごまかすのも違うかなと思い、私はコーヒーを一口飲んでから、言葉を続けた。
「うん・・・ちょっと、色々考える事があって、少しだけ落ち込んでたの。でも、二人と話してたら、なんだかそんな気持ち吹き飛んじゃった。私は良い友達に恵まれて幸せだなって思ったの。ペトラ。ルチル、これからも仲良くしてね」
「・・・ヤ、ヤヨイ姉さーん!そんなん当たり前じゃん!」
「そうだよー!私達はずっと友達じゃん!」
目元をウルウルさせ、涙声で二人が抱き着いて来た。
イスから転げ落ちそうになったけれど、なんとかバランスを取って二人を抱きとめる。
本当に良い友達が沢山できた。
ペトラとルチルの背中を撫でながら、私の心は温かさで満たされた。
午後になって、やっとロペスさんの時間が空き、私達は二階の少し大きめの部屋に通された。
部屋に入ったメンバーは、私とブレンダン様とウィッカーさんとジョルジュさん。
そして、パトリックと魔法兵団長のロビンさんに、剣士隊隊長のドミニクさんにも来てもらった。ロペスさんを含めて、合計8人だ。
「王宮というのは、どこも煌びやかに見せたがる。たいして使いもしない部屋なのに必要以上に金をかけ、椅子一つにしても金細工が使われる。正直俺は性に合わんが、まぁそこは担当している者のメンツもあるし、そういう物を作って給金を稼いでいる職人もいる。だから、俺の好みだけで変えるわけにもいかん」
ロペスさんが通してくれた部屋は、今ロペスさんが口にした煌びやかさはほとんどなく、質素で落ち着いた作りだった。
10~15人くらいは楽に入れる広さで、絨毯もしかれているし、テーブルも椅子も作りはしっかりとしていて丈夫そうだけど、派手な装飾はされておらず、その物の本来の機能を果たすためだけの物だった。
「この部屋は、元々は新人の侍女が仕事を覚えるための勉強をしたり、休憩をするところだったんだ。それが、部屋替えをして今はほとんど使われなくなったんでな、こういう秘密の話しをする時に、俺が使わせてもらっているんだ」
ロペスさんはテーブルの中央席に腰を下ろすと、私達に手を向けて空いてる席に座るように促した。
全員が椅子に腰を下ろした事を確認すると、ロペスさんは指先で、黒縁メガネの位置を直し、白髪と黒髪が丁度良く混ざり合ったロマンスグレーの髪を撫で、言葉を発した。
「さて、それじゃあ早速だが話をしようか。ロビンとパトリックから少し聞いたが、今度の王位継承の儀で、ブロートンが何か仕掛けてくるんだって?」
私が話そうとすると、ジョルジュさんが私に向けて軽く手を前に出して待ったをかける。
どうやら、自分で説明をしたいようだと察し、私はジョルジュさんに説明を任せた。
ジョルジュさんが西からの不吉な風を感じた事を話し、それに対しての自分の考えを話している間、ロペスさんはずっとジョルジュさんから目をそらさず、黙って最後まで話しを聞いていた。
「・・・なるほど、ジョルジュの風はそこまで感じ取れるのか。さすが風の精霊と心を通わせし者だな。俺は風を感じる事はできんが、可能性として継承の儀になにか起きるかもしれんとは思っていた」
ジョルジュさんの話しを聞き終えたロペスさんは、自分が考えていた可能性と一致した事で、自分の考えにほぼ確信を持ったようだ。
「では、ロペスもジョルジュと同じ考えだと言う事だな?ブロートンは王位継承の儀で、なにかを仕掛けてくると?」
ロビンさんがロペスさんに、強い目を向ける。
ジョルジュさんの意見は、風の精霊の調べが入った上での事なので、説得力は疑いようが無い程にある。
「そうだ。なにか仕掛けてくると考えて備えるべきだな。できれば穏便に抑えたいが、場合によっては大事になるだろう。まず、できるだけ入国人数に制限をかける。こちらは自国だから数の上では利が得られる。ロンズデールとクインズベリーも、わざわざ争いに首をつっこむ事はするまい。兵力はブロートンの警戒に多めに回すとしよう」
「五年前と同じ、師団長クラスの護衛を連れて来ると思うが、ヤツらの対応はどうする?」
ロペスさんは早くも対策を口にする。入国の人数制限は確かに必要だ。
ブロートン以外の二国が、中立であるというならば、警備にさく兵はブロートンに多めに付けた方がいいだろう。
ロビンさんも課題を投げかける。
ブロートン帝国の皇帝の護衛だ。当然前回と同じ、師団長が来る事が考えられる。
「目を離さないようにするしかないだろうな。皇帝の傍から動く様子がなければそれでいい。だが、セシリア・シールズ、あの女の行動は読めん。ヤヨイさん、もう五年経つが、あの女はあなたに非常に興味を持っていた。
次会った時に、また攻撃をしかけられる事も考えられる・・・・・今回、あなたには姿を隠してもらった方がいいと思う。どうかな?」
セシリア・シールズ・・・・・
五年前に一度会ったきりだけど、あの女はの事は私の記憶に深く刻まれた。
あの時、私を見つめた血のように赤い切れ長の瞳は、今もハッキリ覚えている。
「・・・はい、あの日、セシリア・シールズは、私にまた会うと思う・・・そう言っていました。私の中のもう一人の弥生に気付いているふしもありました。あの女は危険です・・・継承の儀で顔を会わせれば、ロペスさんのおっしゃる通り、攻撃を仕掛けてくることは十分ありえます。私は、表にはでない方がいいかもしれません」
「うむ。では、マルコ様の護衛や、ブロートンに付く者などはこれから決めるとして、ヤヨイさんは裏に回ってもらう事にしよう。だが、万一の時にはあなたの戦闘力は必要不可欠だ。だから、裏に回ると言っても、すぐに飛び出せる距離にはいてほしい。そこも話していこう」
私は、はい、と頷いた。
セシリア・シールズに私の存在を悟られず、そしてもしもの時にはすぐに飛び出せる距離での待機。難しいけどやるしかない。
【まかせときなよ】
私の緊張を感じ取ったのか、ふいに一言だけ、弥生の声が聞こえた。
今は自由に弥生との切り替えができると言っても、相変わらず弥生は表に出てこようとはしない。
今日だって、本当は弥生の方が適任だと思って、話し合いの前に弥生に代わってもらおうとしたけれど、結局出て来てくれなかった。
剣士隊で指導に入る時には普通に代わってくれるし、絶対に表に出たくないという訳ではないみたいだけど、指導や戦闘など、弥生でなければならない時以外は出る気が無いようだ。
私の中にいても話しは聞こえているようだからいいんだろうけど・・・・・この6年で分かった事は、弥生はどうやら面倒くさがりっぽい。
話し合いがよっぽどおかしな方向にでも行かなければ、多分出て来る気はないのだろう。
同じ私なのに、こうも違うんだもんな・・・
しかたないな、と私は小さく息を付いた。
でも弥生が、まかせておきな、と言ってくれたおかげで、緊張も解けて楽になった。
ありがとう弥生・・・頼りにしてるね
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