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【294 エロール 対 ジャック】
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夜の森は数メートル先さえ見えない程に、暗く深い闇に包まれているものだが、今夜は月明かりが差し込み足元を照らしてくれる。
それを頼りに樹々を抜け走り進んで行くと、幾分開けた場所へ出た。
そこに待ち構えていたのは、赤い髪に深紅の鎧、自身の背丈程もある二丁の巨大な斧をその背に背負った男。ブロートン帝国第三師団長ジャック・パスカルだった。
エロールの姿を目にすると、上に立てた赤い髪に手櫛を入れ整え直す。
「よぉ、逃げないで来たか」
「逃げる?それは俺のセリフだ。ブルって森に隠れたのかと思ったぜ」
エロールの言葉にジャックの目が鋭さを増す。
ジャックは一見すると平凡な体格だった。
身長は175cm程、コバレフやルシアンのような巨躯とは比べられないにしても、それでも目立って突出した部分はない。
見た目には・・・・・
「・・・フン、まぁいい、どうも城で会った時からお前のツラが気に入らなくてな。帝国へ帰る前に身の程を教えてやろうと思っただけだ」
両手を背中に回し、二丁の斧を握り締める。
軽々と左右に斧を持ち構えると、ジャックが臨戦態勢に入った。
ジャックの凄まじさは実際に対峙した者にしか分からない。
その背丈からは想像もできない腕力は、ゆうに100キロを超えるだろう巨大な戦斧を、腕一本で持ち構えるところから想像できるだろう。
鎧の下にある鋼のような筋肉と、鞭のようにしなやかで柔軟な筋肉は、自分より大きな相手にも後れをとらないよう、鍛え抜いたジャックの自信の源だった。
「奇遇だな。俺もお前のツラに苛ついてたんだ。オラ、来いよ。身の程ってのは俺がお前に教えてやる」
エロールが右手をの人差し指を突き出し、クイっと曲げて見せる。
その瞬間ジャックの戦斧が凄まじい勢いで回転しながらエロールに向かい投げられた。
全長で170cm、厚さ10cm以上の巨大な戦斧は、斬る事を目的としていない。
当たれば原型を留めない程にその肉を弾き飛ばすからだ。
まして相手は魔法使いであり、背丈もジャックより低く、女と見紛う程の華奢な体付きだった。
刃ではなく柄の部分であろうと、当たれば骨はおろかその身を打ち砕くであろう。
軽口を叩きながらも、エロールは十分に警戒をしていたはずだった。
距離も十分に取っていた。
ジャックの射程はその戦斧の長さから2メートル以内、踏み込みも合わせれば3メートル。長く見積もって4メートルと計算していた。
5メートル以上離れているエロールに攻撃を届かせるには、距離を詰める必要がある。
その考えは至極当然であり、またエロール以外の誰であっても当然そう考えるであろう予測だった。
初撃は距離を詰めてからの左右の斧による薙ぎ払いか振り下ろし。
足を使った攻撃も可能性には入れてあるが、あの巨大な戦斧を見る限りそれはかなり低いと見ていた。
だが、ジャックの初撃はエロールのどの予想も裏切った。
その場で上半身だけを使った斧による投擲(とうてき)。
「なっ!?」
あれほど巨大な斧を、その場で腕力だけで投げ放つ。
全く想定していなかった攻撃、眼前に迫る絶対なる死をもたらす戦斧に、エロールの意識がジャックから戦斧へと移る。
想定外の攻撃に硬直した体を無理やり動かし、刹那の差で戦斧を屈み躱す。
髪をかすめる感触に息を飲む。体に触れたわけではない。だが髪の先を斬り裂いた戦斧の重さが肌で感じられ、エロールの全身から一瞬で嫌な汗が噴き出した。
ジャックから意識を逸らし、ただ斧を回避するためだけに腰をかがめる。
エロールはジャックの初撃ですでに致命的な隙を作っていた。
この一瞬でジャックはエロールの目の前まで距離を詰め、残った左手に持つ斧を振り上げていた。
「なんだ、こんなもんか」
ジャックは失望の声と共にエロールの頭に斧を振り下ろした。
運動能力で大きく上回るジャックを相手に勝利するために、エロールが選んだ戦闘方法は後の先を取る事であった。
埋めきれない運動能力の差は理解していた。いずれジャックに追い詰められる。
それは十分に理解した上だった。
「なにッツ!?」
「・・・ヘッ、オレがなんの勝算もなく戦いに挑んだと思ったか?」
自分の背丈よりも巨大な斧を受け止めていたのは、一風吹けばそれだけで吹き飛ばされそうな柔らかなマフラーだった。
「吹っ飛べオラァァァァーッツ!」
その腕力は師団長一。
体格で自分をはるか上回るコバレフ、そしてルシアンより自分が上だと、絶対の自信を持っていたジャックは、己の一撃を受け止めるられる事は毛ほども考えになかった。
驚きに目を剥いたジャックは、エロールの攻撃に対し、防御、回避の行動が間に合わずその一撃をまともに浴びる事になる。
爆音が静寂を破り森に響き渡る。
深紅の鎧の胸の装甲を砕かれ、ジャックの体が宙を舞う。
頭上に降り注ぐ砕けた装甲の破片を目に、エロールは不敵な笑みを浮かべた。
「・・・攻防一体の俺の反作用の糸に、死角はねぇんだよ」
それを頼りに樹々を抜け走り進んで行くと、幾分開けた場所へ出た。
そこに待ち構えていたのは、赤い髪に深紅の鎧、自身の背丈程もある二丁の巨大な斧をその背に背負った男。ブロートン帝国第三師団長ジャック・パスカルだった。
エロールの姿を目にすると、上に立てた赤い髪に手櫛を入れ整え直す。
「よぉ、逃げないで来たか」
「逃げる?それは俺のセリフだ。ブルって森に隠れたのかと思ったぜ」
エロールの言葉にジャックの目が鋭さを増す。
ジャックは一見すると平凡な体格だった。
身長は175cm程、コバレフやルシアンのような巨躯とは比べられないにしても、それでも目立って突出した部分はない。
見た目には・・・・・
「・・・フン、まぁいい、どうも城で会った時からお前のツラが気に入らなくてな。帝国へ帰る前に身の程を教えてやろうと思っただけだ」
両手を背中に回し、二丁の斧を握り締める。
軽々と左右に斧を持ち構えると、ジャックが臨戦態勢に入った。
ジャックの凄まじさは実際に対峙した者にしか分からない。
その背丈からは想像もできない腕力は、ゆうに100キロを超えるだろう巨大な戦斧を、腕一本で持ち構えるところから想像できるだろう。
鎧の下にある鋼のような筋肉と、鞭のようにしなやかで柔軟な筋肉は、自分より大きな相手にも後れをとらないよう、鍛え抜いたジャックの自信の源だった。
「奇遇だな。俺もお前のツラに苛ついてたんだ。オラ、来いよ。身の程ってのは俺がお前に教えてやる」
エロールが右手をの人差し指を突き出し、クイっと曲げて見せる。
その瞬間ジャックの戦斧が凄まじい勢いで回転しながらエロールに向かい投げられた。
全長で170cm、厚さ10cm以上の巨大な戦斧は、斬る事を目的としていない。
当たれば原型を留めない程にその肉を弾き飛ばすからだ。
まして相手は魔法使いであり、背丈もジャックより低く、女と見紛う程の華奢な体付きだった。
刃ではなく柄の部分であろうと、当たれば骨はおろかその身を打ち砕くであろう。
軽口を叩きながらも、エロールは十分に警戒をしていたはずだった。
距離も十分に取っていた。
ジャックの射程はその戦斧の長さから2メートル以内、踏み込みも合わせれば3メートル。長く見積もって4メートルと計算していた。
5メートル以上離れているエロールに攻撃を届かせるには、距離を詰める必要がある。
その考えは至極当然であり、またエロール以外の誰であっても当然そう考えるであろう予測だった。
初撃は距離を詰めてからの左右の斧による薙ぎ払いか振り下ろし。
足を使った攻撃も可能性には入れてあるが、あの巨大な戦斧を見る限りそれはかなり低いと見ていた。
だが、ジャックの初撃はエロールのどの予想も裏切った。
その場で上半身だけを使った斧による投擲(とうてき)。
「なっ!?」
あれほど巨大な斧を、その場で腕力だけで投げ放つ。
全く想定していなかった攻撃、眼前に迫る絶対なる死をもたらす戦斧に、エロールの意識がジャックから戦斧へと移る。
想定外の攻撃に硬直した体を無理やり動かし、刹那の差で戦斧を屈み躱す。
髪をかすめる感触に息を飲む。体に触れたわけではない。だが髪の先を斬り裂いた戦斧の重さが肌で感じられ、エロールの全身から一瞬で嫌な汗が噴き出した。
ジャックから意識を逸らし、ただ斧を回避するためだけに腰をかがめる。
エロールはジャックの初撃ですでに致命的な隙を作っていた。
この一瞬でジャックはエロールの目の前まで距離を詰め、残った左手に持つ斧を振り上げていた。
「なんだ、こんなもんか」
ジャックは失望の声と共にエロールの頭に斧を振り下ろした。
運動能力で大きく上回るジャックを相手に勝利するために、エロールが選んだ戦闘方法は後の先を取る事であった。
埋めきれない運動能力の差は理解していた。いずれジャックに追い詰められる。
それは十分に理解した上だった。
「なにッツ!?」
「・・・ヘッ、オレがなんの勝算もなく戦いに挑んだと思ったか?」
自分の背丈よりも巨大な斧を受け止めていたのは、一風吹けばそれだけで吹き飛ばされそうな柔らかなマフラーだった。
「吹っ飛べオラァァァァーッツ!」
その腕力は師団長一。
体格で自分をはるか上回るコバレフ、そしてルシアンより自分が上だと、絶対の自信を持っていたジャックは、己の一撃を受け止めるられる事は毛ほども考えになかった。
驚きに目を剥いたジャックは、エロールの攻撃に対し、防御、回避の行動が間に合わずその一撃をまともに浴びる事になる。
爆音が静寂を破り森に響き渡る。
深紅の鎧の胸の装甲を砕かれ、ジャックの体が宙を舞う。
頭上に降り注ぐ砕けた装甲の破片を目に、エロールは不敵な笑みを浮かべた。
「・・・攻防一体の俺の反作用の糸に、死角はねぇんだよ」
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