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509 ロンズデールの事情
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「ロンズデールの使者かぁ・・・帰りもみんなに話してたよね」
夜、夕飯を一緒に食べながら、俺はカチュアにあらためて今日バルクさんから聞いた事を話した。
「うん、それでさ、教えて欲しいんだけど、ロンズデールってどんな国?水産業が盛んだって事は、前にミゼルさんから聞いた事はあるんだけど、それくらいしか知らないんだ。他になにかあったら知っておきたいんだ」
野菜スープを口に入れてカチュアに話しを振ると、カチュアも水を一口飲んで、うん、と頷いてくれた。
「そうだよね。アラタ君はロンズデールの事知らなくて当然だよね。えっとね、まずロンズデールはミゼルさんの言うように、水産業が盛んで、国民の1/3は、なにかしら海に関する仕事で生計を立ててるんだって。アラタ君、この宝石覚えてる?」
そう言ってカチュアは、首から下げたネックレスを手に取って見せてくれた。
「うん。忘れるわけないじゃないか」
そう答えると、カチュアは嬉しそうに笑ってくれた。
「うん。これ、アラタ君がスーツ作った時に露店で買ってくれたんだよね・・・私の宝物だよ。あの時の女の人、ロンズデールからの行商人って言ってたよね?」
そう言われて俺も一つ思い出した。
そうだ、そう言えばあの時、これを持ってればまた会えるなんて言ってたっけ。
俺が思い出した様子を見て、カチュアも言葉を続けた。
「水色の布袋、ちゃんと取ってあるよ。二つ一緒にタンスの引き出しに入れて置いたから」
「あ、そう言えばカチュアに預けておいたよね?ごめん、忘れてた」
「大丈夫。私が覚えてるから。あ、それでね、この石も海の宝石って聞いたでしょ?ロンズデールの名産品なんだよ。ロンズデールの行商人は、干物とか、加工した海産物、そしてこの海の宝石を扱ってる人がほとんどなの」
「なるほどなぁ・・・うん、仕事関係はだいたい分かったよ。ミゼルさんから、造船業もあるって聞いてたから、本当に海に関するのがほとんどなんだね」
マカロニサラダを口に入れて、うんうんと頷く。
カチュアもオムライスを一口食べて、コップに口をつける。
「それで、ここからがアラタ君が知りたい事だと思うんだけど、ロンズデールが帝国のいいなりって言うのは、その通りだと思う。ロンズデールでは、あからさまに帝国が優遇されてるから、行ったらアラタ君もすぐ分かると思うよ」
「そうなのか?あからさまに優遇?」
カチュアの言葉をオウム返しにすると、カチュアは、うん、と頷いた。
「私ね、前に一度おじいちゃん達と、ロンズデールに行った事があるの。お昼を食べに入った食堂とか、お土産を買いに寄ったお店とか、どこでもそうだったんだけど、帝国の人間だと割引になるの。びっくりしたよ。帝国の人間かどうかは身分証で分かるんだけど、私達は通常の値段で買って、次にお会計をした帝国の人は同じ物でもずっと安いの。驚いて、お店の人にどういう事ですか?って聞いたら、あの人達は帝国の人間だからしかたないんですって言うんだもん」
「なんだそれ?そんなんじゃクインズベリーからは、誰もロンズデールに行かなくなるぞ?」
開いた口がふさがらないとは、こういう事を言うのだろう。
自分が買った物と同じ物を、帝国というだけで安くなる。
目の前でそんな事をされたら、誰だって嫌な気分になるはずだ。
「うん、やっぱりそうだよね?そういう事があるから、不満を持ってる人は多いの。でも、ロンズデールは観光地として最高なんだよね。温泉もあるし、海鮮料理はおいしいし。夏は海で泳げるし。だから結局高くても旅行に行く人が多いの」
カチュアは首を傾けて、しかたない、と言うように小さく笑った。
「そっかぁ・・・まぁ、お客が何を言っても帝国優遇が変わらないんなら、割り切るしかないって人が多いのかな。でもさ、なんでそんなに帝国を優遇してるの?」
「う~ん、これは噂なんだけどね、ロンズデールの王様ってすっごい弱腰なんだって。あと、あそこは鉄が全くとれないらしいの。だから鉄の輸入で弱みがあるって聞いた事はあるよ。クインズベリーも鉄は帝国に頼ってるところが多いけど、多少はとれるからね」
残りのオムライスを口に入れると、カチュアはご馳走様と言って、食器をまとめた。
「そう言えば、前にヴァンに聞いた事があるな。帝国は銅や鉄鉱石が盛んに取れる鉱山がいくつもあるって・・・そんで大陸一の軍事力を持ってるから強硬なんだな。なるほどなぁ・・・けど、ロンズデールの王様もそれでよく王様やってられるね?国民から突き上げ喰らわないのかな?」
俺も食事を終えて、カチュアと一緒にシンク台に食器を運ぶ。
「あのね、ロンズデールって、建国から今まで、何百年も一度も戦争した歴史がないの。完全に平和主義なんだって。だから、国民も戦おうって意識が低いみたいだよ。あ、食器ありがとう。私が洗うから置いておいて」
シンク台に食器を置くと、カチュアが食器洗いを始めたので、その間に俺はフロを沸かす事にした。
ここは井戸水なので、風呂に水を張るには何回も井戸から水を運ばなくてはならない。
仕事帰りはすぐに暗くなってしまうので、朝早起きして、朝の内に用意して夜は沸かすだけですむようにしている。
朝は俺が井戸から水を運んでいる間に、カチュアが食事の準備をして、夜はカチュアが食器洗いをしている間に俺がフロの準備をする。話し合ったりしたわけではないが、いつの間にか役割分担は出来ていた。
「・・・平和主義、かぁ・・・今の日本みたいな感じなのかな?まぁ、日本は戦争で負けたからって事情があるから、同じには考えられないけど・・・」
火種石で火を付けて風呂を沸かしながら、今は遠い日本の歴史を思い出していた。
夜、夕飯を一緒に食べながら、俺はカチュアにあらためて今日バルクさんから聞いた事を話した。
「うん、それでさ、教えて欲しいんだけど、ロンズデールってどんな国?水産業が盛んだって事は、前にミゼルさんから聞いた事はあるんだけど、それくらいしか知らないんだ。他になにかあったら知っておきたいんだ」
野菜スープを口に入れてカチュアに話しを振ると、カチュアも水を一口飲んで、うん、と頷いてくれた。
「そうだよね。アラタ君はロンズデールの事知らなくて当然だよね。えっとね、まずロンズデールはミゼルさんの言うように、水産業が盛んで、国民の1/3は、なにかしら海に関する仕事で生計を立ててるんだって。アラタ君、この宝石覚えてる?」
そう言ってカチュアは、首から下げたネックレスを手に取って見せてくれた。
「うん。忘れるわけないじゃないか」
そう答えると、カチュアは嬉しそうに笑ってくれた。
「うん。これ、アラタ君がスーツ作った時に露店で買ってくれたんだよね・・・私の宝物だよ。あの時の女の人、ロンズデールからの行商人って言ってたよね?」
そう言われて俺も一つ思い出した。
そうだ、そう言えばあの時、これを持ってればまた会えるなんて言ってたっけ。
俺が思い出した様子を見て、カチュアも言葉を続けた。
「水色の布袋、ちゃんと取ってあるよ。二つ一緒にタンスの引き出しに入れて置いたから」
「あ、そう言えばカチュアに預けておいたよね?ごめん、忘れてた」
「大丈夫。私が覚えてるから。あ、それでね、この石も海の宝石って聞いたでしょ?ロンズデールの名産品なんだよ。ロンズデールの行商人は、干物とか、加工した海産物、そしてこの海の宝石を扱ってる人がほとんどなの」
「なるほどなぁ・・・うん、仕事関係はだいたい分かったよ。ミゼルさんから、造船業もあるって聞いてたから、本当に海に関するのがほとんどなんだね」
マカロニサラダを口に入れて、うんうんと頷く。
カチュアもオムライスを一口食べて、コップに口をつける。
「それで、ここからがアラタ君が知りたい事だと思うんだけど、ロンズデールが帝国のいいなりって言うのは、その通りだと思う。ロンズデールでは、あからさまに帝国が優遇されてるから、行ったらアラタ君もすぐ分かると思うよ」
「そうなのか?あからさまに優遇?」
カチュアの言葉をオウム返しにすると、カチュアは、うん、と頷いた。
「私ね、前に一度おじいちゃん達と、ロンズデールに行った事があるの。お昼を食べに入った食堂とか、お土産を買いに寄ったお店とか、どこでもそうだったんだけど、帝国の人間だと割引になるの。びっくりしたよ。帝国の人間かどうかは身分証で分かるんだけど、私達は通常の値段で買って、次にお会計をした帝国の人は同じ物でもずっと安いの。驚いて、お店の人にどういう事ですか?って聞いたら、あの人達は帝国の人間だからしかたないんですって言うんだもん」
「なんだそれ?そんなんじゃクインズベリーからは、誰もロンズデールに行かなくなるぞ?」
開いた口がふさがらないとは、こういう事を言うのだろう。
自分が買った物と同じ物を、帝国というだけで安くなる。
目の前でそんな事をされたら、誰だって嫌な気分になるはずだ。
「うん、やっぱりそうだよね?そういう事があるから、不満を持ってる人は多いの。でも、ロンズデールは観光地として最高なんだよね。温泉もあるし、海鮮料理はおいしいし。夏は海で泳げるし。だから結局高くても旅行に行く人が多いの」
カチュアは首を傾けて、しかたない、と言うように小さく笑った。
「そっかぁ・・・まぁ、お客が何を言っても帝国優遇が変わらないんなら、割り切るしかないって人が多いのかな。でもさ、なんでそんなに帝国を優遇してるの?」
「う~ん、これは噂なんだけどね、ロンズデールの王様ってすっごい弱腰なんだって。あと、あそこは鉄が全くとれないらしいの。だから鉄の輸入で弱みがあるって聞いた事はあるよ。クインズベリーも鉄は帝国に頼ってるところが多いけど、多少はとれるからね」
残りのオムライスを口に入れると、カチュアはご馳走様と言って、食器をまとめた。
「そう言えば、前にヴァンに聞いた事があるな。帝国は銅や鉄鉱石が盛んに取れる鉱山がいくつもあるって・・・そんで大陸一の軍事力を持ってるから強硬なんだな。なるほどなぁ・・・けど、ロンズデールの王様もそれでよく王様やってられるね?国民から突き上げ喰らわないのかな?」
俺も食事を終えて、カチュアと一緒にシンク台に食器を運ぶ。
「あのね、ロンズデールって、建国から今まで、何百年も一度も戦争した歴史がないの。完全に平和主義なんだって。だから、国民も戦おうって意識が低いみたいだよ。あ、食器ありがとう。私が洗うから置いておいて」
シンク台に食器を置くと、カチュアが食器洗いを始めたので、その間に俺はフロを沸かす事にした。
ここは井戸水なので、風呂に水を張るには何回も井戸から水を運ばなくてはならない。
仕事帰りはすぐに暗くなってしまうので、朝早起きして、朝の内に用意して夜は沸かすだけですむようにしている。
朝は俺が井戸から水を運んでいる間に、カチュアが食事の準備をして、夜はカチュアが食器洗いをしている間に俺がフロの準備をする。話し合ったりしたわけではないが、いつの間にか役割分担は出来ていた。
「・・・平和主義、かぁ・・・今の日本みたいな感じなのかな?まぁ、日本は戦争で負けたからって事情があるから、同じには考えられないけど・・・」
火種石で火を付けて風呂を沸かしながら、今は遠い日本の歴史を思い出していた。
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