異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
610 / 1,542

609 変わっていく気持ち

しおりを挟む
「・・・ここならしばらくは休めそうだな。大丈夫か?ディリアン」

ビリージョーが話しかけると、ディリアンは大きく息を吐いて、ゆっくりと頷いた。

「・・・あぁ・・・なんとかな・・・あちこち痛むけど、骨は大丈夫みたいだ。少し休めば行けそうだ」


あの瞬間、船が傾きその体を投げ出されたビリージョーは、すぐ隣にいたディリアンの腕を掴み、庇うように自分の方へ引き寄せた。
ディリアンも船の異常事態を察し、すぐに自分とビリージョーを包み込む結界を張ったが、船が転覆し投げ出される衝撃は、想像をはるかに超えたものだった。

体が宙に投げ出され、目まぐるしく視界が変わる様は、自分が今どこにいるのかすら分からなくさせるものだった。
結界に護られてはいたが、衝撃は結界を通して響いて来る。
あちこちに何度もぶつかり、強い衝撃に襲われていつの間にか意識を失った。



「気がついたら水の上に浮かんでたんだよな・・・・・まさか、クルーズ船が出発してすぐにひっくり返るなんてよ、なんの冗談だよ」

ディリアンの隣に腰を下ろし、苦笑いを浮かべる。

「・・・一階、あぁ元の最上階だが、転覆したから一階と言っていいよな?一階はもう駄目だ。半分以上水が入ってる。このペースなら、二階にもすぐ浸水してくるんじゃねぇのか?」

ディリアンは階下を見下ろし、目を細めた。
自分達が置かれている状況の深刻さを、ディリアンは深く理解していた。

この沈没していく船から、ただ脱出すればいいというものではない。
外へ出たとしても、そこから陸まで渡らなければならないのだ。

その手段だが、風魔法で空を飛べる黒魔法使いがいれば、何とかなるかもしれない。
全員を風で運ぶのだ。
だが、本来自分の足に風を纏って、自分だけ飛ぶという使い方なのに、複数人を同時に飛ばす事ができるだろうか?飛ばすだけなら不可能ではないだろう。だが制御できなければどうしようもない。
他者の動きを風で操るというのは、非常に繊細な技術が要求されるのだ。

迅速にかつ正確に、大勢を陸まで運べる技量を持つ魔法使いでなければ、仲間全員を助ける事はできないだろう。

その理由として、タイムリミットがあるからだ。
夜は闇の主トバリの支配する世界である。
日が暮れる前に脱出し陸まで飛ぶ。これができなければ、船と一緒に沈んで死ぬか、トバリに喰われて死ぬかの二択になる。


「・・・気に入らねぇが、あいつ、バルデスなら・・・」

シャクール・バルデスならば、仲間全員を正確に飛ばす事が可能なのではないか?
それがディリアンの考える脱出プランであり、それ以外にないと思えるものだった。

「バルデスか・・・あいつらも無事だと思うが、早く合流しないとな」

ディリアンは独り言のように話しているが、ビリージョーは話しに相槌を打った。

「あぁ、あの野郎がそう簡単に死ぬわけねぇよ。この七日間うんざりするくらい稽古つけられてよく分かった。生きてりゃ上に向かってんだろ・・・俺らもそろそろ行こうぜ」

立ち上がったディリアンを見て、歩ける程度には回復していると判断し、ビリージョーは頷いた。





「・・・なぁ、ビリージョー、あんたは国に戻る気は無いのか?」

二階から三階へと続く足場渡り、しばらく黙って並んで歩く。

タイミングを伺っていたのだろう。
ディリアンは平静を装っているが、意を決したように少しだけ固い口調で尋ねた。

「ん?・・・えっと、つまり、また城に戻って働かないのかって事か?」

ディリアンが答えない事を受け、ビリージョーは少し考えて言葉を続けた。


「・・・そうだなぁ・・・俺が城を出て、ナック村へ行った理由は知ってるだろ?今の暮らしも気に入ってるし、今更戻る事はないかな」

「・・・うん、そうか・・・」

ディリアンもベナビデス家である。当然ビリージョーの境遇は知っている。
ディリアンが直接関わったわけではない。
だが、自分の兄が追い詰め、居場所を奪った事に変わりはない。

ディリアンはロンズデールに来て、一番自分を気にかけてくれたビリージョーに、少しづつ心を開いていった。

初めは何とも思わなかった。悪いのは兄であり自分は無関係である。

だが、今は違う・・・・・

「・・・ビリージョー・・・その・・・」

「ん?・・・・・なぁ、ディリアン」

ディリアンが何かを言葉にしようと、しかし言いづらそうに口ごもるのを見て、ビリージョーはディリアンの気持ちを察し、その肩に腕を回した。

「なぁ、ディリアン・・・ありがとうな」

「あ?なんだよ?」

眉を寄せるディリアンに、ビリージョーは優しく語り掛けた。

「いや、けっこう優しいとこあんだなって思ってよ」

「んだよそれ?・・・あぁ~、もういいや。おら、さっさと先行こうぜ」


肩に回された腕を面倒そうにどかし、ディリアンは頭を掻いてスタスタと前を歩き出した。

「ははは、おい、ちょっと待っ・・・!?」


軽い口調で声をかけ、前を進むディリアンを追いかけようとしたその時、ビリージョーの視界に入ってきたのは、ディリアンの頭に落ちて来た、小さな黒い球だった。


あれはなんだ?

どこから落ちて来た?なぜ急に・・・・なにかヤバイ・・・!

「ディリアーーーーンッツ!」

直感だった。
一瞬の思考の後にビリージョーは駆け出し、ディリアンの背中を突き飛ばした。

「うっ、ぐあぁぁぁぁーーーッツ!」


突き飛ばされて正面から床に倒れ込んだディリアンは、何をするんだと瞬間的に怒りにかられたが、背中に聞こえるビリージョーの声に振り返り絶句した。


「ビ、ビリー・・・ジョー・・・こ、これは・・・」

立ったまま全身を黒い灰で固められたビリージョーが、苦痛に顔を歪め叫び声を上げていた。


「あ~、まさか庇うとはなぁ~、お前を狙ったんだけどな。まぁいっか、まだ時間はあるし遊んでやるよ」

「・・・なっ、なに!?」

軽薄そうな声が頭上から聞こえ顔を上げると、ディリアンは驚きの声を上げた。

クルクルとしたボリュームのある茶色の髪の男が、上の階の天井に足を付け、逆さまになって自分を見ているのだった。

歳は三十手前というところだろう。
黒い長袖シャツの上に、ポケットの多い革製のベストを着ており、茶色のカーゴパンツの腰には、手斧が下げられていた。

ディリアンはその男に見覚えがあった。

「・・・てめぇは確か・・・」

「お?俺の事を覚えててくれたのかい?」

天井に足をくっつけているかと思えば、今度は突然頭から落下して、一回転して足から床に着地した。

正面に立つと、ディリアンよりも10cm以上は背が高い事が分かる。
180cmはあるだろう。

「城でほんの短い時間会っただけだが、覚えててくれたのは嬉しいねぇ。名乗ろう。俺はカーン様直属の魔道剣士四人衆、カレイブ・プラットだ。お前らにはここで死んでもらうぜ」

食事に誘うくらいの軽い調子でそう言葉にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...