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678 トラブル
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「ちょっと失礼するね。こっちは準備ができたよ。いつでも脱出できるけど、そっちはどう?」
ボートの準備を終えたシャノンが、ラクエルに声をかけて来た。
アラタ達はいつでもボートに乗れるよう用意ができており、後は壁を破壊して出るだけだった。
「あー、ごめん。もう少しかかりそう。うるさいのがいてさ、ちょっともめてるみたいなんだよね・・・今フランクが見に行ってるんだけど・・・」
腕を組んで眉をしかめるラクエルの言葉に、シャノンはその視線の先を追った。
人数の多いラクエル達はボートが三隻必要で、その三隻はすでに用意されている。
乗客たちもそれぞれが乗るべきボートの前で待機しているようだ。
だがその乗客達の中の一人、水と油で汚れてはいるが、身なりの良い服装のでっぷりとした男が、強い口調でフランクに詰め寄っていた。
「いい加減にしろよフランク!俺を誰だと思っている!?なぜ俺が救命胴衣を着けられないで、その女が着けられるんだ!?」
フランクの後ろには、マイクの怒声に怯えた様子のリリアが、エマを抱きしめていた。
母親の腕の中で、幼いエマもその身を震わせている。
リリアとエマはオレンジ色のベストを着ているが、空気が詰まったように見えるそれが救命胴衣なのだろう。
「マイク様、落ち着いてください。救命胴衣の数が足りないんです。私も着ていません。こういう場合は体力的に考えて、男性より女性と子供を優先するべきなんです」
「馬鹿かお前は!?身分というものがあるだろう!俺は貴族だぞ!俺になにかあったら俺の使用人はどうなる!?領民はどうなる!?貴様はその損害に対して責任が取れるのか!?」
フランクの胸倉を掴み、唾を撒き散らしながら大声を出すマイクに、フランクも怯まされた。
マイクの言い分にも一理無いわけではない。マイクになにかあれば、他の誰かが領地を治める事になるだろう。だが、使用人達が今まで通り雇用されるかは分からない。彼らの生活が一変する可能性は十分にある。
フランクが言葉に詰まると、マイクは勝ち誇ったように舌なめずりをして、フランクの額を指で突いた。
「分かったようだな?だったらその女の救命胴衣を俺によこせ」
「・・・できません」
話しはついた。そう確信して命じた言葉に、まさか拒否をされるとは思わず、マイクは大きく目を開いた。
「・・・おい、フランク、お前今何て言った?」
「・・・マイク様、やっぱりできません。彼女達にも生活があるんです。もしリリアさんに何かあったら、エマちゃんはどうなるんですか?こんなに小さな女の子なん・・・」
フランクが言い終わらないうちに、マイクの右拳がフランクの顔面を殴り抜いた。
その場に腰から倒れるフランクを見て、乗客たちが悲鳴を上げると、マイクはそれらをかき消すように、より大きな声でフランクを怒鳴りつけた。
「フランクーーーッ!貴様この俺を侮辱するのかッ!もういい!貴様帰ったらただですむと思うなよ!おいそこの女!さっさとそれを脱いでこの俺に・・・」
「うっせぇんだよデブ。お前がいい加減にしろよ」
いつの間にかマイクの首にナイフを当てたラクエルが、今にもその首を切り落とさんと、鋭い殺気をぶつけている。
「うっ、こ、この、またお前か、お、俺を誰だと思ってる!」
マイクは首筋に当たる冷たい刃物の感触に、ごくりと唾を飲んだ。
ラクエルに耳を切り落とされた経験から、この女は本当に自分を殺しかねないと緊張しているのだ。
「それはこっちのセリフだね。お前、何回騒げば気が済むんだよ?ねぇ、フランク、こいつはもうほっといてよくない?こんなのの面倒まで見る事ないって」
「ラ、ラクエルさん、殺しちゃ駄目です」
「なんで?」
自分をかばって前に立ったラクエルに、フランクは殴られた頬を押さえながら立ち上がると、ナイフを握るラクエルの右手をそっと掴んだ。
「あなたが人を殺すところを見たくないんです。俺も、リリアさんも、エマちゃんも。だからナイフを下ろしてください」
「・・・はぁ~・・・分かったよ」
「ありがとうございます」
大きく溜息をついて、ラクエルがマイクの首からナイフを離すと、フランクはニックリと笑ってラクエルにお礼の言葉を告げる。
「お礼なんかいいよ、アタシも愛用のナイフを汚したくなかったしね。それよりほら、シャノンちゃん達待ってるし、アタシらもそろそろ・・・」
「ふざけるなぁぁぁーーーッ!」
その時、怒りの頂点を超えたマイクがラクエルを突き飛ばした。
丁度マイクから目を離し、フランクと話していた事もあったが、まさかここでマイクが手を出してくるなど様子もしていなかったラクエルは、まともに受けて床に倒される。
「痛って、テメェ・・・っ!?」
「俺は貴族だぞ!分かってんのかぁぁぁッ!」
倒れたラクエルに馬乗りになると、マイクはラクエルの髪を掴み、腹の底から怒りをぶちまけた。
100キロはあるだろうマイクに腹を潰され、痛みと息苦しさに、ラクエルの眉間に強いシワが寄る。
目と鼻の先くらいに距離で怒鳴り声を浴びせられて、ラクエルはマイクを本気で殺そうとナイフを握り直した。
「マイク・モレル卿、その辺にしてはどうだね?」
「あぁ?誰だこの俺を気やすく呼ぶの・・・は?」
不意に横からかけられた声に顔を向けて、マイクは絶句した。
ロンズデール国王、リゴベルト・カークランドが立っていたからである。
「へ、陛下・・・なぜ、ここに?」
「なぜも何も、私がこの船に乗った事は国中の人間が知っていると思うが?それとも、転覆したから死んだとでも思ったかね?」
図星を突かれたのか、マイクの表情が青冷める。
「め、滅相もございません!そ、そんな事は・・・!」
「モレル卿、それよりも早くそこをどいた方がいいと思うのだが。女性の上にいつまで乗っているつもりだね?」
国王に指摘され、自分がラクエルに馬乗りになっていた事を思い出すと、マイクは慌てて体をどかし跪いた。
「モレル卿、命拾いしたな」
「は、はい!へ、陛下の前で大変失礼を・・・」
「そうではない。私が声をかけるのがあと一瞬でも遅ければ、卿の首が飛んでいたと言っているのだ」
醜態をさらしてしまったと頭を下げるマイクだったが、国王の指摘が違うところを突いていると理解し、顔を上げる。国王の視線の先が自分の後ろにあると気づき、振り返ってゾっとした。
体を起こしたラクエルの右手には、刀身が白いナイフが握られていたからだ。
そしてラクエルが自分を見る目には、冷たく静かな殺気が宿っていた。
口を閉ざしているが、その視線はハッキリと語っていた。殺してやると・・・・・
「ひ、ひぃぃっ!」
国王の登場でやっと頭が冷えた。
そして冷静になった事で気付いた。
自分が何を相手に嚙みついたのかを。
ラクエル・エンリケスは変わり始めているが、それでも人の命を刈り取る事に抵抗はない。
それが貴族であろうと恐れはしないし躊躇もない。
ここで国王が割って入らなければ、マイクは殺されるはずだった。
「ラクエル殿、すまないがモレル卿を許してはくれんかね?」
国王がラクエルに顔を向けると、ラクエルも国王に目を向け返事をした。
「・・・ふーん、アタシの名前知ってるんだ?」
「もちろんだ。知らないはずがないだろう?」
「カーンとばかり話してたから、アタシらなんて眼中に無いと思ってた。てか、なんか雰囲気変わってね?国王様、もっと自信なさ気で、ビビリじゃなかった?」
礼儀もなにもないラクエルの無礼な物言いは、本来は不敬罪、侮辱罪にもなるだろう。
だが、国王は楽しそうに笑って見せた。
「ハハハハハ、そうか・・・そうだな。うん。そうだ・・・胸のつかえが取れたからかな。娘のおかげだよ」
「ふーん、なんか今の国王様、ちょっと良いかも・・・いいよ。分かった。カッコ良くなった国王様の顔を立てて、そこのデブは今回だけ見逃してあげる」
ラクエルがナイフを収めると、国王は感謝を示すように友好的な笑顔を浮かべた。
「はぁー、やっと落ち着いたみたいだね?それじゃもういい加減に脱出・・・!?」
トラブルが落ち着いた頃合いを見て、シャノンが言葉をかけたその時、ボート部屋の扉が大きな音を立てて勢いよく弾け飛んだ。
全員がその音に反応して一斉に顔を向けると、津波を思わせるような大量の水と共に、無数の鮫が流れ込んで来た。
ボートの準備を終えたシャノンが、ラクエルに声をかけて来た。
アラタ達はいつでもボートに乗れるよう用意ができており、後は壁を破壊して出るだけだった。
「あー、ごめん。もう少しかかりそう。うるさいのがいてさ、ちょっともめてるみたいなんだよね・・・今フランクが見に行ってるんだけど・・・」
腕を組んで眉をしかめるラクエルの言葉に、シャノンはその視線の先を追った。
人数の多いラクエル達はボートが三隻必要で、その三隻はすでに用意されている。
乗客たちもそれぞれが乗るべきボートの前で待機しているようだ。
だがその乗客達の中の一人、水と油で汚れてはいるが、身なりの良い服装のでっぷりとした男が、強い口調でフランクに詰め寄っていた。
「いい加減にしろよフランク!俺を誰だと思っている!?なぜ俺が救命胴衣を着けられないで、その女が着けられるんだ!?」
フランクの後ろには、マイクの怒声に怯えた様子のリリアが、エマを抱きしめていた。
母親の腕の中で、幼いエマもその身を震わせている。
リリアとエマはオレンジ色のベストを着ているが、空気が詰まったように見えるそれが救命胴衣なのだろう。
「マイク様、落ち着いてください。救命胴衣の数が足りないんです。私も着ていません。こういう場合は体力的に考えて、男性より女性と子供を優先するべきなんです」
「馬鹿かお前は!?身分というものがあるだろう!俺は貴族だぞ!俺になにかあったら俺の使用人はどうなる!?領民はどうなる!?貴様はその損害に対して責任が取れるのか!?」
フランクの胸倉を掴み、唾を撒き散らしながら大声を出すマイクに、フランクも怯まされた。
マイクの言い分にも一理無いわけではない。マイクになにかあれば、他の誰かが領地を治める事になるだろう。だが、使用人達が今まで通り雇用されるかは分からない。彼らの生活が一変する可能性は十分にある。
フランクが言葉に詰まると、マイクは勝ち誇ったように舌なめずりをして、フランクの額を指で突いた。
「分かったようだな?だったらその女の救命胴衣を俺によこせ」
「・・・できません」
話しはついた。そう確信して命じた言葉に、まさか拒否をされるとは思わず、マイクは大きく目を開いた。
「・・・おい、フランク、お前今何て言った?」
「・・・マイク様、やっぱりできません。彼女達にも生活があるんです。もしリリアさんに何かあったら、エマちゃんはどうなるんですか?こんなに小さな女の子なん・・・」
フランクが言い終わらないうちに、マイクの右拳がフランクの顔面を殴り抜いた。
その場に腰から倒れるフランクを見て、乗客たちが悲鳴を上げると、マイクはそれらをかき消すように、より大きな声でフランクを怒鳴りつけた。
「フランクーーーッ!貴様この俺を侮辱するのかッ!もういい!貴様帰ったらただですむと思うなよ!おいそこの女!さっさとそれを脱いでこの俺に・・・」
「うっせぇんだよデブ。お前がいい加減にしろよ」
いつの間にかマイクの首にナイフを当てたラクエルが、今にもその首を切り落とさんと、鋭い殺気をぶつけている。
「うっ、こ、この、またお前か、お、俺を誰だと思ってる!」
マイクは首筋に当たる冷たい刃物の感触に、ごくりと唾を飲んだ。
ラクエルに耳を切り落とされた経験から、この女は本当に自分を殺しかねないと緊張しているのだ。
「それはこっちのセリフだね。お前、何回騒げば気が済むんだよ?ねぇ、フランク、こいつはもうほっといてよくない?こんなのの面倒まで見る事ないって」
「ラ、ラクエルさん、殺しちゃ駄目です」
「なんで?」
自分をかばって前に立ったラクエルに、フランクは殴られた頬を押さえながら立ち上がると、ナイフを握るラクエルの右手をそっと掴んだ。
「あなたが人を殺すところを見たくないんです。俺も、リリアさんも、エマちゃんも。だからナイフを下ろしてください」
「・・・はぁ~・・・分かったよ」
「ありがとうございます」
大きく溜息をついて、ラクエルがマイクの首からナイフを離すと、フランクはニックリと笑ってラクエルにお礼の言葉を告げる。
「お礼なんかいいよ、アタシも愛用のナイフを汚したくなかったしね。それよりほら、シャノンちゃん達待ってるし、アタシらもそろそろ・・・」
「ふざけるなぁぁぁーーーッ!」
その時、怒りの頂点を超えたマイクがラクエルを突き飛ばした。
丁度マイクから目を離し、フランクと話していた事もあったが、まさかここでマイクが手を出してくるなど様子もしていなかったラクエルは、まともに受けて床に倒される。
「痛って、テメェ・・・っ!?」
「俺は貴族だぞ!分かってんのかぁぁぁッ!」
倒れたラクエルに馬乗りになると、マイクはラクエルの髪を掴み、腹の底から怒りをぶちまけた。
100キロはあるだろうマイクに腹を潰され、痛みと息苦しさに、ラクエルの眉間に強いシワが寄る。
目と鼻の先くらいに距離で怒鳴り声を浴びせられて、ラクエルはマイクを本気で殺そうとナイフを握り直した。
「マイク・モレル卿、その辺にしてはどうだね?」
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不意に横からかけられた声に顔を向けて、マイクは絶句した。
ロンズデール国王、リゴベルト・カークランドが立っていたからである。
「へ、陛下・・・なぜ、ここに?」
「なぜも何も、私がこの船に乗った事は国中の人間が知っていると思うが?それとも、転覆したから死んだとでも思ったかね?」
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「め、滅相もございません!そ、そんな事は・・・!」
「モレル卿、それよりも早くそこをどいた方がいいと思うのだが。女性の上にいつまで乗っているつもりだね?」
国王に指摘され、自分がラクエルに馬乗りになっていた事を思い出すと、マイクは慌てて体をどかし跪いた。
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「は、はい!へ、陛下の前で大変失礼を・・・」
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醜態をさらしてしまったと頭を下げるマイクだったが、国王の指摘が違うところを突いていると理解し、顔を上げる。国王の視線の先が自分の後ろにあると気づき、振り返ってゾっとした。
体を起こしたラクエルの右手には、刀身が白いナイフが握られていたからだ。
そしてラクエルが自分を見る目には、冷たく静かな殺気が宿っていた。
口を閉ざしているが、その視線はハッキリと語っていた。殺してやると・・・・・
「ひ、ひぃぃっ!」
国王の登場でやっと頭が冷えた。
そして冷静になった事で気付いた。
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それが貴族であろうと恐れはしないし躊躇もない。
ここで国王が割って入らなければ、マイクは殺されるはずだった。
「ラクエル殿、すまないがモレル卿を許してはくれんかね?」
国王がラクエルに顔を向けると、ラクエルも国王に目を向け返事をした。
「・・・ふーん、アタシの名前知ってるんだ?」
「もちろんだ。知らないはずがないだろう?」
「カーンとばかり話してたから、アタシらなんて眼中に無いと思ってた。てか、なんか雰囲気変わってね?国王様、もっと自信なさ気で、ビビリじゃなかった?」
礼儀もなにもないラクエルの無礼な物言いは、本来は不敬罪、侮辱罪にもなるだろう。
だが、国王は楽しそうに笑って見せた。
「ハハハハハ、そうか・・・そうだな。うん。そうだ・・・胸のつかえが取れたからかな。娘のおかげだよ」
「ふーん、なんか今の国王様、ちょっと良いかも・・・いいよ。分かった。カッコ良くなった国王様の顔を立てて、そこのデブは今回だけ見逃してあげる」
ラクエルがナイフを収めると、国王は感謝を示すように友好的な笑顔を浮かべた。
「はぁー、やっと落ち着いたみたいだね?それじゃもういい加減に脱出・・・!?」
トラブルが落ち着いた頃合いを見て、シャノンが言葉をかけたその時、ボート部屋の扉が大きな音を立てて勢いよく弾け飛んだ。
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