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764 もう一度
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「・・・アラタ君、大丈夫?」
乗合馬車を降りて、レイジェスまで帰る道のりで、カチュアはアラタの様子をずっと気にかけていた。
あの黒いマントの女性を見てから様子が変だった。
理由は分からないけど、とても驚いていたのは一目で分かった。
そして馬車にいる間、ずっと黒マントの女性を意識していたのも分かった。
馬車がクインズベリー首都の中心地に着くなり、黒マントの女性は一番に降りてしまったので、それきりになってしまったけれど、今も気にしているのは分かる。
アラタ君は分かりやすいのだ。
「あ、うん・・ごめん。大丈夫だよ」
「・・・嘘。アラタ君、さっきからずっと変だよ。あの黒マントの人を見てから、ずっと落ち着かない感じだったもん。ねぇ、あの人の事知ってるの?」
カチュアはアラタの前に回り込むと、少し見上げるようにして、アラタの目をじっと見た。
真剣に自分と向き合うカチュアの瞳を見て、アラタは気持ちを整理するように胸を手を当て、深く息を吸ってゆっくりと吐いた。
「・・・弥生さんかもしれない。あの黒マントの人・・・」
アラタの告げた言葉は、カチュアには予想もできなかったものだった。
知り合いに似ていた、という答えはあるだろうと予想していた。
けれどまさかここで、アラタの日本での恩人、新庄弥生の名前が出てくるとは思わなかった。
しかもアラタは、似ているというレベルではなく、本人かもしれないと言っているのだ。
「・・・アラタ、それってアラタがニホンでお世話になった人だよね?見間違いじゃないの?」
一緒に歩いていたユーリも、アラタの前に回り出てくる。
アラタの口にした人物は、200年前にカエストゥスで戦死しているのだ。いるはずがないのだ。
ユーリもアラタの目をじっと見つめていた。
見間違いというのが一番現実的な答えだった。黒髪黒目は珍しいが、いる事はいるのだ。
身近なところでは、シャノン・アラルコン。そしてマルコス・ゴンサレスも黒髪で黒目だった。
「・・・ああ、そうだよな。弥生さんは200年も前に亡くなってるんだ。戦争の話しでもそう聞いたし、新緑の欠片を付けてるから、風の精霊を通してそれが真実だというのも分かるんだ」
アラタの首からは、以前店長のバリオスからもらった、かつて弥生が使っていた薙刀、新緑の欠片が革紐で結んで下げられていた。
欠片に宿る風の精霊の力を自由に使えるわけではないが、風の精霊の心を感じる事はできる。
「弥生さんは間違いなく、200年前に亡くなっているんだ・・・だから、あの人が弥生さんであるはずはないんだ」
一瞬だけ、それもフードの隙間から見えただけだから、顔全体を見たわけではない。
けれど弥生さんだと思った。弥生さんが重なって見えた。
「・・・う~ん、アラタ君の言う通りなら、確かに気になるけど・・・でももうあの人どこかに行っちゃったし、確認もできないよね」
カチュアは辺りを見回すが、行き交う人の中に、黒マントの女性は見当たらなかった。
「そうだね。馬車が止まったらすぐに降りてたから、目的地が決まってるんだと思う。この辺りでフラフラしてないだろうから、見つけるのは難しい」
ユーリも周りに目を向けて探してみるが、やはり黒マントの女性は見える範囲にはいないようだ。
「なぁ、あの女を見つけりゃいいの?」
アラタとカチュアとユーリの三人が、難しい顔をして頭を悩ませていると、串肉をほおばりながら、リカルドがのんびりと話しかけてきた。
「・・・リカルド、あんた何食べてんのよ?」
ユーリが冷たく睨みつけるが、リカルドはまったく意に介さない。
「え?串肉だけど?そこの肉屋の串肉めっちゃ美味いんだぞ?肉屋ならではのこだわりっての?牛の特に柔らかい部位をだな・・・」
「そうじゃなくて!みんな真剣に考えてるのに、あんたはなんで串肉食べてんのって言ってるのよ!」
「え?腹が減ったからだけど・・・?」
「・・・もういい。あんたと真面目に話そうとしたアタシがバカだった」
ユーリがこれ見よがしに大きな溜息をつくと、リカルドは串肉を飲みこんで、ユーリの鼻先に指を突きつけた。
「おい、ユーリ。あんま舐めてんじゃねぇぞ?つまりよ、あの黒マントの女を見つけたいんだろ?俺が見つけてやんよ」
顔をぐっと近づけて、自身たっぷりに宣言するリカルド。
普段見せない姿に動揺したのか、ユーリはやや声を上ずらせた。
「な、なによ急に?リカルドみたいな食べる事ばっかりの馬鹿が、どうやって探すの?ジーンやケイトがいればサーチが使えるけど、あんた体力型じゃない」
ユーリは自分の顔を指すリカルドの手を払いのけると、逆にリカルドに指を突きつけた。
やれるものならやってみろと言わんばかりだ。
「たくっ、分かってねぇなぁ。俺はハンターだぞ?この目で探すに決まってんだろ?まぁ見てろ」
そう言うなり、リカルドは回れ右をして、串肉を買った店まで歩いて行き、店主と何かを話し出した。
軽い口調で話しているところを見ると、どうやら顔なじみらしい。なにかを交渉していたようだ。
話し終わって店主が指で丸を作って笑うと、リカルドは親指を立てて笑い返し、肉屋の屋根に飛び乗った。
「え!?」
それを見てアラタは驚きの声を上げた。
リカルドは実に軽やかな身のこなしだった。
3メートル以上はあるだろう屋根に、助走も無しにその場の跳躍だけで飛び乗ると、あっという間に一番高いところまで駆け上がって行った。
「あいつ、すげぇな」
アラタが感心すると、ユーリが屋根の上のリカルドを見上げながら言葉を添えた。
「猿みたいなヤツだから。去年レイジェスが襲撃された時、あいつ店の上にいたでしょ?身軽さが武器なんだよ」
「あ~、なるほどな」
ユーリの説明に、アラタはすんなり納得してしまった。
体力型だが、小柄な分すばしこいのだろう。猿というのはリカルドが聞いたら怒るだろうから、黙って置く事にした。
「・・・・・なぁ、兄ちゃんよぉ!あの黒マント見つけたらどうすんだぁー!?」
右手の親指と人差し指で輪っかを作り、目に当てて街中を見渡しているリカルドが、屋根の上から大きな声で話しかけた。
「・・・話してみたいだけだー!」
少し考えて、アラタも大きな声で言葉を返すと、リカルドは屋根の上からアラタに顔を向けた。
そう、それはアラタの思い込みで、まったくの勘違いだったという事も十分にありえる。
だが、このまま何もなかった事にしてしまうのは、どうしても躊躇われた。
自分のわがままだが、一度だけでいい・・・話してみたい。話してハッキリさせておきたい。
「あ~・・・見つけたけどよぉー!あの黒マント、なんかレイジェスに向かってんぞぉー!あとよぉー!もう一人、黒マントの後を付けてるヤツいんなぁー!なんかすっげぇめんどくさくなりそうだけど、どうするよぉー!?」
黒マントの女性を見つけたリカルドが、心底面倒くさそうに顔をしかめて声を上げた。
レイジェスに向かっている?
その言葉を聞いて、アラタはすぐに決断した。
もう一度あの黒マントの女性に会わなければならない。
運命のようなものを感じて、気持ちが駆り立てられる
「追いかけよう!」
乗合馬車を降りて、レイジェスまで帰る道のりで、カチュアはアラタの様子をずっと気にかけていた。
あの黒いマントの女性を見てから様子が変だった。
理由は分からないけど、とても驚いていたのは一目で分かった。
そして馬車にいる間、ずっと黒マントの女性を意識していたのも分かった。
馬車がクインズベリー首都の中心地に着くなり、黒マントの女性は一番に降りてしまったので、それきりになってしまったけれど、今も気にしているのは分かる。
アラタ君は分かりやすいのだ。
「あ、うん・・ごめん。大丈夫だよ」
「・・・嘘。アラタ君、さっきからずっと変だよ。あの黒マントの人を見てから、ずっと落ち着かない感じだったもん。ねぇ、あの人の事知ってるの?」
カチュアはアラタの前に回り込むと、少し見上げるようにして、アラタの目をじっと見た。
真剣に自分と向き合うカチュアの瞳を見て、アラタは気持ちを整理するように胸を手を当て、深く息を吸ってゆっくりと吐いた。
「・・・弥生さんかもしれない。あの黒マントの人・・・」
アラタの告げた言葉は、カチュアには予想もできなかったものだった。
知り合いに似ていた、という答えはあるだろうと予想していた。
けれどまさかここで、アラタの日本での恩人、新庄弥生の名前が出てくるとは思わなかった。
しかもアラタは、似ているというレベルではなく、本人かもしれないと言っているのだ。
「・・・アラタ、それってアラタがニホンでお世話になった人だよね?見間違いじゃないの?」
一緒に歩いていたユーリも、アラタの前に回り出てくる。
アラタの口にした人物は、200年前にカエストゥスで戦死しているのだ。いるはずがないのだ。
ユーリもアラタの目をじっと見つめていた。
見間違いというのが一番現実的な答えだった。黒髪黒目は珍しいが、いる事はいるのだ。
身近なところでは、シャノン・アラルコン。そしてマルコス・ゴンサレスも黒髪で黒目だった。
「・・・ああ、そうだよな。弥生さんは200年も前に亡くなってるんだ。戦争の話しでもそう聞いたし、新緑の欠片を付けてるから、風の精霊を通してそれが真実だというのも分かるんだ」
アラタの首からは、以前店長のバリオスからもらった、かつて弥生が使っていた薙刀、新緑の欠片が革紐で結んで下げられていた。
欠片に宿る風の精霊の力を自由に使えるわけではないが、風の精霊の心を感じる事はできる。
「弥生さんは間違いなく、200年前に亡くなっているんだ・・・だから、あの人が弥生さんであるはずはないんだ」
一瞬だけ、それもフードの隙間から見えただけだから、顔全体を見たわけではない。
けれど弥生さんだと思った。弥生さんが重なって見えた。
「・・・う~ん、アラタ君の言う通りなら、確かに気になるけど・・・でももうあの人どこかに行っちゃったし、確認もできないよね」
カチュアは辺りを見回すが、行き交う人の中に、黒マントの女性は見当たらなかった。
「そうだね。馬車が止まったらすぐに降りてたから、目的地が決まってるんだと思う。この辺りでフラフラしてないだろうから、見つけるのは難しい」
ユーリも周りに目を向けて探してみるが、やはり黒マントの女性は見える範囲にはいないようだ。
「なぁ、あの女を見つけりゃいいの?」
アラタとカチュアとユーリの三人が、難しい顔をして頭を悩ませていると、串肉をほおばりながら、リカルドがのんびりと話しかけてきた。
「・・・リカルド、あんた何食べてんのよ?」
ユーリが冷たく睨みつけるが、リカルドはまったく意に介さない。
「え?串肉だけど?そこの肉屋の串肉めっちゃ美味いんだぞ?肉屋ならではのこだわりっての?牛の特に柔らかい部位をだな・・・」
「そうじゃなくて!みんな真剣に考えてるのに、あんたはなんで串肉食べてんのって言ってるのよ!」
「え?腹が減ったからだけど・・・?」
「・・・もういい。あんたと真面目に話そうとしたアタシがバカだった」
ユーリがこれ見よがしに大きな溜息をつくと、リカルドは串肉を飲みこんで、ユーリの鼻先に指を突きつけた。
「おい、ユーリ。あんま舐めてんじゃねぇぞ?つまりよ、あの黒マントの女を見つけたいんだろ?俺が見つけてやんよ」
顔をぐっと近づけて、自身たっぷりに宣言するリカルド。
普段見せない姿に動揺したのか、ユーリはやや声を上ずらせた。
「な、なによ急に?リカルドみたいな食べる事ばっかりの馬鹿が、どうやって探すの?ジーンやケイトがいればサーチが使えるけど、あんた体力型じゃない」
ユーリは自分の顔を指すリカルドの手を払いのけると、逆にリカルドに指を突きつけた。
やれるものならやってみろと言わんばかりだ。
「たくっ、分かってねぇなぁ。俺はハンターだぞ?この目で探すに決まってんだろ?まぁ見てろ」
そう言うなり、リカルドは回れ右をして、串肉を買った店まで歩いて行き、店主と何かを話し出した。
軽い口調で話しているところを見ると、どうやら顔なじみらしい。なにかを交渉していたようだ。
話し終わって店主が指で丸を作って笑うと、リカルドは親指を立てて笑い返し、肉屋の屋根に飛び乗った。
「え!?」
それを見てアラタは驚きの声を上げた。
リカルドは実に軽やかな身のこなしだった。
3メートル以上はあるだろう屋根に、助走も無しにその場の跳躍だけで飛び乗ると、あっという間に一番高いところまで駆け上がって行った。
「あいつ、すげぇな」
アラタが感心すると、ユーリが屋根の上のリカルドを見上げながら言葉を添えた。
「猿みたいなヤツだから。去年レイジェスが襲撃された時、あいつ店の上にいたでしょ?身軽さが武器なんだよ」
「あ~、なるほどな」
ユーリの説明に、アラタはすんなり納得してしまった。
体力型だが、小柄な分すばしこいのだろう。猿というのはリカルドが聞いたら怒るだろうから、黙って置く事にした。
「・・・・・なぁ、兄ちゃんよぉ!あの黒マント見つけたらどうすんだぁー!?」
右手の親指と人差し指で輪っかを作り、目に当てて街中を見渡しているリカルドが、屋根の上から大きな声で話しかけた。
「・・・話してみたいだけだー!」
少し考えて、アラタも大きな声で言葉を返すと、リカルドは屋根の上からアラタに顔を向けた。
そう、それはアラタの思い込みで、まったくの勘違いだったという事も十分にありえる。
だが、このまま何もなかった事にしてしまうのは、どうしても躊躇われた。
自分のわがままだが、一度だけでいい・・・話してみたい。話してハッキリさせておきたい。
「あ~・・・見つけたけどよぉー!あの黒マント、なんかレイジェスに向かってんぞぉー!あとよぉー!もう一人、黒マントの後を付けてるヤツいんなぁー!なんかすっげぇめんどくさくなりそうだけど、どうするよぉー!?」
黒マントの女性を見つけたリカルドが、心底面倒くさそうに顔をしかめて声を上げた。
レイジェスに向かっている?
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