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795 生死
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大通りを走る三人。石畳を蹴って先を急ぐその姿からは、焦りが感じられた。
普段は行き交う人達で賑わっているはずだが、今日のこの町は、まるで誰も住んでいないかのように静まり返っている。
足を止めたのは三人の中で一番後ろを走っていた、明るいベージュ色の髪をした女性、ケイトだった。
それに気づいて前を行く二人、アラタとエルウィンも足を止めて振り返る。
ケイトは膝に手を付いて荒い呼吸を整えると、黒い鍔付きのキャップを取って、熱気を払うように軽く頭を振った。
「はぁ・・・はぁ・・・アラタ、エルウィン、先に行って!・・・アタシも、必ず行くから!」
二人が魔法使いの自分のペースに合わせている事を感じ、ケイトは体力型の二人に急ぐように言葉を告げる。
いつどこから暴徒が出て来るか分からない状況で、ケイトを一人にするわけにはいかないと、アラタとエルウィンが顔を見合わせると、ケイトは二人に左の人差し指を向けた。
「いいから・・・行って!アタシの引斥(いんせき)の爪は見たでしょ?結界も張れるんだし、大丈夫だから・・・仲間がピンチかもしれないんだから!早く!」
「・・・分かった!気を付けるんだぞ!」
ケイトの真剣な眼差しを見て、アラタは短く言葉を返すと、すぐに踵を返して走り出した。
「ケイトさん、先に行って待ってます!」
エルウィンもそう言葉をかけると、アラタの後を追って走り出した。
二人の走る速さは、三人で走っていた時よりもずっと速く、あっという間に姿が見えなくなった。
やはり魔法使いの自分に足を合わせていたのだと察し、ケイトはフッと笑いをこぼした。
「はぁ~・・・体力型ってのはすごいね。もう行っちゃったよ・・・アラタ、エルウィン、頼んだよ。なんだか嫌な予感がするんだ」
三人で町中を回り、暴徒を見つけては押さえていると、遠くから突然の轟音が響き聞こえてきた。
それが魔法なのか何なのかは分からないが、暴徒相手に使うようなものでない事だけは、肌に触る空気からなんとなく感じられた。
だれかが戦っている。
おそらくは、さっき自分達が戦ったジャームール・ディーロのような、幹部クラスの強敵が相手だろう。
直感だがそう判断し、アラタ達は音の聞こえた方へと走っていたのだった。
そしてついさっき聞こえた二度目の轟音。
それでほぼ確信した。戦っているのは仲間の誰かである。
そしてこれほど空気を震わせる技を、使わねばならない程に追い詰められている。
今まさに死闘を繰り広げているのだろうと。
逸る気持ちを押さえ呼吸を整えると、ケイトはアラタ達の後を追って、もう一度走り出した。
「お~、すげぇ音がしたから来てみりゃ・・・こいつはハデにやったもんだ」
190cmはあるだろう大柄な男だった。頭髪は後退しており、年齢は30代半ばから40くらいに見える。
上半身の盛り上がった筋肉は、着ている半袖のシャツがはち切れそうに見える程で、体力型の中でも相当な腕力自慢であると思われる。
轟音を耳にして男が駆けつけた場所は、レイチェルとカシメロの戦闘の跡だった。
陥没した地面からは大きな亀裂が走り、砕けた石片に吹き飛んだ土や砂が散々としている。
探し人はすぐに見つかった。
陥没した地面の中心にうつ伏せに倒れていて、顔は確認できなかったが、深紅のローブを身に着けている人物は限られているからだ。
「おいおいおい・・・カシレロよぉ~、まさかお前が殺られちまったのか?」
石片を蹴り、砂利を踏み鳴らしながら、悠々と歩き近づくその表情には、生死不明の仲間を気遣う様子はまるで見えなかった。
倒れているカシレロの前に屈みこむと、介抱するでもなく、男はただじっと観察の目を向けた。
「・・・蹴りだな。それも顔面に一発か・・・よっと」
カシレロが倒された原因を見つけ、男は興味が湧いたらしい。
カシレロの頭を掴むと、腕一本で軽々とあおむけにひっくり返した。
「ふぅん、鼻は折れてるな。前歯も折れてるし、頬骨も・・・あぁ、イッてるな。あとは・・・ん?」
カシレロの受けた傷を観察していると、カシレロの開いた口から小さなうめき声が漏れ聞こえた。
「う・・・あ・・・」
「お!?なんだなんだ!?カシレロ、お前くたばってなかったのか!?」
嬉しそうに笑い、倒れているカシレロの頬をペチペチと叩くと、カシレロはゆっくりと瞼を開けた。
「・・・う、ぐぅ・・・デ、デービス、さん・・・」
折れた鼻から流れる血は、粘着性もあり止まらない。
その上、歯も頬骨も折れているため、呼吸をするだけでも激痛が走るのだろう。
一言話すだけでも、苦痛に顔を歪めている。
「なんだよお前、めっちゃしんどそうだな?・・・こいつか?この赤毛にやられたのかよ?」
デービスが顎で指すその先には、カシレロのすぐ脇で、レイチェルがうつ伏せで倒れていた。
右の脇腹と腕からは血が流れ、その赤い髪の下から覗く血の気を失った顔は、生きているのか疑わしい程だった。
「ぐ・・・うぅ・・・」
レイチェルに向けたカシレロの表情が答えだった。
「ふぅん・・・そうか、この女にお前がねぇ」
この瀕死の赤い髪の女が、帝国軍青魔法兵団団長のカシレロを倒した。
カシレロの実力を知っているデービスには、にわかには信じ難い事だったが、カシレロ本人の反応であれば疑う理由が無い。
デービスが腰を上げてレイチェルに手を伸ばしたその時、突如自分に向かって突っ込んでくる人影にデービスは目を向けた。
「オラァァァーーーッ!」
自分に向かって突っ込んで来た影、黒髪の男が繰り出した右の拳を、デービスは左手で軽々と受け止めた。
「おっとぉ、危ねぇな。なんだてめぇ?」
軽々と受け止められた右ストレートに、アラタは顔をしかめた。
筋肉の塊としか言えないようなデービスの体躯に、半端な攻撃は通じないだろうと見ていたが、それでも片手で止められたのは舌を打ちたくなった。
「ラァッツ!」
「ほっ、悪かねぇけどよ、こんなパンチじゃ俺には通じねぇよ」
アラタの左ストレートも、もう片方の手で受け止める。
デービスはアラタの両の拳を掴むと、ぐいっと顔を近づけた。
「ん?・・・てめぇ、どっかで見た事・・・」
アラタの顔をじっと見て、デービスは何かを思い出しそうになった。
どこかで見た事がある。
この男・・・・・確か・・・・・
「エルウィーーーーーーン!」
両腕を押さえられたアラタが声を上げると、デービスの背後から飛び掛かるもう一つ影。
右手に大振りのナイフを持ったエルウィンが、デービスの首を狙い斬りかかった!
普段は行き交う人達で賑わっているはずだが、今日のこの町は、まるで誰も住んでいないかのように静まり返っている。
足を止めたのは三人の中で一番後ろを走っていた、明るいベージュ色の髪をした女性、ケイトだった。
それに気づいて前を行く二人、アラタとエルウィンも足を止めて振り返る。
ケイトは膝に手を付いて荒い呼吸を整えると、黒い鍔付きのキャップを取って、熱気を払うように軽く頭を振った。
「はぁ・・・はぁ・・・アラタ、エルウィン、先に行って!・・・アタシも、必ず行くから!」
二人が魔法使いの自分のペースに合わせている事を感じ、ケイトは体力型の二人に急ぐように言葉を告げる。
いつどこから暴徒が出て来るか分からない状況で、ケイトを一人にするわけにはいかないと、アラタとエルウィンが顔を見合わせると、ケイトは二人に左の人差し指を向けた。
「いいから・・・行って!アタシの引斥(いんせき)の爪は見たでしょ?結界も張れるんだし、大丈夫だから・・・仲間がピンチかもしれないんだから!早く!」
「・・・分かった!気を付けるんだぞ!」
ケイトの真剣な眼差しを見て、アラタは短く言葉を返すと、すぐに踵を返して走り出した。
「ケイトさん、先に行って待ってます!」
エルウィンもそう言葉をかけると、アラタの後を追って走り出した。
二人の走る速さは、三人で走っていた時よりもずっと速く、あっという間に姿が見えなくなった。
やはり魔法使いの自分に足を合わせていたのだと察し、ケイトはフッと笑いをこぼした。
「はぁ~・・・体力型ってのはすごいね。もう行っちゃったよ・・・アラタ、エルウィン、頼んだよ。なんだか嫌な予感がするんだ」
三人で町中を回り、暴徒を見つけては押さえていると、遠くから突然の轟音が響き聞こえてきた。
それが魔法なのか何なのかは分からないが、暴徒相手に使うようなものでない事だけは、肌に触る空気からなんとなく感じられた。
だれかが戦っている。
おそらくは、さっき自分達が戦ったジャームール・ディーロのような、幹部クラスの強敵が相手だろう。
直感だがそう判断し、アラタ達は音の聞こえた方へと走っていたのだった。
そしてついさっき聞こえた二度目の轟音。
それでほぼ確信した。戦っているのは仲間の誰かである。
そしてこれほど空気を震わせる技を、使わねばならない程に追い詰められている。
今まさに死闘を繰り広げているのだろうと。
逸る気持ちを押さえ呼吸を整えると、ケイトはアラタ達の後を追って、もう一度走り出した。
「お~、すげぇ音がしたから来てみりゃ・・・こいつはハデにやったもんだ」
190cmはあるだろう大柄な男だった。頭髪は後退しており、年齢は30代半ばから40くらいに見える。
上半身の盛り上がった筋肉は、着ている半袖のシャツがはち切れそうに見える程で、体力型の中でも相当な腕力自慢であると思われる。
轟音を耳にして男が駆けつけた場所は、レイチェルとカシメロの戦闘の跡だった。
陥没した地面からは大きな亀裂が走り、砕けた石片に吹き飛んだ土や砂が散々としている。
探し人はすぐに見つかった。
陥没した地面の中心にうつ伏せに倒れていて、顔は確認できなかったが、深紅のローブを身に着けている人物は限られているからだ。
「おいおいおい・・・カシレロよぉ~、まさかお前が殺られちまったのか?」
石片を蹴り、砂利を踏み鳴らしながら、悠々と歩き近づくその表情には、生死不明の仲間を気遣う様子はまるで見えなかった。
倒れているカシレロの前に屈みこむと、介抱するでもなく、男はただじっと観察の目を向けた。
「・・・蹴りだな。それも顔面に一発か・・・よっと」
カシレロが倒された原因を見つけ、男は興味が湧いたらしい。
カシレロの頭を掴むと、腕一本で軽々とあおむけにひっくり返した。
「ふぅん、鼻は折れてるな。前歯も折れてるし、頬骨も・・・あぁ、イッてるな。あとは・・・ん?」
カシレロの受けた傷を観察していると、カシレロの開いた口から小さなうめき声が漏れ聞こえた。
「う・・・あ・・・」
「お!?なんだなんだ!?カシレロ、お前くたばってなかったのか!?」
嬉しそうに笑い、倒れているカシレロの頬をペチペチと叩くと、カシレロはゆっくりと瞼を開けた。
「・・・う、ぐぅ・・・デ、デービス、さん・・・」
折れた鼻から流れる血は、粘着性もあり止まらない。
その上、歯も頬骨も折れているため、呼吸をするだけでも激痛が走るのだろう。
一言話すだけでも、苦痛に顔を歪めている。
「なんだよお前、めっちゃしんどそうだな?・・・こいつか?この赤毛にやられたのかよ?」
デービスが顎で指すその先には、カシレロのすぐ脇で、レイチェルがうつ伏せで倒れていた。
右の脇腹と腕からは血が流れ、その赤い髪の下から覗く血の気を失った顔は、生きているのか疑わしい程だった。
「ぐ・・・うぅ・・・」
レイチェルに向けたカシレロの表情が答えだった。
「ふぅん・・・そうか、この女にお前がねぇ」
この瀕死の赤い髪の女が、帝国軍青魔法兵団団長のカシレロを倒した。
カシレロの実力を知っているデービスには、にわかには信じ難い事だったが、カシレロ本人の反応であれば疑う理由が無い。
デービスが腰を上げてレイチェルに手を伸ばしたその時、突如自分に向かって突っ込んでくる人影にデービスは目を向けた。
「オラァァァーーーッ!」
自分に向かって突っ込んで来た影、黒髪の男が繰り出した右の拳を、デービスは左手で軽々と受け止めた。
「おっとぉ、危ねぇな。なんだてめぇ?」
軽々と受け止められた右ストレートに、アラタは顔をしかめた。
筋肉の塊としか言えないようなデービスの体躯に、半端な攻撃は通じないだろうと見ていたが、それでも片手で止められたのは舌を打ちたくなった。
「ラァッツ!」
「ほっ、悪かねぇけどよ、こんなパンチじゃ俺には通じねぇよ」
アラタの左ストレートも、もう片方の手で受け止める。
デービスはアラタの両の拳を掴むと、ぐいっと顔を近づけた。
「ん?・・・てめぇ、どっかで見た事・・・」
アラタの顔をじっと見て、デービスは何かを思い出しそうになった。
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