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【851 思いを馳せて】
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・・・あ、見つけた!エリンー!
剣士隊の訓練が終わり、タオルで汗を拭いながら通路を歩いていると、長く艶のある黒髪の女性が、手を振りながら小走りに近づいて来た
・・・あ、ヤヨイさん、お疲れ様です。本日もご指導ありがとうございました
・・・あはは、エリン、そんなにかしこまらないで?これからペトラとルチルとお茶するの。エリンも行きましょう?
頭を下げて一礼をすると、ヤヨイさんは少し困ったように笑った
最近は慣れてきたからどっちがどっちか分かるようになったけど、どうやら今は上品なヤヨイさんらしい
戦えないけれど所作がとても綺麗で、女性の鏡のようなヤヨイさんは、上品なヤヨイさんと呼ばれているのだ
この呼び方は、ペトラ隊長とルチル副隊長が呼んでいるから、いつの間にかそれで浸透してしまったのだ
・・・えっと、お誘いは嬉しいのですが・・・皆さんの輪に私が入って、よろしいのですか?
ヤヨイさん、ペトラ隊長、ルチル副長の三人はとても仲が良い
私が剣士隊に入隊する前の事だが、ペトラ隊長とルチル副長が、ヤヨイさんに絡んでもめた事があったらしい
その時にヤヨイさんがペトラ隊長をあっさりと倒し、それから付き合いが始まったと聞いている
剣を合わせて深まった絆という事だろうか
いや、それだけじゃない。きっとヤヨイさんの人柄も大きいと思う
三人はいつも一緒だ。私はこの三人に憧れている
そんな憧れのヤヨイさんに誘われて、嬉しくないはずがない
けれど・・・だからこそ、遠慮してしまうんだ・・・私が入って、三人の輪を乱してしまうんじゃないのかなって・・・・・
・・・私はエリンと一緒にお茶したいの。ペトラとルチルも、エリンも誘おうって言ってたのよ。だから遠慮しないでほしいわ。行きましょう、エリン
温もりが私の両手を包む
その優しい手に引かれて、私は一歩を踏み出した
その日、憧れの三人と一緒に飲んだコーヒーを私は忘れない
「セァァァァーーーーーッ!」
全身全霊の一撃!上段から振り下ろした渾身の一太刀が、キャシーの巨大な灼炎竜の頭を斬りつけた!
「なめるなぁぁぁーーーーーッ!」
竜の頭が二つに引き裂かれたその時、キャシーの魔力が膨れ上がった!
頭を断たれながらも竜は大口を開けて、エリンを飲み込まんと差し迫る!
「なっ!?」
咄嗟に身を捻り直撃を躱すが、15メートルを超える灼炎竜の熱風はエリンの肌を焼き、その体を吹き飛ばした。
「うあぁぁぁぁーーーーッツ!」
地面に体をしたたかに打ち付け転がされ、舞い上がった雪を全身に被る。
「死ね!エリンスペンス!」
上空に登った炎の竜は、キャシーの振り下ろした腕に従い、二つに分かれた頭で大きな顎を開け襲いかかった!
頭を真っ二つにしたのに消えない・・・・・
それどころか、勢いを増しているようにさえ見える・・・・・
すごいな・・・これ程の魔力・・・この女、キャシーの執念だ。
それが復讐だとしても、絶対に勝つという気持ちが違うんだ。
だからここまでの力を発揮してるんだ。
熱風に焼かれ、体はビリビリと痛む、腹から流れる血も止まらない。
けれど気力を振り絞って剣を握った。
「・・・負けられない気持ちは・・・・・」
眼前に迫った炎の竜から感じるプレッシャーは、キャシー・タンデルズの復讐心そのものだ。
この女は、自分の命と引き換えにしても、一人でも多くのカエストゥス兵を道連れにする。
その気迫と覚悟に飲み込まれそうになる。
・・・あんたは敵だけど、勝利のためにここまでの力を発揮するなんて見事だ。
けれど・・・負けられないのは・・・・・
跳び起きて竜の顎を躱す!竜は私を追跡して正面から大口を開けて襲い来る!
「私もいっしょなんだーーーーーッ!」
私は上段に剣を構えた。体の痛み、出血など気に留めていられない。
ここでこの灼炎竜に打ち勝つ!それが全てだ!
持てる力の全てを込めて振り下ろした!
勝利への執念。全身全霊の剣から発せられた斬撃は、二つに分かれた竜の頭を、今度こそ完全に真っ二つに斬り裂いた。
「なんだとッ!?」
自己最大の大きさで出現した灼炎竜が、頭から両断される。
エリンの斬撃は竜の首根まで達し、その衝撃は術者であるキャシーが身に纏う炎をも打ち消した。
まさかこの大きさの灼炎竜が斬り裂かれるなど思いもしない。
驚愕するキャシーは、その動きを止め、わずかな時間だが呆然と立ち尽くしてしまった。
「アァァァァー---ーッ!」
その一瞬を見逃すエリンではなかった。
斬り裂かれ、火の粉となって舞い散る竜の、残り火の中を走った!体が焼かれる事などほんの僅かにも考えなかった。ただ、最も早く最も短い、復讐者までの道を行く。勝利への執念がエリンの足を走らせた!
「ッ!?し、しまっ・・・ぐッ!」
その姿を視界に捉えた、キャシーが我に返った時には手遅れだった。
髪を焼かれ、鎧も火でくすぶらせながらも、エリンは脇に抱えた剣を、体ごとぶつけるようにキャシーの腹に突き刺した。
鋭く硬い鉄の剣が自分の体を貫いた。
その事実を認識した瞬間、耐えがたい程の苦痛が全身を駆け巡り、喉の奥からせり上がって来るものが、キャシーの口を無理やり開かせて吐き出た。
キャシーが吐き出したソレを頭にかぶり、エリンの青い髪が真っ赤に染まる。
手ごたえは十分。そして手元まで深く刺し貫いた剣から伝ってくる流動体が、エリンの手首までをも濡らす。
「・・・私の、勝ちだ・・・・・」
「・・・ぐっ・・・ふふ・・・ど、どう、かな?」
どう見ても決着だった。だが、キャシーは口の端を歪めて笑うと、剣を握るエリンの手首を掴み、自分の体から無理やり剣を引き抜いた。
「なっ・・・!?」
今度はエリンが驚愕する番だった。完全に致命傷だった。胴体を深く刺し貫かれて、動けるはずがない。
それが当たり前であり常識である。だがキャシーは、最初から死を受け入れていた。
生きて帰るつもりなど毛程も持っていなかったキャシーの執念は、エリンの上をいった。
「た・・・ただでは・・・死なん!」
剣を抜いて飛び散る血が、雪の積もった大地を真っ赤に染める。
キャシーはお腹から血をまき散らしながらも不敵に笑い、その姿は景色に溶け込んで・・・消えた。
周囲の景色と同化できる魔道具、白衣の染色
灼炎竜が破られ、全ての魔力を使い切ったキャシーの正真正銘最後の攻撃。
エリンとて満身創痍である。この抉られた腹のように、爆裂弾でも直接ぶつけられればもうもたない。
キャシー・タンデルズ・・・・・その勝ちへの執念、見事だ。
何も見えないし、気配さえも感じない・・・恐ろしい魔道具だよ。
・・・一つ息をついて、私は目を閉じた。
心を落ち着かせ、焦燥感を抑える。
これがキャシーの最後の攻撃だ・・・おそらくさっきと同じく、私に直接魔法をぶつけて来るだろう。
ジョルジュ様が言っていた、足で土を感じ、肌で風を感じろと、姿が見えなくたって、キャシーが動けば土を踏むし、風も動く。その僅かな変化を捉えるんだ。
剣を正面に構える。
青い髪の剣士の心は、波一つ立たない水面のように静かだった。
・・・・・大した女だ・・・あれほど研ぎ澄まされていては近づけない。
けどね・・・この戦い、あんたの負けだよ。
さっきの灼炎竜で確かに私は魔力を使い果たした。
そしてそれが分かっているから、あんたは待ちに徹する事ができる。
カラカラに干上がった器から、残りカスを集めたってせいぜい爆裂弾一発がせいぜい。
それならばゼロ距離で食らわなければ勝てる。そんなふうに思ってんでしょうね・・・・・
なめるな!
魔力を使い果たしても、魔法使いには最後の切り札がある!
エリンスペンス!貴様に帝国の魔法使いの強さを見せてやる!
それは枯渇した魔力の代わりに、生命力を燃やす事で魔力の代わりとする、魔法使いの最終奥義だった。
この一発に命を差し出す!
その気迫で命を燃やしたキャシーの魔力は、師団長と並び立っても遜色のない程に強く大きく膨れ上がり、大気さえも揺るがした。
「な、なに!?こ、これは!?」
足元が、そして空気が揺れてエリンは目を開けた。
すさまじいエネルギーだった。強い揺れに足元が救われそうになり、エリンは剣を地面に突き立てる。
姿は見えない、だがキャシーが最後の大技を放とうとしている事は、この状況が教えてくれる。
落ち着け!風を読むんだ・・・前か?後ろか?分かるはずだ。
私だって、風の加護を受けているカエストゥスの人間だ。
絶対に捉えて見せる!
・・・・・それは風が教えてくれたのかもしれない。
大気が震え、大地が軋む、立っている事さえままならない状況の中、ふいにエリンの後ろ髪がなびいた。
「ッ!そこだァァァァァー------ッ!」
剣を引き抜いて振り返ると、そこにはキャシー・タンデルズが立っていた。
その両手はバチバチと弾ける莫大な魔力を集中させ、目がくらむ程に強い光を放っている。
血の気の無い顔は青白く、口から吐いた血で染まったのだろう、喉も胸も真っ赤に染まっていた。
だがその目は生きていた。強い力、戦う意志を漲らせている。
私と目が合うと、口の端をニヤリと持ち上げた。
そしてキャシーは叫んだ。
「光源爆裂弾!」
・・・・・あ、エリン!待ってたよ
金色の髪をした女性はペトラ隊長だ
四本足の椅子に座り、丸いテーブルに頬杖を着いていたが、私に気が付くと手を挙げて笑ってくれた
・・・エリン、こっちこっち!椅子あるよ
紫色の髪が綺麗なルチルさん
空いている椅子を指差して、私が座りやすいように引いてくれる
・・・二人ともお待たせ、今日は四人でお茶にしましょう。エリンは何がいいかしら?
丸いテーブルを囲んでみんなが座ると、ヤヨイさんが飲みたいものを聞いてくる
・・・えっと、それじゃあ・・・私はコーヒーを・・・
私が飲みたいものを答えると、なぜかみんなクスクス笑い出した
何か変な事を言ってしまったのかなと、目をパチパチさせると、ヤヨイさんが両手を合わせて、ごめんねと口にした
・・・ごめんなさい、私達もいつもコーヒーなの、それでエリンもコーヒーって言うから、ついおかしくなっちゃって・・・
・・・そうそう、紅茶もあるのに、なんかいつもコーヒーになっちゃうんだよ
・・・ほんとほんと、まぁ、みんなコーヒー好きって事なんだよねー
みんな楽しそうに笑っている
私もこの輪に入ってるんだ・・・・・憧れていた人達と一緒に・・・・・・・
轟々と燃え盛る爆炎、黒く大きな黒煙は空をも染めようと立ち昇る。
積もった雪を消し飛ばし、広範囲に渡り大きく抉られた大地が、爆発の凄まじさを物語っていた。
爆発の中心には、心臓に鉄の剣が突き刺さった女が倒れ伏している。
すでに事切れており、その体の下には血だまりもできていた。
そしておそらくは吹き飛ばされたのだろう。
爆心地から数百メートルは離れた地面に、青い髪の女性が仰向けに倒れていた。
助からないのは一目でわかる。
微かに呼吸もあるが、それももう消えようとしてる。
このまま消えていくだけの命だった・・・だが、ふいに頬にあたる冷たさに瞼が少しだけ開く
ぼんやりと白いものが瞳に映り、それが雪だと分かる
雪・・・か・・・・・
ヤヨイさん・・・ルチルさん・・・あっちに行ったら、私もまたご一緒させてください
ペトラ隊長・・・・・あとはお願いします・・・・・
憧れていた人達へ想いを残す事ができた
そして頬に感じる雪の冷たさを最後に、エリンは静かに目を閉じた
剣士隊の訓練が終わり、タオルで汗を拭いながら通路を歩いていると、長く艶のある黒髪の女性が、手を振りながら小走りに近づいて来た
・・・あ、ヤヨイさん、お疲れ様です。本日もご指導ありがとうございました
・・・あはは、エリン、そんなにかしこまらないで?これからペトラとルチルとお茶するの。エリンも行きましょう?
頭を下げて一礼をすると、ヤヨイさんは少し困ったように笑った
最近は慣れてきたからどっちがどっちか分かるようになったけど、どうやら今は上品なヤヨイさんらしい
戦えないけれど所作がとても綺麗で、女性の鏡のようなヤヨイさんは、上品なヤヨイさんと呼ばれているのだ
この呼び方は、ペトラ隊長とルチル副隊長が呼んでいるから、いつの間にかそれで浸透してしまったのだ
・・・えっと、お誘いは嬉しいのですが・・・皆さんの輪に私が入って、よろしいのですか?
ヤヨイさん、ペトラ隊長、ルチル副長の三人はとても仲が良い
私が剣士隊に入隊する前の事だが、ペトラ隊長とルチル副長が、ヤヨイさんに絡んでもめた事があったらしい
その時にヤヨイさんがペトラ隊長をあっさりと倒し、それから付き合いが始まったと聞いている
剣を合わせて深まった絆という事だろうか
いや、それだけじゃない。きっとヤヨイさんの人柄も大きいと思う
三人はいつも一緒だ。私はこの三人に憧れている
そんな憧れのヤヨイさんに誘われて、嬉しくないはずがない
けれど・・・だからこそ、遠慮してしまうんだ・・・私が入って、三人の輪を乱してしまうんじゃないのかなって・・・・・
・・・私はエリンと一緒にお茶したいの。ペトラとルチルも、エリンも誘おうって言ってたのよ。だから遠慮しないでほしいわ。行きましょう、エリン
温もりが私の両手を包む
その優しい手に引かれて、私は一歩を踏み出した
その日、憧れの三人と一緒に飲んだコーヒーを私は忘れない
「セァァァァーーーーーッ!」
全身全霊の一撃!上段から振り下ろした渾身の一太刀が、キャシーの巨大な灼炎竜の頭を斬りつけた!
「なめるなぁぁぁーーーーーッ!」
竜の頭が二つに引き裂かれたその時、キャシーの魔力が膨れ上がった!
頭を断たれながらも竜は大口を開けて、エリンを飲み込まんと差し迫る!
「なっ!?」
咄嗟に身を捻り直撃を躱すが、15メートルを超える灼炎竜の熱風はエリンの肌を焼き、その体を吹き飛ばした。
「うあぁぁぁぁーーーーッツ!」
地面に体をしたたかに打ち付け転がされ、舞い上がった雪を全身に被る。
「死ね!エリンスペンス!」
上空に登った炎の竜は、キャシーの振り下ろした腕に従い、二つに分かれた頭で大きな顎を開け襲いかかった!
頭を真っ二つにしたのに消えない・・・・・
それどころか、勢いを増しているようにさえ見える・・・・・
すごいな・・・これ程の魔力・・・この女、キャシーの執念だ。
それが復讐だとしても、絶対に勝つという気持ちが違うんだ。
だからここまでの力を発揮してるんだ。
熱風に焼かれ、体はビリビリと痛む、腹から流れる血も止まらない。
けれど気力を振り絞って剣を握った。
「・・・負けられない気持ちは・・・・・」
眼前に迫った炎の竜から感じるプレッシャーは、キャシー・タンデルズの復讐心そのものだ。
この女は、自分の命と引き換えにしても、一人でも多くのカエストゥス兵を道連れにする。
その気迫と覚悟に飲み込まれそうになる。
・・・あんたは敵だけど、勝利のためにここまでの力を発揮するなんて見事だ。
けれど・・・負けられないのは・・・・・
跳び起きて竜の顎を躱す!竜は私を追跡して正面から大口を開けて襲い来る!
「私もいっしょなんだーーーーーッ!」
私は上段に剣を構えた。体の痛み、出血など気に留めていられない。
ここでこの灼炎竜に打ち勝つ!それが全てだ!
持てる力の全てを込めて振り下ろした!
勝利への執念。全身全霊の剣から発せられた斬撃は、二つに分かれた竜の頭を、今度こそ完全に真っ二つに斬り裂いた。
「なんだとッ!?」
自己最大の大きさで出現した灼炎竜が、頭から両断される。
エリンの斬撃は竜の首根まで達し、その衝撃は術者であるキャシーが身に纏う炎をも打ち消した。
まさかこの大きさの灼炎竜が斬り裂かれるなど思いもしない。
驚愕するキャシーは、その動きを止め、わずかな時間だが呆然と立ち尽くしてしまった。
「アァァァァー---ーッ!」
その一瞬を見逃すエリンではなかった。
斬り裂かれ、火の粉となって舞い散る竜の、残り火の中を走った!体が焼かれる事などほんの僅かにも考えなかった。ただ、最も早く最も短い、復讐者までの道を行く。勝利への執念がエリンの足を走らせた!
「ッ!?し、しまっ・・・ぐッ!」
その姿を視界に捉えた、キャシーが我に返った時には手遅れだった。
髪を焼かれ、鎧も火でくすぶらせながらも、エリンは脇に抱えた剣を、体ごとぶつけるようにキャシーの腹に突き刺した。
鋭く硬い鉄の剣が自分の体を貫いた。
その事実を認識した瞬間、耐えがたい程の苦痛が全身を駆け巡り、喉の奥からせり上がって来るものが、キャシーの口を無理やり開かせて吐き出た。
キャシーが吐き出したソレを頭にかぶり、エリンの青い髪が真っ赤に染まる。
手ごたえは十分。そして手元まで深く刺し貫いた剣から伝ってくる流動体が、エリンの手首までをも濡らす。
「・・・私の、勝ちだ・・・・・」
「・・・ぐっ・・・ふふ・・・ど、どう、かな?」
どう見ても決着だった。だが、キャシーは口の端を歪めて笑うと、剣を握るエリンの手首を掴み、自分の体から無理やり剣を引き抜いた。
「なっ・・・!?」
今度はエリンが驚愕する番だった。完全に致命傷だった。胴体を深く刺し貫かれて、動けるはずがない。
それが当たり前であり常識である。だがキャシーは、最初から死を受け入れていた。
生きて帰るつもりなど毛程も持っていなかったキャシーの執念は、エリンの上をいった。
「た・・・ただでは・・・死なん!」
剣を抜いて飛び散る血が、雪の積もった大地を真っ赤に染める。
キャシーはお腹から血をまき散らしながらも不敵に笑い、その姿は景色に溶け込んで・・・消えた。
周囲の景色と同化できる魔道具、白衣の染色
灼炎竜が破られ、全ての魔力を使い切ったキャシーの正真正銘最後の攻撃。
エリンとて満身創痍である。この抉られた腹のように、爆裂弾でも直接ぶつけられればもうもたない。
キャシー・タンデルズ・・・・・その勝ちへの執念、見事だ。
何も見えないし、気配さえも感じない・・・恐ろしい魔道具だよ。
・・・一つ息をついて、私は目を閉じた。
心を落ち着かせ、焦燥感を抑える。
これがキャシーの最後の攻撃だ・・・おそらくさっきと同じく、私に直接魔法をぶつけて来るだろう。
ジョルジュ様が言っていた、足で土を感じ、肌で風を感じろと、姿が見えなくたって、キャシーが動けば土を踏むし、風も動く。その僅かな変化を捉えるんだ。
剣を正面に構える。
青い髪の剣士の心は、波一つ立たない水面のように静かだった。
・・・・・大した女だ・・・あれほど研ぎ澄まされていては近づけない。
けどね・・・この戦い、あんたの負けだよ。
さっきの灼炎竜で確かに私は魔力を使い果たした。
そしてそれが分かっているから、あんたは待ちに徹する事ができる。
カラカラに干上がった器から、残りカスを集めたってせいぜい爆裂弾一発がせいぜい。
それならばゼロ距離で食らわなければ勝てる。そんなふうに思ってんでしょうね・・・・・
なめるな!
魔力を使い果たしても、魔法使いには最後の切り札がある!
エリンスペンス!貴様に帝国の魔法使いの強さを見せてやる!
それは枯渇した魔力の代わりに、生命力を燃やす事で魔力の代わりとする、魔法使いの最終奥義だった。
この一発に命を差し出す!
その気迫で命を燃やしたキャシーの魔力は、師団長と並び立っても遜色のない程に強く大きく膨れ上がり、大気さえも揺るがした。
「な、なに!?こ、これは!?」
足元が、そして空気が揺れてエリンは目を開けた。
すさまじいエネルギーだった。強い揺れに足元が救われそうになり、エリンは剣を地面に突き立てる。
姿は見えない、だがキャシーが最後の大技を放とうとしている事は、この状況が教えてくれる。
落ち着け!風を読むんだ・・・前か?後ろか?分かるはずだ。
私だって、風の加護を受けているカエストゥスの人間だ。
絶対に捉えて見せる!
・・・・・それは風が教えてくれたのかもしれない。
大気が震え、大地が軋む、立っている事さえままならない状況の中、ふいにエリンの後ろ髪がなびいた。
「ッ!そこだァァァァァー------ッ!」
剣を引き抜いて振り返ると、そこにはキャシー・タンデルズが立っていた。
その両手はバチバチと弾ける莫大な魔力を集中させ、目がくらむ程に強い光を放っている。
血の気の無い顔は青白く、口から吐いた血で染まったのだろう、喉も胸も真っ赤に染まっていた。
だがその目は生きていた。強い力、戦う意志を漲らせている。
私と目が合うと、口の端をニヤリと持ち上げた。
そしてキャシーは叫んだ。
「光源爆裂弾!」
・・・・・あ、エリン!待ってたよ
金色の髪をした女性はペトラ隊長だ
四本足の椅子に座り、丸いテーブルに頬杖を着いていたが、私に気が付くと手を挙げて笑ってくれた
・・・エリン、こっちこっち!椅子あるよ
紫色の髪が綺麗なルチルさん
空いている椅子を指差して、私が座りやすいように引いてくれる
・・・二人ともお待たせ、今日は四人でお茶にしましょう。エリンは何がいいかしら?
丸いテーブルを囲んでみんなが座ると、ヤヨイさんが飲みたいものを聞いてくる
・・・えっと、それじゃあ・・・私はコーヒーを・・・
私が飲みたいものを答えると、なぜかみんなクスクス笑い出した
何か変な事を言ってしまったのかなと、目をパチパチさせると、ヤヨイさんが両手を合わせて、ごめんねと口にした
・・・ごめんなさい、私達もいつもコーヒーなの、それでエリンもコーヒーって言うから、ついおかしくなっちゃって・・・
・・・そうそう、紅茶もあるのに、なんかいつもコーヒーになっちゃうんだよ
・・・ほんとほんと、まぁ、みんなコーヒー好きって事なんだよねー
みんな楽しそうに笑っている
私もこの輪に入ってるんだ・・・・・憧れていた人達と一緒に・・・・・・・
轟々と燃え盛る爆炎、黒く大きな黒煙は空をも染めようと立ち昇る。
積もった雪を消し飛ばし、広範囲に渡り大きく抉られた大地が、爆発の凄まじさを物語っていた。
爆発の中心には、心臓に鉄の剣が突き刺さった女が倒れ伏している。
すでに事切れており、その体の下には血だまりもできていた。
そしておそらくは吹き飛ばされたのだろう。
爆心地から数百メートルは離れた地面に、青い髪の女性が仰向けに倒れていた。
助からないのは一目でわかる。
微かに呼吸もあるが、それももう消えようとしてる。
このまま消えていくだけの命だった・・・だが、ふいに頬にあたる冷たさに瞼が少しだけ開く
ぼんやりと白いものが瞳に映り、それが雪だと分かる
雪・・・か・・・・・
ヤヨイさん・・・ルチルさん・・・あっちに行ったら、私もまたご一緒させてください
ペトラ隊長・・・・・あとはお願いします・・・・・
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