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【878 カエストゥス 対 帝国 ⑫ 精霊使いの名】
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「ワイルダーが倒れたか・・・」
「はい。まさかあの、黒き破壊王とまで呼ばれた男が墜ちるとは・・・しかし、ジョルジュ・ワーリントンは道連れにしたとの事でした。最後に意地を見せたようです」
玉座で肘を着き、大臣ジャフ・アラムから報告を受けた皇帝は、一つ息をつくと、口の端を持ち上げて嗤った。
「くっくっくっ・・・よくやったと褒めておこう。ここでジョルジュ・ワーリントンを倒せたのは大きい。さすがワイルダーだ」
「しかし、こちらもワイルダーを失ってしまいました。戦力が大きく低下した事は否めません」
上機嫌に笑う皇帝とは反対に、ジャフの表情は優れない。
ワイルダーという絶対的な戦力を無くした事が、気にかかっていた。
「ジャフよ、確かに貴様の言う通り、ワイルダーを失った事は痛手だ。だがな・・・」
皇帝はそこで言葉を切ると、窓の外へと目を向けた。
本来は猛吹雪で数メートル先も見通せないはずだが、皇帝の視界は一定範囲が吹雪に阻まれず、鮮明に見えていた。
「アンソニーがいれば問題ない。見ろ、この光景を。火の精霊は城まで爆炎が伸びないよう止めている。さらに城壁の内側は、吹雪も瞬時に蒸発させているようだぞ。おかげで戦闘が見やすくなった」
皇帝に促され、ジャフは窓の外へ目を向けた。
異様な光景だった。光源爆裂弾によって起こされた巨大な爆炎は、本来なら城壁を越えて城まで火の手を伸ばしていたはずだった。だが城壁を境にして、火の粉の一つも城へ飛ばしていない。
さらに城壁から外側は、猛吹雪で荒れ狂っているが、城壁の内側には雪の一欠けらも飛んで来ないのだ。皇帝は蒸発させていると言った。つまりこれも火の精霊の力なのだ。
「正直・・・我が目で見なければ、とても信じられませんでした。幽閉されてから随分と経っておりましたが・・・精霊使いアンソニー様のお力はまるで衰えていない」
「そうだ。アンソニーは今年で30だったな。年齢的に成熟し、若さにまかせていたあの頃よりも強くなっている。二人とも殺すにはあまりに惜しかったからな。牢に入れていた間も、生きやすい環境は整えてやったが・・・くっくっく」
自分への復讐の機会を伺っていたのだろう。だが皮肉にもその力は、自分を勝たせるために使われる事になってしまった。
弟アンソニーの、屈辱にまみれているだろう心中を考え、皇帝は嗤った。
目的のためには使えるものは何でも使う。そこに情などあるはずもない。
皇帝は嗤った。狂気さえ孕んだその嗤い声は、玉座の間に響き渡った。
「・・・さすがでございます。それが今こうして、皇帝のお力になっているという事ですね」
その姿を見て、ジャフはうやうやしく腰を曲げて頭を下げた。
長く皇帝に仕えているが、国民に見せる慈悲深い顔と、妾腹とはいえ実の弟さえも道具のように利用する冷酷さ。この二面性こそブロートン帝国を、大陸最強の軍事国家として支えているのだ。
黒き破壊王デズモンデイ・ワイルダーが倒れ、焦りを感じていた。
だが・・・負けるわけがない。今それが確信できた。
城の前まで攻め込まれていながらも、この余裕さえ感じられる堂々とした姿はどうだ?
これこそが帝国を統べる王なんだ!
この皇帝がいる限り負けるはずがない!
帝国はこれからも栄え、世界の支配者となって続いていくのだ!
「フッ・・・ジャフよ、顔つきが変わったな?」
「はい。カエストゥスが血の海に沈むところが見えましたゆえ」
ジャフ・アラムは、話術、交渉に長け、内政も外交も任せられているが、戦闘員ではなかった。
そのため戦争が始まっても前線に立たないため、どこかイメージが足りていない部分があった。
だが、皇帝の持つ王たる気に触れた事で、その殻が破れた。
ジャフの目に、これまでになかったギラリとした狂気が宿った事を見て、皇帝もまた興味深そうに、ニヤリと口の端を持ち上げた。
「くっくっく、ジャフよ、一皮むけたようだな?それでいい。では、ゆっくり見物させてもらおうではないか?我が弟、精霊使いのアンソニーが、カエストゥスを皆殺しにするところをな」
「・・・動けるのか?」
精霊使いは驚きを隠せなかった。
足元で這いつくばっていた金色の髪の男、ウィッカーが立ち上がったからだ。
膝に手を着きながら、足元をふらつかせているが、それでも立ち上がった。
そして自分を見るその目には力があった。この男はまだ戦意を失っていない。
これまで戦ってきた人間とは違う。
この攻撃を受けた大半の者は気を失い、意識の残った者も降伏するのだ。
体の内側から焼かれる感覚を味わって、立ち上がろうとする者などいない。
だが、この男は立ちあがった。そんな人間は初めてだった。
「はぁ・・・はぁ・・・こ、この攻撃・・・まさか・・・」
全身から汗を滴らせ、息も絶え絶えのその男に、精霊使いは少しだけ興味を持った。
無機質で感情の無かったその目が、目の前の男を戦うべき相手として認識したのだ。
「・・・私はアンソニー・ライアン。これから貴様を葬る男の名だ。覚えておけ」
燃え盛る炎の如き赤々としたアンソニーの瞳が、再びウィッカーを睨み付けた。
「はい。まさかあの、黒き破壊王とまで呼ばれた男が墜ちるとは・・・しかし、ジョルジュ・ワーリントンは道連れにしたとの事でした。最後に意地を見せたようです」
玉座で肘を着き、大臣ジャフ・アラムから報告を受けた皇帝は、一つ息をつくと、口の端を持ち上げて嗤った。
「くっくっくっ・・・よくやったと褒めておこう。ここでジョルジュ・ワーリントンを倒せたのは大きい。さすがワイルダーだ」
「しかし、こちらもワイルダーを失ってしまいました。戦力が大きく低下した事は否めません」
上機嫌に笑う皇帝とは反対に、ジャフの表情は優れない。
ワイルダーという絶対的な戦力を無くした事が、気にかかっていた。
「ジャフよ、確かに貴様の言う通り、ワイルダーを失った事は痛手だ。だがな・・・」
皇帝はそこで言葉を切ると、窓の外へと目を向けた。
本来は猛吹雪で数メートル先も見通せないはずだが、皇帝の視界は一定範囲が吹雪に阻まれず、鮮明に見えていた。
「アンソニーがいれば問題ない。見ろ、この光景を。火の精霊は城まで爆炎が伸びないよう止めている。さらに城壁の内側は、吹雪も瞬時に蒸発させているようだぞ。おかげで戦闘が見やすくなった」
皇帝に促され、ジャフは窓の外へ目を向けた。
異様な光景だった。光源爆裂弾によって起こされた巨大な爆炎は、本来なら城壁を越えて城まで火の手を伸ばしていたはずだった。だが城壁を境にして、火の粉の一つも城へ飛ばしていない。
さらに城壁から外側は、猛吹雪で荒れ狂っているが、城壁の内側には雪の一欠けらも飛んで来ないのだ。皇帝は蒸発させていると言った。つまりこれも火の精霊の力なのだ。
「正直・・・我が目で見なければ、とても信じられませんでした。幽閉されてから随分と経っておりましたが・・・精霊使いアンソニー様のお力はまるで衰えていない」
「そうだ。アンソニーは今年で30だったな。年齢的に成熟し、若さにまかせていたあの頃よりも強くなっている。二人とも殺すにはあまりに惜しかったからな。牢に入れていた間も、生きやすい環境は整えてやったが・・・くっくっく」
自分への復讐の機会を伺っていたのだろう。だが皮肉にもその力は、自分を勝たせるために使われる事になってしまった。
弟アンソニーの、屈辱にまみれているだろう心中を考え、皇帝は嗤った。
目的のためには使えるものは何でも使う。そこに情などあるはずもない。
皇帝は嗤った。狂気さえ孕んだその嗤い声は、玉座の間に響き渡った。
「・・・さすがでございます。それが今こうして、皇帝のお力になっているという事ですね」
その姿を見て、ジャフはうやうやしく腰を曲げて頭を下げた。
長く皇帝に仕えているが、国民に見せる慈悲深い顔と、妾腹とはいえ実の弟さえも道具のように利用する冷酷さ。この二面性こそブロートン帝国を、大陸最強の軍事国家として支えているのだ。
黒き破壊王デズモンデイ・ワイルダーが倒れ、焦りを感じていた。
だが・・・負けるわけがない。今それが確信できた。
城の前まで攻め込まれていながらも、この余裕さえ感じられる堂々とした姿はどうだ?
これこそが帝国を統べる王なんだ!
この皇帝がいる限り負けるはずがない!
帝国はこれからも栄え、世界の支配者となって続いていくのだ!
「フッ・・・ジャフよ、顔つきが変わったな?」
「はい。カエストゥスが血の海に沈むところが見えましたゆえ」
ジャフ・アラムは、話術、交渉に長け、内政も外交も任せられているが、戦闘員ではなかった。
そのため戦争が始まっても前線に立たないため、どこかイメージが足りていない部分があった。
だが、皇帝の持つ王たる気に触れた事で、その殻が破れた。
ジャフの目に、これまでになかったギラリとした狂気が宿った事を見て、皇帝もまた興味深そうに、ニヤリと口の端を持ち上げた。
「くっくっく、ジャフよ、一皮むけたようだな?それでいい。では、ゆっくり見物させてもらおうではないか?我が弟、精霊使いのアンソニーが、カエストゥスを皆殺しにするところをな」
「・・・動けるのか?」
精霊使いは驚きを隠せなかった。
足元で這いつくばっていた金色の髪の男、ウィッカーが立ち上がったからだ。
膝に手を着きながら、足元をふらつかせているが、それでも立ち上がった。
そして自分を見るその目には力があった。この男はまだ戦意を失っていない。
これまで戦ってきた人間とは違う。
この攻撃を受けた大半の者は気を失い、意識の残った者も降伏するのだ。
体の内側から焼かれる感覚を味わって、立ち上がろうとする者などいない。
だが、この男は立ちあがった。そんな人間は初めてだった。
「はぁ・・・はぁ・・・こ、この攻撃・・・まさか・・・」
全身から汗を滴らせ、息も絶え絶えのその男に、精霊使いは少しだけ興味を持った。
無機質で感情の無かったその目が、目の前の男を戦うべき相手として認識したのだ。
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