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理太郎

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1002 闇との因縁

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「午前中はアンリエール様と謁見と聞いていたが、もうこの時間だ。とっくに帰ったと思ったが・・・なにか、あったのか?」

レイチェルの姿を見かけたウィッカーは、話しかけながらゆっくりと歩み寄った。
そしてどこか表情を硬くしているレイチェルを見て、普段と様子が違う事を感じ取った。

「店長・・・はい、実は・・・」



謁見が終わってからの話しをすると、ウィッカーも驚きを隠せなかった。
眉根を寄せ、やや難しい顔をして見せながら口を開く。

「・・・パウンド・フォーか・・・山には青魔法使いが欲しいところだが、急ぎならケイトとジーンは連れて行けないか・・・今が秋だったのはまだ救いだな。冬だったら、青魔法無しではとても山には入れないからな」

以前ケイトと共に、冬のセインソルボ山に入った経験を踏まえての意見だった。
気温や気圧の調整、足場を作る事も、青魔法なら可能である。青魔法使いがいるといないとでは、天と地程に違うと言っても過言ではない。

「はい、体力型中心の構成になります。走り続ければ五日か六日で着けるでしょう、黒魔法使いは風で飛べるから考えてはいるんですが、闇蛇には普通の攻撃は効かないようでして・・・」

「・・・体力型中心か、そうなるとかなり厳しい戦いになりそうだな。回復は魔道具に頼る事になるだろうが、回復薬には即効性は無いし、カチュアの傷薬は効果は高いが、ヒールよりも時間はかかる」

十分に時間をかける事ができるのならば、魔法使いを連れて行く事ができる。
だが今回は急がなくてはならない。最低限の準備と人選をしなければならないから、明朝の出発になったが、本来であれば今すぐにでも発ちたいところだ。


「あの、店長が来る事はできませんか?店長が一緒なら心強いですし、魔法の問題も全て解決です」

「・・・できればそうしたいが、やはり俺は最終決戦までクインズベリーに残り、帝国へは近づかない方がいいだろう。帝国へ近づけば近づく程、ベン・フィングに俺の存在が感づかれる可能性が高い。ヤツは俺を強く憎んでいる。見つかれば闇が一気に押し寄せるだろう。俺一人ならなんとでもなるが、この国の人達がどうなるか・・・」


「はい・・・やっぱり、そうですよね。すみません、大丈夫です。自分達でなんとかしてみせます」

ウィッカーは自分の素性を明かした後、自分とベン・フィングの関係性についても語っていた。

それは今も闇に捕らわれているベン・フィングが、カエストゥスの血を憎んでいるという事である。
以前、パスタ屋のジェロムの父が、夢の中、精神世界で闇に呑まれそうになっていたのは、このベンの憎しみに当てられた事が要因である。

とりわけブレンダン・ランデルの弟子であり、帝国との戦争でも因縁深いウィッカーには、特に強い憎しみを持っている。

だからこそ、現在の闇の中心とも言える帝国には、できるだけ近づかずに距離を置いていた。
自分の存在をベンに悟らせないために・・・・・

「レイチェル・・・すまないな、キミには本当に負担ばかりかける」

「そんな、謝らないでください。私は自分にできる事をしているだけですから。大丈夫です、店長にしっかり鍛えてもらってますから、蛇なんかに負けませんよ」

レイチェルが笑顔を見せるのは、自分が気に止まないようににするため。
それが分かるから、ウィッカーはレイチェルに対して、感謝すると同時に申し訳ない気持ちで胸が締め付けられた。


「・・・明朝、出発だったな、城門で待ち合わせか?」

「あ、はい。そうです。城門に六時です」

「分かった・・・レイチェル、くれぐれも気を付けてな。命は一つしかないんだ・・・」

じっと自分を見つめて口にしたその言葉は、ありきたりな言葉ではあった。
だがウィッカーの言葉には重みがあった。ウィッカーの全てを知ったレイチェルには、その一言が深く心に残った。

「店長・・・はい、分かりました」


「うん・・・ああ、そうそう、パウンド・フォーへ行くメンバーなんだが、ユーリはどうだ?」

「え?ユーリですか?でも、ユーリは魔法使いだから・・・あ!」

今回は一日中走り通しになる。そして体力型の本気は、馬車では到底及ばないスピードである。
そのため白魔法使いと青魔法使いは、最初から除外して考えていたのだが、レイチェルはユーリの魔道具が何であるかを思い出した。

「うん、気が付いたようだね?ユーリの膂力のベルトは魔力を筋力に変換できる。レイチェル達にも付いて行けるさ。白魔法使いは絶対に必要だ。ユーリと話してみてくれ」

「はい、そうですよね。ユーリなら私達にも付いてこれる。回復薬と傷薬では正直不安もあったんです。店長、ありがとうございます。帰ったらユーリと話します。あ、すみません、私そろそろ行かないと・・・じゃあ店長、これで失礼します」

そう言ってウィッカーに一礼すると、レイチェルは小走りで中庭を駆けて行った。





「・・・闇の力を持った蛇、か・・・・・」

遠く小さくなっていくレイチェルの背中を見つめながら、ウィッカーは複雑な想いを整理していた。

完全ではないとは言え、帝国が闇の力を制御できるようになってきている事は知っていた。
だがまさか、蛇にまで闇の力を与えていたとは思いもよらなかった。

レイチェルが言っていたように、全長10メートルにもおよぶ蛇が、闇の力まで使ってくるとなれば、確かに人間を相手にするより、はるかに厄介だろう。

レイチェルの要請通り、光魔法が使える自分が行く事が一番良いとは思う。
だが今、自分が帝国に近づく事は望ましくない。

パウンド・フォーで戦闘を行えば、ベンは間違いなく自分の魔力をかぎつけて来る。
ベン・フィングの憎しみは深い。見つかったら最後だ。
執念深くどこまでも追いかけ、まとわりついてくるだろう。

クインズベリーはまだ、帝国との決戦の準備が整っていない。
この状況でベンに見つかる事は避けたかった。


「・・・せめて今の俺が、レイチェルのためにできる事をしよう」

力になりたいが、できる事は限られている。
歯がゆい思いを胸に、ウィッカーは踵を返した。
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