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1061 もう一度会えた時
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「アラタ!」
デューク・サリバンの拳をくらったアラタを見て、ユーリが声を上げると、リカルドがその肩を押さえた。
「待て、ユーリ!今はこっちに集中しろよ!こいつ本当にギリギリだったんだ!」
「っ!」
アラタに押し飛ばされたリカルドは、アラタと一緒に来たユーリを見つけて、すぐにレイマートのところまで手を引っ張って来た。
毒消しの効果もあって、進行を遅らせてはいたが、毒が消えるわけではない。
呼吸は乱れ、青白い顔で体を震わせているレイマートを見て、ユーリは一瞬で毒だと理解した。
そして即座にキュアをかけたのだ。
「大丈夫だ、兄ちゃんを信じろ。マルゴンだってボコったんだぞ?あのくらいでやられねぇって」
そう話すリカルドの手の平には、じっとりと汗が滲み、声も普段より硬いものだった。
ユーリにはユーリの役割があり、今がそれを果たすべき時である。
そして酷な言い方だが、ユーリが残りの魔力を振り絞り、膂力のベルトを全開にしてデュークに向かって行っても、結果は見えているのである。
だからこそリカルドは、ユーリを押し止めたのだった。
「・・・分かった」
ユーリにもリカルドの真意は感じ取れた。
唇を噛み締めると、再びレイマートに向き合ってキュアをかける。
青白かった顔色も幾分赤みがさしてきた。危険な状態を脱するところまでは回復できたようだ。
「・・・アタシはアタシのやるべき事をやる。リカルドはレイチェル達が巻き込まれないように、避難させて」
「ああ、分かった」
真剣な表情でレイマートの治療にあたるユーリの言葉に、リカルドはすぐに駆けだした。
ユーリの声が微かに震えていたが、リカルドは気づかないふりをした。
「アラタ・・・その男がアラタの夢の男なんだね。アタシこの山に入ってから、ずっと・・・ずっと嫌なものを感じてた・・・・・」
ユーリはレイマートにキュアをかけながら、顔を上げてアラタとボウズ頭の男を見た。
その表情には色濃い焦燥感が見えた。
入山した時から感じていた嫌な気配。
ここに長くはいたくない、体中の細胞が拒否反応を起こすような嫌悪感・・・
正体不明の不安だったけれど、ようやく分かった。
こいつだ!
このボウズ頭の男が、嫌な気配の正体だったんだ!
視線の先では、アラタとボウズ頭の男が向かい合っている。
アラタは腹に一発もらっていたが、どうやら立ち上がれたようだ。
しかしユーリは、立ち上がったアラタを見て辛そうに表情を歪めた。
なぜなら立ち上がったところで、アラタがこの男に勝てるとは思えなかったからだ。
アゲハ、リーザ、エクトール、レミュー、そしてレイチェル・・・・・・
現場を見たわけではないが、おそらくこのボウズ頭が一人で倒したんだ。
ありえない。とても信じらない。けれど現実として五人は倒れている。
たった一人でこれをやってのける相手に、アラタが勝てるのか?
勝てると信じたい、けれどこれだけの現実を見せつけられて、ユーリの心中は込み上げてくる絶望を、無理やり押さえつけるので精一杯だった。
気が付けば叫んでいた
「アラタ!逃げて!」
「・・・・・なぜ立ち上がった?そのまま寝ていれば、苦しい思いをしないですむのに」
膝を着いていたアラタが立ち上がると、村戸修一は微かな苛立ちを含み言葉を発した。
強烈な左のボディブローだった。
呼吸ができないくらい、重く苦しい一発だった。
「痛ッ・・・ぐっ、はぁ・・・ふぅ・・・さ、さすが、村戸さんだ・・・すげぇパンチだ」
腹を押さえながら立ち上がったアラタは、目の前に立つ恩人を見上げた。
外見はすっかり変わってしまった。
記憶にある村戸修一は三十歳になったばかりで、こんなに白髪ばかりではなかった。
自分を見る目も、かつての親しみを込めた優しい眼差しではなく、まるで感情の無い黒い空洞のような瞳だった。
「村戸さん・・・・・」
あの日・・・マルゴンからこの世界に村戸さんがいると聞いた時、いつか会えるかもしれない・・・そう思っていた。
最後に会ったのは、日本での仕事帰りだった。
俺と弥生さんと村戸さんの三人で、店を閉めて駐車場を歩いていた時、あの男に襲われて俺は死んだ。
それから弥生さんと村戸さんがどうなったのか、はっきりした事は分からないけど、多分あの男に殺されたんだろう。
マルゴンから、今の村戸さんがどういう状態だったのか聞いた時は、本当にショックを受けた。
自分の事もよく分からなくなって、俺と同じ光の力を使って何人も殺したと聞いた。
村戸さんは変わってしまったのかもしれない。
だけど、俺にとって村戸さんは村戸さんだ。何も変わらない。
俺にボクシングを教えてくれて、俺に居場所をくれた。
転職を繰り返した根性無しの俺に、根気よく付き合ってくれて、仕事の楽しさを教えてくれた。
夜勤の後にご飯を奢ってくれて、仕事以外でも遊びに連れて行ってくれた。
俺にとって村戸さんは、恩人という一言では言い表せないくらい大切な人だ。
だからもう一度会えたら・・・・・もう一度会えた時・・・・・
村戸さん・・・・・俺、話したい事が沢山あったんだ
「村戸さん・・・俺、俺本当に村戸さんを・・・・・」
薄っすらと視界が滲んだ。
「新・・・言ったはずだ。敵と馴れ合えば死ぬだけだぞ。この状況でまだ俺に敵意を向けられないのなら、死ぬしかないぞ」
村戸修一の右フックがアラタの左頬を殴り抜いた!
デューク・サリバンの拳をくらったアラタを見て、ユーリが声を上げると、リカルドがその肩を押さえた。
「待て、ユーリ!今はこっちに集中しろよ!こいつ本当にギリギリだったんだ!」
「っ!」
アラタに押し飛ばされたリカルドは、アラタと一緒に来たユーリを見つけて、すぐにレイマートのところまで手を引っ張って来た。
毒消しの効果もあって、進行を遅らせてはいたが、毒が消えるわけではない。
呼吸は乱れ、青白い顔で体を震わせているレイマートを見て、ユーリは一瞬で毒だと理解した。
そして即座にキュアをかけたのだ。
「大丈夫だ、兄ちゃんを信じろ。マルゴンだってボコったんだぞ?あのくらいでやられねぇって」
そう話すリカルドの手の平には、じっとりと汗が滲み、声も普段より硬いものだった。
ユーリにはユーリの役割があり、今がそれを果たすべき時である。
そして酷な言い方だが、ユーリが残りの魔力を振り絞り、膂力のベルトを全開にしてデュークに向かって行っても、結果は見えているのである。
だからこそリカルドは、ユーリを押し止めたのだった。
「・・・分かった」
ユーリにもリカルドの真意は感じ取れた。
唇を噛み締めると、再びレイマートに向き合ってキュアをかける。
青白かった顔色も幾分赤みがさしてきた。危険な状態を脱するところまでは回復できたようだ。
「・・・アタシはアタシのやるべき事をやる。リカルドはレイチェル達が巻き込まれないように、避難させて」
「ああ、分かった」
真剣な表情でレイマートの治療にあたるユーリの言葉に、リカルドはすぐに駆けだした。
ユーリの声が微かに震えていたが、リカルドは気づかないふりをした。
「アラタ・・・その男がアラタの夢の男なんだね。アタシこの山に入ってから、ずっと・・・ずっと嫌なものを感じてた・・・・・」
ユーリはレイマートにキュアをかけながら、顔を上げてアラタとボウズ頭の男を見た。
その表情には色濃い焦燥感が見えた。
入山した時から感じていた嫌な気配。
ここに長くはいたくない、体中の細胞が拒否反応を起こすような嫌悪感・・・
正体不明の不安だったけれど、ようやく分かった。
こいつだ!
このボウズ頭の男が、嫌な気配の正体だったんだ!
視線の先では、アラタとボウズ頭の男が向かい合っている。
アラタは腹に一発もらっていたが、どうやら立ち上がれたようだ。
しかしユーリは、立ち上がったアラタを見て辛そうに表情を歪めた。
なぜなら立ち上がったところで、アラタがこの男に勝てるとは思えなかったからだ。
アゲハ、リーザ、エクトール、レミュー、そしてレイチェル・・・・・・
現場を見たわけではないが、おそらくこのボウズ頭が一人で倒したんだ。
ありえない。とても信じらない。けれど現実として五人は倒れている。
たった一人でこれをやってのける相手に、アラタが勝てるのか?
勝てると信じたい、けれどこれだけの現実を見せつけられて、ユーリの心中は込み上げてくる絶望を、無理やり押さえつけるので精一杯だった。
気が付けば叫んでいた
「アラタ!逃げて!」
「・・・・・なぜ立ち上がった?そのまま寝ていれば、苦しい思いをしないですむのに」
膝を着いていたアラタが立ち上がると、村戸修一は微かな苛立ちを含み言葉を発した。
強烈な左のボディブローだった。
呼吸ができないくらい、重く苦しい一発だった。
「痛ッ・・・ぐっ、はぁ・・・ふぅ・・・さ、さすが、村戸さんだ・・・すげぇパンチだ」
腹を押さえながら立ち上がったアラタは、目の前に立つ恩人を見上げた。
外見はすっかり変わってしまった。
記憶にある村戸修一は三十歳になったばかりで、こんなに白髪ばかりではなかった。
自分を見る目も、かつての親しみを込めた優しい眼差しではなく、まるで感情の無い黒い空洞のような瞳だった。
「村戸さん・・・・・」
あの日・・・マルゴンからこの世界に村戸さんがいると聞いた時、いつか会えるかもしれない・・・そう思っていた。
最後に会ったのは、日本での仕事帰りだった。
俺と弥生さんと村戸さんの三人で、店を閉めて駐車場を歩いていた時、あの男に襲われて俺は死んだ。
それから弥生さんと村戸さんがどうなったのか、はっきりした事は分からないけど、多分あの男に殺されたんだろう。
マルゴンから、今の村戸さんがどういう状態だったのか聞いた時は、本当にショックを受けた。
自分の事もよく分からなくなって、俺と同じ光の力を使って何人も殺したと聞いた。
村戸さんは変わってしまったのかもしれない。
だけど、俺にとって村戸さんは村戸さんだ。何も変わらない。
俺にボクシングを教えてくれて、俺に居場所をくれた。
転職を繰り返した根性無しの俺に、根気よく付き合ってくれて、仕事の楽しさを教えてくれた。
夜勤の後にご飯を奢ってくれて、仕事以外でも遊びに連れて行ってくれた。
俺にとって村戸さんは、恩人という一言では言い表せないくらい大切な人だ。
だからもう一度会えたら・・・・・もう一度会えた時・・・・・
村戸さん・・・・・俺、話したい事が沢山あったんだ
「村戸さん・・・俺、俺本当に村戸さんを・・・・・」
薄っすらと視界が滲んだ。
「新・・・言ったはずだ。敵と馴れ合えば死ぬだけだぞ。この状況でまだ俺に敵意を向けられないのなら、死ぬしかないぞ」
村戸修一の右フックがアラタの左頬を殴り抜いた!
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