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「村戸さん・・・」
緋色の髪の女、スカーレットの後ろに立った村戸さんは、俺の目をじっと見つめていた。
しかしその目は、さっきまでのような憎悪に満ちたものではなく、何かを懐かしむような・・・そして悲しみを湛えた色を映していた。
「新・・・・・強く・・・強くなったな・・・」
険の無い声色だった。
少しだけ昔に戻ったような、優しさをも感じられる言葉を向けられて、俺の心は少しだけ揺れ動いた。
もしかしたら戻れるかもしれない。
今なら自分の話しもちゃんと聞いてくれるんじゃないのか?
あの頃の・・・優しかった村戸さんに戻ってくれるんじゃ・・・・・
そう、願い求めた。
「・・・お前の力、お前の心・・・この世界でどう生きてきたのか・・・お前の拳が教えてくれたよ」
村戸修一はスカーレットの前に歩き出ると、僅かに表情を崩しアラタに話しかけた。
敵に対しての態度としてはありえない。
いつも抑揚の無い話し方をするデューク・サリバンの、こんな人間らしい一面は見た事がない。
スカーレットはデュークが何を考えているのか分からず、その手を掴んで止めようとした。
どうやら正面の黒髪の男とデュークは、旧知の中のようだ。戦いの中で説得をされたのかもしれない。
それでデュークの心が移ってしまったら・・・・・
しかし、そんなスカーレットの心の内を読んだかのように、デュークは前を向いたままハッキリと言い切った。
「心配するなスカーレット・・・お前の考えている事にはならない」
「・・・信じていいんだな?」
デューク・サリバンが前を向いたまま頷くと、スカーレットは少しの逡巡の後、その手を離した。
「・・・俺はもう村戸修一ではなく、デューク・サリバンだからな」
自分に言い聞かせるように、そう言葉を口にした。
日本にいた時の名は捨てた。
この世界で皇帝に名を問われた時、村戸修一と名乗ろうとしたが、実際に口から出た名がデューク・サリバン・・・・・ボクシングの初代ヘビー級王者の名前だった。
なぜ村戸修一と名乗らなかったのか・・・俺は怖かったんだ。
日本では殺人は許される行為ではない。だがこの世界で俺は数えきれない程の人間を殺した。
もし日本に帰れたとしても、もう父も母も友人も、みんなが知っている俺はどこにもいないんだ。
だから別人になりたかった。
村戸修一は死んだんだ。みんなが知っている村戸修一はもういないんだ。
俺は村戸修一ではない!俺は・・・俺は・・・・・!
皇帝に名を問われた時、俺の頭には憧れのヘビー級王者が、輝かしい表情でベルトを掲げている姿が思い浮かんだ。
「・・・・・村戸さん」
新の前に立つ。新は俺より5cm程低いから、少しだけ見下ろす形になる。
かつての俺の名前を口にするその表情は、何かを期待しているようにも見える。
新の体から発せられる風は、新の精神状態に左右されるのか、一時の激しさは治まり今は静かに吹いていた。
「新、その名で呼ばれた男は死んだ。俺はデューク・サリバンだ」
今、俺はハッキリと決別を告げた。
新の目を真っすぐに見て、村戸修一は死んだと告げたのだ。
「っ!・・・・・む、村戸さん・・・そんな・・・」
新の表情が一瞬で絶望に染まる。
か細い声で未練を口にしているが、もうどうしようもないのだ。
「・・・新、お前はこの世界で護るべき者ができたんだな・・・ならばもう俺との思い出など捨てろ、お前の道と俺の道が交わる事は決してない。今日だけは、かつてのよしみで退いてやろう。だが次に会った時は容赦はしない・・・・・」
俺の言葉をどう受け止めたのかは分からない。
だが新は、その顔を悲しみに暮れさせながらも、俺から目を逸らさず最後まで聞いていた。
そうだ・・・お前も本当は分かってるんだろ?
俺達はもう戻れない。戦うしかないんだ。
だが今は・・・俺ももう新に拳を向けられない。新もこれ以上の戦闘を望んでいない。
俺と新はしばらく視線だけを交わした・・・・・
やがて互いに目で語る事を終えると、俺は踵を返した。
一歩、二歩・・・足を前に出して、新と決別の道を歩く。
「・・・・・いいパンチだったぜ・・・・・」
数歩歩いて足を止めると、背中を向けたままそう告げた
振り返りはしない
だが新が俺の言葉を受け取った事は分かった
俺が村戸修一として、新の兄貴分として、最後にこれだけは伝えておきたかった
俺がボクシングを教えたんだ
足の使い方、拳の構え方、俺が全部教えたんだ
そんな何も分からなかったあいつが、俺をダウンさせる程の一発を打った
それがとても
とても誇らしかった
「・・・デューク・・・お前・・・・・」
スカーレットは振り返った俺の顔を見て息を飲んだ。
よほど驚いたのだろう、何か言いたそうに俺を見つめたが、結局それ以上言葉を紡ぐ事はしなかった。
「・・・・・行くぞ」
震えそうな声を押さえ、それだけ口にするのがやっとだった。
立ち止まらずに歩く俺の後ろを、数歩遅れてスカーレットが無言で付いて来る。
今は沈黙が有難かった。
さらばだ、新・・・・・
次に会う時はデューク・サリバンとして、全力でお前を倒す。
枯れ果てたと思った雫が頬を濡らした
緋色の髪の女、スカーレットの後ろに立った村戸さんは、俺の目をじっと見つめていた。
しかしその目は、さっきまでのような憎悪に満ちたものではなく、何かを懐かしむような・・・そして悲しみを湛えた色を映していた。
「新・・・・・強く・・・強くなったな・・・」
険の無い声色だった。
少しだけ昔に戻ったような、優しさをも感じられる言葉を向けられて、俺の心は少しだけ揺れ動いた。
もしかしたら戻れるかもしれない。
今なら自分の話しもちゃんと聞いてくれるんじゃないのか?
あの頃の・・・優しかった村戸さんに戻ってくれるんじゃ・・・・・
そう、願い求めた。
「・・・お前の力、お前の心・・・この世界でどう生きてきたのか・・・お前の拳が教えてくれたよ」
村戸修一はスカーレットの前に歩き出ると、僅かに表情を崩しアラタに話しかけた。
敵に対しての態度としてはありえない。
いつも抑揚の無い話し方をするデューク・サリバンの、こんな人間らしい一面は見た事がない。
スカーレットはデュークが何を考えているのか分からず、その手を掴んで止めようとした。
どうやら正面の黒髪の男とデュークは、旧知の中のようだ。戦いの中で説得をされたのかもしれない。
それでデュークの心が移ってしまったら・・・・・
しかし、そんなスカーレットの心の内を読んだかのように、デュークは前を向いたままハッキリと言い切った。
「心配するなスカーレット・・・お前の考えている事にはならない」
「・・・信じていいんだな?」
デューク・サリバンが前を向いたまま頷くと、スカーレットは少しの逡巡の後、その手を離した。
「・・・俺はもう村戸修一ではなく、デューク・サリバンだからな」
自分に言い聞かせるように、そう言葉を口にした。
日本にいた時の名は捨てた。
この世界で皇帝に名を問われた時、村戸修一と名乗ろうとしたが、実際に口から出た名がデューク・サリバン・・・・・ボクシングの初代ヘビー級王者の名前だった。
なぜ村戸修一と名乗らなかったのか・・・俺は怖かったんだ。
日本では殺人は許される行為ではない。だがこの世界で俺は数えきれない程の人間を殺した。
もし日本に帰れたとしても、もう父も母も友人も、みんなが知っている俺はどこにもいないんだ。
だから別人になりたかった。
村戸修一は死んだんだ。みんなが知っている村戸修一はもういないんだ。
俺は村戸修一ではない!俺は・・・俺は・・・・・!
皇帝に名を問われた時、俺の頭には憧れのヘビー級王者が、輝かしい表情でベルトを掲げている姿が思い浮かんだ。
「・・・・・村戸さん」
新の前に立つ。新は俺より5cm程低いから、少しだけ見下ろす形になる。
かつての俺の名前を口にするその表情は、何かを期待しているようにも見える。
新の体から発せられる風は、新の精神状態に左右されるのか、一時の激しさは治まり今は静かに吹いていた。
「新、その名で呼ばれた男は死んだ。俺はデューク・サリバンだ」
今、俺はハッキリと決別を告げた。
新の目を真っすぐに見て、村戸修一は死んだと告げたのだ。
「っ!・・・・・む、村戸さん・・・そんな・・・」
新の表情が一瞬で絶望に染まる。
か細い声で未練を口にしているが、もうどうしようもないのだ。
「・・・新、お前はこの世界で護るべき者ができたんだな・・・ならばもう俺との思い出など捨てろ、お前の道と俺の道が交わる事は決してない。今日だけは、かつてのよしみで退いてやろう。だが次に会った時は容赦はしない・・・・・」
俺の言葉をどう受け止めたのかは分からない。
だが新は、その顔を悲しみに暮れさせながらも、俺から目を逸らさず最後まで聞いていた。
そうだ・・・お前も本当は分かってるんだろ?
俺達はもう戻れない。戦うしかないんだ。
だが今は・・・俺ももう新に拳を向けられない。新もこれ以上の戦闘を望んでいない。
俺と新はしばらく視線だけを交わした・・・・・
やがて互いに目で語る事を終えると、俺は踵を返した。
一歩、二歩・・・足を前に出して、新と決別の道を歩く。
「・・・・・いいパンチだったぜ・・・・・」
数歩歩いて足を止めると、背中を向けたままそう告げた
振り返りはしない
だが新が俺の言葉を受け取った事は分かった
俺が村戸修一として、新の兄貴分として、最後にこれだけは伝えておきたかった
俺がボクシングを教えたんだ
足の使い方、拳の構え方、俺が全部教えたんだ
そんな何も分からなかったあいつが、俺をダウンさせる程の一発を打った
それがとても
とても誇らしかった
「・・・デューク・・・お前・・・・・」
スカーレットは振り返った俺の顔を見て息を飲んだ。
よほど驚いたのだろう、何か言いたそうに俺を見つめたが、結局それ以上言葉を紡ぐ事はしなかった。
「・・・・・行くぞ」
震えそうな声を押さえ、それだけ口にするのがやっとだった。
立ち止まらずに歩く俺の後ろを、数歩遅れてスカーレットが無言で付いて来る。
今は沈黙が有難かった。
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