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1108 スープの温かさ
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「あら、あなた食べないの?」
夕食の席で、取り皿にサラダを分けたきり、まったく箸をつけないルーシーに、隣に座るシルヴィアが声をかけた。
「・・・・・あの彼、いつもこんなに食べるのか?」
ルーシーの視線の先には、口いっぱいにおにぎりやら唐揚げを詰め込みつつ、なおも料理をかき込むリカルドがいた。
どうやら圧倒されて、見ているだけでお腹がいっぱいになってしまったようだ。
「あ、リカルドね・・・フフフ、あの子もともと大食いなのよ。でも今日はいつも以上かしら。きっと誰かさんに一発でやられてスネちゃったのね」
口元に手を当てて、クスクスと笑うシルヴィア。
ルーシーは、そうなのか?、と呟いて、またあらためてリカルドを見る。
その視線に気づいたのか、リカルドは箸を止めると、ギロっとルーシーを睨み付けた。
「おまっ!調ひぶっごいでんばべぇぞ!オエがぼんぎばしべばらいっぱぶば!」
(訳おまっ!調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!俺が本気だしたら一発だ!)
「・・・えっと・・・ごめん、何言ってるのか全然分からない。ゴックンしてからもう一度言ってくれるかな?」
リカルドはまるでリスのように、頬袋をパンパンにしながら怒声を上げるが、そんな状態で話されても当然聞き取れるわけがなく、ルーシーは目をパチパチさせながら真顔で言葉を返した。
「おまっ!本当に・・・」
「リカルド、うるさい。汚い。口閉じないとぶっ飛ばすよ」
ルーシーにそのつもりはなかったが、リカルドは挑発されたと受け取ったらしく、テーブルから身を乗り出そうとした。だがそこで隣に座るユーリが肩を掴んで押さえると、しぶしぶと言った様子で腰を落ち着けて、顔を逸らして食事を再開し始めた。
ユーリもルーシーに少しだけ目を向けたが、言葉を交わす気はないらしく、リカルドと同じく顔を逸らした。
「・・・気を悪くしないでほしいんだけど、みんなすぐには受け入れられないのよ」
「ああ、まぁそれはそうだろうな。もう戦う気はないと言っても、すぐには信じられないだろう。警戒して当然だ」
「いいえ、それはちょっと違うわ。敵として戦ったからじゃないの、みんなが怒ってるのは、あなたがこのお店で暴れたからよ」
シルヴィアの言葉に、ルーシーは少し眉を寄せた。
リカルドもユーリも痛めつけられたから、ルーシーを受け入れず目も合わせようとしない。そうではないと言うのか?
「どういう、事だ?」
言葉の真意を問うルーシーに、シルヴィアは箸を置くと、どこか遠くに想いを馳せるように少し顔を上げて答えた。
「・・・みんなが怒ってるのはね、あなたがこのお店で暴れたからなのよ。このお店は店長がなによりも大切にしているの。私達全員にとっても特別な場所よ・・・私達一人一人の家、いつもそこにある安らぎの空間・・・そういう特別な場所なの。あなただって自分の家で暴れられたら怒るでしょ?」
言葉の最後に、シルヴィアはルーシーに顔を向けた。
そして自分に置き換えて問われた質問は、シルヴィアにとって、いや誰にとっても予想だにできないものだった。
「自分の家、か・・・・・そうか、お前達にとって家とは居心地の良い場所なんだな。だが私は違う・・・幼い頃から兄ばかりが期待され、私はどれだけ努力しても認めてもらえなかった。私にとって家とは・・・窮屈極まりない、息苦しいものだったよ・・・・・」
自虐気味に笑うルーシー。
そしてその口から語られた話しに、誰もが食事の手を止めて耳を傾けた。
「レオは強かった。アフマダリエフ一族の歴代最強とさえ言われる程だ。レオさえいればいい、レオが一族の評価をより高めてくれる・・・・・逆にいてもいなくてもいい、そんな稀薄な存在、それが私だ」
重苦しい話しの内容とは裏腹に、ルーシーの話しぶりは軽い調子だった。
大した事ではないと言っているように聞こえないでもないが、そう語るルーシー自身が、投げやりになっているようにしか見えないのは、それだけその心が擦り減っているからだろう。
優秀な兄の存在が大きすぎて、自分は何をしても見てもらえない。
兄を太陽だとすれば妹は影。ルーシーの心に巣食う鬱積(うっせき)したものが分かった気がした。
「・・・なるほど、お前があれほど一族の名誉にこだわった理由が見えたぞ」
ルーシーがひとしきり話し終えると、それまで黙って聞いていたレイチェルが口を開いた。
腕を組んだまま斜め向かいに座るルーシーに目を向け、一つ呼吸を置いて話しを続ける。
「兄のレオ・アフマダリフが死んだ事で、次の四勇士の座が自分に回ってきた。そうなって初めて、これまで自分に無関心だった親や親族が自分に感心を持った。それこそ病的なものだったんじゃないのか?重すぎるくらいのプレッシャーをかけて、お前がアフマダリエフの名誉を取り戻んだとか、そんな事を言われたんだろう?お前自身も初めて寄せられた期待に、なんとか応えようとしたんだろう。もし失敗すれば、またあの空虚な日々に逆戻りになるのでは?・・・その恐れがあの執念なんだろうな」
考察を交えたレイチェルの解釈は、おおよそ的を得ていたようだ。
ルーシーは反論する事もなく、しばし口をつぐんだままレイチェルと目を合わせていたが、やがて全てを認めたように、フッと笑って己の心の内をさらけだした。
「・・・そう、その通りだ・・・結局は私の心の弱さ、そして醜い嫉妬心だ。せっかく手にした四勇士の座を手放したくない。また空気のように誰の目にもふれなくなる事を恐れたがゆえの行動だ・・・・・すまない、お前達には迷惑をかけたな・・・・・」
謝罪の言葉が出てきた事に、レイチェル達は少なからず驚かされた。
反応はそれぞれだが、数時間前まで命のやりとりをしていた相手だ。
それがこうも素直な態度をとられるなんて思わなかった。
うつむくと銀色の髪が顔を隠すが、その声色から、ルーシーが今どんな表情をしているのか、この場にいる全員に伝わっていた。
「・・・もういいんじゃないかな?」
沈黙を破ったのはカチュアだった。
全員の視線がカチュアに顔を集まるが、誰も特に言葉を発せずに、カチュアの話しの続きを待った。
カチュアも全員が話しの続きを待っている事を見て、自分の思っている事を口にした。
「・・・私もね、最初はユーリとリカルド君を傷つけて、このお店で暴れた事は本当に許せないって思った。でも、今の話しを聞いて思ったの・・・・・ルーシーさんは、それくらい追い詰められてたんだって。誰にも頼れなくて、自分一人で抱え込んで、それでこうなっちゃったんだって分かったから・・・・・私はもう責められないよ。謝ってくれたし・・・みんなも、もういいよね?」
話し終えると、カチュアはルーシーに顔を向けて、優しく微笑んだ。
ルーシーもまさかかばってもらえるとは思ってなく、驚いたまま言葉を口にできず、カチュアの薄茶色の瞳をじっと見つめていた。
「あ~~~・・・俺はよ、こいつが起きたら色々言ってやりてぇ事があったんだけどよ、カッちゃんがそこまで言うんじゃなぁ~・・・なぁ、シーちゃん、どうするよ?」
ジャレットは頭の後ろで手を組むと、椅子を後ろに傾けながら、隣に座るシルヴィアに意見を求めた。
「フフフ、私もこんな話しを聞かされたら怒れないわ。もう敵意はないみたいだし、それにこれからの事を考えると、国内で争ってる場合ではないでしょ?」
「そっか・・・戦ったシーちゃんがそう言うんなら俺も文句はねぇよ」
ジャレットはシルヴィアの顔を見て、納得したように頷いた。
ルーシーに狙われていた二人が怒りを治めた事で、レイジェスの他のメンバー達もこれ以上何も言う事はしなかった。怪我をしたリカルドもユーリも、まだ思うところはあったかもしれないが、一応は納得の意を見せている。
「みんな、ありがとう」
自分の意見に同意してくれた事に、カチュアは表情を柔らかくして感謝の言葉を口にした。
「ふふ、カチュア、キミは本当に優しいな」
レイチェルも先刻までは、ルーシーに対して厳しい対応を一考していた。
だがルーシーがこのような暴挙に走った背景を知り、本人も反省の意を示している事から、この件はここまででいいと考え直していた。
「え・・・と、いいのか?私はお前達の大切な場所で暴れたんだぞ?そんな簡単に許して、いいのか?」
こうもあっさり許された事に、ルーシーは戸惑い、周りを見回すと、シルヴィアが優しく声をかけた。
「いいのよ・・・あなたは反省して謝った。それでこの話しはお終い。さぁ、もうご飯食べましょう。冷めちゃうわよ?」
「・・・そう、か・・・・・」
シルヴィアから勧められたスープを口にする。
その温かさになぜか涙が出そうになり、ルーシーは肩を震わせながら、美味しい、と呟いた。
夕食の席で、取り皿にサラダを分けたきり、まったく箸をつけないルーシーに、隣に座るシルヴィアが声をかけた。
「・・・・・あの彼、いつもこんなに食べるのか?」
ルーシーの視線の先には、口いっぱいにおにぎりやら唐揚げを詰め込みつつ、なおも料理をかき込むリカルドがいた。
どうやら圧倒されて、見ているだけでお腹がいっぱいになってしまったようだ。
「あ、リカルドね・・・フフフ、あの子もともと大食いなのよ。でも今日はいつも以上かしら。きっと誰かさんに一発でやられてスネちゃったのね」
口元に手を当てて、クスクスと笑うシルヴィア。
ルーシーは、そうなのか?、と呟いて、またあらためてリカルドを見る。
その視線に気づいたのか、リカルドは箸を止めると、ギロっとルーシーを睨み付けた。
「おまっ!調ひぶっごいでんばべぇぞ!オエがぼんぎばしべばらいっぱぶば!」
(訳おまっ!調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!俺が本気だしたら一発だ!)
「・・・えっと・・・ごめん、何言ってるのか全然分からない。ゴックンしてからもう一度言ってくれるかな?」
リカルドはまるでリスのように、頬袋をパンパンにしながら怒声を上げるが、そんな状態で話されても当然聞き取れるわけがなく、ルーシーは目をパチパチさせながら真顔で言葉を返した。
「おまっ!本当に・・・」
「リカルド、うるさい。汚い。口閉じないとぶっ飛ばすよ」
ルーシーにそのつもりはなかったが、リカルドは挑発されたと受け取ったらしく、テーブルから身を乗り出そうとした。だがそこで隣に座るユーリが肩を掴んで押さえると、しぶしぶと言った様子で腰を落ち着けて、顔を逸らして食事を再開し始めた。
ユーリもルーシーに少しだけ目を向けたが、言葉を交わす気はないらしく、リカルドと同じく顔を逸らした。
「・・・気を悪くしないでほしいんだけど、みんなすぐには受け入れられないのよ」
「ああ、まぁそれはそうだろうな。もう戦う気はないと言っても、すぐには信じられないだろう。警戒して当然だ」
「いいえ、それはちょっと違うわ。敵として戦ったからじゃないの、みんなが怒ってるのは、あなたがこのお店で暴れたからよ」
シルヴィアの言葉に、ルーシーは少し眉を寄せた。
リカルドもユーリも痛めつけられたから、ルーシーを受け入れず目も合わせようとしない。そうではないと言うのか?
「どういう、事だ?」
言葉の真意を問うルーシーに、シルヴィアは箸を置くと、どこか遠くに想いを馳せるように少し顔を上げて答えた。
「・・・みんなが怒ってるのはね、あなたがこのお店で暴れたからなのよ。このお店は店長がなによりも大切にしているの。私達全員にとっても特別な場所よ・・・私達一人一人の家、いつもそこにある安らぎの空間・・・そういう特別な場所なの。あなただって自分の家で暴れられたら怒るでしょ?」
言葉の最後に、シルヴィアはルーシーに顔を向けた。
そして自分に置き換えて問われた質問は、シルヴィアにとって、いや誰にとっても予想だにできないものだった。
「自分の家、か・・・・・そうか、お前達にとって家とは居心地の良い場所なんだな。だが私は違う・・・幼い頃から兄ばかりが期待され、私はどれだけ努力しても認めてもらえなかった。私にとって家とは・・・窮屈極まりない、息苦しいものだったよ・・・・・」
自虐気味に笑うルーシー。
そしてその口から語られた話しに、誰もが食事の手を止めて耳を傾けた。
「レオは強かった。アフマダリエフ一族の歴代最強とさえ言われる程だ。レオさえいればいい、レオが一族の評価をより高めてくれる・・・・・逆にいてもいなくてもいい、そんな稀薄な存在、それが私だ」
重苦しい話しの内容とは裏腹に、ルーシーの話しぶりは軽い調子だった。
大した事ではないと言っているように聞こえないでもないが、そう語るルーシー自身が、投げやりになっているようにしか見えないのは、それだけその心が擦り減っているからだろう。
優秀な兄の存在が大きすぎて、自分は何をしても見てもらえない。
兄を太陽だとすれば妹は影。ルーシーの心に巣食う鬱積(うっせき)したものが分かった気がした。
「・・・なるほど、お前があれほど一族の名誉にこだわった理由が見えたぞ」
ルーシーがひとしきり話し終えると、それまで黙って聞いていたレイチェルが口を開いた。
腕を組んだまま斜め向かいに座るルーシーに目を向け、一つ呼吸を置いて話しを続ける。
「兄のレオ・アフマダリフが死んだ事で、次の四勇士の座が自分に回ってきた。そうなって初めて、これまで自分に無関心だった親や親族が自分に感心を持った。それこそ病的なものだったんじゃないのか?重すぎるくらいのプレッシャーをかけて、お前がアフマダリエフの名誉を取り戻んだとか、そんな事を言われたんだろう?お前自身も初めて寄せられた期待に、なんとか応えようとしたんだろう。もし失敗すれば、またあの空虚な日々に逆戻りになるのでは?・・・その恐れがあの執念なんだろうな」
考察を交えたレイチェルの解釈は、おおよそ的を得ていたようだ。
ルーシーは反論する事もなく、しばし口をつぐんだままレイチェルと目を合わせていたが、やがて全てを認めたように、フッと笑って己の心の内をさらけだした。
「・・・そう、その通りだ・・・結局は私の心の弱さ、そして醜い嫉妬心だ。せっかく手にした四勇士の座を手放したくない。また空気のように誰の目にもふれなくなる事を恐れたがゆえの行動だ・・・・・すまない、お前達には迷惑をかけたな・・・・・」
謝罪の言葉が出てきた事に、レイチェル達は少なからず驚かされた。
反応はそれぞれだが、数時間前まで命のやりとりをしていた相手だ。
それがこうも素直な態度をとられるなんて思わなかった。
うつむくと銀色の髪が顔を隠すが、その声色から、ルーシーが今どんな表情をしているのか、この場にいる全員に伝わっていた。
「・・・もういいんじゃないかな?」
沈黙を破ったのはカチュアだった。
全員の視線がカチュアに顔を集まるが、誰も特に言葉を発せずに、カチュアの話しの続きを待った。
カチュアも全員が話しの続きを待っている事を見て、自分の思っている事を口にした。
「・・・私もね、最初はユーリとリカルド君を傷つけて、このお店で暴れた事は本当に許せないって思った。でも、今の話しを聞いて思ったの・・・・・ルーシーさんは、それくらい追い詰められてたんだって。誰にも頼れなくて、自分一人で抱え込んで、それでこうなっちゃったんだって分かったから・・・・・私はもう責められないよ。謝ってくれたし・・・みんなも、もういいよね?」
話し終えると、カチュアはルーシーに顔を向けて、優しく微笑んだ。
ルーシーもまさかかばってもらえるとは思ってなく、驚いたまま言葉を口にできず、カチュアの薄茶色の瞳をじっと見つめていた。
「あ~~~・・・俺はよ、こいつが起きたら色々言ってやりてぇ事があったんだけどよ、カッちゃんがそこまで言うんじゃなぁ~・・・なぁ、シーちゃん、どうするよ?」
ジャレットは頭の後ろで手を組むと、椅子を後ろに傾けながら、隣に座るシルヴィアに意見を求めた。
「フフフ、私もこんな話しを聞かされたら怒れないわ。もう敵意はないみたいだし、それにこれからの事を考えると、国内で争ってる場合ではないでしょ?」
「そっか・・・戦ったシーちゃんがそう言うんなら俺も文句はねぇよ」
ジャレットはシルヴィアの顔を見て、納得したように頷いた。
ルーシーに狙われていた二人が怒りを治めた事で、レイジェスの他のメンバー達もこれ以上何も言う事はしなかった。怪我をしたリカルドもユーリも、まだ思うところはあったかもしれないが、一応は納得の意を見せている。
「みんな、ありがとう」
自分の意見に同意してくれた事に、カチュアは表情を柔らかくして感謝の言葉を口にした。
「ふふ、カチュア、キミは本当に優しいな」
レイチェルも先刻までは、ルーシーに対して厳しい対応を一考していた。
だがルーシーがこのような暴挙に走った背景を知り、本人も反省の意を示している事から、この件はここまででいいと考え直していた。
「え・・・と、いいのか?私はお前達の大切な場所で暴れたんだぞ?そんな簡単に許して、いいのか?」
こうもあっさり許された事に、ルーシーは戸惑い、周りを見回すと、シルヴィアが優しく声をかけた。
「いいのよ・・・あなたは反省して謝った。それでこの話しはお終い。さぁ、もうご飯食べましょう。冷めちゃうわよ?」
「・・・そう、か・・・・・」
シルヴィアから勧められたスープを口にする。
その温かさになぜか涙が出そうになり、ルーシーは肩を震わせながら、美味しい、と呟いた。
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