異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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1149 人形と狂気

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「よ~し!狙い通りだよ、ラニ。クインズベリー軍はすっごい混乱してる!褒めて褒めて!」

アレリーは両手をぐっと握り締めると、雪の中をピョンピョンと飛び跳ねて、嬉しそうな顔をラニに向けた。なぜかその両目は閉じられているが、満面の笑みを浮かべている事から、手応えを感じているのは間違いないようだ。

「さすがアレリーだ。私には見えないから状況は分からないけど、順調みたいだね。魔道具 淑女(しゅくじょ)の人形・・・集団をひっかきまわすのに、あれほど適した物はないよ」

目を閉じているアレリーに自分の位置を教えるように、ラニは一歩アレリーに近づくと、その背中をポンと叩いた。

「えへへ、すごい!?すごいでしょ!?この調子でザックザック切り裂いてやっ、おっと危ない!っ、この!ザコのくせになに斬りかかってくるのさ!死ね!」

アレリーは目を閉じたまま一歩後ろに飛び退くと、目の前の何も無い空間に向かって、右手を突き出した!

「よし、これで10人目!って、あ!しまったぁ~・・・今のヤツに手間取ったせいで、連中に見つかっちゃった」

何かを握っているように、軽く開けている右手を引くと、両目を閉じたまま右に左に首を回す。
その仕草はまるで、この場でアレリーが戦っているように見える。

「もう人形が見つかったの?・・・予想より早いね、人形の素早さなら、もう少し隠れたままいけると思ったけど・・・目ざといヤツがいるみたいだね?それにしてもアレリー、別に自分の体を動かさなくても、人形は操作できるんでしょ?」

見えない敵と戦うように、ところかまわず腕を振り回すアレリーから距離を取ったラニは、腕を組んで不思議そうに首を傾げながら問いかける。

「はぁ、ふぅ・・・えい!そうだけどセイラを通して敵が見えるとさ、自分が戦ってる感じがして、つい体を動かしちゃうんだよ・・・あ、この!あっぶないなぁ!死ね!」

「ふーん、そういうものなのかね・・・まぁ、使い手にしか分からない感覚なのかな?ところで忘れてないよね?危ないと思ったらすぐに人形を戻すんだよ?私らの任務はあくまで戦力を削る事だからね?二人でクインズベリー軍を全滅させられるなんて、リーダーも考えてないんだからさ。アダメスとサンティアゴの、二の舞にだけはなっちゃ駄目だ」

自由奔放、感情のままに動くところがあるアレリーとは対照的に、ラニは計画を立て、状況を見極めて行動をする。正反対の二人だが不思議と気が合い、二人はいつも行動を共にしていた。
そして今回もアレリーの頭から抜けているのではと、ラニは自分達の役目をあらためて口にした。

「分かってるよ、それよりラニ、人形人形って言わないでよ。あの子にはセイラって名前があるんだからね?おっと、えい!この!死ね死ね!このクインズベリーめ!」

「はいはい、分かった分かった、アレリーってそういうとこ拘るよね?・・・じゃあ、セイラの操作をしてる間は私がフォローするから、気がすむまでやりなよ」

ラニが肩をすくめて小さく笑うと、アレリーの振り回す腕に巻き込まれないくらいの距離をとった。

アレリーは淑女の人形を操作している間、目を閉じる事で人形の視界を共有する事ができる。
その代わりの自分の視界を閉ざす事になるため、誰かがそばにいて護らないと、まったくの無防備になってしまうのだ。


「・・・今のところ順調か、だけど人形が見つかったんなら、撤退の準備はしておいた方がいいか。リーダー・・・アダメスとサンティアゴは失敗したけど、私達はきっちりとこなしてみせますよ」


チラチラと雪の降る空を見上げ、ラニは小さく呟いた。





アレリーの魔道具 淑女の人形は、20センチ程度の小さな人形である。
艶やかなブロンドの髪、透き通るような碧い瞳、白く清楚なドレスを着たデザインは、淑女と呼ぶにふさわしい人形だった。

この人形がいつ、どこで、誰によって作られたのか?それは分からない。

帝国の宝物庫に眠っていたこの魔道具は、最初に発見された時はごく普通の人形としか見られていなかった。

作り自体は良かったし、宝物庫にあったのだから価値のある人形なのだろう。
誰もがその程度にしか思わず、人形はその存在をすぐに忘れさられてしまった。


だがこの人形は主人を選んでいた。


アレリー達を束ねるチームのリーダーである男が、ある日城からこの人形を持って来た。

大の男が可愛らしい人形を持って来たのだ、何事かと皆が怪訝そうに目を向けた。
なぜリーダーは人形なんか持っているのかと。

「あ!リーダー!その子すっごい可愛い!その子どうしたんですか!?あたしへのプレゼントですか!?」

皆が怪訝そうに目を向ける中、一人だけ、アレリーだけは違った。
愛らしい淑女の人形に心を奪われ、嬉々としてリーダーへ駆け寄ると、食い入るように人形を見つめるのだ。


「・・・前回の仕事を評価されてな・・・金の他に、宝物庫から一つ褒美をもらえる事になったんだ。アレリー、お前こういうの好きだろ?」

「え!?リーダー本当にあたしにくれるんですか!?やったー!リーダー大好き!」

リーダーから人形を受け取り、アレリーが嬉しそうに人形を胸に抱く。
その時、淑女の人形の口元が微かに持ち上がったのを、リーダーは見逃さなかった。


「・・・やはり城の連中は見る目の無いヤツばかりだ。アレリー、その人形はお前を主人と認めたようだ。魔力を流せば自由に動かせるはずだ、やってみろ」

「え?そうなんですか?じゃあやってみまーす。ん~と、はい・・・わっ!本当に動いた!」

アレリーが魔力を流すと、淑女の人形がクルクルと体を回し始めた。
その様子を見て、リーダーの男は納得したように頷き、アレリーへの言葉を続けた。

「・・・アレリー、今使っている魔道具よりも、その人形の方がお前には合うだろう。使いこなしてみろ。そして見返してやるんだ、もう誰にもお前を嗤わせるな」

「え?リーダー、もしかしてこの子に仕事をさせるんですか?」

「そうだ、心配するなアレリー、その人形はお前を主人と認めた。だから仕事を嫌がる事はない。むしろお前のために喜んで仕事をしてくれるんだ」

「そうなんですか?それならあたし、今日からこの子と仕事をします!あ、もちろんラニも一緒だよ!」



魔道具淑女の人形は、すぐにアレリーの意のままに動くようになった。
素早く音もなく忍び寄り、帝国にとって邪魔な人間を始末する。そして仕事を終えた後は、純白のドレスが血に塗れ、真っ赤に染まっている。そして手にはナイフを握っているのだ。


清楚で愛らしい淑女の人形は、いつしかこう呼ばれるようになった・・・呪いの淑女と・・・・・



「セイラ!このままクインズベリーを皆殺しだよ!」

どんなに離れていても、精神を一体化させて戦っているアレリーの声は、淑女の人形に届いているのだろう。

なぜなら、クインズベリーの兵士を襲う人形の瞳が怪しい光を放ち、歪んだ笑みは使い手のアレリーと同じ狂気に満ちていたからだ。


次々と上がるクインズベリー軍の兵士達の悲鳴は、雪の降る空へと吸い込まれていった・・・・・
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