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1248 無礼
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レイマートがバージルを退けた事で、パウンド・フォーの戦況は一気にクインズベリーへと傾いた。
副団長のバージル・ビジェラが片腕を失い、戦線を離脱する姿を目撃した帝国の兵士達は動揺を隠しきれず、それは帝国軍に広く伝わって行った。
元々の勢いもクインズベリーにあった。だがずば抜けたパワーで軍を引っ張って来たバージルの敗走は、思いの他帝国軍に大きな衝撃を与えたのだ。もはや地理的有利など無いに等しく、帝国軍は防戦一方に追い込まれていた。
「ぐぅッ・・・く、くそっ!あ、あのゴールド騎士めぇぇぇ!」
前線から遠く離れ、後方まで下がったバージルは、帝国の白魔法使いからヒールによる治療を受けていた。今でこそ出血は止まっているが、肩口から腕を斬り飛ばされた事で、ここに来るまでに大量の血を失っていた。
身長ニメートルの巨躯であっても、片腕を失い、大量の失血によるダメージは大きかった。血の気を失った顔は青白く、動悸も異常なまでに早い。呼吸も浅く、呂律(ろれつ)もうまく回っていない。
満身創痍。それが今のバージルの状態だった。
「・・・お、終わりました。い、いかがですか?」
治療を行っていた白魔法使いの女が、恐る恐ると声をかける。
傷口は塞がった。痛みもほぼ無くなっただろう。だが失った左腕が生えてくる事などあるはずもなく、バージルは左の肩口を押さえながら、怒りと憎しみに顔を歪ませ、体を震わせていた。
「ゆ、許さん・・・絶対に許さん!あのゴールド騎士め!ぶち殺してやるァァァァァァーーーーーーーッツ!」
「ひっ!」
目の前で怒声を浴びせられた白魔法使いの女は、怯えて腰を抜かしてしまった。
息も絶え絶えだが、それでもニメートルの大男がぶちまける怒りは、それだけで恐怖である。周囲で様子を見ていた部下の兵士達も、声をかける事ができず立ち尽くしていた。
「バージル副団長、うるさいんで静かにしてください」
大の男達が動けずにいた中、栗色の髪の女魔法使いがスタスタと前に進み出て、怒声をまき散らすバージルに遠慮のない言葉をかけた。
「あぁッ!?てめっ・・・」
「でっかい図体して腕一本くらいでみっともない。もう何人死んだと思ってるんです?戦争してるんですよ?命があっただけ良かったじゃないですか?」
ガバッと立ち上がり詰め寄ろうとしたバージルの言葉を遮り、栗色の髪の魔法使い、トリッシュ・ルパージュは挑発としか思えない言葉をぶつける。
「・・・トリッシュ、てめぇの態度はよぉ、可愛いもんだと思っていつもは見逃してやってたけどよ、今回はシャレになんねぇぞ?ぶち殺される覚悟はできてんだろうな?」
残った右拳を握り締めるバージルのその表情は、激昂を通り越して能面のように無表情になっている。
しかしその言葉には明確な殺意があり、トリッシュを見下ろすその目も氷のように冷たい。
いまこの瞬間にこの拳が振り下ろされ、トリッシュの頭を叩き割ってもおかしなかった。
緊迫した空気が、この場の誰にも口を挟ませなかった。
次にトリッシュが口にする言葉によって、血を見る事になる。誰もが息を飲んでその時を待つ中で、なんとトリッシュは小さく頭を振って溜息をついた。
「はぁ・・・バージル副団長、あんまりがっかりさせないでください。私に八つ当たりしても何にもなりませんよ?」
このごに及んでも、なおふてぶてしいその態度に、バージルは有無を言わさず拳を振り上げた。
しかし続くトリッシュの言葉に、バージルは頭に叩きつけようとしたその拳を止めた。
「お忘れですか?アレがあるじゃないですか?」
形の良い唇に冷笑を浮かべ、トリッシュは正面からバージルの目を見つめてそう告げた。
ギリギリだった。トリッシュの髪に触れるか触れないかで拳を止めたバージルは、眉間にシワを寄せて挑戦的な目を向ける部下を睨みつける。
「・・・なんの事だ?」
「あら、分かりませんか?アレですよ、アレ。バージル副団長の、失った腕の代わりができる魔道具の事です。問題点が多くて実用は見送りになりましたけど、関係ありませんよね?だってこれは戦争なんですから。あいつらを皆殺しにする事が最優先ですよね?」
「・・・トリッシュ・・・てめぇ・・・」
そこまで言われて、バージルもトリッシュが何を求めているかを理解した。
その魔道具は、元々は失われた四肢の代わりとなるために作られた物だった。
だが試作品はことごとく失敗し、研究費ばかりが積もりに積もっていった。
そして研究はいったん打ち切られる事になった。
今後も研究は継続する。だが再開は未定である。それは開発者の面子のための方便であり、事実上の断念だった。
「・・・確か、打ち切られる前の最後の試作品・・・あれは開発の連中がやけくそになったのか、ずいぶんな出来だったみたいじゃねぇか?とても人助けの道具とは思えなかったって聞いてるぞ」
思いもかけない提案をされ、頭に上った血が下がったバージルは、拳をゆっくりと下ろした。
「そうですよ?だからいいんじゃないですか?やりますよね?やられっぱなしでいられませんよね?反動はきっついと思いますけど、帝国の勝利のために体張ってくださいよ」
とても部下が上官に向けていい、言葉の使い方ではない。
どう見ても上からものを言っているトリッシュに、周囲で事の成り行きを見ている兵士達も、冷たい汗をかかされていた。
やはりトリッシュは殺される。そう思った者も大勢いる。
だが現実は、大半の予想を裏切った。
「・・・トリッシュ、今ここでそれを俺に言うって事はよ、お前がアレを持ってるって事だよな?」
「はい。その通りです。誰も見向きもしないで放置されてましたから、私が貰っていいですよね?そのおかげでこうして有効活用できるんですから。そうですよね?」
一歩前に足を進めると、お互いの息があたるくらいまで顔を近づけた。
トリッシュの茶色い瞳が、バージルの金色の目をまばたきもせずにじっと見る。
その目はバージルから、反論も拒絶も奪い去った。
「・・・いいだろう、やってやるよ。お前の言う通り、やられっぱなしではいられねぇからな。さっさと持ってこい」
バージルの言葉に、トリッシュはとても嬉しそうに目を細め、満面の笑みを浮かべて見せた。
「承知しました。これでクインズベリーのクソ野郎共をぶっ殺せますね。素晴らしいご決断に感謝します」
副団長のバージル・ビジェラが片腕を失い、戦線を離脱する姿を目撃した帝国の兵士達は動揺を隠しきれず、それは帝国軍に広く伝わって行った。
元々の勢いもクインズベリーにあった。だがずば抜けたパワーで軍を引っ張って来たバージルの敗走は、思いの他帝国軍に大きな衝撃を与えたのだ。もはや地理的有利など無いに等しく、帝国軍は防戦一方に追い込まれていた。
「ぐぅッ・・・く、くそっ!あ、あのゴールド騎士めぇぇぇ!」
前線から遠く離れ、後方まで下がったバージルは、帝国の白魔法使いからヒールによる治療を受けていた。今でこそ出血は止まっているが、肩口から腕を斬り飛ばされた事で、ここに来るまでに大量の血を失っていた。
身長ニメートルの巨躯であっても、片腕を失い、大量の失血によるダメージは大きかった。血の気を失った顔は青白く、動悸も異常なまでに早い。呼吸も浅く、呂律(ろれつ)もうまく回っていない。
満身創痍。それが今のバージルの状態だった。
「・・・お、終わりました。い、いかがですか?」
治療を行っていた白魔法使いの女が、恐る恐ると声をかける。
傷口は塞がった。痛みもほぼ無くなっただろう。だが失った左腕が生えてくる事などあるはずもなく、バージルは左の肩口を押さえながら、怒りと憎しみに顔を歪ませ、体を震わせていた。
「ゆ、許さん・・・絶対に許さん!あのゴールド騎士め!ぶち殺してやるァァァァァァーーーーーーーッツ!」
「ひっ!」
目の前で怒声を浴びせられた白魔法使いの女は、怯えて腰を抜かしてしまった。
息も絶え絶えだが、それでもニメートルの大男がぶちまける怒りは、それだけで恐怖である。周囲で様子を見ていた部下の兵士達も、声をかける事ができず立ち尽くしていた。
「バージル副団長、うるさいんで静かにしてください」
大の男達が動けずにいた中、栗色の髪の女魔法使いがスタスタと前に進み出て、怒声をまき散らすバージルに遠慮のない言葉をかけた。
「あぁッ!?てめっ・・・」
「でっかい図体して腕一本くらいでみっともない。もう何人死んだと思ってるんです?戦争してるんですよ?命があっただけ良かったじゃないですか?」
ガバッと立ち上がり詰め寄ろうとしたバージルの言葉を遮り、栗色の髪の魔法使い、トリッシュ・ルパージュは挑発としか思えない言葉をぶつける。
「・・・トリッシュ、てめぇの態度はよぉ、可愛いもんだと思っていつもは見逃してやってたけどよ、今回はシャレになんねぇぞ?ぶち殺される覚悟はできてんだろうな?」
残った右拳を握り締めるバージルのその表情は、激昂を通り越して能面のように無表情になっている。
しかしその言葉には明確な殺意があり、トリッシュを見下ろすその目も氷のように冷たい。
いまこの瞬間にこの拳が振り下ろされ、トリッシュの頭を叩き割ってもおかしなかった。
緊迫した空気が、この場の誰にも口を挟ませなかった。
次にトリッシュが口にする言葉によって、血を見る事になる。誰もが息を飲んでその時を待つ中で、なんとトリッシュは小さく頭を振って溜息をついた。
「はぁ・・・バージル副団長、あんまりがっかりさせないでください。私に八つ当たりしても何にもなりませんよ?」
このごに及んでも、なおふてぶてしいその態度に、バージルは有無を言わさず拳を振り上げた。
しかし続くトリッシュの言葉に、バージルは頭に叩きつけようとしたその拳を止めた。
「お忘れですか?アレがあるじゃないですか?」
形の良い唇に冷笑を浮かべ、トリッシュは正面からバージルの目を見つめてそう告げた。
ギリギリだった。トリッシュの髪に触れるか触れないかで拳を止めたバージルは、眉間にシワを寄せて挑戦的な目を向ける部下を睨みつける。
「・・・なんの事だ?」
「あら、分かりませんか?アレですよ、アレ。バージル副団長の、失った腕の代わりができる魔道具の事です。問題点が多くて実用は見送りになりましたけど、関係ありませんよね?だってこれは戦争なんですから。あいつらを皆殺しにする事が最優先ですよね?」
「・・・トリッシュ・・・てめぇ・・・」
そこまで言われて、バージルもトリッシュが何を求めているかを理解した。
その魔道具は、元々は失われた四肢の代わりとなるために作られた物だった。
だが試作品はことごとく失敗し、研究費ばかりが積もりに積もっていった。
そして研究はいったん打ち切られる事になった。
今後も研究は継続する。だが再開は未定である。それは開発者の面子のための方便であり、事実上の断念だった。
「・・・確か、打ち切られる前の最後の試作品・・・あれは開発の連中がやけくそになったのか、ずいぶんな出来だったみたいじゃねぇか?とても人助けの道具とは思えなかったって聞いてるぞ」
思いもかけない提案をされ、頭に上った血が下がったバージルは、拳をゆっくりと下ろした。
「そうですよ?だからいいんじゃないですか?やりますよね?やられっぱなしでいられませんよね?反動はきっついと思いますけど、帝国の勝利のために体張ってくださいよ」
とても部下が上官に向けていい、言葉の使い方ではない。
どう見ても上からものを言っているトリッシュに、周囲で事の成り行きを見ている兵士達も、冷たい汗をかかされていた。
やはりトリッシュは殺される。そう思った者も大勢いる。
だが現実は、大半の予想を裏切った。
「・・・トリッシュ、今ここでそれを俺に言うって事はよ、お前がアレを持ってるって事だよな?」
「はい。その通りです。誰も見向きもしないで放置されてましたから、私が貰っていいですよね?そのおかげでこうして有効活用できるんですから。そうですよね?」
一歩前に足を進めると、お互いの息があたるくらいまで顔を近づけた。
トリッシュの茶色い瞳が、バージルの金色の目をまばたきもせずにじっと見る。
その目はバージルから、反論も拒絶も奪い去った。
「・・・いいだろう、やってやるよ。お前の言う通り、やられっぱなしではいられねぇからな。さっさと持ってこい」
バージルの言葉に、トリッシュはとても嬉しそうに目を細め、満面の笑みを浮かべて見せた。
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