異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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1283 塵は風に消えて

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アゲハに強く手を引かれた事で、両手をついて地面に倒れこむ形になったが、俺はすぐさま起き上がった。なぜなら手を引かれたその時、アゲハの鬼気迫る表情をこの目で見たからだ。そして察した、何かの脅威から俺を護るための行動だったのだと。

そして立ち上がった俺は、目の前の光景に愕然とした。

死んだと思ったはずのジャロン・リピネッツが立ち上がっていたのだ。

なんだと・・・!?こいつ、あの状態で生きていたのか!?
いや、生きていたとしても、あれで立てるものなのか!?くそっ、油断した!


だが俺の焦りや困惑を他所に、アゲハは真正面から向かって行った。そして左拳でジャロンの顔面を打ち抜いた。

立ったとは言え、ジャロンが満身創痍だった事は否めない。意識も朦朧(もうろう)としているはずだ。
まともに戦える状態ではないはず。だからアゲハの拳も防御などできるはずもなく、まともにくらう事になったのだ。

よし!やはりジャロンは反応もできていない!今度こそ勝っ・・・!?


「ッ!アゲハーーーーーーーーーーッツ!」


アゲハの左拳で殴り飛ばされたジャロン・リピネッツは、受け身すらとれずに頭から地面に叩きつけられた。だが俺が勝利を確信したその時、アゲハの腹部にはあの古びたナイフが深々と突き刺さっていた。


「あ・・・う、ぐぅぅ・・・・!」


刺された腹部、左の脇腹を押さえながらアゲハはその場に崩れ落ちた。
出血と共に傷口から黒い煙が上がり始める。

ジャロン・リピネッツの武器、呪いの刃は触れた物を腐らせる。

体力型のアゲハは、数々の厳しい修行を経験してきた。帝国では師団長に上り詰めるために、数多(あまた)の強敵とも戦ってきた。生傷の絶えない日々、大怪我を負った事も何度もある。

だがその全てを乗り越えて来たアゲハは、苦痛に耐える強い精神を持った戦士である。

しかし体を腐らせられる事は初めてだった。

健康な肉体がじわじわと腐敗させられていく。殴る、蹴る、斬る、そのどれとも種類の違う苦痛。
襲って来る強烈な吐き気、体の内側から発せられる耐え難い程の不快な臭い、そして傷口が熱を帯びて肉が焼け始めた時、アゲハは絶叫した。


「う、ぐぅ・・・あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッツ!」

「アゲハーーーーーーーーッツ!」


まずい!

駆け寄った俺はそれを見て絶句した。刺された腹部が黒と緑を混ぜたような色に変色し、腐った生物のような臭いを発しながら、黒い煙を上げていた。

「ア、アゲハ・・・くっ!」

どうする!?俺になにかできる事は、いや、情けないが青魔法使いの俺にはどうする事もできない。
クアルトだ!クインズベリー最高の白魔法使いのクアルトなら助けられるはずだ!一刻も早くクアルトの元へ!

「ハァッ!ゼェッ!うぐ、がぁ・・・あぐぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」

「アゲハ!頑張れ!すぐにクアルトのところへ連れて行く!だから耐えろ!頑張れ!」

魔法使いの俺でも、女一人を背負うくらいはできる。
絶叫し苦痛に顔を歪めるアゲハの体を起こし、背負おうとして左脇腹のナイフに目が行った。


これは・・・どうする?抜いた方がいいか?いや、しかしナイフを抜いて出血が酷くなっては・・・
だがこのナイフからは嫌なものしか感じない。このナイフがアゲハを苦しめる原因なんだ。
このナイフは触れた物を腐らせる。だったら刺したままでは、アゲハの状態も加速して悪くなるのではないか?

「・・・悪いなアゲハ、痛むと思うし、失血でもっと具合が悪くなるかもしれない。だがコレは抜くぞ」

耳元で語り掛けた。
アゲハは聞こえているのかいないのか・・・分からないが、微かに頷いたようにも見える。

「いくぞ」

そう声をかけて、一息に呪いの刃を抜き取った。

「ッ!・・・うぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」

「こんな物!」

そのまま呪いの刃を地面に投げ捨てると、俺は右手に持つ炎の杖を振り上げ、力いっぱいに叩きつけた!

粉々に砕けた刃からはドス黒い煙が立ち昇り、そして蒸発するような音を立てながら、砕けた刃の欠片は地面に溶けて消えて行った。


「ハァッ!ハァッ!・・・なんておぞましい武器だ。こんな物、世の中にあっちゃいけねぇ・・・」



呪いの刃の消滅を確認した俺は、自分のローブの袖を破り、アゲハの腹にきつく巻き付けた。
気休めかもしれないが、持ち合わせの傷薬も塗ってみた。だがあまり効果があったようには見えない。

「・・・アゲハ、行くぞ。大丈夫だ、絶対に助かるから安心しろ」

「・・・・・う・・・」


聞こえてはいるみたいだ。だがもうまともに話せないか・・・容態はかなり悪い。
急がなくては・・・・・


アゲハ、俺が絶対に助けるからな。


しっかりとアゲハを背負い、クインズベリー軍の拠点を目指し、一歩足を踏み出したその時だった。


「・・・む、だ、だ・・・・・そいつは、もう・・・たすから、ない・・・・・」

ッ!?

背中に届いた声に振り返り、言葉を失った。


「そい、つは・・・腐り、落ちて・・・醜く・・・死ぬ、んだ・・・・」

「・・・て、てめぇ・・・」

ジャロン・リピネッツだった。
今度こそ死んだと思ったこの男が、またしても立ち上がっていたのだ。

しかし顔の骨は砕かれ陥没し、目、耳、鼻、口、あらゆる処から血を流している。
首の骨も折れているのか、頭がガクリと真横に折れ曲がっている。

なぜこの状態で立てる?これでまだ生きているというのか?
執念・・・いや、そんな言葉で片づけられる程のあまいものではない。

ジャロン・リピネッツから感じるものは、もはや異常なまでの狂気しかない。


「一人、では・・・死なん・・・アゲハ・・・お前も、道連れに・・・・・」
「死ぬのはお前だけだぁーーーーーーーーッツ!」


これ以上は聞くに堪えない!
俺は炎の杖を差し向け、全力の炎を撃ち放った!


燃え盛る業火はジャロン・リピネッツの体を飲み込み、悲鳴さえ上げる間を与えずに焼き尽くした。


後に残ったものは人型の黒い炭。
それもグラリと倒れると砂のようにボロボロに崩れ、そして塵となって風に消えて行った。

 「アゲハは死なさねぇよ、あの世へはてめぇ一人で行け」

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