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理太郎

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1304 帝国で最も多くの命を奪った女

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ユナニマス大川の戦いは、開幕から激しい空中戦が繰り広げられていた。
だが光源爆裂弾による大爆発で、両軍の黒魔法使いに大きな被害が出ると、戦いの場は地上戦へと移行していった。


クインズベリー軍と川を挟んだ対岸では、帝国軍が地上戦への陣形を整えていた。

各部隊が戦術の確認などでピリピリした緊張感を漂わせている中、最後方に建てられた天幕の中では、白いローブを纏った女性が部下からの戦況の報告を受けていた。

「ガードナー様、ロバート・フラナガンですが、戦死の可能性が高いとの報告が上がりました。死体は見つかってませんが光源爆裂弾に巻き込まれたのですから、おそらく生存の可能性は無いだろうとの見方です」

片膝を着きながら、よく通る声でそう告げるのは褐色の肌の女性だった。身長は180cmはあるだろう。
やや筋肉質で引き締まった体付きをしていて、一目で体力型だと分かる。
年齢は25~26歳といったところだろう、耳の下くらいで短く揃えた赤茶色の髪、黒に近い茶色の瞳は、直属の上官であるシャンテル・ガードナーをじっと見つめていた。


「そうですか・・・ヴァネッサ、それはとても悲しい事ですね」

帝国軍第六師団長にして、白魔法兵団団長シャンテル・ガードナーは、イスに腰をかけたまま、形の良い唇から静かに言葉を紡ぎ出した。

両手を膝の上で重ね合わせ、背筋を伸ばしてヴァネッサに顔を向ける。

年齢はヴァネッサとそう変わらないように見える。二十代半ばから後半といったところだろう。
身長は170cm程、腰まである絹糸のように細く滑らかで美しい金色の髪、長いまつ毛に宝石のように綺麗で透き通った青い瞳。そして師団長でありながら、シャンテル・ガードナーは深紅のローブは身につけていなかった。

深紅のローブは火の精霊の加護を受けており、火魔法や爆発魔法における耐性がある。
しかし防御だけではなく、帝国における身分を表すローブでもある。
深紅のローブを着ているというだけで、その者がどれだけの地位にいるかが一目で分かる、教えるという意味合いもあるのだ。

しかしシャンテル・ガードナーは、大勢の白魔法使い達が着ている真っ白なローブを身につけていた。
金の糸で深紅のローブと同じ刺繍はあしらってあるが、シャンテル・ガードナーを知らない人からすれば、深紅のローブを身に纏っていない彼女が師団長だとは、まず分からないだろう。


「ヴァネッサ、フラナガンの相手はどうなりましたか?」

「はい。フラナガンの相手は、クインズベリー国四勇士の一人だったそうです。やはり死体の確認はできませんでしたが、フラナガン同様に爆発で燃え尽きたと見られます」

「そうですか・・・では相打ちになったという事ですね。フラナガンは残念ですが、燃え尽きてしまったのでしたら、この私の呪われた力でもどうしようもありませんね・・・」

冷笑を浮かべるシャンテル・ガードナー。その目には何かを諦めたような、自虐的な感情が入っているように見える。
そんなシャンテル・ガードナーの心の機微を感じ取り、ヴァネッサは悔しそうに唇を噛むと、強い眼差しを向けた。

「ガードナー様、そのような事をおっしゃらないでください。死の運命にあった私は、ガードナー様に救われて今ここにいます。ガードナー様のお力は二つとない素晴らしいものです。これまで大勢の国民を救ってきたではありませんか。どうかご自分を蔑むような事は、お考えにならないでください」

「・・・ありがとう、ヴァネッサ・・・そう言ってくれるのはとても嬉しいです。でも、私のこの手が沢山の人の命を奪ってきた事も事実です。帝国で最も多くの命を奪った女・・・それがこの私、シャンテル・ガードナーなのです・・・」

「ガードナー様!」
「ヴァネッサ、地上戦なら部隊長であるあなたも、行かなければならないでしょう?おかしな事を言ってごめんなさい。あなたにはつい甘えてしまいます。さぁ、私は大丈夫ですから行ってください」

なおも食い下がろうとするヴァネッサだったが、シャンテル・ガードナーが半ば強引に話しを打ち切ると、ぐっと口を噤んで立ち上がり、一礼をしてその場を後にした。


「・・・ヴァネッサ、ごめんなさい・・・」

ヴァネッサが天幕を出てその姿が見えなくなると、シャンテル・ガードナーは悲し気にそう呟いた。






「来たか、ヴァネッサ。ちょうど今準備が整ったところだ、ん?なんだお前・・・ガードナー様に報告に行ってたんだよな?機嫌悪いのか?」

地上戦に備え指揮を執っていたルーベン・ガルバンは、ヴァネッサの姿を確認すると声をかけた。
しかし眉根を寄せて硬い表情をしているヴァネッサに、なにかあったのかと首を傾げた。

「別に何でもない。ガルバン、作戦に変更はないのよね?」

「・・・ああ、事前に計画した通りだ。準備と言っても作戦の確認がほとんどだからな。あとは俺の号令一つでいつでもいける」

何でもないとは言うが、ヴァネッサの口から出る言葉には少なからず険があった。おそらくガードナーへの報告の時に、なにかあったのだろう。そう察したガルバンだったが、ヴァネッサとガードナー、二人の関係性を知っているがゆえに、それ以上の追及をする事はしなかった。


「・・・そう。今さ、ちょっと暴れたい気分なんだよね。やるなら早くやらない?」

ヴァネッサは鍛えられた体をしているが、動きやすさを重視しているためか軽装である。
肌にぴったりとした黒いシャツと黒いロングパンツの上には、鉄の胸当てに鉄の腕当て、膝から下に鉄の脛当てを付けている程度である。

しかしその鉄の腕当ては特徴的な形をしていた。
肘から手首にかけて直径二十センチ程の丸い盾が付いており、ヴァネッサが腕を振ると、丸い盾の中から刃渡り十五センチ程のナイフが飛び出してきた。


「・・・フッ、気合十分だな、分かった。連中の姿も見えてきたところだ、地上戦の開幕といこうか」


ヴァネッサの体から沸き上がる闘志に、同じ体力型として、そして戦士として触発されたルーベン・ガルバンは、視線の先に映る氷の道、ユナニマス大川を渡り向かって来るクインズベリー軍に、指先を突き付けて叫んだ。

「黒魔法兵よ!撃てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーッツ!」
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