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1325 拭い切れない懸念
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「ロブギンス様、ゴールド騎士のフェリックスが向こう岸へ渡った模様です」
ユナニマス大川で列を成すクインズベリー軍の最後尾で、軍団長のバーナード・ロブギンスは、部下からの報告を受けていた。
「フッ、あやつめ、自分は闇の巫女の護衛だから動けんとごねておったくせに、ヴァンが先陣を切って
、さすがに思うところがあったという事かな」
くっくっくと肩を揺らして笑うロブギンス。
本来ならばユナニマス大川で、前線の指揮を執るのはフェリックスが担うはずだった。
しかし自由気ままな性格から、自分よりもヴァンの方がふさわしいと、半分押し付ける形でヴァンに任せた経緯がある。
そのうえ敵の魔法攻撃を何とかするために、少数での特攻をかけたと言うのだから、ヴァンに頼り切りな自分を恥じたのかもしれない。そうロブギンスは考えた。
「・・・まぁ、やる気になったのならいい。あいつはムラッ気はあるが、実力は間違いねぇからな。さて、それじゃあお前、各部隊長にワシからの指示を伝えて来い。できるだけ急いで氷の道を繋げろとな。厳しいのは分かるがここは頑張りどころだ。早く向こう岸へ渡って、帝国を倒さねきゃならねぇ」
ロブギンスは齢70を迎えた老人だが、その眼光は老いを感じさせない程に鋭く強い。
いよいよ全面戦争になると認識を示したロブギンスの指示を受け、部下の兵士は大きく返事をすると、急ぎ戻って行った。
「帝国の魔法攻撃が止んだって事は、ヴァンとレイジェスでうまい事やったんだろう。ここまでは我が軍のペースで進めている、ワシらが圧倒的に優位だが・・・」
ロブギンスは腕を組むと、懸念を表すように眉を潜めながら、川の向こう側、帝国の陣地を見据えて呟いた。
「嫌な感じだ・・・第六師団長シャンテル・ガードナー・・・帝国で最も人を殺した女か・・・」
帝国に潜入し情報収集をおこなった、ロンズデールのアブエル・マレスの報告では、シャンテル・ガードナーは尊敬と畏怖の念を持たれている人物だったらしい。
傷ついた人がいれば身分に関係なく、対価さえ求めず人を癒す慈愛の精神。
その反面、恐怖の対象ともなっている、帝国で最も人を殺した女という異名。
相反する顔を持つ女の正体がまるで分からない、ロブギンスは懸念を拭い切れずに今日この決戦の場に立っていた。
「・・・ワシの杞憂であればいいんだがな」
そう言葉にしても胸のつかえが取れる事はなかった。
フェリックスがジーンにルナを預け、シルヴィアの竜氷縛によってできた氷の道を駆け出した頃、帝国の陣営内に入り込み、一人で黒魔法使い達を制圧したアラタは、第六師団副団長のアーロン・カカーチェと対峙し睨み合っていた。
「フッ、若いの、貴様いつまで睨めっこをしとるつもりじゃ?ワシは戦闘には最も向かないと言われる白魔法使い、そして見ての通りのおいぼれじゃ。まさか怖気づいたとは言わんじゃろうな?」
顎から伸びる白く長い髭を指先で撫でながら、アーロン・カカーチェは自分の前で拳を握り構える、黒髪黒目の男に視線を向けた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
額に滲み出る大粒の汗、上下する肩、黒髪の男アラタは、アーロン・カカーチェと対峙しているだけで、
ジワジワと体力を削られていた。
怖気づいたのか?そう問われても言葉を返す事はできなかった。
虚勢を張る事はできる。しかしカカーチェにはそんなもの、一目で見抜かれてしまうだろう。
なによりアラタには虚勢を張る余裕さえなかった。
なぜなら痩せて枯れたとしか思えないこの老人から、まるで大蛇にでも巻き付かれたかのような、おぞましい圧迫感を受けていたからだ。
「・・・くっ!」
カカーチェの一挙手一投足を目で追いながら、アラタは自分が受けている異様なプレッシャーを撥ね返そうともがいていた。
蛇に睨まれた蛙とは、こういう時に使う言葉なのかもしれない。
力も速さも自分が上なのは確認するまでもない。しかもこの老人は白魔法使いだ。戦って勝てないはずがない。
いや、むしろ負ける理由を探す方が難しいだろう・・・しかし動けなかった。
・・・なんだ、これは?
こんな小さな老人なのに、とんでもないプレッシャーをぶつけてきやがる。
しかも自分の事を白魔法使いと言っていた。ならばなおのこと、俺の動きについてこれるはずがない。
それなのになぜだ?
動いたら殺られる・・・そう俺に思わせる程の何かがある・・・・・
睨み合っていた時間はせいぜい一分足らずだった。
だが拳をかまえたまま動く事のできないアラタに、カカーチェは少しの哀れみを言葉に乗せて小さく笑った。
「・・・ふむ、ワシの圧を受けて、倒れないくらいには力があるようだな。しかし残念じゃ、向かってくるまではできんか。まぁ頑張ったと誉めてやろう。だがここまでじゃな」
まるで散歩にでも出るような気軽な調子で、カカーチェがアラタに先んじて前に進み出た。
ユナニマス大川で列を成すクインズベリー軍の最後尾で、軍団長のバーナード・ロブギンスは、部下からの報告を受けていた。
「フッ、あやつめ、自分は闇の巫女の護衛だから動けんとごねておったくせに、ヴァンが先陣を切って
、さすがに思うところがあったという事かな」
くっくっくと肩を揺らして笑うロブギンス。
本来ならばユナニマス大川で、前線の指揮を執るのはフェリックスが担うはずだった。
しかし自由気ままな性格から、自分よりもヴァンの方がふさわしいと、半分押し付ける形でヴァンに任せた経緯がある。
そのうえ敵の魔法攻撃を何とかするために、少数での特攻をかけたと言うのだから、ヴァンに頼り切りな自分を恥じたのかもしれない。そうロブギンスは考えた。
「・・・まぁ、やる気になったのならいい。あいつはムラッ気はあるが、実力は間違いねぇからな。さて、それじゃあお前、各部隊長にワシからの指示を伝えて来い。できるだけ急いで氷の道を繋げろとな。厳しいのは分かるがここは頑張りどころだ。早く向こう岸へ渡って、帝国を倒さねきゃならねぇ」
ロブギンスは齢70を迎えた老人だが、その眼光は老いを感じさせない程に鋭く強い。
いよいよ全面戦争になると認識を示したロブギンスの指示を受け、部下の兵士は大きく返事をすると、急ぎ戻って行った。
「帝国の魔法攻撃が止んだって事は、ヴァンとレイジェスでうまい事やったんだろう。ここまでは我が軍のペースで進めている、ワシらが圧倒的に優位だが・・・」
ロブギンスは腕を組むと、懸念を表すように眉を潜めながら、川の向こう側、帝国の陣地を見据えて呟いた。
「嫌な感じだ・・・第六師団長シャンテル・ガードナー・・・帝国で最も人を殺した女か・・・」
帝国に潜入し情報収集をおこなった、ロンズデールのアブエル・マレスの報告では、シャンテル・ガードナーは尊敬と畏怖の念を持たれている人物だったらしい。
傷ついた人がいれば身分に関係なく、対価さえ求めず人を癒す慈愛の精神。
その反面、恐怖の対象ともなっている、帝国で最も人を殺した女という異名。
相反する顔を持つ女の正体がまるで分からない、ロブギンスは懸念を拭い切れずに今日この決戦の場に立っていた。
「・・・ワシの杞憂であればいいんだがな」
そう言葉にしても胸のつかえが取れる事はなかった。
フェリックスがジーンにルナを預け、シルヴィアの竜氷縛によってできた氷の道を駆け出した頃、帝国の陣営内に入り込み、一人で黒魔法使い達を制圧したアラタは、第六師団副団長のアーロン・カカーチェと対峙し睨み合っていた。
「フッ、若いの、貴様いつまで睨めっこをしとるつもりじゃ?ワシは戦闘には最も向かないと言われる白魔法使い、そして見ての通りのおいぼれじゃ。まさか怖気づいたとは言わんじゃろうな?」
顎から伸びる白く長い髭を指先で撫でながら、アーロン・カカーチェは自分の前で拳を握り構える、黒髪黒目の男に視線を向けた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
額に滲み出る大粒の汗、上下する肩、黒髪の男アラタは、アーロン・カカーチェと対峙しているだけで、
ジワジワと体力を削られていた。
怖気づいたのか?そう問われても言葉を返す事はできなかった。
虚勢を張る事はできる。しかしカカーチェにはそんなもの、一目で見抜かれてしまうだろう。
なによりアラタには虚勢を張る余裕さえなかった。
なぜなら痩せて枯れたとしか思えないこの老人から、まるで大蛇にでも巻き付かれたかのような、おぞましい圧迫感を受けていたからだ。
「・・・くっ!」
カカーチェの一挙手一投足を目で追いながら、アラタは自分が受けている異様なプレッシャーを撥ね返そうともがいていた。
蛇に睨まれた蛙とは、こういう時に使う言葉なのかもしれない。
力も速さも自分が上なのは確認するまでもない。しかもこの老人は白魔法使いだ。戦って勝てないはずがない。
いや、むしろ負ける理由を探す方が難しいだろう・・・しかし動けなかった。
・・・なんだ、これは?
こんな小さな老人なのに、とんでもないプレッシャーをぶつけてきやがる。
しかも自分の事を白魔法使いと言っていた。ならばなおのこと、俺の動きについてこれるはずがない。
それなのになぜだ?
動いたら殺られる・・・そう俺に思わせる程の何かがある・・・・・
睨み合っていた時間はせいぜい一分足らずだった。
だが拳をかまえたまま動く事のできないアラタに、カカーチェは少しの哀れみを言葉に乗せて小さく笑った。
「・・・ふむ、ワシの圧を受けて、倒れないくらいには力があるようだな。しかし残念じゃ、向かってくるまではできんか。まぁ頑張ったと誉めてやろう。だがここまでじゃな」
まるで散歩にでも出るような気軽な調子で、カカーチェがアラタに先んじて前に進み出た。
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