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1350 カチュアの決意
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「ま、まて!お前こんな事してただですむと思ってるのか!?僕は皇帝の甥だぞ!」
「おっと、動くんじゃないよ?私の水は鉄だって切れるんだ。あんたの首を落とすくらい容易いものさ」
ルーシー・アフマダリエフは、ノーマン・ブルーナーの背後から左腕を捻じ曲げ動きを封じると、右手には水で作った刃を持ち、ノーマンの喉に押し当てた。
ルーシーの言葉通り、水の刃は軽く触れただけでノーマンの首の皮を切り、赤い血を首から胸へと滴らせた。
「ほら、さっさと命令出しなよ?こいつらあんたの部下なんだろ?動くなって命令しなよ 」
耳元で囁きながら水の刃にぐっと力を入れると、ノーマンはビクリと体を震わせ、兵士達に向かって大きな声で叫んだ。
「ぜ、全員動くな!命令だ!そこから一歩も動くんじゃない!」
なんとかノーマンを救出しようと、ジリジリと距離を詰めていた帝国兵達だったが、上官であるノーマンから直接ぶつけられた指示には、足を止めるしかなった。
「さ、さぁ、言う通りにしたぞ!僕を離せ!」
「何を馬鹿な事を言っている?ここでお前を離したら、攻撃命令を下すだけだろう?お前はカチュアの戦いが終わるまで、大人しくしておけばいいんだ」
さらに深く水の刃を押し当てられ、流れ落ちる血液の量が増す。
己の首に食い込む刃の冷たさに、ノーマンはこれ以上は口を開くだけでも危険だと察し、悔しそうに歯を噛み締めながら口を閉ざした。
「そう、それでいいんだ。大人しく見ていろ。どの道これで決着がつくんだ」
いかにルーシーの戦闘力が高かろうと、この場で帝国兵を全員抑え込む事はできない。
シャンテル・ガードナーは今のところカチュアに手を下す素振りは見せていないが、周りの兵士達は別だ。どうやらシャンテルの命令が無ければ動く事はなさそうだが、それも状況次第だろう。シャンテルの身に危機が及べば、いつまでも押さえつけてはおけないだろう。
それにこの皇帝の甥だというノーマン・ブルーナーが、権力にものを言わせれば、兵士達も動かざるを得ないはず。
つまり現状でカチュアとシャンテルを一対一に置くためには、このノーマン・ブルーナーに命令をさせる事が最適解だと言えるだろう。
なぜシャンテルが兵士達に攻撃命令を出さないのか、そこに違和感を感じてはいるが、理由まではルーシーには分からなかった。
前線では帝国軍とクインズベリー軍が、全面衝突で激しい戦いを繰り広げているが、本当に勝つ気があるのならば、こうなる前に自分とカチュアにも兵を差し向けるべきなのだ。
本当に勝つ気があるのならば・・・・・
「まさか、な・・・」
ルーシーは頭に浮かんだ考えに首を振った。
戦争をしているのだ、師団長ともあろう者が、そんなバカな考えをするはずがない。
カチュア、舞台は整えたぞ。
あとはあなた次第だ。おそらくシャンテル・ガードナーを何とかできるのはあなただけだろう。
力でも魔力でもない、あなたが持つあなただけの力・・・私はそれに懸ける!
「・・・殺してって、何を言ってるんですか?」
予想だにしない言葉を口にしたシャンテルに、カチュアは戸惑いを隠せなかった。
目を瞬かせ、たった今シャンテルが自分に向けて発した言葉の意味を確認する。
「・・・もう、疲れたのです。私は、本当は戦争なんてしたくなかった・・・国なんて関係なく、全ての人が笑って過ごせる平和な世界・・・それが私の願いなんです。でも、私は変わってしまいました・・・・・」
本心だ。
今シャンテル・ガードナーは、偽りの無い本心を話している。
カチュアは純粋で、人の善意を素直に受け取る性格である。
言葉の裏を読む事は苦手で、初めから人を疑ってかかる事はしない。
しかし、だからと言って、言われた事をなんでも鵜呑みにする程、勘が鈍いわけではない。
どちらかと言えばカチュアは鋭い。
困っている人に手を差し伸べる事を当たり前にしているだけに、人を見る癖のようなものが付いている。
だからこそ、シャンテル・ガードナーの言葉に嘘は無い事を確信できた。
だからこそ、シャンテル・ガードナーの言葉を最後まで聞こうと思えた。
「信じられないかもしれませんが、敵意を持って私の魔力に触れると、その人は命を失う事になります。
彼ら四人も私に攻撃の意思を見せたため、その命を私に握られる事になったのです。なぜ私がこんな力を持ったのかは分かりません。ですが私はこの力で、今まで数えきれない程の人を殺めてきました。私は・・・生きている資格の無い人間なのです」
「・・・だから、私に殺してほしいんですか?どうして私なんですか?」
「それは・・・あなたが私に敵意を持っていないからです。私に対して怒っているのに、私の魔力に触れても生きている。敵意を持たずに私に怒れる人なんて初めてです。あなたなら、私を殺す事もできるでしょう。どうか、お願いします」
シャンテル・ガードナーの願いは、カチュアにとって一番難しい事だった。
前述の通りカチュアは優しい。それは優しすぎると言っていい程である。
見返りを求める事のない純粋な心を持ち、自分よりも他人を優先する事ができる。
そんなカチュアに人を殺すなどできるはずがないのだ。
しかしこれは戦争であり、絶対に倒さなくてはならない相手がいるのだ。
その一人がこの第六師団長、シャンテル・ガードナーなのだ。
自分がやらなくても、他の誰かがやらなければならない。
そう考えた時、カチュアはシャンテル・ガードナーの言葉に頷いた。
「・・・分かりました」
決意を持って、カチュアはシャンテルの目を真っすぐに見つめた。
「おっと、動くんじゃないよ?私の水は鉄だって切れるんだ。あんたの首を落とすくらい容易いものさ」
ルーシー・アフマダリエフは、ノーマン・ブルーナーの背後から左腕を捻じ曲げ動きを封じると、右手には水で作った刃を持ち、ノーマンの喉に押し当てた。
ルーシーの言葉通り、水の刃は軽く触れただけでノーマンの首の皮を切り、赤い血を首から胸へと滴らせた。
「ほら、さっさと命令出しなよ?こいつらあんたの部下なんだろ?動くなって命令しなよ 」
耳元で囁きながら水の刃にぐっと力を入れると、ノーマンはビクリと体を震わせ、兵士達に向かって大きな声で叫んだ。
「ぜ、全員動くな!命令だ!そこから一歩も動くんじゃない!」
なんとかノーマンを救出しようと、ジリジリと距離を詰めていた帝国兵達だったが、上官であるノーマンから直接ぶつけられた指示には、足を止めるしかなった。
「さ、さぁ、言う通りにしたぞ!僕を離せ!」
「何を馬鹿な事を言っている?ここでお前を離したら、攻撃命令を下すだけだろう?お前はカチュアの戦いが終わるまで、大人しくしておけばいいんだ」
さらに深く水の刃を押し当てられ、流れ落ちる血液の量が増す。
己の首に食い込む刃の冷たさに、ノーマンはこれ以上は口を開くだけでも危険だと察し、悔しそうに歯を噛み締めながら口を閉ざした。
「そう、それでいいんだ。大人しく見ていろ。どの道これで決着がつくんだ」
いかにルーシーの戦闘力が高かろうと、この場で帝国兵を全員抑え込む事はできない。
シャンテル・ガードナーは今のところカチュアに手を下す素振りは見せていないが、周りの兵士達は別だ。どうやらシャンテルの命令が無ければ動く事はなさそうだが、それも状況次第だろう。シャンテルの身に危機が及べば、いつまでも押さえつけてはおけないだろう。
それにこの皇帝の甥だというノーマン・ブルーナーが、権力にものを言わせれば、兵士達も動かざるを得ないはず。
つまり現状でカチュアとシャンテルを一対一に置くためには、このノーマン・ブルーナーに命令をさせる事が最適解だと言えるだろう。
なぜシャンテルが兵士達に攻撃命令を出さないのか、そこに違和感を感じてはいるが、理由まではルーシーには分からなかった。
前線では帝国軍とクインズベリー軍が、全面衝突で激しい戦いを繰り広げているが、本当に勝つ気があるのならば、こうなる前に自分とカチュアにも兵を差し向けるべきなのだ。
本当に勝つ気があるのならば・・・・・
「まさか、な・・・」
ルーシーは頭に浮かんだ考えに首を振った。
戦争をしているのだ、師団長ともあろう者が、そんなバカな考えをするはずがない。
カチュア、舞台は整えたぞ。
あとはあなた次第だ。おそらくシャンテル・ガードナーを何とかできるのはあなただけだろう。
力でも魔力でもない、あなたが持つあなただけの力・・・私はそれに懸ける!
「・・・殺してって、何を言ってるんですか?」
予想だにしない言葉を口にしたシャンテルに、カチュアは戸惑いを隠せなかった。
目を瞬かせ、たった今シャンテルが自分に向けて発した言葉の意味を確認する。
「・・・もう、疲れたのです。私は、本当は戦争なんてしたくなかった・・・国なんて関係なく、全ての人が笑って過ごせる平和な世界・・・それが私の願いなんです。でも、私は変わってしまいました・・・・・」
本心だ。
今シャンテル・ガードナーは、偽りの無い本心を話している。
カチュアは純粋で、人の善意を素直に受け取る性格である。
言葉の裏を読む事は苦手で、初めから人を疑ってかかる事はしない。
しかし、だからと言って、言われた事をなんでも鵜呑みにする程、勘が鈍いわけではない。
どちらかと言えばカチュアは鋭い。
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だからこそ、シャンテル・ガードナーの言葉に嘘は無い事を確信できた。
だからこそ、シャンテル・ガードナーの言葉を最後まで聞こうと思えた。
「信じられないかもしれませんが、敵意を持って私の魔力に触れると、その人は命を失う事になります。
彼ら四人も私に攻撃の意思を見せたため、その命を私に握られる事になったのです。なぜ私がこんな力を持ったのかは分かりません。ですが私はこの力で、今まで数えきれない程の人を殺めてきました。私は・・・生きている資格の無い人間なのです」
「・・・だから、私に殺してほしいんですか?どうして私なんですか?」
「それは・・・あなたが私に敵意を持っていないからです。私に対して怒っているのに、私の魔力に触れても生きている。敵意を持たずに私に怒れる人なんて初めてです。あなたなら、私を殺す事もできるでしょう。どうか、お願いします」
シャンテル・ガードナーの願いは、カチュアにとって一番難しい事だった。
前述の通りカチュアは優しい。それは優しすぎると言っていい程である。
見返りを求める事のない純粋な心を持ち、自分よりも他人を優先する事ができる。
そんなカチュアに人を殺すなどできるはずがないのだ。
しかしこれは戦争であり、絶対に倒さなくてはならない相手がいるのだ。
その一人がこの第六師団長、シャンテル・ガードナーなのだ。
自分がやらなくても、他の誰かがやらなければならない。
そう考えた時、カチュアはシャンテル・ガードナーの言葉に頷いた。
「・・・分かりました」
決意を持って、カチュアはシャンテルの目を真っすぐに見つめた。
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