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理太郎

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1418 ビンセント 対 ハンプトン

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「おっとぉ、すばしっこいヤツだぜ。だがオメェみたいなスピードタイプはよぉ、結局力がねぇんだよな」

ビンセントの跳び蹴りを左腕で受け止めると、ハンプトンはニヤリと口の端を持ち上げた。

「・・・・・」

ビンセントは黙って地面を蹴り、大きく後方に飛び退くと、両手に握る二本の短剣を構えなおした。
何度か打撃を試みたが、目の前の二メートル級の巨漢にはまるで通用しなかった。

ハンプトンの言う通り、ビンセントは体力型でもスピードを生かして戦うタイプである。しかし決して非力というわけではない。並み以上の腕力は持ち合わせている。
しかし恵まれた体を持って生まれ、更に筋力に重点をおいて鍛え抜いたハンプトンには、ダメージを与える事はできなかった。
自分の打撃で倒し切る事はかなり厳しいだろう。ビンセントはここで打撃に見切りをつけた。


「へっへっへ、やっぱその剣でくるしかねぇよな?見てたぜ、うちの兵を鎧ごと真っ二つにしやがったよな?すげぇ切れ味だぜ。けどよ、果たしてこいつに通用するかな?」

ハンプトンは背中に差していた分厚い剣を引き抜くと、ニヤリと嗤って切っ先をビンセントに差し向けた。

「どうだ?すげぇ迫力だろ?これは俺用に特注で作らせた剣でな、刀身70センチ、厚さ10センチもある決して折れる事の無い剣だ。普通の剣は俺には軽すぎてな、俺の腕力を生かすにはこれでねぇとダメなんだよ」

ハンプトンの握る大剣は一振りで大木を斬り落とし、大岩であろうと一撃で粉砕する程の破壊力を持っていた。並み大抵の剣では受け太刀など不可能であり、この剣の前では刃を合わせずに躱すしかないのだ。

「・・・試してみるか?」

ハンプトンに剣を突きつけられても、ビンセントは眉の一つも動かさなかった。
重心が前方に傾くと、足に力が入り爪先が地面に食い込む。ハンプトンの分厚い大剣を目にしても、ビンセントはあくまで正面から立ち向かう姿勢だった。

「へっへっへ、オメェ下級兵の剣や鎧をぶった切ったからって勘違いしてんな?この俺の大鋼剣(だいこうけん)は帝国で最も固い金属で作られてんだよ。どんなに切れ味が良くても、たかが短剣で斬れるもんじゃねぇんだ。物が違うんだよ物が!」

「口の減らない男だ、おしゃべりがしたいのか?いいから黙ってかかってこい」

ハンプトンがどれだけ挑発しようとも、ビンセントの精神を乱す事はできなかった。
それどころか淡々と落ち着き払った目を向けられ、逆にハンプトンの表情が険しくなる。

「ケッ、きどった野郎だぜ!気に入らねぇな、そのすましたツラをぶった斬ってやるぜ!」

苛立ちを吐き捨てると、ニメートルの巨体が地面を蹴って跳びかかった!

「ッ、速い!」

リングマガ湿地帯のぬかるんだ足場、さらに数十キロの大剣を担ぎながらも、ハンプトンのスピードはビンセントが目を見張る程だった。
筋力に特化した体力型でありながら、決して鈍足ではない。それが第三師団屈指の実力者、ハンプトンの強さである。


もらった!俺の体格を見ると、ほとんどのヤツらがパワーだけだと思い込む。それはてめぇも同じだったようだな?あいにくだが、俺は全身あますところなく鍛えてんだよ。とうぜん脚力もだ。俺のスピードを見ると決まっててめぇみたいに驚くんだよ。俺はその一瞬の硬直で距離を詰める。そしててめぇみたいなスピードタイプは、最初の一発で仕留めるのが肝心なんだ。

攻撃における動作が最も少なく、最短の動きで繰り出せる技・・・・・突きだ!

「ぶった斬れろォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」

体ごとぶつかるように突進しながら、右手に握る分厚い大剣を真っすぐに突き出す!




速い!このぬかるんだ足場で、ここまで鋭い踏み込みは並じゃない。
ガードの上からだとしても俺の蹴りを全く意に介さず、そしてその巨体でこれほどのスピードを身に着けるには、想像を絶する鍛錬の賜物だろう。
でかい口を叩いて出てきただけはある。さすが大陸一の軍事国家だ、幹部クラス以下でこれだけの力を持っている者がいるとはな。

だが・・・・・

「相手の戦力も見抜けないようでは・・・まだまだだ!」


真正面からぶつかってくるハンプトンに対し、ビンセントも地面を蹴る。
全身が筋肉の塊であるハンプトンの圧は、並大抵ではない。しかしビンセントはあくまでも正面から挑む!逃げるなどという選択肢は無いのだ。

そしてハンプトンの大剣とビンセントの短剣が交差し、一瞬だけ金属が打ち合わさる音が響いた。



「ちっ、躱したか!?俺の突きを躱すヤツなんて久しぶりだぜ。だがな、言ったはずだぜ、そんな短剣じゃ俺の大鋼剣には勝てねぇぜぜぜぇぇぇーーーーーッ!」

一瞬だけ大剣と短剣が打ち合わせったが、それだけだ。やはり自分の大鋼剣は、短剣などで何とかできるものではない。予想通りの結果にハンプトンは意気揚々と顔を向け、分厚い鉄の大剣を握り直して、再び飛び掛かってきた。


「・・・ふん、おめでたい男だ」

だが自分に飛び掛かってくる巨躯の男を前にしても、ビンセントの表情は変わらず、焦りなど微塵も無かった。
そしてビンセントの口にした、おめでたい男、という意味もすぐに分かる事になる。

「ウラァァァァーーーーー・・・なっ!?」

右手に握る大剣を再び突き出そうとしたその時、厚さ10センチの肉厚の大剣、その刀身が真っ二つになって落ちたのだ。


な、なにィィィーーーーーッ!?ば、ばかな!何が起きた!?どうして今剣が切れる!?
ツ!?ま、まさか、今のあの一瞬で・・・・・ッツ!?
俺の大剣に一瞬だけ短剣を当てたように見えたが、まさかたったそれだけの事で・・・・・!?


「その通りだ」

まるで心を読んだのかのように、背後から耳元でささやいた。

突然己の握る剣の刃が斬り落とされた。ハンプトンに大きな衝撃が走り、一瞬だが注意がビンセントから逸れて大剣に集中する。そしてビンセントはその隙を見逃す程甘くは無かった。

ハンプトンの背後を一瞬にしてとると、その首筋に短剣を突き刺した。


「・・・決着だ」


ビンセントが剣を引き抜き一歩大きく後ろに跳ぶと、ハンプトンは口から大量の血を吐き出すと、水溜まりの中に前のめりに倒れた。
そして己の吐き出した血で、赤く染まった水溜まりに顔をうずめたまま、それきり起き上がってくる事はなかった。
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