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理太郎

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1492 レイチェルの役目

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帝国首都ベアナクールを西側から攻めているのは、カルロス・フォスター率いるクインズベリー軍である。

首都の闇をウィッカー・バリオスが押さえれば、帝国兵も出撃せざるをえなくなる。
そこで帝国兵が出て来たところを、一斉に攻撃魔法を浴びせる。そしてレイマートが率いる騎士団が突撃をかける。
ここまではクインズベリー軍の狙い通りに、戦況が運ばれていた。

そして軍がそこまでの体勢を整るために、最も重要な役目を担っていたのが、敵地のど真ん中で孤軍奮闘する赤い髪の女戦士、レイチェル・エリオットである。


「ハァッ!」

腰を捻り、重心を乗せた左蹴りで帝国兵の腹を蹴り上げる!

「ぐァッ!」

足が浮く程の衝撃だった。レイチェルの蹴りは帝国兵の鎧を砕き、内臓を押し潰した。
一瞬で呼吸を止められ、帝国兵の眼球が裏返る。

「フッ!」

レイチェルはそのまま右手に握るダガーナイフを振り抜き、帝国兵の首を斬り裂いた。
苦痛など感じる暇も無い程の一瞬である。

続けて背後から振り下ろされた剣を、振り返る事なく体を回し紙一重で躱すと、回転を利用してそのまま左手に握るナイフを帝国兵の頭に突き刺す!
当然この帝国兵は即死であるが、レイチェルは一瞥さえしなかった。そして足を止める事なくそのまま更に体を回し、回転の中で自然にナイフを抜いて目の前の帝国兵に斬りかかった!

「ハァァァァァーーーーーーーーッツ!」

たった一人の女戦士の叫びが、ビリビリと帝国兵を叩きつける!

「ぐッ!」
「な、なんとッ!」

レイチェルは圧倒的だった。
数千人もの帝国兵を相手に、臆する事なく一人で特攻し、瞬く間に切り捨てて行く。
彼らの目には、赤い残像だけがわずかに見えるだけである。

そして気が付いた時には刃の冷たい感触が喉に触れ、自分が斬られたとさえ理解できないまま倒れていく。

残像でしかとらえられない程の速さで攪乱(かくらん)し、一太刀で斬り捨ててる。
たった一人の女戦士の驚異的な戦闘力に、帝国兵達は成す術がないように見えた。

しかしレイチェルに油断も慢心もなかった。


「・・・そろそろか」

数千人の相手に一人で特攻したのは奇襲である。

もちろん店長ウィッカー・バリオスの盾になるため、進んでこの役目を担っているが、一人でこの数を相手にウィッカーを護りきれるはずがない事は十分承知していた。

数千人もいるのだ、どうしても手が届かないところは出てくる。
レイチェルを避けて光魔法の使い手である、ウィッカーに刃を向ける事は難しい事ではない。

ではその隙間はどう埋めるか?


「飛べ!レイチェルーーーーーーッツ!」

「ッ!」

背中に届いた声に、レイチェルは強く地面を蹴って上空へ飛び上がった!

そして次の瞬間、後方から撃ち放たれた無数の氷の槍が、帝国軍の頭上から雨あられの如く降りそそぐ!
その数は優に千を超え、帝国兵達を貫いていった。

「よし!」

策が狙い通りにハマッた事を見て、レイチェルのナイフを握る手に力が入る。
そして飛び上がったまま、空中でチラリと後ろを振り返った。


数十メートル程後ろで、両手から光の魔力を放っている男は、師ウィッカー・バリオス。
たった今声を上げて、レイチェルに合図を送ったのはウィッカーである。

そのウィッカーも顔を上げ、上空のレイチェルを見つめていた。

表情が分かる距離ではなかったが、お互いに目が合った事だけは分かった。


「店長」

見ててください

「レイチェル」

頼んだぞ


師弟の想いが通じあう。


そしてレイチェルが跳躍を終え再び砂の上に着地をすると、その後ろから駆けて来た騎士達が剣を構え、帝国兵達にぶつかって行った!

「さすがだな、レイチェル。あの数をよく一人で止めた」

隣に立った黄金の騎士レイマートに、レイチェルが顔を向ける。

「大した事じゃないさ。先制攻撃でヤツらの出鼻をくじいただけだ。警戒させれば一旦止まるだろ?私の役目は店長が闇を止めている間護る事、そして闘気が無くても戦える場所を作るための時間稼ぎだ。こうしてお前達も間に合ったし、あとは戦うだけだ」

ウィッカーが闇を止め、騎士達の応援が駆けつけるまで数十秒程度の時間がかかる。
僅かな時間だが、その間ウィッカーは完全に無防備になってしまう。そのため護衛としての実力者が必要だったのだ。


「よし、それじゃあ帝国のゴミを掃除してやるか」

レイマートは右手に持つ鉄の剣を、感触を確かめるように軽く振ると、砂を踏み鳴らしながら前へと足を進めた。
その体からは光の闘気が沸き立ち、ビシビシとしたプレッシャーを帝国兵へとぶつける。


「なるほど、ゴミ掃除か、いい事を言うじゃないか。私は綺麗好きなんだ、一人残らずきっちりやってやろう」

レイチェルは両手に持つナイフを握り直すと、レイマートと共に前へ出た。
ゴールド騎士に並ぶ女戦士の赤い髪が、闘気に呼応して逆立つ。

二人は目を合わせる事もしなかったが、同じタイミングで地面を蹴って帝国兵へと飛びかかった!
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