妹に婚約者を奪われた私が、身分を隠していた親友(隣国の王子)と婚約する事になったお話

アルト

文字の大きさ
12 / 14

十二話

しおりを挟む
「————駄目です。絶対認められないっす」

 何の為に自分が来たと思ってるのだ。
 こういう事を敢行しようと試みた際に止める為でしょうが。

 そう言わんばかりの一切の容赦ないその物言いに、譲歩の余地はないのだとダミアンは言う。

 学長も学長でその通りだと思っているのか。
 側で当たり前だとばかりに縦に何度か首肯させていた。

「ああ、そうだろうな。それは、流石の俺も分かってる」

 しかし、ダミアンがそう言う事は想定の範囲内であったのか。
 以前までなら他者の意見なぞ知るかといった様子で強引に突き進んでいた筈のイグナーツは、理性的に相手の言に殊勝に頷いていた。

 流石のイグナーツも己の立場を理解しているのか。はたまた、一年の間に考えを変えたのか。

 理由は定かではないが、王子という立場のイグナーツは今回、ダンジョンに潜る事はないのだろう。そう思った矢先だった。

「だが、〝掃除屋〟がいるにもかかわらず、ダンジョンに潜った奴の名は、ミフェルとローレン、らしいぞ。しかも、一学年の人間だ」

 ————……それが一体どうしたんすか。

 そう言わんばかりの様子で、一瞬、イグナーツのその発言を聞き流すダミアンであったが、何か心当たりがあったのか。
 数秒ほど経過したあたりで唐突に、不自然に硬直した。

 まるでそれは、マズイものでも発見したかのような反応でもあって。

「……ローレンって、あのローレンっすか?」
「『王立魔法学院』に入学していて、一学年の人間で、問題児。これだけ要素が揃ってるのに人違いという事があると思うか?」
「…………頭が痛いっす」

 どうやら、先程アイリスと共に聞き出した問題児。そのうちの一人にイグナーツ達は心当たりがあるらしい。

「もしかして、知り合い?」
「知り合いといえば知り合いだし、知り合いじゃないといえば知り合いじゃない」

 煮え切らない返事であった。

「恐らくだが、うちの国の人間ってだけだな」

 イグナーツやダミアンがその名前を把握しているということはまず間違いなく貴族なのだろう。

「ただ、それなりに家格が高いとこの人間である上、現当主はフェルリアでも要職についている人間だ」

 ……なるほど。そういう事か。

「もしも、の事を考えるとやっぱり一番確実な選択をしておくべきだろうよ」

 何より、国の王子が己が身一つで助けに向かった。美談としてはこれ以上ないものに思える上、あそこの家に恩を売っておくのも今だからこそ、、、、、、悪くない。

 そう言葉を付け加えるイグナーツの言葉は、一応、理にかなっているものであるのか。

 浮かべるダミアンの表情は、中途半端に正論であるから反論をしたくとも反論しにくい。
 と物語っていた。

「……なら、僕がいくっす。それで向こうへの最低限の義理は果たせるでしょう」

 それに、〝掃除屋〟がいるとはいえ、絶対に遭遇しているというわけではない。
 寧ろ、出会っている可能性は低くもあるだろう。だから、イグナーツの手を借りるまでもない。

 そう言ってどうにかイグナーツを関わらせまいとするダミアンであったが、

「お前らはどうしてそうも過保護なのかね」

 王子という立場の人間に対してであれば、当たり前とも取れる過保護さにイグナーツは煩わしいとため息を吐いた。

 けれど、ダミアンがそういった態度を取る事に仕方がないと理解もしているのだろう。
 責め立てる様子も、無下にする様子もなかった。

 ただ。

「潜るといっても20層より深くは進まないし、もし運悪く遭遇しても、〝掃除屋〟程度、、だ。一年のブランクがあるとはいえ、問題はないだろ」

 理解を示してはいても、大人しくダミアンの懇願に従うつもりもないようであったが。

 だけど、イグナーツがそう口にする気持ちも少しだけ分からなくもない。

 なにせ私達の最高踏破層は、79層。
 〝掃除屋〟の本来の生息場所が50層付近という事を加味しても、4人でならば何一つとして問題はない。そう言うイグナーツの発言は、誇張でもなんでもなかったからだ。

「…………この際っす。正直に言いましょう」

 そんなイグナーツの態度に業を煮やしてから。
 はたまた、正攻法では無理だと諦念してか。

「殿下に危険な事をさせたとあっては、上が煩いんすよ。それに、もし仮に僕が許可をしたとして、今回殿下がレラさんの実家に向かうからとついて来た護衛連中にはどう説明する気なんすか。頭の固い人間が大半っすよ」

 どんな理由を付けたところであの連中は、「なりません」の一言で全てを片付ける奴らっす。
 だから、選択肢なんてあってないようなものなのだと言うダミアンの言葉はその通りだと思った。

 王子殿下の護衛である。
 イグナーツの側にいる人達は言わずもがな、彼の性格を理解しているだろうし、それを踏まえて頭の固い人間で構成されているのだろう。

 最早、それは当然の措置ともいえた。

「そんなの、選択肢は一つしかないだろ」

 ————何を当たり前の事を。

 そう言わんばかりに口を開くイグナーツの視線は、当然のようにダミアンから外れ、そして————何故か、学長へと向いた。

 ただ、こちらも短い付き合いではないからか。「コイツ、ロクでもない事を考えてやがる」といち早く悟ったのだろう。
 学長は学長でイグナーツから目を逸らす。
 しかし悲しきかな、目を逸らした程度で許すイグナーツではなかった。

護衛連中あいつらに気付かれる前に全てを終わらせる。時間稼ぎは、学長にでも頼めばいいだろ」

 何より、ダンジョンに潜った奴を助けるともなればチンタラしてられねえ。
 元より急ぐつもりだったし、気付かれる前に終わらせてしまえば問題はない。

 などと、問題しかない事をそう言ってしまえるあたり、相変わらずのイグナーツであった。

「それとも、他にもっといい案でもあったか? これ以上に確実に助けられる案が」
「……それは」

 事実、ないのだろう。

 ことダンジョンに関しては多分、私達が一番上手くやれる。

 それはダミアンや学長だって知ってる筈だ。
 けれど、私達の立場的に安易にじゃあお願いとは口が裂けても言えない筈。

「なぁに、これは言ってしまえば散歩のようなもんだ。深層に潜るわけじゃあるまいし、20層までならいいだろ」

 その20層まで、というラインもまた、ダミアン達にとっての悩みの種なのだろう。

 ここで深層に潜ると言っていたならば、恐らく縄を括り付けてでも止めた筈だ。
 しかし、20層までなら。
 〝掃除屋〟程度であれば。

 そのせいで、譲歩の余地はない筈だったというのに、微かな隙間が生まれたのだろう。

 それならば、まだ何とか、と。

 やがて、学院時代の踏破層。
 ローレンという学生の存在。
 それらを含めた様々な要素を踏まえた結果、

「つぅわけだ。そうと決まれば、さっさと準備して助けに向かおうぜ」

 歯を見せて気持ち良いくらいの笑みを浮かべて笑うイグナーツの言葉を、不承不承ながらも受け入れる他なかった。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

処理中です...