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十二話
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「————駄目です。絶対認められないっす」
何の為に自分が来たと思ってるのだ。
こういう事を敢行しようと試みた際に止める為でしょうが。
そう言わんばかりの一切の容赦ないその物言いに、譲歩の余地はないのだとダミアンは言う。
学長も学長でその通りだと思っているのか。
側で当たり前だとばかりに縦に何度か首肯させていた。
「ああ、そうだろうな。それは、流石の俺も分かってる」
しかし、ダミアンがそう言う事は想定の範囲内であったのか。
以前までなら他者の意見なぞ知るかといった様子で強引に突き進んでいた筈のイグナーツは、理性的に相手の言に殊勝に頷いていた。
流石のイグナーツも己の立場を理解しているのか。はたまた、一年の間に考えを変えたのか。
理由は定かではないが、王子という立場のイグナーツは今回、ダンジョンに潜る事はないのだろう。そう思った矢先だった。
「だが、〝掃除屋〟がいるにもかかわらず、ダンジョンに潜った奴の名は、ミフェルとローレン、らしいぞ。しかも、一学年の人間だ」
————……それが一体どうしたんすか。
そう言わんばかりの様子で、一瞬、イグナーツのその発言を聞き流すダミアンであったが、何か心当たりがあったのか。
数秒ほど経過したあたりで唐突に、不自然に硬直した。
まるでそれは、マズイものでも発見したかのような反応でもあって。
「……ローレンって、あのローレンっすか?」
「『王立魔法学院』に入学していて、一学年の人間で、問題児。これだけ要素が揃ってるのに人違いという事があると思うか?」
「…………頭が痛いっす」
どうやら、先程アイリスと共に聞き出した問題児。そのうちの一人にイグナーツ達は心当たりがあるらしい。
「もしかして、知り合い?」
「知り合いといえば知り合いだし、知り合いじゃないといえば知り合いじゃない」
煮え切らない返事であった。
「恐らくだが、うちの国の人間ってだけだな」
イグナーツやダミアンがその名前を把握しているということはまず間違いなく貴族なのだろう。
「ただ、それなりに家格が高いとこの人間である上、現当主はフェルリアでも要職についている人間だ」
……なるほど。そういう事か。
「もしも、の事を考えるとやっぱり一番確実な選択をしておくべきだろうよ」
何より、国の王子が己が身一つで助けに向かった。美談としてはこれ以上ないものに思える上、あそこの家に恩を売っておくのも今だからこそ悪くない。
そう言葉を付け加えるイグナーツの言葉は、一応、理にかなっているものであるのか。
浮かべるダミアンの表情は、中途半端に正論であるから反論をしたくとも反論しにくい。
と物語っていた。
「……なら、僕がいくっす。それで向こうへの最低限の義理は果たせるでしょう」
それに、〝掃除屋〟がいるとはいえ、絶対に遭遇しているというわけではない。
寧ろ、出会っている可能性は低くもあるだろう。だから、イグナーツの手を借りるまでもない。
そう言ってどうにかイグナーツを関わらせまいとするダミアンであったが、
「お前らはどうしてそうも過保護なのかね」
王子という立場の人間に対してであれば、当たり前とも取れる過保護さにイグナーツは煩わしいとため息を吐いた。
けれど、ダミアンがそういった態度を取る事に仕方がないと理解もしているのだろう。
責め立てる様子も、無下にする様子もなかった。
ただ。
「潜るといっても20層より深くは進まないし、もし運悪く遭遇しても、〝掃除屋〟程度だ。一年のブランクがあるとはいえ、問題はないだろ」
理解を示してはいても、大人しくダミアンの懇願に従うつもりもないようであったが。
だけど、イグナーツがそう口にする気持ちも少しだけ分からなくもない。
なにせ私達の最高踏破層は、79層。
〝掃除屋〟の本来の生息場所が50層付近という事を加味しても、4人でならば何一つとして問題はない。そう言うイグナーツの発言は、誇張でもなんでもなかったからだ。
「…………この際っす。正直に言いましょう」
そんなイグナーツの態度に業を煮やしてから。
はたまた、正攻法では無理だと諦念してか。
「殿下に危険な事をさせたとあっては、上が煩いんすよ。それに、もし仮に僕が許可をしたとして、今回殿下がレラさんの実家に向かうからとついて来た護衛連中にはどう説明する気なんすか。頭の固い人間が大半っすよ」
どんな理由を付けたところであの連中は、「なりません」の一言で全てを片付ける奴らっす。
だから、選択肢なんてあってないようなものなのだと言うダミアンの言葉はその通りだと思った。
王子殿下の護衛である。
イグナーツの側にいる人達は言わずもがな、彼の性格を理解しているだろうし、それを踏まえて頭の固い人間で構成されているのだろう。
最早、それは当然の措置ともいえた。
「そんなの、選択肢は一つしかないだろ」
————何を当たり前の事を。
そう言わんばかりに口を開くイグナーツの視線は、当然のようにダミアンから外れ、そして————何故か、学長へと向いた。
ただ、こちらも短い付き合いではないからか。「コイツ、ロクでもない事を考えてやがる」といち早く悟ったのだろう。
学長は学長でイグナーツから目を逸らす。
しかし悲しきかな、目を逸らした程度で許すイグナーツではなかった。
「護衛連中に気付かれる前に全てを終わらせる。時間稼ぎは、学長にでも頼めばいいだろ」
何より、ダンジョンに潜った奴を助けるともなればチンタラしてられねえ。
元より急ぐつもりだったし、気付かれる前に終わらせてしまえば問題はない。
などと、問題しかない事をそう言ってしまえるあたり、相変わらずのイグナーツであった。
「それとも、他にもっといい案でもあったか? これ以上に確実に助けられる案が」
「……それは」
事実、ないのだろう。
ことダンジョンに関しては多分、私達が一番上手くやれる。
それはダミアンや学長だって知ってる筈だ。
けれど、私達の立場的に安易にじゃあお願いとは口が裂けても言えない筈。
「なぁに、これは言ってしまえば散歩のようなもんだ。深層に潜るわけじゃあるまいし、20層までならいいだろ」
その20層まで、というラインもまた、ダミアン達にとっての悩みの種なのだろう。
ここで深層に潜ると言っていたならば、恐らく縄を括り付けてでも止めた筈だ。
しかし、20層までなら。
〝掃除屋〟程度であれば。
そのせいで、譲歩の余地はない筈だったというのに、微かな隙間が生まれたのだろう。
それならば、まだ何とか、と。
やがて、学院時代の踏破層。
ローレンという学生の存在。
それらを含めた様々な要素を踏まえた結果、
「つぅわけだ。そうと決まれば、さっさと準備して助けに向かおうぜ」
歯を見せて気持ち良いくらいの笑みを浮かべて笑うイグナーツの言葉を、不承不承ながらも受け入れる他なかった。
何の為に自分が来たと思ってるのだ。
こういう事を敢行しようと試みた際に止める為でしょうが。
そう言わんばかりの一切の容赦ないその物言いに、譲歩の余地はないのだとダミアンは言う。
学長も学長でその通りだと思っているのか。
側で当たり前だとばかりに縦に何度か首肯させていた。
「ああ、そうだろうな。それは、流石の俺も分かってる」
しかし、ダミアンがそう言う事は想定の範囲内であったのか。
以前までなら他者の意見なぞ知るかといった様子で強引に突き進んでいた筈のイグナーツは、理性的に相手の言に殊勝に頷いていた。
流石のイグナーツも己の立場を理解しているのか。はたまた、一年の間に考えを変えたのか。
理由は定かではないが、王子という立場のイグナーツは今回、ダンジョンに潜る事はないのだろう。そう思った矢先だった。
「だが、〝掃除屋〟がいるにもかかわらず、ダンジョンに潜った奴の名は、ミフェルとローレン、らしいぞ。しかも、一学年の人間だ」
————……それが一体どうしたんすか。
そう言わんばかりの様子で、一瞬、イグナーツのその発言を聞き流すダミアンであったが、何か心当たりがあったのか。
数秒ほど経過したあたりで唐突に、不自然に硬直した。
まるでそれは、マズイものでも発見したかのような反応でもあって。
「……ローレンって、あのローレンっすか?」
「『王立魔法学院』に入学していて、一学年の人間で、問題児。これだけ要素が揃ってるのに人違いという事があると思うか?」
「…………頭が痛いっす」
どうやら、先程アイリスと共に聞き出した問題児。そのうちの一人にイグナーツ達は心当たりがあるらしい。
「もしかして、知り合い?」
「知り合いといえば知り合いだし、知り合いじゃないといえば知り合いじゃない」
煮え切らない返事であった。
「恐らくだが、うちの国の人間ってだけだな」
イグナーツやダミアンがその名前を把握しているということはまず間違いなく貴族なのだろう。
「ただ、それなりに家格が高いとこの人間である上、現当主はフェルリアでも要職についている人間だ」
……なるほど。そういう事か。
「もしも、の事を考えるとやっぱり一番確実な選択をしておくべきだろうよ」
何より、国の王子が己が身一つで助けに向かった。美談としてはこれ以上ないものに思える上、あそこの家に恩を売っておくのも今だからこそ悪くない。
そう言葉を付け加えるイグナーツの言葉は、一応、理にかなっているものであるのか。
浮かべるダミアンの表情は、中途半端に正論であるから反論をしたくとも反論しにくい。
と物語っていた。
「……なら、僕がいくっす。それで向こうへの最低限の義理は果たせるでしょう」
それに、〝掃除屋〟がいるとはいえ、絶対に遭遇しているというわけではない。
寧ろ、出会っている可能性は低くもあるだろう。だから、イグナーツの手を借りるまでもない。
そう言ってどうにかイグナーツを関わらせまいとするダミアンであったが、
「お前らはどうしてそうも過保護なのかね」
王子という立場の人間に対してであれば、当たり前とも取れる過保護さにイグナーツは煩わしいとため息を吐いた。
けれど、ダミアンがそういった態度を取る事に仕方がないと理解もしているのだろう。
責め立てる様子も、無下にする様子もなかった。
ただ。
「潜るといっても20層より深くは進まないし、もし運悪く遭遇しても、〝掃除屋〟程度だ。一年のブランクがあるとはいえ、問題はないだろ」
理解を示してはいても、大人しくダミアンの懇願に従うつもりもないようであったが。
だけど、イグナーツがそう口にする気持ちも少しだけ分からなくもない。
なにせ私達の最高踏破層は、79層。
〝掃除屋〟の本来の生息場所が50層付近という事を加味しても、4人でならば何一つとして問題はない。そう言うイグナーツの発言は、誇張でもなんでもなかったからだ。
「…………この際っす。正直に言いましょう」
そんなイグナーツの態度に業を煮やしてから。
はたまた、正攻法では無理だと諦念してか。
「殿下に危険な事をさせたとあっては、上が煩いんすよ。それに、もし仮に僕が許可をしたとして、今回殿下がレラさんの実家に向かうからとついて来た護衛連中にはどう説明する気なんすか。頭の固い人間が大半っすよ」
どんな理由を付けたところであの連中は、「なりません」の一言で全てを片付ける奴らっす。
だから、選択肢なんてあってないようなものなのだと言うダミアンの言葉はその通りだと思った。
王子殿下の護衛である。
イグナーツの側にいる人達は言わずもがな、彼の性格を理解しているだろうし、それを踏まえて頭の固い人間で構成されているのだろう。
最早、それは当然の措置ともいえた。
「そんなの、選択肢は一つしかないだろ」
————何を当たり前の事を。
そう言わんばかりに口を開くイグナーツの視線は、当然のようにダミアンから外れ、そして————何故か、学長へと向いた。
ただ、こちらも短い付き合いではないからか。「コイツ、ロクでもない事を考えてやがる」といち早く悟ったのだろう。
学長は学長でイグナーツから目を逸らす。
しかし悲しきかな、目を逸らした程度で許すイグナーツではなかった。
「護衛連中に気付かれる前に全てを終わらせる。時間稼ぎは、学長にでも頼めばいいだろ」
何より、ダンジョンに潜った奴を助けるともなればチンタラしてられねえ。
元より急ぐつもりだったし、気付かれる前に終わらせてしまえば問題はない。
などと、問題しかない事をそう言ってしまえるあたり、相変わらずのイグナーツであった。
「それとも、他にもっといい案でもあったか? これ以上に確実に助けられる案が」
「……それは」
事実、ないのだろう。
ことダンジョンに関しては多分、私達が一番上手くやれる。
それはダミアンや学長だって知ってる筈だ。
けれど、私達の立場的に安易にじゃあお願いとは口が裂けても言えない筈。
「なぁに、これは言ってしまえば散歩のようなもんだ。深層に潜るわけじゃあるまいし、20層までならいいだろ」
その20層まで、というラインもまた、ダミアン達にとっての悩みの種なのだろう。
ここで深層に潜ると言っていたならば、恐らく縄を括り付けてでも止めた筈だ。
しかし、20層までなら。
〝掃除屋〟程度であれば。
そのせいで、譲歩の余地はない筈だったというのに、微かな隙間が生まれたのだろう。
それならば、まだ何とか、と。
やがて、学院時代の踏破層。
ローレンという学生の存在。
それらを含めた様々な要素を踏まえた結果、
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