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洗濯の変態編5章:頑張ったあなた、旅に出ろ
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文章から嫌味の臭いがプンプンする。彩響はムカッとする気持ちを抑えて自然と返した。
「行きたい場所がありますので」
「はあ?なに、結婚相談所でも行くの?」
「違います」
「まあ、そんなところ行ってもどうせお前賞味期限過ぎているもんな」
(人を腐った豆腐扱いしやがって…)
しばらく嫌味を重ねたセクハラが続いたけど、編集長は許可を出してくれた。その後はネットで「東京―青森」チケットに予約を入れる。クレジットカードを出して、枚数は2枚。予約の詳細は印刷してカバンに入れた。
(意地でも休んで貰うわ、あの変態家政夫!)
誰も始めていない戦争に勝手に勝利した気分で、彩響は一人でくすくす笑った。
寛一さんはいつもどおり丁寧な態度で彩響を迎えてくれた。今日は玄関の掃除をしたのか、いつもいい香りがする玄関がさらに綺麗になっていた。カバンも下ろさず、彩響はさっそくバックから例の印刷物を出した。うっかりそれを受け取った寛一さんが質問した。
「これは…?」
「ちゃんと見てください」
これが一体何なのか、しばらく紙を見ていた寛一さんの目が徐々に大きくなるのが見えた。彼にとっては予想もしなかった展開だったのだろう。時間と目的地、人数まで確認した彼がため息をついた。
「一体誰ですか、俺の地元を教えた人は」
「さあ、誰でしょうね」
「…成ですね。きっと彩響さんに電話して代理とかそういう話をしたのでしょう」
「誰が教えたとか、そんなものどうでも良いじゃないですか。私も青森行ったことないし、一緒に行きましょう!行かないとこのチケット無駄になりますよ、お金が空中に飛びますよ?」
彩響の強い発言に、寛一さんは黙ってしまった。目を閉じてじっくりと考えた後、やがて彼が目を開けた。
「彩響さんにここまで気を遣わせてしまい…申し訳ないです」
「そんなこと言うくらいなら早く有給使えばよかったじゃないですか」
「そうですね、今更後悔しています」
「…で、行きます?行かない?どうします?」
又長い沈黙が続く。寛一さんは何かを言おうとして、又それを飲み込むことを数回繰り返した。そして最後の最後、彼が口を開けた。
「…承知しました。一緒に行きましょう」
「…!やった!」
凄くうれしくなり、彩響は思わず両手を上げ叫んだ。その反応にびっくりした寛一さんが気まずそうに視線をそらす。よくよく見たら耳元がちょっと赤くなっていた。
(あれ、もしかして照れてる?こんなことで??)
「あの、もしかして私と一緒に行くのがあれなら、着いてからの行動は別にしても…」
「え?あ、その、違います。一緒に行ってくださると…その、心強いです」
「本当に?」
「本当です、助かります。えーと、あの人もきっと喜びます」
(誰のこと…?)
気になったけど、寛一さんはそれ以上なにも言わずに部屋に戻った。彩響も深入りせず、そのまま寝る準備をした。
ベッドで横になると、テンションが上がるのを感じる。これは大昔感じたことのあるーそう、小学校の遠足に行く前夜のわくわく感だ。中学生になってからは修学旅行すらお金が気になって素直に楽しめなかったし、大人になってからもとにかくお金を稼ぐことで必死だった。結婚に失敗してからはもう誰かと遠出なんて無縁の話だと思っていたのに…。まさか自分が、こんな即興的に動ける人だったとは。自分も知らなかった新しい発見かもしれない。
(なんか、ムッとして進行しちゃったけど…久しぶりの旅行、やっぱり楽しみだわ)
もちろん、この話は寛一さんには絶対言わないけど。
暗闇の中、彩響はうきうきする気持ちを抑えて眠りを誘った。
「行きたい場所がありますので」
「はあ?なに、結婚相談所でも行くの?」
「違います」
「まあ、そんなところ行ってもどうせお前賞味期限過ぎているもんな」
(人を腐った豆腐扱いしやがって…)
しばらく嫌味を重ねたセクハラが続いたけど、編集長は許可を出してくれた。その後はネットで「東京―青森」チケットに予約を入れる。クレジットカードを出して、枚数は2枚。予約の詳細は印刷してカバンに入れた。
(意地でも休んで貰うわ、あの変態家政夫!)
誰も始めていない戦争に勝手に勝利した気分で、彩響は一人でくすくす笑った。
寛一さんはいつもどおり丁寧な態度で彩響を迎えてくれた。今日は玄関の掃除をしたのか、いつもいい香りがする玄関がさらに綺麗になっていた。カバンも下ろさず、彩響はさっそくバックから例の印刷物を出した。うっかりそれを受け取った寛一さんが質問した。
「これは…?」
「ちゃんと見てください」
これが一体何なのか、しばらく紙を見ていた寛一さんの目が徐々に大きくなるのが見えた。彼にとっては予想もしなかった展開だったのだろう。時間と目的地、人数まで確認した彼がため息をついた。
「一体誰ですか、俺の地元を教えた人は」
「さあ、誰でしょうね」
「…成ですね。きっと彩響さんに電話して代理とかそういう話をしたのでしょう」
「誰が教えたとか、そんなものどうでも良いじゃないですか。私も青森行ったことないし、一緒に行きましょう!行かないとこのチケット無駄になりますよ、お金が空中に飛びますよ?」
彩響の強い発言に、寛一さんは黙ってしまった。目を閉じてじっくりと考えた後、やがて彼が目を開けた。
「彩響さんにここまで気を遣わせてしまい…申し訳ないです」
「そんなこと言うくらいなら早く有給使えばよかったじゃないですか」
「そうですね、今更後悔しています」
「…で、行きます?行かない?どうします?」
又長い沈黙が続く。寛一さんは何かを言おうとして、又それを飲み込むことを数回繰り返した。そして最後の最後、彼が口を開けた。
「…承知しました。一緒に行きましょう」
「…!やった!」
凄くうれしくなり、彩響は思わず両手を上げ叫んだ。その反応にびっくりした寛一さんが気まずそうに視線をそらす。よくよく見たら耳元がちょっと赤くなっていた。
(あれ、もしかして照れてる?こんなことで??)
「あの、もしかして私と一緒に行くのがあれなら、着いてからの行動は別にしても…」
「え?あ、その、違います。一緒に行ってくださると…その、心強いです」
「本当に?」
「本当です、助かります。えーと、あの人もきっと喜びます」
(誰のこと…?)
気になったけど、寛一さんはそれ以上なにも言わずに部屋に戻った。彩響も深入りせず、そのまま寝る準備をした。
ベッドで横になると、テンションが上がるのを感じる。これは大昔感じたことのあるーそう、小学校の遠足に行く前夜のわくわく感だ。中学生になってからは修学旅行すらお金が気になって素直に楽しめなかったし、大人になってからもとにかくお金を稼ぐことで必死だった。結婚に失敗してからはもう誰かと遠出なんて無縁の話だと思っていたのに…。まさか自分が、こんな即興的に動ける人だったとは。自分も知らなかった新しい発見かもしれない。
(なんか、ムッとして進行しちゃったけど…久しぶりの旅行、やっぱり楽しみだわ)
もちろん、この話は寛一さんには絶対言わないけど。
暗闇の中、彩響はうきうきする気持ちを抑えて眠りを誘った。
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