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俺の為に、怒ってくれなくていいんだよ
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「しっかりなさい。彼の気持ちに飲まれちゃダメよ」
濁りきった、身の毛もよだつほどの憎しみと殺意に侵されかけていた俺の頭に。どこか聞き覚えのある、掠れた低めの声が響く。
途端に、悪い夢から覚めたみたいに意識がはっきりしてくる。気がつけば俺は、真っ暗な空間に一人、漂っていた。
胸元で輝く乳白色の石のお陰で、俺の周りだけはぼんやりと照らされているけど。見渡す限り、先の見えない墨をぶちまけたような闇に、勝手に身体が震えてきてしまう。
「大丈夫よ、貴方は一人じゃないわ」
頭の中に直接語りかけてくるような声に続けて、いくつもの根の襲撃から俺達を守り続けている三人の姿が、頭の中に浮かんで。俺の耳元で少し高めの声と低めの声が。俺の名を必死に呼び続けている、大好きな二人の声が聞こえる。
少しずつ震えがおさまり、気持ちが落ち着いてきたお陰なのかな。周囲の暗闇が少し薄くなって、ぽつんと少し奥の方で白く淡い光が、弱々しく瞬いているのが見えたんだ。
……さっきの映像は多分、父さんの記憶だ。母さんを、俺を奪われてしまった父さんの。
とても悲しくて、辛い気持ちに満たされていたのに。こんなこと思っちゃいけないのに、俺は……
嬉しいなって思ってしまったんだ。
ほんの少しの間だったけど。三人で過ごせた日々を、穏やかで幸せな毎日を思い出せたことが。父さんと母さんに愛されて、この世に生まれてきたんだって思い出せたことが。
とっても、嬉しかったんだ。
「ふふ、いい顔になったわね……さあ、行きなさい。貴方の想いを彼に伝える為に!」
「はいっ」
微かに瞬く光の元へ、父さんの魂の元へ、暗闇を泳いで進む。
今にも消えてしまいそうなその輝きは、ろうそくの火よりも小さいのに。
触れると、とても温かかったんだ。
「……父さん、俺、今スゴく幸せなんだ。とっても優しくて頼もしい、二人の旦那様が、家族が出来たんだよ」
光をそっと両手で包み込む。
「友達も出来たんだ、料理の師匠も。みんな俺のこと気にかけてくれて……今もね、俺が父さんとお話出来るように、俺達のことを助けてくれているんだ」
どうか、俺の言葉が届きますように。
「だから、ね、父さん。もう、頑張らなくていいんだよ? 俺の為に、怒ってくれなくていいんだよ?」
どうか、俺の気持ちが伝わりますように。
「俺は、もう大丈夫だから、幸せだから。母さんのところへ行こう?」
突然、乳白色の石の光と共鳴するように、俺の手に抱いていた光が強く瞬き、視界が真っ白に塗りつぶされていく。
優しいまどろみに落ちていくみたいに、重たくなっていく俺の身体を……誰かの温かい腕が、優しく抱き締めてくれたような気がした。
濁りきった、身の毛もよだつほどの憎しみと殺意に侵されかけていた俺の頭に。どこか聞き覚えのある、掠れた低めの声が響く。
途端に、悪い夢から覚めたみたいに意識がはっきりしてくる。気がつけば俺は、真っ暗な空間に一人、漂っていた。
胸元で輝く乳白色の石のお陰で、俺の周りだけはぼんやりと照らされているけど。見渡す限り、先の見えない墨をぶちまけたような闇に、勝手に身体が震えてきてしまう。
「大丈夫よ、貴方は一人じゃないわ」
頭の中に直接語りかけてくるような声に続けて、いくつもの根の襲撃から俺達を守り続けている三人の姿が、頭の中に浮かんで。俺の耳元で少し高めの声と低めの声が。俺の名を必死に呼び続けている、大好きな二人の声が聞こえる。
少しずつ震えがおさまり、気持ちが落ち着いてきたお陰なのかな。周囲の暗闇が少し薄くなって、ぽつんと少し奥の方で白く淡い光が、弱々しく瞬いているのが見えたんだ。
……さっきの映像は多分、父さんの記憶だ。母さんを、俺を奪われてしまった父さんの。
とても悲しくて、辛い気持ちに満たされていたのに。こんなこと思っちゃいけないのに、俺は……
嬉しいなって思ってしまったんだ。
ほんの少しの間だったけど。三人で過ごせた日々を、穏やかで幸せな毎日を思い出せたことが。父さんと母さんに愛されて、この世に生まれてきたんだって思い出せたことが。
とっても、嬉しかったんだ。
「ふふ、いい顔になったわね……さあ、行きなさい。貴方の想いを彼に伝える為に!」
「はいっ」
微かに瞬く光の元へ、父さんの魂の元へ、暗闇を泳いで進む。
今にも消えてしまいそうなその輝きは、ろうそくの火よりも小さいのに。
触れると、とても温かかったんだ。
「……父さん、俺、今スゴく幸せなんだ。とっても優しくて頼もしい、二人の旦那様が、家族が出来たんだよ」
光をそっと両手で包み込む。
「友達も出来たんだ、料理の師匠も。みんな俺のこと気にかけてくれて……今もね、俺が父さんとお話出来るように、俺達のことを助けてくれているんだ」
どうか、俺の言葉が届きますように。
「だから、ね、父さん。もう、頑張らなくていいんだよ? 俺の為に、怒ってくれなくていいんだよ?」
どうか、俺の気持ちが伝わりますように。
「俺は、もう大丈夫だから、幸せだから。母さんのところへ行こう?」
突然、乳白色の石の光と共鳴するように、俺の手に抱いていた光が強く瞬き、視界が真っ白に塗りつぶされていく。
優しいまどろみに落ちていくみたいに、重たくなっていく俺の身体を……誰かの温かい腕が、優しく抱き締めてくれたような気がした。
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